ケーブルがスピーカーから発せられる最終の音に影響があるかについては、「ある」と答える人が、今ではほとんどではないか。30年前は、そんな違いなど取るに足らないとされていたが、今では「ケーブルによって音は違う」は常識的な認識だろう。でも「どれくらい」となると、個々に試してみなければ、正確には分からない。
今回、編集子からアコースティックリバイブのケーブルを試してみませんかという、嬉しいお誘いがあった。日頃からケーブルの音の違いには人一倍敏感なことを知っての勧誘だ。もちろん、試して違いを体感したい! というわけで簡単に請け負ってはみたが、ケーブルといってももの凄く種類があり、それらにいちいちトライするのも、たいへんではないか。
※今回の取材に関する麻倉さんのコメントはこちら ↓ ↓
今回のケーブルは(1)アナログプレーヤーとフォノイコライザーを結ぶフォノケーブル、(2)イコライザーとプリアンプを結ぶRCAケーブル、(3)SACDプレーヤーとプリアンプ、プリアンプからパワーアンプへのXLRケーブル、(4)パワーアンプからスピーカーへのスピーカーケーブル……と4種類5品目にも登る。
どうにしたらこれらを効率的に、合理的に聴き分けられるか。そこで音源機器、増幅機器、スピーカーを結ぶすべてのケーブルをグレード別にまとめ、3通りのケーブル群を総取っ替えして、音の変化を確認することにした。つまりこれら5品目をワンセットとして、グレード別に聴くのである。アコースティックリバイブ側からは「普及ケーブルセット」「上級ケーブルセット」が提供された。その内容はコラムを参照のこと。
すべてのアナログケーブルを総取っ替えで、音の違いを確認する
今回の試聴では、(1)フォノケーブル、(2)RCAケーブル、(3)XLRケーブル、(4)スピーカーケーブルのすべて入れ替えて、その違いを確認した(つなぎ方は接続図を参照)。
アコースティックリバイブ製ケーブルは普及ケーブルと上級ケーブルを試しているが、いずれもPC-TripleCの単線導体を採用しており、RCAケーブルやXLRケーブルにはテフロン絶縁、天然シルク緩衝材、銅編組シールドといった高音質化のための配慮も施されている。
普及ケーブルと上級ケーブルの主な違いは、上級ケーブルでは導体に共振ポイントを持たない楕円形状の単線を使っており、またハンダを使わないネジ留め式のオリジナルコネクターを導入している点などになる
スピーカーケーブルは、普及ケーブルにはφ1.8mmのPC-TripleC単線導体を採用した切り売りタイプを、上級ケーブルにはPC-TripleC楕円単線導体のシングルワイヤーモデルを使っている。長さは5mで、コネクター部はどちらもバナナプラグ仕上げとした。(編集部)
試聴では、まずベースのクォリティを確認するために「10年前の一般的ケーブルセット」を用意した。それなりに対策された一般的なオーディオケーブル(当時、業界で定評のあったモデル)を聴いて基準点を確認し、次に「普及ケーブル」「上級ケーブル」の各セットが、どれほどのクォリティを聴かせてくれるのか……という順番で違いを確認していくことにしよう。
試聴曲はいずれも私の日常的なリファレンス。『情家みえ/エトレーヌ』から「チーク・トウ・チーク」(アナログレコード)、『マゼール/ニューイヤー・コンサート』から「こうもり」序曲(アナログレコード)、『ポール・マッカートニー/KISSES ON THE BOTTOM』から「手紙でも書こう」(CD)だ。
「エトレーヌ」は私がプロデュースしたディスク。ヴォーカルの質感、ビアノの感受性、ベースのスケール感……など、聴きどころが満載だ。このレコードはスチューダのA80で76cmRPM、48トラックマルチ録音して以降、デジタルは1度も経由しないピュアアナログだ。アナログならではの刮目の音に仕上げた。
マゼールは1980年のウィーン・フィル ニューイヤー・コンサートライブ、それまで長期に務めたボスコフスキーに代わり、初めて国際的な有名指揮者が登場したニューイヤーコンサートのデジタル録音・アナログ盤だ。
曲はヨハン・シュトラウス「こうもり」序曲。冒頭のシャンパンのコルク抜きの尖鋭さ、ウィーン・フィルならでの豊潤な弦の音色、ムジークフェライン・ザールのソノリティ……など、聴きどころが多い。
CDでは、ポール・マッカートニーのヴォーカルの表情、この曲の演奏に参加したダイアナ・クラールのピアノの感情、ベースの進行感……などがポイント。
