完全ワイヤレスイヤホンが隆盛を誇る昨今だが、音質を第一に考えた時、依然としてワイヤードタイプのイヤホンの優位性は高い。特に遮音性に優れたIEM(インイヤーモニター)タイプはコアなポータブルオーディオファンから強く支持されている。そのIEMは、カスタム仕様(耳型採取タイプ)のハイエンドモデルも人気があるのだが、値段は決して安くない。

 そこで今回はワイヤード+IEMという音質的に有利な構成に加え、バランス接続というプラスアルファを実現した、コストパフォーマンスの高い、Maestraudio(マエストローディオ)のユニバーサルIEM「MA910SB」をご紹介したい。

ユニバーサルIEM
Maestraudio
「MA910SB」
¥13,200(税込)

画像: 4.4mmバランス化で、立体的な音像表現が各段にアップ。Maestraudio のユニバーサルIEM「MA910SB」は、コストパフォーマンスに優れた逸品

ドライバー:10mm径グラフェンコートダイナミックドライバー×1、9mm径RST×1
インピーダンス:16Ω
感度:102dB
周波数特性:20Hz~40kHz
ケーブル長:1.2m
プラグ:4.4mmバランス(L字型)
付属品:iSep01イヤーピース(S/MS/M/L)、イヤーフック、本革コードリール,キャリングポーチ

 Maestraudioは、群馬県高崎市に本社を置くオーツェイド株式会社により、2022年に立ち上げられたブランドだ。第1弾として発売された「MA910S」は、安価なのに音が良く、しかもメイドジャパンを実現したとのことで話題となり、スマッシュヒットしたモデル。

 MA910SBは、評価の高いMA910Sをバランス化した上で、バランス化によって生じた音の変化に合わせてさらに専用のチューニングを実施したモデルとなる。MA910Sの発売後、試聴会やイベント会場で、バランス版が出ることを期待しているユーザーの声を聞き製品化に踏み切ったという。

 早速、自宅に届いたMA910SBを中心にMA910Sとも聞き比べながらクォリティチェックを行なった。

4.4mmバランス対応に合わせ、表現力を高める専用チューニングを施した

 まずは、2つのモデルに共通するポイントから紹介していこう。ハート型のハウジング部は無駄な装飾がなく、一見価格相応のシンプルかつカワイイデザインだ。しかし、よく見ると造形及び表面の質感が良いのだ。それもそのはず、ハウジングの型は手先の優れた群馬の名工による高度な成形技術で作り出されており、燕三条にある製作所が持つ優れた技術による表面加工が施されている。

画像: ▲MA910SB(左)とMA910S

▲MA910SB(左)とMA910S

 そして内部には、オーツェイド社が保有する音響解析、振動解析、圧電セラミックスなどの独自技術が大量に投入されている。

 ドライバーは10mmのダイナミック型をシングル構成で搭載。ダイアフラム(振動板)にはグラフェンコートが施されている。さらに高域再生に的を絞った9mmパッシブ型セラミックコートトゥイーター「RST」と組み合わせていることに注目である。つまりMA910S/MA910SBは、ダイナミック/パッシブ型を組み合わせた独自の2ウェイ構成なのだ。

 トゥイーターはRSTと名付けられており、ダイナミックドライバーから出た音波をダイアフラムに照射して振動を誘発させる仕組み。そのダイアフラムは管楽器等に用いられている赤銅を基材とした上で、表面に独自の特殊なセラミックコートを施した専用設計品を搭載する。

 RSTを追加したことによるアドバンテージは大きく、ダイアフラムの寸法や材質、支持方法により高域を中心とした音質をコントロール出来るようになる。しかし技術的な難易度もあったという。

