しゅはまはるみ、藤田健彦、長谷川朋史の3人によって結成された自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の第2弾作品となるのが、本『あらののはて』だ。上映前に早くも、門真国際映画祭2020で最優秀作品賞、優秀助演男優賞、優秀助演女優賞の三冠を達成し、満を持しての公開となる。
学生時代に謎の絶頂感を感じてしまった主人公 野々宮風子(舞木ひと美)。卒業して8年が経ってもそれが忘れられず、一人悶々と過ごしていたのが、ある日、友人にそそのかされて当時の状況を再現すべく、行動を開始してしまう。かみ合わない会話、フレームアウトする映像などなど、長谷川朋史監督のこだわりを反映したある意味泥臭い映像は、近年のファンには新味に映るはず。
ここでは、主演 舞木ひと美と、舞木演じる風子と恋のバトルを展開するマリアを演じた眞嶋優にインタビューした。
――いよいよ公開を迎えます。初プロデュース作となった本作を振り返って今のお気持を教えてください。
舞木ひと美 プロデューサー目線で作品を見るのと、出演側として完パケを見るのとでは、もうまったく感覚が異なるので、どっち側の視点で判断したらいいのか分からなくなる時がけっこうありましたね。一方で、お客さん目線だったら、もうちょっとこうしたらよかったのかもという部分もあったりしました。
――具体的には?
舞木 監督はディテイルや横顔、逆光撮影などを大事にされるんですけど、こだわりで役者の表情が見えにくくなっているシーンもあるんです。間に説明カットを入れればとも思いましたけど、世界は全てが見えているわけではないという監督の言葉を最後は信じました。
――さて、今回はプロデューサーと主役の一人二役です。
舞木 普段は、キャスティングなどの裏方をしているんですけど、縁あってルネシネマさんにお誘いを受けてご一緒することにしたんです。そこでまずは私の主演作を1本作ってもらえることになって、それがこの作品になります(笑)。作品のプロットがもう、めちゃくちゃ面白くて! 「これやりたいです」って即答しましたもん。出会ってから撮影まで4カ月ぐらいの期間だったと思います。
――舞木さんが演じられた野々宮風子役の造形は?
舞木 あて書きと言われました(笑)。風子は不思議な感じを人に与える子で、そこが私にすごく似ているので、結構なあて書きにしてありますって。自分で自分のことなんて分かりませんから、理解するのはとっても難しかったです。そこから必死に自分のことを考えて、えっ私こんなに不思議な子に見られてるのかなって、逆に気づかされたりしました。
役作りというと普通は役を客観的に見られるんですけど、あて書きと言われると自分のことは自分が一番よくわかっていないと言いますか。難しかったです。
――さて、眞嶋さんも完成した感想をお願いします。
眞嶋優 オーディションのシーンがちょうど、大谷荒野の部屋で喧嘩をしているところだったんです。その時にはそこまで深く考えずに演じていましたけど。撮影の際には2度目ですから、8年間暮らしてきた中で積み重なってきたイライラとか、そんな状況の中でさらに謎の女登場ってなんだ? っていう怒りを、荒野との会話を通して表現するようにしたので、注目してほしいです。
――台本を読んだ時、マリアにそこまで気の強いイージはありましたか?
眞嶋 割とありましたね。あとは、監督と舞木さんからのオーダーがいろいろあったので、まずはこういうパターン、次はこういうパターンといいうように何度もやらせていただいて満足のいく出来栄えになったなと思います。
――一方で、マリア役の眞嶋さんは、役との印象は違いますね。
眞嶋 でも、割と近い部分は感じますよ。家にいるときはジャージ姿だし、感情表現が苦手でコミュニケーションがあまりうまくないし。結構淡々としていることが多いので、それで落ち着いてるねって、言われるタイプなんです。
――眞嶋さんの起用理由は?
舞木 オーディションの芝居を見た瞬間に、決め打ちみたいな感じがしたんです。役としては、荒野と8年間一緒に住んでいるという女性ならではの部分を持ち合わせていないといけないんですけど、加えて、スポーツ女子というかボーイッシュな雰囲気も必要だと感じていて。その両方を感じたからですね。
――今回、初めて共演してみてお互いの印象は?
