近年のデジタル・オーディオ・プレーヤー(DAP)シーンにおける中心的存在であり、時にポータブル界隈を賑わすAstell&Kernから、ブランド史上初となる「DACモジュール交換式」のハイレゾ対応オーディオプレーヤー「A&futura SE180」(以下SE180)が登場した。

 「Astell&Kern」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、フラグシップラインの「A&ultima」に属す「SP2000」を筆頭に、スタンダードライン「A&norma」までの幅広いラインナップと、時に、高出力と低ノイズの両立をコンセプトとして掲げる「KANN」シリーズや、プレミアムライン「A&futura」シリーズを展開するなど、ポータブルファンを喜ばせる、エポックメイキングなモデルたちだ。

 同ブランドのDAPは、筆者が選者を務めるオーディオビジュアル専門誌「HiVi」が夏と冬の年二回実施する、ベストバイでも評価が高い。

 2021年夏のベストバイでは、ポータブルデジタルオーディオプレーヤー部門1(10万円未満の製品が対象)で、「A&norma SR25」が1位、「A&norma SR15」が4位。部門2(10万円以上の製品が対象)では上位7モデル中、Astell&Kernが5台も入っている。

ポータブルオーディオプレーヤー
Astell&Kern
A&futura SE180
¥209,980(税込)

画像: 【Astell&Kern「A&futura SE180」レビュー】超絶クリアーなサウンドが楽しめるニューDAP「A&futura SE180」。DACモジュールの交換で、2種類の音調を1台で味わえる。本気で欲しくなった!

A&futuraSE180の主な仕様
●カラー:MoonSilver●内蔵メモリー容量:256GB(NANDフラッシュ)●拡張スロット:microSDカードスロット×1(SDHC/XC最大1TB対応)●ファイル形式:WAV、FLAC、MP3、WMA、OGG、APE、AAC、ALAC、AIFF、DFF、DSF、MQA●MQA再生:Services(TidalMasters)、Localfiles、External USB、MQA-CD(ripped)●オーディオ入力端子:USBType-C(充電・データ転送・USB-DAC)●USBAUDIO出力:PCM最大384kHz/32bit、DSD(DoP)最大DSD256●USB-DAC:○●AKConnect機能(DLNA):○●OpenAPPService機能:○●V-Link機能:○●クロックジッター:25ps●リファレンスクロックジッター:800fs●Wi-Fi規格:IEEE802.11b/g/n(2.4GHz)●Bluetoothバージョン:5.0●プロファイル:A2DP、AVRCP●対応コーデック:SBC、aptX HD、LDAC●対応OS:Windows10(32/64bit)、MacOSX10.7以上●CPU:Quad-Core●バッテリー:内蔵リチウムポリマーバッテリー(3,800mAh/3.8V)●充電時間:約5時間(5V/2A)/約3時間(9V/1.67A)●USB形状:USBType-C(充電・転送)●ディスプレイ:5.0型TFTカラーLCD(静電容量式タッチスクリーン)●解像度:FHD(1920×1080ドット)●サイズ:(W×H×D)本体約W77×約H129×約D19.9mm、モジュール装着時 約W77×約H137×D19.9mm●質量:約280g●付属品:USB Type-Cケーブル、保護シート(表/裏)×各2、クイックスタートガイド、保証書(本体・SEM1は1年/付属品90日)、microSDカードスロットカバー×2

 さて、本稿での主役となるSE180は、プレミアムライン「A&futura」の第3弾となるモデル。

 A&futuraシリーズというと、昨年7月に発売されたマルチDAC搭載モデルの「A&futura SE200」が記憶に新しい。ESS社の「ES9068AS×2」とAKM社の「AK4499EQ」という2種類のDACを搭載する
マルチDAC仕様。設定画面からDACの切り替えが可能でポータブル界隈にインパクトを与えたモデルだ。

