東日本大震災で亡くなった人への想いを受け止めるために、岩手県陸前高田市に設置された郵便ポスト(=漂流ポスト)をテーマにした作品『漂流ポスト』が、東日本大震災から10年を迎える今年、追悼ロードショーされる。

 本作では、同ポスト設置の動機ともなった「手紙を書くことで心に閉じ込められた悲しみが少しでも和らぎ、新たな一歩を踏み出す助けになるなら」という想いを受け継ぎ、静謐な映像でまとめ上げている。

 本稿では、震災で親友を亡くし、心の中にその悲しみ封じ込めていた女性=池淵園美を演じた雪中梨世にインタビュー。漂流ポストと出会い、その想いを昇華させるまでの演技の中での心の軌跡を聞いた。

画像1: 人々の心を癒し続けてきた「漂流ポスト」を描いた映画『漂流ポスト』が、いよいよ公開。主演「雪中梨世」にインタビュー

――『漂流ポスト』への主演おめでとうございます。主役・園美役に決まった時のことを教えてください。

 ありがとうございます。主演に決まったのはとても嬉しかったのですが、その反面で、東日本大震災が起きた当時はまだ、地元の福岡にいて、震災自体は経験していないものですから、果たしてそんな私がこの役を演じることができるのか、という不安は大きかったです。ただ、監督からは「梨世の思うようにやっていいよ」と言われましたので、少し心が軽くなって、覚悟を持ってやろうと決めました。

――役づくりはどのようにしていったのでしょう?

 震災を経験していないこともありましたから、あえて“3.11”を意識しないようにして、もし、自分の大切な人がいなくなってしまったら……、その人に手紙を書くとしたら……ということを考えて、一番身近な人を思い出しながら、気持ちを作り上げていきました。

――その時に思い浮かべたのは?

 おばあちゃんでした。ちょうど撮影に入る少し前に亡くなってしまったんです。でも、亡くしてすぐに感じていたモヤモヤみたいなものは、この作品に出演させていただき、役と同じように手紙を書いてみたことで、自分の中でうまく昇華できたように思います。

――園美の過去パート(中学時代)は、中尾百合音さんが演じています。

 台本を読んだ時は、“いまの私に中学生役ができるのかな?”って、ドキドキしていたんですけど(笑)、あっ違うんだって気が付いて。よくよく考えればそうですよね。

画像2: 人々の心を癒し続けてきた「漂流ポスト」を描いた映画『漂流ポスト』が、いよいよ公開。主演「雪中梨世」にインタビュー

――雰囲気は似ているなと思いました。

 それは周りの方にも、よく言っていただきました。でも、(中尾さんには)透明感があるし、私よりもスリムで、スタイルもいいし……。

――完成した映像を見ていかがでしたか?

 ものすごくキラキラしているなっていう印象を受けました。映像の色味も少しオレンジがかっているようで、園美の中にある香月恭子(神岡実希)との記憶って、すごく輝いて、鮮やかだったんだなって感じました。でも、そうした映像(表現)を見るにつけ、心が苦しくなってきてしまって……。園美は震災後の年月、そうした想いを繰り返してきたんだろうなって、考えさせられました。

――恭子は、グイグイ引っ張って行くタイプでした。

 私自身は結構ふわふわしていて、あちこち行きがちなので、こんな感じで引っ張ってくれると、ついて行きます! ってなりますね、きっと。

――そんな過去を持つ現在の園美に、突然、お知らせが届きます。

 そうなんです。ちょっとネタバレになりますけど、恭子はすでに亡くなっていて、彼女との思い出が詰まっている場所へ行くんです。それもまた、しんどいだろうなって思いました。そこで、かつて埋めたタイムカプセルから出てきた恭子からの手紙を受け取りますが、園美にとっては、うれしさよりも、ずっと自分の心にしまい込んできた感情というか、悲しい記憶が再び開けられてしまったようで……。手紙を手にした時の園美の気持ちを考えると、ずっと苦しんできたんだろうなって、胸がしめつけられるようでした。そのシーンでは目の前に窓があって、手紙を手にした瞬間、風がふわっとそよいでくるんです。その風がものすごく冷たくて……なんとも言えないシーンになりました。

――役と現場の雰囲気がリンクしたような……。

 そうなんです。監督も丁寧に撮ってくださって、その時の一瞬一瞬をしっかりと収めてくれていたという印象はありました。

――恭子からの手紙を手にした園美は、ふとしたことから漂流ポストの存在を聞きつけ、恭子への返事を書くことを決意します。ポストを前にしたシーンの撮影はいかがでしたか?