舞木 眞嶋さんは共演したいなと思っていた方だったので、うれしかったですね。ただ、役の演出上、心を通じ合わせないように、会話を成り立たせないようにしないといけなかったので、なかなか仲良くなれずに残念でした。
そんな中でも眞嶋さんはお芝居がお上手で、スって入ってきてくれるんです。でも、役としてはそれを受けないようにしないといけないし、ちょっとしたボール(言葉)を投げると、深いところでボールを受け取ってくれるので、(以心伝心しているように見せない)さじ加減は難しかったです。
眞嶋 初めてお会いした時は、すごくしっかりされているし、テキパキされているし、風子は舞木さんをあて書きした不思議な感じの女性と聞いていた割には、そんな面どこにもないんじゃないかなーと、思っていました。
ただし、だんだんとリハを重ねたり、一緒にご飯に行くようになって、天然というのとはちがう、何か一本ねじが抜けているような不思議さを感じるようになりましたね(笑)。
――お話をうかがって改めて内容を振り替えると、風子とマリアのセリフはかみ合っていませんね。
舞木 そうなんです。ジャングルジムのところで、マリアが風子に「聞いてた?」っていうセリフがあるんですが、風子の性格を象徴していて、記憶に残ってます。
眞嶋 こっちはもう荒野に会わないでほしいと言ってるのに、それでも電話してきたりして。そういう雰囲気は舞木さんじゃないと出せないと思いましたもん。
――そのジャングルジムのシーンでは、後半喧嘩が始まりますが、その模様は一切映像に映っていません(笑)。
眞嶋 人間だってすべてを見ているわけじゃないじゃないですか。二人がフレームアウトして、どんな喧嘩が繰り広げられるのか。観客の創造をかきたてるすごい演出だなと思いました。
舞木 空手の経験者が取っ組み合いの喧嘩をしているわりには、髪も乱れていませんからね(笑)。そうそう、喧嘩の始まりも技じゃなくてビンタでしたし。
眞嶋 そうそう、アレガチで痛かったです。
舞木 えっごめん。
――設定上、風子もマリアも学生時代は空手とシュートボクシングを習っていますが、それっぽいところはありませんね。
舞木 そうなんです。私もそうですけど、それはそれ、これはこれと決めているからだと思います。3歳のころからずっとダンスをしてきているんですけど、普通に生活をしていると、ダンスのダの字も想像できませんってよく言われるんです。ダンスをするときには、スイッチが切り替わるんですね。
だから風子にとっても、喧嘩は喧嘩、試合は試合というふうに切り替えている、そう思いながら演じるようにしました。
――少し話を戻しまして、冒頭の学生時代。荒野に呼び出されてデッサンのモデルになるあたりの画面構成は、かなり特殊ですね。
舞木 そこは、さきほどもお話しした、監督のこだわりを特に投影したシーンになります。役者としてはもどかしいところもありますけど、監督は自分と同じ世代にはピンポイントで伝わるものがある、とおっしゃって、何回もプレイバックしながら撮影しました。ただ、個人的には、職員室に呼び出されているところ、私見切れているけど、大丈夫かなーとは思っていますけどね(笑)。
――短いカットでつないでいくMV的な編集に比べれば、長回しは見やすいし懐かしい印象です。
舞木 そうそう、監督もそう思ってほしいって、ポイントポイントで仰ってました。
――眞嶋さんにとって、長回し撮影は難しくがありませんでしたか?
眞嶋 同じ気持ちでずっとその空間にいられるのは、やりやすかったですよ。
――さて、本作では学生時代にやり残したことを忘れられない男女の姿が描かれています。お二人にそんな思い出はありますか?
舞木 たくさんありますよ。ただ、当時を振り返ると、興味はたくさんあっていろんなところに目が向くんですけど、一つを好きになるととことんそれにのめり込んでしまっていたので、柔軟性をもってもうすこし広いジャンルを見られるようになっていれば、今もう少し広い視野が持てていたかも、と思います。
眞嶋 学生時代から芸能のお仕事を始めていたので、あまり部活に取り込めなかったことですね。こうして社会人になってみて、年の離れた人(上下)とのコミュニケーション力の重要性を強く感じるので、当時、もっと味わっておきたかったかなって思います。
――最後にメッセージをお願いいたします。
舞木 トークイベントも企画していますので、コロナ対策をして、ぜひ劇場でご覧ください。
映画『あらののはて』
8月21日(土)~9月10日(金)池袋シネマ・ロサにて連日20:10~21:25ほか全国順次公開
<出演>
舞木ひと美 髙橋雄祐 眞嶋優 成瀬美希 藤田健彦 しゅはまはるみ
監督・脚本:長谷川朋史
配給:Cinemago
配給協力:Giggly Box/Cinemaangel
<2020年/日本/カラー/16:9/DCP/69分>
(C)ルネシネマ
公式サイト https://runecinema.com/aranonohate/
Twitter https://twitter.com/aranonohate
Facebook https://www.facebook.com/rune.aranonohate
<あらすじ>
25歳フリーターの野々宮風子(ふうこ)(舞木ひと美)は、高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをした時に感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない。絶頂の末に失神した風子を見つけた担任教師(藤田健彦)の誤解により荒野は退学となり、以来、風子は荒野と会っていない。
8年の月日が流れた。
あの日以来感じたことがない風子は、友人の珠美(しゅはまはるみ)にそそのかされ、マリア(眞嶋優)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描けと迫るが……
【舞木ひと美】野々宮風子(ふうこ)役
1989年9月13日生まれ。宮城県出身。
女優として活動するとともに普段はダンサーとしても活躍している。近年では、映画『ヤクザと家族The Family』の主題歌「FAMILIA」に振付師として参加。他にも舞台、ドラマ、CM等の振付を数多く手掛けている
【眞嶋優】マリア役
1997年8月30日生まれ。群馬県出身。
リフティング1000回以上という特技を持ち、一般社団法人日本フリースタイルフットボール協会公認の「フリースタイルフットボールアンバサダー」に就任。代表作に、ヒロインを務めた『花火』(’16)、主演を務め、ハンブルグ日本映画祭で正式上映されたオムニバス映画『SHOUT』内の『Echoes』がある。