 そして、本SE180は、SE200のマルチDACコンセプトをさらに発展させて、DACモジュール交換式プレーヤーとして登場したのである。

 筐体は本体とモジュールユニットの2つから成り立っており、2つを合わせた筐体サイズは、横幅77×高さ137×厚さ19.9mmと、SE180はサイズ感からしてフラグシップモデルのSP2000に近い。

 本体側は5型のフルHD液晶ディスプレイを搭載し、クアッドコアのCPU、256GBの内蔵ストレージ、microSDカードスロットや3,800mAhのバッテリー、無線LANチップ等が搭載される。つまるところ、本体側の役割としては、コントロールやサウンド関係以外のインターフェイスの搭載にあるのだろう。

 対するモジュール側はDACチップを含むD/Aコンバーター回路、アナログ回路、ヘッドホンアンプとヘッドホン端子が備わる。

 現在利用可能なDACモジュールは2機種存在する。「SEM1」は標準で付属するモジュールで、据え置き型のハイエンドデジタルオーディオ機器でも採用例の多い、ESS社の「ES9038PRO」をシングルで搭載する。

 オプションとなる交換用DACモジュールが「SEM2」。こちらは旭化成エレクトロニクスの「AK4497EQ」を左右独立デュアル構成で搭載する。

オールインワンDACモジュール
Astell&Kern
SEM2
¥49,980(税込) 6月25日発売予定

画像: ▲オールインワンDACモジュールの「SEM2」(右)と「SEM1」。SEM1はSE180に同梱される。サイズは名刺入れを一回り大きくしたほど

▲オールインワンDACモジュールの「SEM2」(右)と「SEM1」。SEM1はSE180に同梱される。サイズは名刺入れを一回り大きくしたほど

SEM2の主な仕様
●サンプリングレート:PCM:8kHz~768kHz ※ネイティブ、DSD64(2.8MHz/1bit)~DSD512(22.4MHz) ※ネイティブ●量子化ビット数:8bit~32bit ※ネイティブ●ビットレート:FLAC 0~8、APE Fast~High、MP3/WMA 最大320kbps、OGG Up to Q10、AAC 最大320kbps●出力端子:3.5mmヘッドホン出力端子、2.5mmバランス出力端子、4.4mmバランス出力端子●再生時間:約10.5時間●サイズ:約W77×約H76×約D19.9mm
質量:約100g

SEM1の主な仕様
●サンプリングレート:PCM8kHz~384kHz ※ネイティブ、DSD64(2.8MHz/1bit)~DSD256(11.2MHz/1bit)●量子化ビット数:8bit~32bit ※ネイティブ●ビットレート:FLAC 0~8、APE Fast~High、MP3/WMA 最大320kbps、OGG Up to Q10、AAC 最大320kbps●出力端子:3.5mmヘッドホン出力端子、2.5mmバランス出力端子、4.4mmバランス出力端子●再生時間:約10.5時間●サイズ:約W77×約H76×約D19.9mm
質量:約100g

 モジュールと本体の接合は、「ダブルロック機構」が採用され、1段階目のロック機構で両者を接合し、2段階目のロック機構で強固に固定される。これにより信号が流れるコネクター部分の安定性も担保されるという。

 モジュールを交換するには、筐体上部の左右側面にある2つの楕円型ボタンを同時に奥まで押し込むとロックが外れて、モジュールを上方向に引き抜くことができる。通常の環境では絶対に抜けない構造なので外出先でも安心だし、本体とモジュールの接合精度の高さも印象的だ。

▲モジュールユニットは、本体側面上部左右にある楕円ボタンを一緒に押すと、ロックが解除されて取り外せるようになる

モジュール構造の採用で、DACごとに最適化した回路を構築

 興味深い点として、モジュールは、DACチップも含むD/Aコンバーターのデジタル段に加え、アナログ段のオーディオ回路とヘッドホンアンプ、ヘッドホンジャックも搭載されているということ。