 そのシーンでの演出は特になくて、監督からは「自由にやっていいよ」と言われていたんです。演じるというよりは、(私が)どれだけ園美の気持ちを理解できているのかということが問われているようで、本当に自分が(手紙を)出せるのか、出せないのか、というところまで考え込んでしまって……。園美の過ごしてきた年月を考えると、すぐにポンと出せるものではないなと思って、ずっと逡巡しているんです。

 そうこうしているうちに、しゃがみこんでしまうんですけど、私自身、考えてしたものではなくて、園美の気持ちを考えて考えて考えているうちに、ふと力が抜けて、尻もちをつくような感じになってしまったんです。普通ならカメラを止めると思いますけど、清水監督はカットをかけずにカメラをずっと回していてくれていました。それは、リハーサルの時にも出なかった動きなので、演じたというよりは、園美の気持ちと一体になれて、自然とそうなったんだろうなと感じています。

画像3: 人々の心を癒し続けてきた「漂流ポスト」を描いた映画『漂流ポスト』が、いよいよ公開。主演「雪中梨世」にインタビュー

――そのタイミングで、ポストの管理人でもある赤川さんと出会い、実際に漂流ポストに届いた手紙を読むように勧められます。

 映画で使われている手紙を読むシーンは、実は、撮影の前日のリハーサルのものなんです。その時は、いなくなってしまった人に手紙を書くことに対して、半信半疑というか、意味があるのかなという思いも強かったこともあって、それが表情に出ているかもしれません。

 でも、本当に投函された手紙を読んでいくうちに、いろいろな方の想いが一文字一文字にこもっているようで、どんな気持ちでこの手紙を書いたんだろう? という想いもこみ上げてきて、心を強く揺さぶられました。

 そのあとのシーンで、赤川さん(永倉大輔)から、「(亡くなった人に)手紙を書くことは、一歩前に踏み出した証なんですよ」と言われるんです。そこは翌日(本番)に撮ったもので、私自身それを聞いてはっと感じるところがあって、少しだけ前向きな想いを載せて手紙を読む、という表現をできたように思います。

――映画は、完成から少し時間が経ちましたが、ようやく公開を迎えます。

 今はSNSも発達して、気持ちを伝える手段ってたくさんあると思うんです。でも、手紙には、自分の想いを文字に託して伝えることができるし、それだけでなくて、自然と、相手とも、自分とも、向き合うことができるものなんだなって感じました。この作品を観ていただいた方々にはぜひ、大切な人へ向けて、たとえ一文字でもいいので、手紙というツールを使って気持ちを伝えてもらえたらいいなと思います。大切な人を亡くした心のわだかまりや後悔は、誰しもが持っているものだと思いますので、それを少しでも掃き出すきっかけにしてもらえたらうれしいですね。

――ところで、前回(2012年)取材した時は上京してきたばかりで、東京にはまだ慣れていないということでしたが、今はいかがですか?

 覚えていますよ~、ピンクの衣装で変なことを話していましたよね(笑)。すっごく記憶に残っています。確か、自分の考える東京人のレベルが10段階あって、当時の私は電車に慣れていないこともあって4。今は電車に乗って好きなところへ行けるようになったし、タクシーも使えるので、レベル100は突破しました!

――えーと(焦)、それから約10年経ちまして、ご自身を振り返っていかがですか?

 当時は、10年経てばもっと大人になっているんだろうなって想像していたんです。まあ、いろいろな経験をすることはできましたけど、良くも悪くも、大きな変化はしていないんだなって感じています。だから、これからの10年を考えた時、大きな目標を立てるよりも、一日一日を大切に生きるとか、自分が何をしたいのかという想い・願いを大事にしていきたいなって思うようになりました。大きな目標もありますけど、それは大きすぎるので……(笑)。

――そう言われると気になります。

 前にもお話したかもしれませんが、東京タワーが見える家に住みたいんです。(東京タワーの)サイズ感は大事なので、都心で、しかも港区じゃないとだめなんです。探してはいるんですけどね、なかなか……。

――最後に、今年の目標があればお願いします。

 今はコロナ禍ということもあって、なかなか人に会うことができないからこそ、会える人を大切にしたいと思います。目の前にいる人を大切に思うことを、ずっと心がけていきたいです。

画像5: 人々の心を癒し続けてきた「漂流ポスト」を描いた映画『漂流ポスト』が、いよいよ公開。主演「雪中梨世」にインタビュー

映画『漂流ポスト』

2月27日(金)より各地で順次公開
3月5日(金)~18日(木) UPLINK渋谷にて公開

<出演者>
雪中梨世 神岡実希 中尾百合音 藤公太 永倉大輔

<スタッフ>
監督・脚本・編集・プロデュース:清水健斗 撮影監督:辻健司  録音:田原勲 メイク:大上あづさ 制服:下山さつき 音楽:伊藤明日香 撮影協力:赤川勇治 漂流ポスト3.11 配給:アルミード 2018/日本/カラー/30分/シネスコ/ステレオ
(C)Kento Shimizu

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