鹿児島・宮崎・東京でライブ・ハウスを5店舗運営し、並行してPAやレコーディング、各種イベントの企画制作など、音に関わる様々な業務を手がけている「エスアールファクトリー」。同社は「ローランド」の「V-Mixing System」を他に先駆けて導入した会社としても知られ、今年初頭には「O・H・R・C・A M-5000」とパーソナル・ミキサー「M-48」も導入。ライブ・コンサートやイベントなどの現場でフル活用している。
そんな同社が長年PAを担当しているのが、毎年夏に鹿児島・川辺町で開催されている大規模イベント、『グッドネイバーズ・ジャンボリー』だ。廃校となった小学校をイベント会場/キャンプ場として再生した「かわなべ森の学校」で開催されている『グッドネイバーズ・ジャンボリー』は、自然の中で音楽やアート、食を楽しむというコンセプトが受け、毎年多数の来場者で賑わう野外イベント。今年は8月18日に開催され、スチャダラパーなど大物アーティストも出演、大盛況のうちに幕を閉じた。
そこでここでは、今年の『グッドネイバーズ・ジャンボリー』を音響面で支えた「M-5000」を中心とするPAシステムを紹介することにしよう。取材に応じてくださったのは、「エスアールファクトリー」の常務取締役プロデューサー、野井倉博史氏である。
画像: 「エスアールファクトリー」が導入した「ローランド O・H・R・C・A M-5000」。今回の取材では、同社がPAを手がけるイベント『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の会場でお話を訊かせていただいた

「エスアールファクトリー」が導入した「ローランド O・H・R・C・A M-5000」。今回の取材では、同社がPAを手がけるイベント『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の会場でお話を訊かせていただいた

鹿児島に拠点を置くエスアールファクトリー

PS まずは「エスアールファクトリー」さんの沿革を簡単におしえていただけますか。

野井倉 弊社のメインの業務はライブ・ハウスの運営で、会社の設立は1996年のことになります。会社は私を含め、3人で立ち上げたんですけど、当時鹿児島にはちゃんとしたライブ・ハウスが無くて。3人ともバンドマンだったので、それだったら自分たちでライブ・ハウスを作ってしまえばいいんじゃないかとオープンしたのが「SR STUDIO」というライブ・ハウスなんです。そして1999年にそのビルを8階建ての複合ビルに建て替え、8階と7階に「CAPARVO HALL」と「SR HALL」というライブ・ハウスを新たにオープンしました。現在はその「CAPARVO HALL」と「SR HALL」に加え、同じビルの3階に「Live HEAVEN」、宮崎の「SR BOX」、東京の「HEAVEN 青山」という計5つのハコを運営しています。音楽的にはオール・ジャンルですが、鹿児島の3つのライブ・ハウスで言うと、「CAPARVO HALL」はイベント系、「SR HALL」はバンドもののライブ、「Live HEAVEN」はアコースティック系のライブという棲み分けになっていますね。他にはレコーディングや制作なども行なっています。

画像: 「エスアールファクトリー」の常務取締役プロデューサー、野井倉博史氏

「エスアールファクトリー」の常務取締役プロデューサー、野井倉博史氏

PS ライブ・ハウスの運営をメインの業務とする「エスアールファクトリー」さんが、PA業務を始められたのは?

野井倉 私はライブ・ハウスを始めるまではPAの仕事をしていたので、ライブ・ハウスをオープンした後もそういう仕事のオファーが多かったんですよね。なのでPA業務に関しては、会社設立当時からずっと続けています。ツアーに回ることもあるので、ライブ・ハウスの運営をメインにしている会社としては珍しいのではないかと思います。機材のレンタルに関しては、楽器を貸し出すことはありますが、PA機材のレンタルというのはほとんどありません。

PS 他のPA会社と比較した「エスアールファクトリー」さんの特色というと?

