登場人物がたった3人の、ユーモラスでウィットに富むミュージカル・コメディ『ラヴ』の上演が近づいてきた。

 原題は『WHAT ABOUT LUV?』、1964年から3年間、ニューヨーク・ブロードウェイの劇場でストレートプレイとして上演され好評を博し、日本では66年に東宝現代劇として上演。その後ハワード・マーレン(作曲)とスーザン・バーケンヘッド(作詞)によりミュージカル化され、94年には鳳蘭、市村正親、西城秀樹による公演も開催された。

 今回はミルト役に山本一慶、ミルトの学生時代の親友・ハリー役に橋本真一、ミルトの妻エレン役には井上希美という、気鋭揃いのラインナップ。大型2.5次元作品『メサイア-黎明乃刻-』でダブル主演を果たした男性ふたりと、劇団四季出身で近年はNHK連続テレビ小説『エール』でも注目を集める女性ひとりによる、息の合った三人芝居に期待したい。

 演出は宮川安利、音楽監督・ピアノ演奏は宮川知子が担当と、1994年上演版の音楽監督だった宮川彬良を父に持つ姉妹の顔合わせも話題になること必至。当時のプロデューサーである笹部博司が監修を務めているのも見逃せない。3月24日~28日、東京・六行会ホールにて。

――舞台はまず、橋本さん扮するハリー単独のシーンから始まります。どうやら、ふつうのミュージカルとはかけ離れた導入部ですね。

橋本真一 いきなり「死にたい、死のう」というところからスタートするんです。でも、大学時代のハリーは順風満帆で人気者だったんです。それが世に出てからいろんなことが上手くいかなくなって、急に目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり突発的な病気に悩まされる。きっと精神的なところからきているんだと思うんですけど、それくらい人生に思い悩んで、死のうとしている。それがこの作品の導入部で、大学時代の友人であるミルトと再会して、ミルトにエレンを紹介してもらったことで愛というものに触れて、いろんなことが起こっていきます。

――ところで、舞台に出ていく前は、例えば出演者どうしで円陣を組んだりしますか?

橋本 円陣を組む事が多いですし組みたい派ではありますが、作品によっては無い事もあります。

――というのは、この物語のように、いきなり「死にたい男」から始まる場合、どのような精神のテンションでお客さんの前に登場していくのかに、すごく興味があるんです。「いくぞ!」っていう感じで張り切って出ていく役柄とは違うわけですし、テンションを下げていかざるを得ないところもあるのでしょうか。

橋本 そうですね、下げていかないと……。でもミュージカルで、出だしが自分なので、橋本真一としては、どうしても意気込んでしまう(笑)。ミュージカルの一声めというのは、世界観を作る役割があるかなと思いますし、でも、できるだけ脱力した状態で向かわないといけないとも思います。

山本一慶 切り込み隊長だからね。

――山本さんは、どんなミルト像を描いていらっしゃいますか?

山本 僕は(ミルトを)マジでひどい奴だなって思っています。ざっと言うと、妻のエレンから逃げるために、彼女をハリーに押し付ければいいんじゃないかっていう、とんでもない発想の持ち主。ちょっと僕のなかでは考えられない。似ている場所とかは一切ない! 山本一慶とミルトは、あまりにも思考回路が違う。ただ妻をハリーに押し付けたけど、やっぱりいなくなったら大切さに気付くというのは、わかる気がします。ひどいことをしている風ではあるけど、逆に自由奔放さがお客さんの心をつかむというか、愛してもらえるようなキャラクターになったらいいなと思っています。

橋本 ハリーは劇中でミルトにエレンを押し付けられ、でもそれを受け入れて実際に愛す方向になって、すべて受け入れてとても純粋でもあると同時に、騙されやすい一面もあって。僕も割と騙されやすいタイプなので、ハリーと通じるものがあるような気がします。役作り的にいうと、とことん純粋でピュアでいることが一番ハリーとしての軸にはなるのかなと思いますね。そこは大事にしていきたいなと。

山本 ハリーの役は、すごく真一に合うんじゃないかなと思います。彼のすごく良いところに、“橋本真一っていう人間が感じたことを、周りが見えなくなるくらい役にぶちこむ”ところがあるんです。あの感情の入れ方は俺にはできないな、すごく素敵だと思うし、そこはすごく真一の武器なんじゃないかな。ハリー役に、もってこいだと思いますね。

橋本 一慶は演出家的な目線というか、客観的に芝居を見ているから、僕が見えなくなる部分をすごく補ってくれる。『メサイア -黎明乃刻-』(2019年上演)で共演した時が特にそうだった。僕が一点重視でガーッとなっているなかで、見えない部分をフォローしてくれて。今回も、芝居作りのうえで、一慶が横にいてくれる安心感がある。また今回も助けられるんだろうなって……。でも良かったよね、配役が逆じゃなくて(笑)。

山本 逆じゃなくて良かった、ホントに。俺、真一は絶対ハリーの方がいいんじゃないかって思うもん。

橋本 翻弄する側がミルトで、翻弄される側がハリーだからね。

画像: 3人の登場人物が織りなす、本格ミュージカルとコメディを融合させた注目作『ラヴ』がいよいよ上演。対照的な役を演じる山本一慶&橋本真一にインタビュー

――井上希美さんが演じるエレンは、どういうキャラクターですか?

