東芝レグザが追求し続けてきた質感と奥行感のあるがままの表現
ブラウン管、液晶、有機ELと、時代とともに家庭用テレビの表示素子は変わってきたが、東芝レグザが一貫して追求し続けてきたのは、モノの質感描写と、自然な奥行感をあるがままに表現すること。これには充分なダイナミックレンジ、力強いコントラスト(特に引き締まった黒)に加えて、細部まで鮮明に描き出せる解像力が不可欠。最新の4K有機ELパネルなら、表現力に不足はないようにも思うが、それだけでは充分ではないのだという。
質感をしっかりと描写するには、基本的な解像度とフォーカス性能に磨きをかけつつ、ノイズを抑えて、しかも硬質にならず、緻密で繊細なタッチで映像を描くことが重要だ。さらに平面の画面上に奥行方向の拡がりを持たせるために、ボケるべきところはそのままボカし、フォーカスが合っている部分だけを鮮明に描きだすことが求められる。
映像のエリアごとに画素単位で最適な超解像処理を施し、自然で緻密な映像に復元する「再構成型超解像処理」や、前後の映像情報を含めて、近隣の類似箇所の情報を応用して解像度情報を復元する「自己合同性超解像処理」など、最新の高級レグザでは極めて高度な画像処理技術を実用化しているが、これらはすべてモノの質感描写、自然な奥行感の表現に磨きをかけるために開発されたものなのである。
さらに奥行感の表現力については、黒(最暗部)から中間調にかけてのなめらかなグラデーション描写が不可欠。そこで映像エンジン自体を12ビット精度のバスライン(信号処理回路のデータライン幅)を確保し、さらに「階調クリエーション」によって映像データはLSI内部で最大18ビット信号にまで拡張。こうした地道な努力の積み重ねによって、生々しい質感描写、奥行方向への拡がりを実現しているわけだ。
完成度を高めてきた有機ELレグザ。満を持しての77インチモデルの登場
レグザの最高峰となる有機ELテレビも、世代を重ねるごとに完成度が高まり、いまや円熟の時を迎えつつあるように思える。その映像の品位、クォリティ感からすると、もはや55インチ、65インチではもったいない。私自身、よりリアルに近いサイズ、つまり等身大の大きさでその映像を体験してみたい、という欲望が芽生え始めてきている。
4K有機ELテレビ
東芝レグザ 77X9400
オープン価格(実勢価格70万円前後)
● 画面サイズ:77V型
● 解像度:水平3840×垂直2160画素
● 寸法/質量:W1,748 × H1,106 × D353mm / 64.5kg
そんな内懐を見透かしたかのように登場したのが、77インチの有機ELテレビ、レグザ『77X9400』だ。新開発の4K有機ELパネルに、最高峰の映像エンジン「ダブルレグザエンジン Cloud PRO」を組み合わせた、同社のフラッグシップライン、X9400シリーズの最上級モデルで、レグザとしては初めての77インチサイズの有機ELテレビとなる
一般的に同一シリーズのモデルでも、画面サイズが大きく変わると、絵づくりの再調整、再チューニングが強いられるケースが多い。具体的には、映像輪郭のエンハンス量の見直し、コントラストの制御、さらにはカラーマネンジメントの調整などなど、画面サイズやパネル特性に応じたチューニングが求められるのである。
東芝レグザは、伝統的に強力な映像エンジンを開発し、パネル性能を極限まで引き出すことを高画質追求の基本姿勢としている。X9400シリーズは「ダブルレグザエンジン Cloud PRO」を採用している
映像モードは基本的に8つで、これ以外にネット動画専用のモードも加わる。放送系を中心に万能的に使える「おまかせAI」モードを軸に、「スポーツ」、「アニメプロ」、「映画プロ」などコンテンツに応じて選択するのがおすすめだ