 モジュールを交換する事でDACのチップだけの変更にとどまらず、DACチップの特性に最適化されたアナログ回路とヘッドホンアンプ回路の恩恵、つまり最終的な音質を決めるほぼ全ての要素が置き換わる事を意味する。当然、SEM1とSEM2とではDAC回路以後のアナログ回路やヘッドホンアンプ部の仕様も違うという。

 文頭で書いたSE200のマルチDACコンセプトをさらに昇華させている事実を目の当たりにした筆者は、気持ちが高まってきた。

 さらに、本体とモジュールが物理的に分離するセパレート構造により、本体起因の電源ノイズやRF(電磁波)ノイズを物理的に遮断できる。DAPは筐体が小型だから、必然的にスペースが限られ、高周波ノイズのシールド等には不利だから恩恵は大きい。そして、この手法こそハイエンドCDプレーヤーなどで使われるセパレート思想と同様である。

 また、モジュール自体の高音質対策も抜かりがない。DAC回路、アナログ回路、ヘッドホンアンプ部の主要回路を統一した独自のサウンドソリューション「TERATON ALPHA」を搭載し、厳選されたオペアンプや最新世代の基板レイアウトの採用により、例えばSEM1では、ESS9038チップのアドバンテージを生かし、6Vrmsのバランス出力(Gain high)により、129dBものSN比を達成した。

 豊富な種類のヘッドホンジャックを搭載していることも注目だ。SEM1/SEM2とも「3.5mm3極アンバランス」、「2.5mm4極」と「4.4mm5極」のバランス接続端子が装備されているのである。

画像: ▲SE180には、3.5mm3極アンバランス、2.5mm4極バランス、4.4mm5極バランスの、3種類のプラグを搭載する。なお、試聴機に使用したのは試作機であり、実際に発売されている製品とは一部、外観が異なります。

▲SE180には、3.5mm3極アンバランス、2.5mm4極バランス、4.4mm5極バランスの、3種類のプラグを搭載する。なお、試聴機に使用したのは試作機であり、実際に発売されている製品とは一部、外観が異なります。

 現在のポータブルオーディオシーンは、一般的な3.5mmステレオミニジャック端子によるアンバランス接続に加えて、これは筆者の感覚だが、2014年にAstell&KernがAK200シリーズの「AK240」に搭載してブームとなった2.5mmバランス端子、さらにSONYが2017年に「NW-ZX300」に採用した後、近年バランス接続のスタンダードとなった4.4mmバランス端子という3つの端子が混在している状態だ。

 2.5mmバランス接続のブームを作ったAstell&Kernも、昨年10月に発売したKANNシリーズ第3弾モデル「KANN ALPHA」で、4.4mmのバランス端子を装着に踏み切ったが、それに続いた本機もポータブルプレーヤーと組み合わせることを想定して、ほぼすべてイヤホン、ヘッドホンに変換コネクターやリケーブルを施さず、接続が可能になったのである。

機能と性能を高次元で統合した、全方位的に使えるスペシャルモデル

 と、モジュール周りの内容が大きなトピックのSE180だが、その他の機能も充実している。

 完全ワイヤレスイヤホンの活況もあって、今では必要不可欠なBluetooth周りのスペックも強力だ。Bluetoothバージョンは5.0で、対応コーデックは「SBC」や「AAC」に加え、サンプリング周波数が最大48kHz、量子化ビット数24bitの伝送を可能とする「aptX HD」、さらに同96kHz/24bitの伝送が可能な「LDAC」にも対応する(※Bluetoothは圧縮伝送という事に留意したいが)。

▲「SE180」は、SBC、AAC、aptX、aptX HD、そしてLDACのコーデックをサポートする

 さらにSE180をBluetoothレシーバーとして使える新機能「BT Sink」の搭載も注目だろう。これは、スマートフォンから再生する音声をBluetooth経由にてSE180側で受信し、内部のDAC・アンプを経由した極上のサウンドを、手持ちの有線イヤホンで聴取できる、という機能だ。