画像: 4.4mmバランス対応に合わせ、表現力を高める専用チューニングを施した

 元々試作段階では、オーツェイド社がラインナップするハイブリッドカナル型イヤホンの「intime(アンティーム)」に搭載された圧電セラミックストゥイーターの「VST」を搭載する予定だった。しかし、幾何学的な構成を持つIEMモデルであるMA910SにVSTを搭載しようとすると、ハウジング内に直線的な導音管が必要となることが判明し、一旦開発が止まってしまった。そのような時、社内で開発中のパネルスピーカーが持つ、無指向性かつ損失少ない音を出すための振動モードがヒントとなり、そのシミュレーション結果を元にして、分割振動と音波共鳴を用いた「RST」が生まれたのだという。

 さらにMA910S/MA910SBでは、頭部伝達関数による音質チューニングが行なわれていることにも注目したい。この関数は、バイノーラル再生のように音響信号に時間領域表現の複数のインパルス応答をアレンジする手法。開発スタッフはイヤホンのように受動的な音響デバイスにおいて音源信号を変えることなくバイノーラルのような音を再現するという目標を立て、左右や前後方向から届いた音が、その逆の耳に到達した際の周波数変化や音圧変化などを、多くの論文や技術資料などの助けを借りながら検証と検討を重ね、最終的に音像や音場の表現を上げることに成功したという。

 また、ドライバーの背面で発生する空気の流れを吸収・整流する「ETL(Embedded Transmission Line)」と呼ばれるモジュールを内蔵した音響補正デバイス「HDSS」も搭載されている。

 バランス化されたMA910SBの変更部分は2点ある。1点目は端子が4.4mmバランスプラグとなったこと。2点目はバランス化による音質チューニングの調整で、バランス化によって広がったサウンドステージに対応するため、主にセンター定位の表現力を高めたという。

 ハウジングカラーは新色の「アクアブルー」と」「スモークグレー」を採用。ケーブルはハイブリッドタイプで、シリコンゴムの軟度を下げたオリジナルイヤーピースの「iSep01」が4サイズ付属する。

バランス化の恩恵は大きく、空間再現力がアップし、より音楽的に包まれ、より楽しくなる

 まずは、Astell&Kernから発売されたオールインワンHead-Fiオーディオシステム「ACRO CA1000T」を使って、MA910SとMA910SBを比較した。CA1000Tは真空管とOP-AMPを搭載しているが、試聴ではその両方を併用したHYBRID-AMPモードを利用している。

画像: ▲試聴には、Astell&KernのオールインワンHead-Fiオーディオシステム「ACRO CA1000T」を組み合わせた

▲試聴には、Astell&KernのオールインワンHead-Fiオーディオシステム「ACRO CA1000T」を組み合わせた

 ソースは全てハイレゾファイルとして、洋楽ポップスは米ビルボードランキングで上位のチャーリー・プースのアルバム『チャーリー』から「There's a First Time for Everything」、邦楽ポップス/アニソンは、MAISONdes,花譜,ツミキの「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」、クラシックは今年のグラミー賞で最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ賞等2部門受賞のTime For Threeのアルバム『Letters for the Future』から「Puts: Contact - II. Codes. Scherzo」をチョイスした。

 まずはMA910Sから。全体的な音の傾向だが、音色的に明るく、リズム感が強く響いてくるサウンド。高音域から低音域まで各帯域のサウンドクォリティは価格以上に感じるが、特に印象的なのがサウンドステージと音像表現力が高く、幅広いステージとディテイルの整った音像が出てくることだ。

 チャーリー・プースはイントロのエレクトリックシンセサイザーに適度な色彩感があり音離れも良質。ベースなどの低域もアキュレイトに出してくる。花譜,ツミキはヴォーカルの声質がチャーミングだが頭内定位がしっかりしており印象が良い。Time For Threeは左右に広がる複数の弦楽器の表現に優れ、サウンドステージの立体感が価格以上に感じる。ワイヤードタイプとしての基本的な音質優位性に加え、コストパフォーマンスはかなり高い印象だった。