「液晶パネルの場合、そうした画面サイズによる調整が必要でしたが、今回は絵づくりに関する各種調整、チューニングは55インチやインチモデルからまったくと言っていいほど変えていません。表示パネルである有機ELの素性のよさが大きいと思いますが、輪郭の補正にしても階調性にしても、変える必要がありませんでした」(東芝レグザの映像マイスターを務める住吉肇氏)
ダイナミックレンジが広く、コントラストにも余裕がある有機ELの優位性がもたらした恩恵で、77インチの大サイズに充分に応えられる画質がすでに完成していた、そうした見方もできるわけで、ここではレグザ独自の画像処理技術も少なからず貢献していると見て間違いない。
レグザは表示信号の情報を実に細かく示してくれるのが、マニア的には実に嬉しいポイントだ
大画面化にあわせて大きく強化したサウンドシステムにも注目
2ウェイを構成するメインスピーカー、トップトゥイーター、バズーカ(低音用ウーファー)ユニットの10スピーカーと、計142Wの大出力マルチアンプシステムを搭載した豪華なオーディオシステムについては、基本は55インチ/65インチモデルのX9400の内容を踏襲。本機77X9400は、より高性能な大容量バスレフ型重低音バズーカをスタンド部に2基搭載するなど、大画面化にあわせて大きく強化されている。
2ウェイ構成となるメインスピーカーは、振動板にCNFコーティングを施したフルレンジユニット2基と、アルミニウム振動板のハードドームトゥイーターの組合せで、そこに対向型のパッシブラジエーターを加えることで、量感豊かな、歪み感のないサウンドを目指している。
「今回、大口径シルクドームのトップトゥイーターを画面背面に上方に向けて配置し、高域のエネルギーを後方上向きに放射する工夫を加えていますが、これが77インチの画面では、期待していた以上に効果的でした。正面からテレビを観ると、あたかも画面から声が出ているかのような自然な定位と広がり感を両立できました」(東芝レグザの音声マイスターをつとめる桑原光孝氏)
なお、大容量バスレフ型重低音バズーカ内蔵スタンドは取り外しが可能。有線の接続にはなるが、壁掛け設置した場合でも、離れた場所に設置できるという。
テレビ内蔵スピーカーシステムとしてはひじょうに凝ったユニット構成を採っている。画面後方に搭載されている上方向に音を放射するトップトゥイーターが大いに有効で、画面から音が鳴っているようなイメージが得られる
X9400シリーズで77インチ機のみ、テレビ背面に備わるスタンド内に重低音バズーカユニットを内蔵させている
映画との相性は抜群の表現力は見事。巧みな絵づくりでアップコン能力も高い
UHDブルーレイで映画『ジョーカー』、『ダンケルク』、BS4Kで放送された『NHK第70回紅白歌合戦』のエアチェックなどで、77X9400の画質/音質を確認させてもらったが、引き締まった黒、なめらかで豊かな階調表現、そして深みのある発色と、ディスプレイとしての素性のよさは一目瞭然。そのクォリティ感とサイズのスケール感が見事なまでにマッチして、特定のシーンでは、まるでフレームの奥に現実の世界が拡がっているかのような感覚すら得られる。
視聴は東芝映像ソリューション社内で実施。地デジ、BSデジタル、BS4K放送のほか、UHDブルーレイなどを再生した。X9400は、外部スピーカーを直接駆動できる専用アンプとスピーカー端子を備えており、JBLのL82 Classicとの組合せも試した
特に映画コンテンツとの相性は抜群だ。暗がりでの化粧を行なう主人公アーサーの姿を追った映画『ジョーカー』の冒頭シーン。彼の肌のグラデーションや、ピエロの衣装の生地の風合いや色づきと、その質感描写の生々しいこと。それは単に解像感の高さだけでなく、モノの硬さや柔らかさ、あるいは素材のテイストまで実感させるもので、この表現力は見事だ。