橋本 怖い女性だなというのが最初の印象ですね。

山本 普通に考えたら、押し付けられたからって、そのまんま(相手の男のところに)行かんよ。でもエレンはエレンなりに、ハリーとミルトの両方を愛したのかなと思いますけど。

橋本 そうですね。エレンなりの愛の求め方というか、正解をさぐったというか。

――井上さんとの顔合わせの印象は?

山本 お写真などから凛としているのでクールな方なのかなと思ったら、とっても明るく気さくに話してくれて。この三人でいい作品を作れると確信しました。

橋本 “いいものになるな”という感触を掴みましたね。三人芝居は、僕は今回が初めてかもしれない。

山本 だからこそ関係性もね、信頼関係だったり、頼り頼られ、関係性をちゃんと作っていかないと、舞台は何か起きるかわかりませんからね、ほんとに。

橋本 しかもワン・シチュエーションなので。

――ずっと橋の上で物語が進むとうかがいました。

橋本 そうです。そこでずっと1幕・2幕、合わせて2時間近くお芝居が続きます。“シーンの設定に助けられて、なんとかいける”というストーリーではないので、積み重ねが大事な作品だと思いますね。勢いでいくのは無理。気持ちで乗り切るとかじゃなくて、もっと緻密な作り方を三人でしていかなきゃならない。

山本 コメディでもあるのでアグレッシブさも必要です。お客さまに届ける想いを強めにしないと。その塩梅を探っていくのも稽古では大切だと思います。

橋本 その点、井上さんはすごく優しくて楽しい方で良かった。いい意味で気を遣わなくても良い感じにしてくださってね。

――橋本さんはソロやGYROAXIAで音楽活動もなさっていますが、山本さんが音楽にガッツリ取り組んだ作品は珍しい気がします。

山本 そうですね。でも、天性の才能で……。

橋本 何、言ってるの?(笑) できちゃうのよね!

山本 (神妙に)正直、ちょっとビビってますね。やっぱり(歌唱の)基礎をやってきたわけではないので、ミュージカル畑の方にきいても、25曲を3人で歌いきるのはなかなか珍しい、ハードなことらしいです。しかも短い日数の間に、けっこうギュッと公演がつまっているので、丁寧に喉をケアしつつ、お客さまにはいつも最善を届けたいと思います。

――オケではなく、ピアノの生演奏だけが伴奏です。逃げ道がないというか、はっきり歌い手の実力がわかるセッティングだと思います。

橋本 普段なら“ここで盛り上げたい”というところは、後ろのサウンドだったり、音楽の盛り上がりにこっちが乗っかることもあるじゃないですか。でも今回はピアノだけですから。でも、こっちがメインで発してピアノがだいぶ合わせてくれる形にはなるので、そういう意味では表現しやすい部分もあるのかなとは思います。

山本 コメディなので、歌の内容も楽しかったり、お互いをけなしあうものだったり、クスっと笑っちゃうような感じなので、逆に楽しくピアノとお芝居ができるんじゃないかと。

橋本 ハモりも、めちゃくちゃあります。掛け合いも多いし。

山本 けっこう、いろんなバリエーションがあります。バラードかなと思ったらめちゃアグレッシブな感じだったり、そこにハリーが入ってきたり、お客さんを飽きさせない曲が多いんですよ。すごくスピードがあります。

橋本 ジェットコースターじゃないけど、乗っている間に音楽と芝居がどんどん進んでいく感じです。こんな展開になるの? っていうくらい、とんでもないです。正直、普通じゃありえないような展開の仕方ですが、それをいかに真剣に、ちゃんとコメディとして表現していくか。登場人物はみんな本気で考えて行動していますから、僕らがそれを演じることによって、ちゃんと笑いにつながればいいなと思いますね。

――『ラヴ』は1994年に、鳳蘭さん、市村正親さん、西城秀樹さんの共演で上演されました。今回の公演は、当時からのファンや、初めて足を運ぶファンなど、幅広い観客層になりそうな予感がします。

橋本 もちろん過去の作品へのリスペクトはありつつも、今はこの三人でできることを、しっかり表現したいと思っています。ぜひ足を運んでいただけると嬉しいです。

山本 今回は2021年のヴァージョンとして、今の時代に向けて柔軟に見せていくと思います。お客さまも舞台上の三人が織りなす物語をみて、自分にとっての愛って何なのかなと考えてふと答えが導きだせたり、導き出せないまま悩んだり、そういうひとときが舞台を見終わった後に訪れるような、素敵な時間をお届けしたいですね。

ミュージカル・コメディ『ラヴ』

3月24日~28日まで、六行会ホールにて上演

<キャスト>
山本一慶・橋本真一、井上希美

マレー・シスガル作「LUV」より
台本:ジェフリー・スウィート
作曲:ハワード・マーレン
作詞:スーザン・バーケンヘッド
演出:宮川安利
音楽監督・ピアノ演奏:宮川知子
監修:笹部博司
製作:アーティストジャパン
https://artistjapan.co.jp/performance/luv/

テキスト:原田和典

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