 続いてバランスタイプのMA910SBでチャーリー・プースを再生したのだが「おぉ! バランスの良さがしっかりと出ているじゃん」と思わず声に出た。チャーリー・プースはエレクトリックシンセサイザーの響きにより広がりがあり、そこに立体的なヴォーカルが定位する。音楽的な楽しさはそのままに、ヴォーカルとバックミュージックの分離が良くなった分、音圧が高く複数の音が入っている花譜,ツミキはかなりいい感じだ。音数の多さに加えバックミュージックの空間を意識できるようになり、より音楽的に包まれ、より楽しくなる。アコースティックな複数の弦楽器で構成されるTime For Threeでは本質的な表現が上がっており、複数の楽器が同時に鳴った時の空間の描き分けが大きく上がって聞こえる。

 次に人気上昇中のスティック型DACとiPhoneを組み合わせて、スマホとワイヤードイヤホンを利用した高音質再生にチャレンジした。

画像: ▲Astell&KernのUSB DACアンプ「AK HC2」を使って、スマートフォンとも組み合わせてみた

▲Astell&KernのUSB DACアンプ「AK HC2」を使って、スマートフォンとも組み合わせてみた

 使用したDACは、バランス接続に対応した4.4mmヘッドフォンジャックを持つAstell&Kernの「AK HC2」。iPhoneのライトニング端子と接続して使用した。ここではアデルのアルバム『30』より「To Be Loved Easy on me」を再生したが、予想以上に良い音で聴ける。当然聴感上のSN比や絶対的な情報量はCA1000Tには及ばないが、立体的な音像表現やピアノタッチも良質でサウンドステージの空気感もしっかりと出してきて嬉しくなった。

 この状態でYouTubeの動画やちょっとしたゲームアプリも楽しんだが、MA910SBは大きな音のクセがなく音のディテイルがしっかりしているので幅広いソースとの相性の良さも感じた。それにしても、手持ちのスマホがトランスポートになり良い音でハイレゾを楽しめる、良い時代になったな~と感慨深い。

画像: バランス化の恩恵は大きく、空間再現力がアップし、より音楽的に包まれ、より楽しくなる

 また、一連の試聴で印象的だったのはMA910S/MA910SBの装着感の良さだ。ハウジングは極端にコンパクトではないが耳へのフィット感が良く、長時間聴いていても負担が少なかった。

バランス接続によるアドバンテージをしっかりと感じられるサウンドにまとめられている

 いかがだったろうか。音質面でのパフォーマンスはかなり高く、MA910S/MA910SBとも価格を考えると本当に良質な音で、特に音像表現や広大なサウンドステージは他社の上位モデルとも渡り合えるほどサウンドだと判断する。さらに個人的にMA910SBはバランス化による恩恵がしっかりと出ていることが実感でき、広大な空間とピンポイント定位する音像にバランス接続のアドバンテージも感じた。

画像1: バランス接続によるアドバンテージをしっかりと感じられるサウンドにまとめられている

 また本稿を執筆するにあたり、独自の技術が多数存在することを確認した筆者は、同社開発陣に改めてインタビューを試みたところ、まさに地道な開発が行なわれていることに感銘を受けた。まさに日本のモノづくりのアドバンテージが活きた製品と言える。

 そして最後に、本製品も含め、同社のモデルは主に海外で生産している企業に比べて人権費が大幅に高いことを承知で、全て日本国内にて組み上げを行ないつつ、安価なコストを実現したことに注目したい。これはセル方式生産と簡易ロボットによる組立の双方を導入する独自のデスクトップラインを構築できているからこそ。これにより他品種少量への対応と、生産タクト(時間)の大幅な低減に成功したと同社ではアピールしている。

画像2: バランス接続によるアドバンテージをしっかりと感じられるサウンドにまとめられている

 実はメイドインジャパンによる絶対的な品質の高さも含め、他社からも注目されており、同社には同業他社からOEM、ODMの依頼が来ているそうだ。MA910S/MA910SBの仕上がりの良さを見るとそれも納得である。

提供:アユート

This article is a sponsored article by
''.