 またWi-Fiを利用してPCやスマホとの間で直接データ転送ができる「AK File Drop」機能や、SE180をホームネットワーク環境(DLNA準拠)にアドオンし、ネットワークオーディオプレーヤーとして使える「AK Connect」も便利だろう。

 底面に備わるUSB Type-C端子は、充電やファイル転送のほかに、デジタル入力も可能で、パソコンと接続すれば、SE180をUSB-DACとして使えるなど、機能的にも充実している。

 対応サンプリング周波数については、SEM1はPCMで最大384kHz/32bit、DSDは最大11.2MHzまで、SEM2はPCMで最大768kHz/32bit、DSDは最大22.4MHzまで、それぞれネイティブ再生が可能。MQAファイルのソフトデコードにも対応するなど強力だ。

▲SE180のステイタス表示。DACモジュールに「SEM1」が組み合わされているのが分かる

 また、いろいろな音楽ストリーミングサービスも楽しめ、それぞれが提供する専用アプリ(apkファイル)をインストール可能な「Open APP Service」を利用すれば、「Amazon Music」「Spotify」「Apple Music」「TIDAL」等を聴取できる(記事執筆時の対応状況であり、動作確認については日本のオフィシャルページを参照のこと)。

一聴して抜群のS/Nに感動。DACの種類で音楽表現の解釈の違いが楽しめる

 さっそく自宅にSE180を持ち込み、クオリティチェックを実施した。目の前にあるSE180を見て最初に気づくのは、滑らかな線がボリュームノブに集まる品位の高いフロントフェイスと、1920×1080ドットを実現したフルHDディスプレイ。リアカバーはセラミック製で、仕上げや素材の違いにより落ち着いた高級感を演出している。

画像: ▲SE180の右側面には、LED内蔵のボリュームダイヤルなど、高いデザイン性が施されている

▲SE180の右側面には、LED内蔵のボリュームダイヤルなど、高いデザイン性が施されている

 まずはSEM1とSEM2を比べながら、SE180の再生能力を確認する。試聴に用いたイヤホンは、2013年に設立された人気イヤホンメーカー「Acoustune」のダイナミック型密閉モデル「HS1697TI」だ。今回は、SE180側に3種類のイヤホンジャックが搭載されていることに合わせ、HS1697TIのリケーブルとして、同ブランドが展開するハイエンドリケーブル「ARS100」シリーズも用意した(3.5mm、2.5mm、4.4mmの3本)。

画像: ▲SE180の試聴には、アユート取り扱いの「Acoustune」ブランドの有線イヤホン「「HS1697TI」(¥109,980税込)を組合せた。HS1697TIには、Acoustuneの誇るミリンクスドライバー、その第4世代進化型が搭載され、さらに音響チャンバー部には共振抑制効果の高いチタンを採用しているのが特徴となる。結果、ハイスピードで解像度が高く、歪のないサウンドを楽しめるという。また、コネクターにはPentaconn Earを採用し、リケーブルも可能だ

▲SE180の試聴には、アユート取り扱いの「Acoustune」ブランドの有線イヤホン「「HS1697TI」(¥109,980税込)を組合せた。HS1697TIには、Acoustuneの誇るミリンクスドライバー、その第4世代進化型が搭載され、さらに音響チャンバー部には共振抑制効果の高いチタンを採用しているのが特徴となる。結果、ハイスピードで解像度が高く、歪のないサウンドを楽しめるという。また、コネクターにはPentaconn Earを採用し、リケーブルも可能だ

 最新の楽曲から、本年度のグラミー賞で最優秀楽曲賞を受賞したH.E.R.の「I Can't Breathe」(44.1kHz/24bit FLAC)を聞いた。グラミー賞の受賞作には優れた録音の作品が多いが、本楽曲はその最たるもの。