まずは、「一般ケーブル」から聴こう。確かに音はオールドファッションの感はあるが、「チーク・トウ・チーク」では音像の立ちがよく、くっきりとはする。しかし音場は平板で、奥行はあまり感じられない。ウィーン・フィルは、鮮鋭感はあるが、質感がメタリックだ。CDも抑揚が弱く、ヴォーカルも線が細い。音像の中味も薄い。
今回試聴したアコースティックリバイブ製ケーブル
<普及品クラス>(価格はすべて税別)
(1)フォノケーブル:ANALOG-1.2TripceC-FM ¥48,000(1.2m、上段右)
(2)RCAケーブル:LINE-1.0R-TripleC-FM ¥28,000(ペア、1m、RCA、上段中央)
(3)XLRケーブル:LINE-1.0XTripleC-FM ¥38,000(ペア、1m、XLR、上段左)
(4)スピーカーケーブル:SPC-REFERENCE-TripleC ¥6,000(切り売りケーブル、1m、下段)
<上級品クラス>(価格はすべて税別)
(1)フォノケーブル:PHONO-1.2TripceC-FM ¥248,000(1.2m、上段右)
(2)RCAケーブル:RCA-1.0TripleC-FM ¥168,000(ペア、1m、RCA、上段中央)
(3)XLRケーブル:XLR-1.0TripleC-FM ¥188,000(ペア、1m、XLR、上段左)
(4)スピーカーケーブル:SPC-TripleCシングルワイヤー ¥136,000(ペア、1m、下段)
では「普及ケーブル」グレードのケーブルセットだ。情家みえの歌を聴いたとたん、「何だこれは?!」という衝撃が、私の全身を走った。「チーク・トウ・チーク」冒頭の山本剛のF DmGm C7というへ長調の定番コード進行を一聴しただけで、違いは圧倒的だと瞬時に分かった。
何よりピアノの質感がまったく違う。調律せずに10年放っておいたアップライトピアノと、ベテランが調律した直後のスタインウエイのフルコンサートという違いだ(実際に録音した代々木スタジオでは、久石譲氏が所有していたフルコンで弾いている)。音の艶、透明感、クリアーさ、輪郭のていねいさ、音の立ち……というピアノサウンドを形成する音要素が、ここまで磨かれるとは、アコリバ・ケーブルは恐ろしい。でも、それもまだ「普及ケーブル」だ。
細かな質感の話から入ったが、最初に驚いたのは、実は音量。アンプボリュウム位置は変えていないのに、感覚的には2割は音が大きくなった。電気の通りがよくなったのか? 情家みえのヴォーカル表現も違う。音像イメージにボディが付き、その内実も緻密になった。言葉のニュアンスも明瞭になり、リズムも違った。ドラムスとベースのシンクロ動作が密になり、テンポは快速だ。音場内のヴォーカル、楽器の立ち位置も明瞭になり、空気が澄んできた。
「こうもり」序曲もまったく違う。弦のあでやかな色彩感、グロッシーさは、これぞウィーン・フィルの音だ! と快哉を叫んだ。手前に弦、奥にオーボエというステージ上の位置関係が明瞭に分かり、フォルテの場面でも、「一般ケーブル」にあった強調感やメタリック感はすっかり影を潜め、この会場で演奏するウィーン・フィルならではの豊潤で、伸びやかな、透明感の高い音と音楽にて、正月を寿ぐ昂揚した気分が味わえた。
ここまではアナログレコードでの話だが、CDのポール・マッカートニーのジャズヴォーカルも、まったく違った。冒頭のアコースティックベースの弾力感、エネルギー感、緻密感が実によい。「一般ケーブル」ではヴォーカルはヒステリックでメタリックだったが、これは落ち着き、しっとりとしている。その音像も自然な体積感だ。ダイアナ・クラールのピアノが洗練され。存在感もぐっと増した。
いい音のために、ケーブルコネクターや内部構造にも細かな配慮を
アコースティックリバイブのRCA/XLR上級ケーブルには、プラグメーカーの協力で新開発された、無ハンダ・ネジ留め式オリジナルキャノンコネクターが採用されている。
市販されている多くのケーブルのコネクターは接合部にハンダを使っているが、同社ではハンダは導通特性が著しく劣化し、音質劣化の原因になると考えた。その解消のために開発されたのがこれらのオリジナルコネクターで、ケーブル接合部は導通性に優れたりん青銅接点部に表面研磨を施して接触面積を上げ、表面には銀+ロジウムメッキを施して経年変化を防ぎ、耐久性を向上させている。さらに導通性を高めるために、マイナス196度の超低温処理も加えている。
