人はなぜ悪魔になるのか? そのメカニズムを解明すべく実際に行なわれた「スタンフォード監獄実験」。しかしてその結果は、想像を遥かに超える陰惨たるものであった。本「プリズン13」では、その実験をベースにしつつ、今風な仕様も取り入れながら、人の狂順応していくさまをリアルに紡いでいく。主演には、若手の中でも頭一つ抜け出た活躍を魅せる堀田真由を迎え、普通の人間が変わっていく恐怖を、彼女が持つ圧巻の演技力で彩っている。本作への出演で「大きな成長を感じた」という彼女に話を聞いた。
――主演、おめでとうございます。
ありがとうございます。主演はすごく久しぶりということもあって、プレッシャーをすごく感じています。でも、自分自身こうしたいという意見をたくさん言わせていただいたので、またひとつ成長できたんじゃないかなって感じた作品になりました。
――意見というのは?
私の演じたマリは、弱い女の子から強い女へと成長していかないといけないので、それをどう見せようか、という部分はたくさん考えました。劇中では、環境や役割が変化していくので、それによって人間(マリ)の心理がどうなっていくのか? かつ、実験中は太陽を遮断されて、時間の経過も分からないような環境下で過ごさないといけないので、それによる心の変化がどうなっていくのか? そうした部分をすごく大事にしたいと思ったので、監督にお願いして順撮りにしていただいたんです。
始めは割とバラバラな撮影スケジュールが組まれていたのですが、やはり、そうした空間(監獄)にいることで、短期間であっても外見が変わってくると思うんです。私の場合、現場にいたら体がむくんできてしまって。女優ですから綺麗な姿だけを見せたいとも思いますが、スクリーンに映るのは堀田ではなくマリなので、体の変化をそのまま残したい(映したい)と思って、撮影に臨みました。
――そんなマリはまず、台本を読んでどのように感じましたか?
すごく責任感の強い子だなって思いましたね。でも、周りに何か言われると“はい”って聞いちゃう。加えて、お姉ちゃんに憧れるただの女子大生で、やりたいことを実行できないし、頼りないし……そんな女の子をイメージしていました。でも、実験を通して徐々に強くなっていくところには、すごく惹かれました。
――本作は、実際に行なわれた実験をベースにしたフィクションです。
そんなことが実際に行なわれていたことは、まったく知りませんでした。けど、実験とは違いますが、出演させていただいたドラマ「3年A組-今からみなさんは、人質です-」で、狭い空間に閉じ込められるという経験ができたので、それが役に立ちました。
――さて、そんな女の子が実験に参加します。
目の前で繰り広げられる事態には、屈辱を与えられる囚人側も辛いと思いますけど、看守の側でもいろいろな力が働いて、それを止められないという辛さもあったろうと想像しました。しかも、それがどんどんエスカレートしていくわけですから、恐怖というか、言葉では言い表せない感情がわいてきて、表情だけでなく、全身を使ってそれを表現するようにしていました。
――舞台的な感じですね。
そうですね。しかも、これは役者側の話になるのですが、撮影用のカメラがたくさんあって(12台)、どのカメラがオンなのかが分からないので(引きか寄りかも分からない)、できるだけ観てくださる方にマリの感情が伝わるようなお芝居を心がけました。新しい感覚でしたね。
――実験が進むうちに、事件(事故?)もたくさんおきます。
人って、閉塞的な空間に集団がいて、それぞれに役割(看守、囚人)が与えられると、染まっていくというか、狂っていくんだなって撮影をしながらも少し感じました。
――ストーリーとしても、はじめは和気あいあいとしていたが段々……という展開を見せます。
序列が付くじゃないですけど、段々(役割に)染まっていきますね。マリもそんな雰囲気に流されていきます。
――役割に染まっていって、それが強化されるというか、豹変するキャストの変わりっぷり(芝居)はすごかったです。
中でもGUMI役の矢野優花さんの変わりっぷりはすごくて、私もおお! って感じました(笑)。でも、そのあとのメンバー一人ずつを罵倒するシーンは、実はアドリブなんです。よくそんなにいろいろ出てくるなって、尊敬しました。ぜひ、劇場でご確認ください。
――ちょっとネタバレすると、マリにも大きな変化があって、途中で看守から囚人になります。その時に見せた笑顔(?)の意味は?