77X9400は、77インチまで画面サイズが拡大されたことで、映像の緻密さ、木目の細かさが少なからず影響されるのではないかと懸念されたが、それはまったくの杞憂だった。画素がギュッと詰まって、粗さを感じさせない。輪郭やディテイルともに甘くならず、階調性も豊かだ。
そして2K/4Kアップコンバート処理の優位性も健在だ。手持ちの2K解像度で放送されたBSデジタル録画番組(主に音楽ライヴ番組)では、ネイティブ4K放送と見紛うくらいの上質な映像を描き出してみせた。2K素材、4K素材を問わず、映像エンジンの処理能力の高さ、絵づくりの巧さを実感さてくれる再現性である。
「クラウドAI高画質テクノロジー」は2020年レグザ共通の高画質技術の提案だ。放送番組の画質的偏差(ばらつき)をクラウド経由で補正する機能だ。シリーズによって適応範囲が異なるが、X9400では色調整、ノイズリダクション処理など、さまざまな項目での処理を行なう
放送(主に地デジとBS、BS4K)については画質調整データベースをクラウド上に構築し、最適な映像調整データを提供する「クラウドAI高画質テクノロジー」が有効になる。ちなみにHiVi10月号の「有機ELテレビ比較テスト」企画で気になった、緑かぶり、黒浮きの問題もしっかりと修正されていた。ちなみにX9400/X8400シリーズ全てのモデルでこの画質改善データがダウンロード対応されるとのことである。
テレビ内蔵スピーカーとしてはトップレベルの音。「タイムシフトマシン」の便利さも群を抜く
音の仕上がりも悪くない。『第70回紅白歌合戦』でのMISIAの歌声は画面中央に定位して、しかも伸びやか。目の前の画面が音を出しているかのような自然な定位感に加えて、空間に放出される楽器の響きも実に豊かで、ちょうどいい一体感が得られた。声と演奏のバランスのよさといい、自然な空間の拡がりといい、テレビ内蔵スピーカーとしてはトップレベルの仕上がりだ。このサウンドを超える音を求める向きには、ぜひ通常のスピーカーをそのまま接続し、内蔵スピーカーと同等に使える「外部スピーカー出力端子」の活用をお勧めしたい。
機能面ではやはり地デジの放送済番組をさかのぼって見られる「タイムシフトマシン」の存在感が際立つ。番組表からお目当ての番組が選べる「過去番組表」に加えて、テレビ起動時やチャンネル切替え時、ワンボタンで番組オープニングから視聴できる「はじめにジャンプ」、ジャンル別リストから見たい番組を再生できる「ざんまいスマートアクセス」などなど、唯一無二の便利機能が目白押しだ。
さらにネットサービス「みるコレ」を使えば、オススメ番組がAIでピックアップされ、「これからの注目番組」、「おすすめの番組(録画済番組)」が一覧で表示されるという気の利きよう。「みるコレパック」を使った、おまかせ録画も可能。この快適さを1度体験すると、もう後戻りするのは難しい。それくらい強烈なインパクト、虜になる。
地上デジタル放送6チャンネル分を別売りHDDにキャッシュ(貯めて)して、自由なテレビ鑑賞を実現する「タイムシフトマシン」はレグザの圧倒的セールスポイントとなる機能だ。単に過去番組を観るだけでなく、ネットを活用した「みるコレ」機能で、ユーザーに最適化したおすすめ番組の録画などまで行なってくれる
レグザにとっては初めての77インチの有機ELテレビだが、その自信に満ちた映像といい、一体感のあるおおらかなサウンドといい、とても初めてとは思えないほどの仕上がりであり、実に完成度が高い。レグザが求め続けてきた理想のテレビに、大きく1歩、近づいたことは間違いない。
X9400シリーズではHDMI入力端子をなんと7系統も装備する。レコーダーやプレーヤーだけでなく、スマート端末やゲーム機、あるいはパソコンなど、HDMI経由のソース機器が増えている昨今、見逃せない特徴ともいえそうだ
提供:東芝映像ソリューション