野井倉 機材に関しては、基本的にはコンソール周辺のものしか持っておらず、出力系は自前では持っていないところですかね。なぜアウトセットを持たないのかと言えば、小さい現場から大きなイベントまで、いろいろな仕事をこなしたいと思っているからです。自前でアウトセットを持ってしまうと、それによって仕事を受けれる現場が制限されてしまうじゃないですか。お客さんからいただいた仕事に柔軟に対応できるように、あえてアウトセットを持たないようにしています。

PS 「エスアールファクトリー」さんは、かなり以前から「ローランド」のREACのシステムを活用されているそうですね。

野井倉 はい。十年以上前に、「V-Mixer M-400」と「Digital Snake S-1608」を導入したのが最初ですね。「M-400」は「Midas Venice」の入れ替えとして導入したんですが、REACのシステムを選定した一番の決め手となったのは音質でした。「ローランド」のプロ用機器って他社の製品と比べると、とてもストレートな音質で、色付けがほとんど無いんですよ。私はPA業務の傍ら、レコーディングの仕事を受けることも多く、そちらでは「Avid」の「Pro Tools」を使っているんですが、「Pro Tools」の音質とREACのシステムはよく似ているというか。入出力部分では変な色付けが無く、内部のエフェクトやプロセッシングで自由に味付けができる。個人的にとても扱いやすいサウンドなんです。「M-400」は古いコンソールなので、内部のプロセッシングに関しては少し弱いところもあったんですが、それはアウトボードを使えばカバーできるので、それよりも入出力部分の色付けの無さの方が重要でした。
 その後、「V-Mixer M-480」を導入し、最初に導入した「M-400」は東京の「HEAVEN 青山」常設のコンソールとして現役で使っています。

画像: ステージ袖に設置された機材。「M-5000」の入出力を担う「ローランド Digital Snake S-2416」や同「Digital Snake S-1608」などが置かれている

ステージ袖に設置された機材。「M-5000」の入出力を担う「ローランド Digital Snake S-2416」や同「Digital Snake S-1608」などが置かれている

画像: ステージの後方に設置された「S-1608」

ステージの後方に設置された「S-1608」

96kHzの音質はそれまでとはまるで違う

PS そして今年、最新の「O・H・R・C・A M-5000」も導入されたそうですね。

野井倉 「ローランド」さんのご厚意で、以前からデモ機は使用させていただいていたんですけど、今年ようやく導入することができました。今回「Digital Snake」も新調し、「M-5000」と同時に「S-2416」も導入しました。あとはパーソナル・ミキサーの「M-48」を4台と、REACスプリッターの「S-4000D」も一緒に導入しましたね。

画像: モニター・コンソールとして使用された2台目の「M-5000」

モニター・コンソールとして使用された2台目の「M-5000」

PS 長年の「V-Mixer」ユーザーとして、「M-5000」というコンソールはいかがですか?

野井倉 「M-400」、「M-480」と、ずっとREACのシステムを使ってきて、唯一不満だったのは「Digital Snake」が96kHz対応なのにコンソールが48kHzまでしか対応してないことだったんです。要するに、これまでの「V-Mixer」は、「Digital Snake」のポテンシャルをフルに引き出せるコンソールでは無かった。それが「M-5000」で、ようやく96kHz対応になり、個人的にそのサウンドにとても興味があったんです。
 実際に96kHzで使ってみると、それまでの48kHzとは音質がまるで違いますね。サウンド・チェックで、マイクを1本立ち上げているくらいだと、それほど差はないんですが、たくさんチャンネルを立ち上げてエフェクトも使うと極端に違ってくる。具体的には、多チャンネルのサミングに96kHzのメリットが如実に出る印象ですね。本番ではバンドがかなり音を突っ込んでくるんですが、そのときの飽和感が全然違います。

PS 操作性に関しては?

野井倉 一番便利なのは、自由に機能を割り当てられるアサイナブル・フェーダーとアサイナブル・セクションですね。今日のような現場の場合、アサイナブル・フェーダーにはエフェクトやソース系を割り当て、マスター・フェーダーはエンコーダーで操作する設定にしています。本番ではマスター・フェーダーってほとんど操作することが無いので、フェーダーではなくエンコーダーで十分なんですよね。その他、アサイナブル・セクションにはリバーブ・タイムなどエフェクト系のパラメーターをアサインしています。

PS 内蔵エフェクトはいかがですか?

野井倉 「V-Mixer」と比べるとかなり良くなりましたね。正直、「V-Mixer」のときは「Lexicon PCM70」など外部のアウトボードを使うことが多かったんですけど、「M-5000」の内蔵エフェクトは音痩せしないんです。曲に入ってもエフェクトの存在感が失われないというか。「M-5000」では内蔵エフェクトだけで十分になりました。

PS 特に気に入っている機能はありますか?

野井倉 コミュニケーション機能が充実しているところですかね。「M-5000」はトークバック回線が3系統あるので、ステージ袖にいるスタッフや別の場所にいるスタッフと、これだけでコミュニケーションが取れてしまう。こういう現場ですとかなり便利ですね。今日は使っていませんが、トークバック用のマイクも内蔵されていますしね。

PS 一緒に導入された「S-2416」はどうですか?

