MM型カートリッジの音質が形作られる要素を構造から考察し、根強い人気を持つシュアー製MM型カートリッジの交換針を比較試聴。ヴィンテージ機となったシュアーM44-7、V15 Type IIIで、オリジナルと現行の交換針を聴き比べる。

45/45方式の成功を決定づけたシュアーM3Dの登場

 当時、カートリッジを製造していた会社は、それぞれこの問題を解決すべく各社その知恵を絞っていたが、このシュアーのMM型で、新しい録音方式に対する完全な理解を思わせる構造を持ったモデルがM3Dである。シュアーのカートリッジの設計上の卓越した思想の中心は、常識外れとも言うべき軽針圧にあった。もとよりこれは、柔らかいビニライト(注6)のレコード盤の音溝を、トレースによる変形・摩耗などから逃れさせることに由来していた。

 シュアーの最初のステレオ録音再生用カートリッジがM3Dであることは既に述べたが、その振動素子は相対的に小型化され、使われている材料も、軽いアルミニウム合金である。そのアルミニウム合金は、軽量でたわみ強度に優れた、僅かに銅を含む2017系アルミニウム合金が採用され、先端部にダイアモンドチップが取り付けられた薄い灰色の微小なアングル状を呈している。針先のダイアモンドチップは、レコードの音溝をトレースする先端部が有限の球面に鏡面研磨されている。球面の半径は0.7ミル(1mil=1/1000インチ、従って17.8ミクロン)であった。

M3D初期型(1958)

初期型ではステレオカートリッジであることが天面に明記されているが、後期型は天面の印字がない。1959年当時のカタログを見ると、M3Dは「高水準の品質管理に基づく高級フォノカートリッジ」と銘打たれ45ドルで販売されていた。いっぽう、M7Dが「経済的なユーザー向けのカートリッジ」として24ドルで販売されていたことが分かる。

 このM3Dの登場によって、45/45方式のステレオ録音のレコードの成功が決定付けられたと見てよいだろう。M3Dが再生する音楽は、楽しく自然で好ましかったことである。それは、この新しいステレオ録音盤のみならず、意外にもモノーラル録音の旧盤からも、自然な広がりを持った好ましい音楽を再生したのだった。それは、うっかりするとステレオ録音とモノーラル録音との区別が難しい場面にしばしば遭遇することさえあった。

 さらにM3DのMM型の優位性で決定的だったのは、長期間の使用で針先の摩耗が進み、振動系の老化が目立った場合には、改めて新しい振動素子に、素人であるオーディオファイル個人でも交換が極めて容易な構造に設計されていたことを挙げなくてはならない。MM型最初のモデルであったM3Dでは、振動素子の適正動作針圧は、3~6g(30~60 mN:ミリニュートン)であった。この針圧で動作する非常にクリティカルな振動素子は、バネ性のある薄くて正方形断面に折り曲げられて作られた角状筒体に、粘性のあるゴムで支え納められていた。針交換は、この筒体ごと抜き挿しして行なわれる。

 M3Dは1958年に登場したのだったが、翌年にはM7Dが登場する。内容はほとんどM3Dと同じだったが、針交換の作業から振動素子を護るために、筒体先端部分にプラスティックモールドのツマミ(ノブ)が固着された。このノブはカートリッジ本体に嵌め込み、交換針全体を固定する役目も併せ持っている。そして、1963年に登場したM44-5では、0.75g~1.5gという当時としては驚異的とも言うべき軽針圧が実現する。

 このように優れた設計と性能を持ったMM型の基本構造は、シュアーのMM型として独壇場の地位を築き、長きにわたって揺るがなかったのである。

(6)塩化ビニル90%、酪酸ビニル10%の共重合体のLPレコード材で、米国Union Carbide and Carbon Corporationの登録商標(当時)

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