 また、クラシックからはステレオサウンド「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」のDSD11.2MHz/1bit音源、シリーズ第五弾となる「シュタイケル/J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)」をチョイスした。

 SEM1、SEM2に共通した点(つまりSE180が持つ音)をお伝えしたいが、最初に感じたのは聴感上のSNが抜群に良いこと。今までに聞いたことがないほどノイズフロアが低く、それに伴う分解能の高さと、上下fレンジの広さにえらく感心した。

 ちなみにSEM1とSEM2の帯域バランスはほぼ同一となるが、高域、中域、低域それぞれの音色/音調はかなり違う。それに伴い、ヴォーカルの距離感、サウンドステージなどの空間表現も別々の解釈で表現されている。

画像: 一聴して抜群のS/Nに感動。DACの種類で音楽表現の解釈の違いが楽しめる

 ESS9038PROチップを搭載するSEM1は、素晴らしく制動力のある低域と全帯域においてシャープな音調で輪郭表現もしっかりしている。SEM2と比べると若干高域に硬質感があるが、ここがいわゆる“解像感”を後押ししているようで、H.E.Rのヴォーカルは中域が充実しており、シュタルケルのチェロの質感表現もリアルだが、アコースティックらしいふくよかさを伴うのが印象的だ。

 対するSEM2は、AKMのAK4497EQをLR独立で2基搭載する。低域はSEM1と比べると若干強いが柔らかく弾力感のある表現だ。聴感上の最低域の伸びはSEM2の方が長けている。中高域は密度がある表現で、SEM1よりアキュレイトな音調だ。興味深かったのは、SEM2の音色/音調はナチュラル方向なのだが、H.E.Rのセンター定位するヴォーカルやシュタルケルのチェロの音像表現は、SEM2の方がシャープに感じたことだった。まさにDACチップの解釈の違いが現れている! 本当に面白い。

ケーブルを替えると透明感や分解能が一層向上。音像定位や距離感も明瞭に

 と、ここまではHS1697TIが標準で装着する、8芯構造のリファレンス用新ハイブリッドケーブル「ARC51」を利用した3.5mmのアンバランス接続だったのだが、Acoustuneからは、オーディオケーブル専業メーカーと共同開発した、シルバーコートOFC線と極細OFC線によるハイブリッド16芯構造アップグレードケーブル「ARS100」シリーズがラインナップされているので、3.5mm3極プラグによるアンバランス接続に加え、2.5mm4極バランス、4.4mm5極バランス接続という、合計3通りを一挙に試し、音質差を確認した。あまり派手には書きたくないと思っていたのだが、このケーブルとバランス接続はかなり音質に効く。

画像: ▲Acoustubeブランドで展開されているリケーブル「ARS100」シリーズ。2重ツイスト構造を採用した16芯仕様のハイエンドモデルだ。シルバーコートOFCと極細OFCによるハイブリッド構造により、導体抵抗とノイズを大幅に抑制。高純度な伝送を可能とし、クリアーな再現を行なえるとしている。価格はPentaconn Earの4.4mm仕様「ARS133」で¥32,980(税込)

▲Acoustubeブランドで展開されているリケーブル「ARS100」シリーズ。2重ツイスト構造を採用した16芯仕様のハイエンドモデルだ。シルバーコートOFCと極細OFCによるハイブリッド構造により、導体抵抗とノイズを大幅に抑制。高純度な伝送を可能とし、クリアーな再現を行なえるとしている。価格はPentaconn Earの4.4mm仕様「ARS133」で¥32,980(税込)

 まずは3.5mmアンバランス接続で、ARC51から「ARS131」に変更したが、この場合、最も顕著なのは音色の変化だ。一聴して高域の透明感が増し分解能が上がる。特にヴォーカルの距離感が近くなるのは特筆点だ。ヴェールを1枚剥がしたような感じというと言い過ぎかもしれないが、明瞭さは間違いなく上がる。