野井倉 「S-1608」と比べると、音がかなりクリアになった印象です。それと「S-2416」は、“段付き”が無いのが良いですね。他社のステージ・ボックスの中には、ゲインを上げていくとどんどんS/Nが悪くなっていって、あるゲインを境にまたS/Nが良くなるというものも少なくないんですけど、「S-2416」はそういう“段付き”がまったく無い。滑らかにゲインを変えられるのがいいですね。

2台のM-5000を使いフルREACシステムを構築

画像: 『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の様子。毎年夏に、廃校となった小学校をイベント会場/キャンプ場として再生した「かわなべ森の学校」(鹿児島・川辺町)で開催されているイベントだ。今年はメイン・アクトとしてスチャダラパーが出演した

『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の様子。毎年夏に、廃校となった小学校をイベント会場/キャンプ場として再生した「かわなべ森の学校」(鹿児島・川辺町)で開催されているイベントだ。今年はメイン・アクトとしてスチャダラパーが出演した

画像1: 2台のM-5000を使いフルREACシステムを構築
画像2: 2台のM-5000を使いフルREACシステムを構築
画像3: 2台のM-5000を使いフルREACシステムを構築

PS 今日お邪魔した『グッドネイバーズ・ジャンボリー』では、2台の「M-5000」をFOHとモニターで使い、REACで接続しているそうですね。

野井倉 そうなんです。1台は「ローランド」さんにお借りして、アナログで頭分けするのではなく、完全にREACでシステムを組んでみることにしました。ステージ・ボックスとしては「S-2416」と「S-1608」が2台、計3台の「Digital Snake」を使用しているんですが、それらはすべてFOHの「M-5000」に繋ぎ、そこから別のREAC回線でモニターの「M-5000」に接続するというシステムになっています。つまりモニターの「M-5000」には、FOHの「M-5000」を経由した音が入っているという形ですね。普通にアナログで頭分けするシステムですと、ステージ・ボックスが倍必要になりますが、今回のフルREACシステムでは「Digital Snake」をFOHとモニターで共有しているため、非常にシンプルなシステムになりました。

画像: 『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の別のエリアで使用された「ローランド V-Mixer M-480」

『グッドネイバーズ・ジャンボリー』の別のエリアで使用された「ローランド V-Mixer M-480」

PS FOHとモニター、両方がデジタル伝送に対応したコンソールでも、アナログで頭分けするのが未だ一般的ですが、ステージ・ボックスを共有するシステムは運用上の問題はありませんか?

野井倉 以前はモニターのオペレーターがヘッドアンプを操作してしまうのが怖くて、こういうシステムはなかなか難しかったんですが、REACのシステムだとまったく問題ありませんね。FOHのオペレーターは普通に「Digital Snake」のヘッドアンプをコントロールし、モニターのオペレーターは送られてきた音をデジタル・ゲインでコントロールする。こういうイベントですと、乗り込みのオペレーターさんから「モニターを表返ししたい」と言われることもあるんですけど、今日のようなREACシステムの場合、そんな要望にもすぐに対応することができます。その点でもこのシステムにはメリットがありますね。

画像: 当日は「M-5000」用のSoundGridカード「WI-XSG」もレコーディング用に使用された

当日は「M-5000」用のSoundGridカード「WI-XSG」もレコーディング用に使用された

画像: レコーディング・ソフトウェアとして使用された「Waves Tracks Live」

レコーディング・ソフトウェアとして使用された「Waves Tracks Live」

PS 今日のイベントではマルチトラック・レコーディングもしているそうですね。

野井倉 今年の春から「M-5000」のSoundGridカードをレコーディング用にテストしているんです。レコーディングと言えば、DanteやMADIを使うのが普通だと思うんですが、96kHzで運用しているシステムの場合、「M-5000」のDante カードもチャンネル数が32ch までで物足りないんですよね。SoundGridですと、96kHzで運用している「M-5000」で、LANケーブル1本で64ch 録音ができるんです。ソフトウェアは「Pro Tools」ではなく「Waves」の「Tracks Live」を使い、MacBook Proにレコーディングするシステムになっています。まだテストの段階なんですが、問題なく使えるのであればSoundGridカードを導入したいと思っています。

PS 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

取材協力:有限会社エスアールファクトリー、ローランド株式会社

 

エスアールファクトリー
https://www.kagoshima-sr.jp/

 

This article is a sponsored article by
''.