その前から、「看守を辞めたいんです」とか、「私、もうこの状況でいるのが辛いんです」というセリフを発していて、監督ともお話させていただきましたけど、やはり本当に辛い時は、辛そうな顔をしているより、「笑顔」のほうがしんどく見えると思うんです。泣くことは嘘でもできるかもしれないけど、頑張って笑顔を作っているほうがギリギリなんじゃないかなって。加えて、そこから狂っていくさまも見せたかったので、にやっとした表情をしてみました。
その他にも、「お姉ちゃん助けて」ってセリフを言うところでは、ちょっとにらんでいるような雰囲気も出してみました。というのも、徐々に環境に慣れてきて、自分の中で変わろうという強い意識が芽生えてきたことを表現したかったからです
――追い詰められていながらも?
そうですね。囚人の中にはそうした状況下にあっても正気を保っているメンバーがいますけど、マリもそれに近しいところはあったのかな、と。逆に、囚人になるのも、(自分の中の)戦略のひとつだと思って演じました。
――その後、するどい分析眼を発揮するシーンもありました。
自分の中には確固たる意志がきちんとあった、ということでしょうね。ただ、周りが狂っていく中でそんなことを言えるかな、という疑問もありましたけど、自分しかいないと思ったからこその行動(発言)だと思っています。
――そこも、マリの成長だと。
はい。最初のマリだったら気が付かなかっただろうし、言えなかったと思います。監禁されて過ごす中でも、常にお姉ちゃんの存在を感じていて、きっと(配信を)見ていてくれているという確信があったからこそ、きちんとした姿を見せたいという気持ちも強かったと思います。
――そこでは、急激にスイッチが入ったようにも見えました。
そのシーンは一番感情が高まると思ったし、実際の撮影でもグッと上がりましたので、実は、あらかじめお姉ちゃん役の板野さんにカメラの先に立ってもらっていたんです。負けない、負けないって本当に叫びながらの撮影で、目に見えるところに板野さんにいていただいたのは心強かったです。そうそう、そのシーンは負けないって思っている強いマリと、負けそうな弱いマリの2パターンを撮って、フラッシュバック的に映像をだぶらせているんです。だから、よく見ると顔つきが強かったり、弱かったりするので、お見逃しなく。
――本作では、与えられた役割に狂順応していくさまが描かれていますが、役を生きる役者として、恐怖は覚えましたか?
あー、確かに、言われてみると似ている部分はありますね。でも、そこまで考えたことはなかったです。
――堀田さんの役づくり(芝居)は?
なりきるというより演じる方だと思います。(意識の)切替えも早いし、撮影が終わって帰宅するころには役は抜けていますね。ただ、本作に関しては、監獄に入れられるという心理的な負荷(足枷、手錠を含めて)は意外と大きくて、家に帰ってもその感覚がすごく残っていて、苦しかったです。
――そうした経験を経て、変化や成長はありましたか?
役に対して自分自身の意見を言うことで、作品についてもっと深く考えるようになったのは、自分にとって成長なのかなって感じています。ほかの作品に出るときも、そうした責任感を持って臨みたいです。現場でも、率先してみんなを盛り上げようと考えていましたし、監獄の中の撮影でも、自分のボルテージを上げることで、周りのみんなのテンションを上げようと思って、自分から叫んでみたりしました。そういう空気づくりを大切にした作品になりました。
――最後に、今後演じてみたい役柄や設定はありますか?
いろいろありますよ。本作のラストでもちょっぴりアクション的なことをしていて、とって楽しかったので、アクションに挑戦してみたいですね。
映画「プリズン13」
8月30日(金)より、シネマート新宿・心斎橋にて公開
<キャスト>
堀田真由
中島建 岩井拳士朗 矢野優花 芹澤興人 宇野祥平 / 前野朋哉 板野友美
<スタッフ>
監督・脚本:渡辺謙作
企画・配給:AMGエンタテインメント
(C)2019「プリズン13」製作委員会
9月1日には東京・シネマート新宿にてキャストが登壇する公開記念イベントを開催
9月1日(日)18:55の回 @シネマート新宿
【登壇者】
堀田真由/板野友美/前野朋哉/中島健/岩井拳士朗/芹澤興人/伊藤麻実子/立石晴香/岡部尚/宮下かな子/岡本智礼/近野萌子/渡辺謙作監督