画像: ▲「ARS100シリーズ」は、コネクターでPentaconn Ear、MMCX、カスタム2ピン。プラグで3.5mm、2.5mm、4.4mmをラインナップする。今回は、HS1697TIに合わせ、Pentaconn Earコネクター仕様の3.5mm(ARS131)、2.5mm(ARS132)、4.4mm(ARS133)の3種類を組合せた

▲「ARS100シリーズ」は、コネクターでPentaconn Ear、MMCX、カスタム2ピン。プラグで3.5mm、2.5mm、4.4mmをラインナップする。今回は、HS1697TIに合わせ、Pentaconn Earコネクター仕様の3.5mm(ARS131)、2.5mm(ARS132)、4.4mm(ARS133)の3種類を組合せた

 次に2.5mm4極バランスと4.4mm5極バランスを試した。結論からいえばSE180とHS1697TIの組み合わせでは“バランス接続”を使うべきだ。全帯域において音の滲みが低減し音が明瞭になる。印象的なのは定位の表現力が大きく向上すること、ヴォーカルものならセンター定位するヴォーカル音像がリアルになり、左右に展開するバックミュージックとの距離感が明確になる。まるでオーバヘッド型ヘッドホンで聴くような、明瞭な距離感に一歩近づく。2.5mmと4.4mmの音の違いだが、分解能についてはほぼ同格ながら、低域の厚みや弾力感は若干4.4mmの方が優れていた。もし筆者だったら絶対にこのケーブル、可能であれば4.4mmのバランスに変更する。

 このように音質については大満足の試聴となったが、せっかくなので本製品が実現したファイル転送の新機能「AK File Drop」を試してみた。パソコンに慣れている方であれば難しい操作ではない。

▲SE180の新機能「AK File Drop」。Wi-Fi設定をすると、SE180-パソコン/スマホ間で直接、ファイルの転送が行なえるようになる

 最初にFTPソフトウェア「File Zilla」をWindows /Mac パソコン等にダウンロード・インストールをしてソフトウェアを起動する。SE180をWi-Fi経由でネットワークに参加させた後、ソフトウェアのサイトマネージャーを開きSE180を登録する。

 ソフトの画面は左側のウインドが「自分のPCの領域を表示」で、右側のウインドが「サーバー(この場合はSE180)」が表示されるので、左ウインドから音源ファイルを右ウインドの保存領域にドラッグ&ドロップすればファイル転送が完了する。ソフトへのSE180の登録は一手間かかるものの、一度設定してしまえば、今までUSBケーブルやマイクロSD経由でのファイル転送で感じていた面倒な作業が、ワイヤレスで楽々転送できることは両手を挙げて歓迎したい。

DACメーカー2社のサウンドを一つの筐体で楽しめる、夢のオーディオマシンだ

 昨今、DAPの世界はデジタルオーディオをリードするような最新のマテリアルやDACチップの搭載など、スペック的に先鋭化されているのが印象的だが、ホームオーディオでの高音質再生を志す一人として、据え置き型ハイエンドオーディオで人気の東西横綱ともいえる2社のハイエンドDACが持つサウンドを、1つの筐体で楽しめてしまう事にインパクトを感じた。2つのモジュールの音は本当に甲乙つけがたく、オーディオ的な探究心を刺激してくれるので、もし筆者がSE180を購入したらモジュールは2つ所有してしまうと思う。(実際かなり欲しくなっている)。また、AK File Dropを始めDAPのユーザビリティを上げるギミックが備わっている事も大きなアドバンテージだ。

 最後となるが、嬉しい事に新しいDACや高出力の真空管を採用した次のモジュールも検討されているとのこと。一人のオーディオファイルとしてSE180の今後が楽しみで仕方ない。

画像: DACメーカー2社のサウンドを一つの筐体で楽しめる、夢のオーディオマシンだ

提供:アユート

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