WOWOWは10月24日、MQA Limited、アコースティックフィールド、NTTスマートコネクトと協業して、都内でMQA方式を用いた立体音響+映像コンテンツの配信デモを行なった。

 これはコンサートやライブの模様をハイレゾ(192kHz/24bit)オーディオで収録し、MQA方式を使って放送の規格である48Hz/24bitに合わせ込み、最終的にロスレス音声であるMPEG-4 ALS方式にエンコードして映像と合わせて配信する、という試み。再生(受けて)側でMQAデコードに対応する機器を使えば、元の192kHz/24bitのサウンドが楽しめるという仕掛けだ。

 また、このデモにはもう一つの工夫があり、それがアコースティックフィールドの提供する立体音響技術「HPL」である。なぜこの方式を採用したのかについてWOWOWの技術ITC局の入交氏によれば、放送の映像クオリティは4K8Kへと進化しているのに、音声については遅れている。そこで、立体音響(サラウンド)とハイレゾクオリティが同時に楽しむことができないか、と考えていた時に同社と出会い(4年ほど前)、協業して研究・開発を進め、今回のデモに至ったということだ。HPL技術はオリジナルソースの臨場感を残した状態で、13.1chや5.1chといったサラウンドから、ステレオ(2ch)まで、多彩なチャンネルにミックスできるのが特徴となる。今回は、アウトプットがヘッドホンだったこともあり、ステレオにミックスしている。

WOWOWの入交英雄氏

アコースティクフィールドの久保二朗氏

MQAの鈴木弘明氏

NTTスマートコネクトの木村慶史氏

 MQAについては、同エンコードを使えば、現行の放送規格(の上限)である48kHz/24bitフォーマットの中に192kHz/24bitの情報を盛り込むことができ、放送システムを変更しなくてもハイレゾ化が可能な点から、協業化に至ったという。

WOWOWの視聴室。デモは前方に設置しているヘッドホンを使って行なわれた

WOWOWの視聴室。ドルビーアトモスや8K放送の22.2ch、Auro-3Dなど各種サラウンドフォーマットの再生に対応するために、33本ものスピーカーが設置されている。フォーマットによってスピーカー位置の規定が異なることから、こうしたセッティングをとっているそう

 さて、具体的なフローチャート(コンテンツ製作工程)としては、まずは収録があり、今回のデモコンテンツでは、複数の無指向性マイク(33本)を使ってコンサートの模様を収録(192kHz/24bit)。それを一般的には家庭用サラウンドの最大値である13.1ch(Auro-3D)にミキシングし、HPLによって2ch(ステレオ 192kHz/24bit)にエンコードする。アコースティックフィールドの久保氏によれば、HPLは特に音質を重視しているそうで、加えて、(収録された)会場の雰囲気を、臨場感や方位感を含めて再生機器(今回は、ヘッドホン/イヤホン)で忠実に再現することができるという。

画像: 今回の配信実験のフローチャート図

今回の配信実験のフローチャート図

 そしてそのデータをMQAエンコードすることで、192kHz/24bitのデータを48kHz/24bitのフォーマット内に折りたたんで収納している。再生時にオリジナルの192kHz/24bit音声を楽しむには、MQAデコードに対応する機器が必要になるが、最近では、MQA対応のスマートホンやDAPも増えてきており、手軽に192kHz/24bitが楽しめる環境は広まっている。ちなみに、非対応機器だと48kHz/24bitでの再生となるが、HPLエンコードによって、サラウンド感のあるサウンドを楽しむことはできる。

 最後のNTTスマートコネクトでは、MQAデコードされた音声を受け取り、さらにロスレスのMPEG-4 ALSでエンコードして(圧縮によってデータ量は、半分程度になるそう)最終的な音声データとし、WOWOWからの映像と組み合わせて配信コンテンツとして制作。動画配信サービスSmartSTREAMを使って配信する、という流れとなる。SmartSTREAMは、今年10月よりハイレゾ音声(96kHz/24bit)のロスレス配信を開始しており、今回の実験にはぴったりと言える。

 デモでは、まず13.1chにミックスされたマスターを専用の視聴室(13.1ch対応のスピーカーシステム)で再生。ハイレゾだけあって音の粒立ちは細かく、音の消え際の余韻まで繊細に再現されている。また、特に高さ方向の表現は素晴らしく、収録ホールの天井の高さ感を存分に体験できるものとなっていた。

 次いで、今回のデモ用に2chでMPEG-4 ALSエンコードされたコンテンツを、ヘッドホンで再生(実際にSmartSTREAMからリアルタイムに再生)する。もちろん、MQAデコードして、192kHz/24bitフォーマットで体験できるようになっている。一聴しての感想は、きちんと方位感が再現されており、先述したように、高さ方向の描写はオリジナル同様に立体的に再現されるなど、サラウンド感は充分に楽しめた。

実際に配信コンテンツを使って、MQA対応機を組み合わせることで、ヘッドホンで3Dオーディオ+ハイレゾ音声を再生(試聴)した

 なお、今回の配信デモは、11月13日から幕張メッセで開催される「InterBEE2019」のコンファレンススポンサーセッションでも披露されるそう。日付は11月15日14時から、場所は国際会議場1F。MQAのCTOボブ・スチュワート氏も来日し、講演に登壇する予定だ。

 WOWOWでは、今回のデモによって、MQAを使うことで現行の放送システムでハイレゾ音声の放送の可能性が見えてきたことを受け、今後はリアルタイムのライブ配信を実現したいとコメントしてくれた。ちなみに、説明会で上映されたスライドには、「今回の素材の放送が決定」と明記されていたので(最終段はAAC圧縮になるはずだが)、その実現を楽しみに待ちたい。

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