さらに、日立金属が開発した軟磁性ノイズ除去素材のファインメットビーズをケーブル内部に装着し、オーディオシステムの伝送上のノイズを一掃した。つまり、ノイズ除去機能付きケーブルとも呼べる機能を備えているわけで、高S/N、超ワイドレンジ、正確な位相特性、有機的で生々しい音色や質感を実現できると同社では説明している。
ここまでよくなったのだから、評価語はどんどん思いつくが、でも次の「上級ケーブル」ケーブルセットを形容する言葉がなくなってしまうのでは(?)というヘンな心配もしてしまったが、それはまた別の意味で、刮目の音だった。
それが「音楽性」だ。音楽が持つ生命感、感情感、表現の多彩さ、会場の空気感……など、音をより濃い音楽に仕立ててくれる高級ケーブルの技に、舌を巻いた。「普及ケーブル」に比べ、ボリュウム位置は同じだが、実感的に1.5割は音量が増した。その分、信号の通りがよりスムーズになったということか。
「チーク・トウ・チーク」ではまず、音場の突き抜けた透明感に驚かされた。取材メモには「凄い透明感」とある。音場の空気感がベールを数枚矧がしたようにクリアーになった。この「空気感」というタームは、クラシックのホール録音のような会場感ではない。あくまでもエンジニアが2chミックスした時の、もともと各マイクに入っていた奏者まわりのアンビエントの集合だ。「チーク・トウ・チーク」は制作時のモニターから何千回と聴いているが、こんなに綺麗で、透明な音場はなかなか聴けない。
情家みえの声の粒子が細やかに音場内に充満し、特有の濃密な表現がまさに眼前の臨場感で聴けた。その魂の叫びが、心に突き刺さる。特に語尾のヴィブラートや伸ばしの放物線の歌い回しの機微が、実に生々しく、ひじょうに感情的だ。
山本剛のスタインウエイはより叙情的に鳴り、アクセント部分の音の突抜けが尖鋭だ。山本特有の歌いの艶艶した、ラブリーな音色感は、このケーブルセットで初めて聴けた。その振幅の大きさは感情の大きさに比例する。和音のクリアーさは、合成された響きのみならず個々の音まで分かる勢い、だ。
その他の主な試聴機器
●アナログプレーヤー:ラックスマンPD-171A(生産終了)
●カートリッジ:フェーズメーションPP-200
●フォノイコライザー:フェーズメーションEA-1200
●SACD/CDプレーヤー:デノンDCD-SX1 Limited
●プリアンプ:アキュフェーズC-2900
●パワーアンプ:アキュフェーズA-75
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300II
「チーク・トウ・チーク」はブライトソングだが、その対極ともいえる悲哀の歌がA面最後の「YOU DON'T KNOW ME」だ。男の子が、振り向いてくれない女の子への思いを切々と訴える名曲。慟哭とも言える情家の泣き節、山本のピアノの迫り来る熱い思いを、「上級ケーブル」は見事に歌い上げていた。
「こうもり」序曲で驚いたのは、例のシャンパンのバブル爆発の3音が始まる直前の無音。聴衆の期待感、ウィーン・フィル奏者のブレス、そしてマゼール待望のニューイヤー・コンサートの指揮台……という、幾重もの熱い思いの集積が、音が始まる前に感じられたのは、「上級ケーブル」セットの底知れぬ再生能力の賜物だろう。「無音」も表現するのだ。
シャンパンバブルの弾けのエネルギー感、その尖鋭さ、突き上げ感はまさに期待通りの鳴りっぷり。弦の倍音が会場に響き渡り、快活なグロッシーさを聴かせてくれた。一瞬、頂点のメロディでためをつくり、次に一挙に急速下降するワルツの山型旋律のウィーン風で、チャーミングなこと。このケーブルセットは、聴き手を一瞬にしてムジークフェライン・ザールの現場にワープさせてくれる。
CDのポール・マッカートニーも圧倒的だ。音場の透明感、空気の流れの流麗感は、まさに耳の快感だ。ポールの誠実さ、曲がりのない人柄も分かる。ダイアナ・クラールのピアノの鍵盤にアクセントを付けた時の表情の濃密さと、そこから広がりゆく響きの絢爛さは、まさに音場の快感だ。
ケーブルの音の違いを確かめようという、素朴な疑問から始まったこのテストだが、ここまでの深淵な音楽性談議に発展するとは……。「いかに正確に伝送するか」を突き詰めたケーブルは、いまや「音楽性を表現するベーシックコンポーネント」になったといっても、決して過言ではない。
提供:関口機械販売