ミュージシャンの取り組む演技は、どうしてあんなに印象的なのだろう。
クレイジーキャッツ、デヴィッド・ボウイ、ビョーク、萩原健一……思いっきり最近ではデイミアン・チャゼル監督(『ラ・ラ・ランド』)のNETFLIXドラマ『ジ・エディ』が熱かった。物語の鍵を握るバンド役のメンバーたちが実際の音楽家で、演奏はもちろんセリフやアクション・シーンにもたっぷり関わった驚きの内容。とくにヨーロッパ屈指の若手フリー・ジャズ系ドラマーとして注目されているラダ・オブラドヴィッチが、あんなに表情豊かな“女優”だったとは、まいりましたというしかない。
そこでSILENT SIRENである。メンバーは、ひなんちゅ(梅村妃奈子:リーダー、ドラム)、すぅ(吉田菫:ヴォーカル、ギター)、あいにゃん(山内あいな:べース)、ゆかるん(黒坂優香子:キーボード)。ぼくは「フジヤマディスコ」の、地響きを起こすかのような高速スラップ・ベースに惹かれ、さらに現時点での最新アルバムである『31313』を聴いて、「すごくアンサンブルの統制の取れたバンドだな」「すごく楽しい歌詞を届けてくれるバンドだな」と笑顔になった。しかもサイサイは、ただ楽しませるだけではなく、豆知識も与えてくれる。天下一品ラーメンは「とんこつ」ではない、ということを、サイサイの歌を通じて初めて知った。
そのサイサイの主演映画が、新型コロナウィルス禍による延期を経て、ついに9月25日(金)から公開される。タイトルは『もしもあたしたちがサイサイじゃなかったら。』&『HERO DOCUMENTARY FILM』。『もしサイ』は、昨年9月の配信「あいにゃんの31時間てれび」内で放送されたドラマをさらにパワーアップしたものになっている。サイサイ以外にも、26時のマスカレイド(すぅが「ちゅるサマ!」の歌詞提供)や、Zero PLANETが登場。彼女ら・彼らのファンにも見逃せない内容となっている。このインタビューでは『もしサイ』について4人に話を聞いた。
――『もしもあたしたちがサイサイじゃなかったら。』は、皆さんの新しい一面が出まくった作品だと思いました。
ゆかるん どうせなら思いっきりやってもらおうとメイクさんとも相談して、けっこう奇抜なメイクをしたので、あれはなかなか他では見られないかなと思います。自分の中で別人になりたかったという気持ちもあったかもしれないですね。なかなか後輩の男の子たちを椅子にして演技することもないと思いますし(笑)、普段の私なら言わないような言葉がいっぱい出てくる。そこも注目ポイントです。
すぅ 私は唯一、自分自身の役なんですけど、異世界に行ってしまって、心は自分なんだけど見た目は変わってしまったという設定です。自分自身を演技するやりやすさはあったけど、パンクロックな尖がっている女の子という設定だったので、本当の自分ならしゃべらないだろうという言葉もあって、それは難しかった。結果的に振り返ると楽しく演技できたとは思いますが、逆にみんなの演技を見ているほうがより楽しかったというところはあります。
ひなんちゅ 私はほぼメイクしていなくて、ずっと黒髪のウィッグをつけていて。ウィッグはすごく大変でした。そしてキョドキョドするキャラクター(笑)。実は弟がけっこうそういうタイプで、私にもそれがDNAのどこかにあるんだろうなとは感じました。演技自体は難しいんですけど、役柄の気持ちはすごく分かるなとも思ったし、やりやすいキャラクターでした。
あいにゃん 私は髪形も服装もふだんの自分と変わらなくて、みんな私服で。でも、あんな風にふたり(の男性)に取り合いにされる場面というのはいちおう今まで経験したことがないので……。
――ラブコメ風というか、「私のためにけんかはやめて」的な迫真のシーンですね。
あいにゃん 撮影中、周りがニヤニヤしながら見てくる(笑)。それに、ふたりの男性は演技経験がある方なので、足を引っ張らないようにっていうプレッシャーは常にありました。
――高橋朋広監督からの演技指導は?
ゆかるん 1回だけ撮影前にレッスンという形で監督と一緒に練習したんです。事前にセリフはいただいていたので、それを覚えてくればいいんだろうと思っていたんですけど、そこに動きをつけたり、相手の会話を受けて次に返事するときの間とかを初めて教わって、それが難しいなと思いました。演技をされる方ってすごいんだなと。
ひなんちゅ 高橋監督には説得力があるんです。「だってさ、こういう風になったら、こういう動きしない?」とか。具体的な例を出して教えてくれたので、すごく分かりやすかったです。台本の読み合わせの時も「ここってさ、悲しい感じだから、悲しかったらこうだよね」とか、っていう会話があったからこそ、自分で台本を読んだときに「あっ、人ってこういうときこういう動きするな」とか想像力をふくらませることができました。
すぅ 高橋監督がお手本で演技をしてくれるんですけど、それが本当にうまくって、すごく自然なんです。自分でそれをやると演技っぽくなってしまって……。監督は私たちがセリフを言っているときに、裏の方で「そのとき吉田はこう思った。そして…」みたいなことをぼそぼそ言ってるんですよ(笑)。
――ナマでト書きを言う。
すぅ 感情移入しやすいようにというか、シチュエーションを頭で浮かべやすいように言ってくれたんでしょうね。そのおかげですごくイメージがしやすくなったなとは思います。もちろん台本にも、自分たちと重なる部分があってすごく感動しました。
ゆかるん 監督がおっしゃっていたのは、「(ユカロス役のイメージは)宝塚のような力強い感じよりかは、僕のイメージだとGACKTさんみたいな柔らかくてちょっと妖艶なんだよね」ということ。あぁなるほどと思って、それに近づけるようにがんばったりとか、私はZero PLANETとの絡みがあったんですが、位置移動とかもすごいがんばって覚えてくれたし、「ゼロプラのみんなのこのタイミングで来るから私はこの位置に行って」とか自分でも考えて、監督もすごい細かく指示してくださって、とてもスムーズに撮影できました。
――それにしても、このキャラクターは強烈です。ユカロスを主役にした舞台があったらどうなるのかなとか、声優さんみたいな感じの声だなと思いながら見ました。
ゆかるん 舞台では多分、かむと思いますよ。モゴモゴかむんじゃなくて、はっきりかみます。声優に関しては、お声がけがあったら取り組んでみたいです。
――今後、皆さんがまたお芝居をする機会があるといいなと思います。
ゆかるん めっちゃ恥ずかしい。
ひなんちゅ 私はこの続編があったら面白いなとは思います。
あいにゃん そしたら次はがんばるよ、もっと。
ひなんちゅ けっこうどんなものかわかったので、次に演技をするときはそれを生かしたいなと。個人でドラマに出るという話ではなくて、4人で『もしサイ』の続きをやってみたいです。
あいにゃん でも『もしサイ』が、まさか映画館で流れるなんて、撮影のころには思いもしなかったですね。
映画『もしもあたしたちがサイサイじゃなかったら。』&『HERO DOCUMENTARY FILM』
9月25日(金)よりロードショー
<出演>
吉田菫、梅村妃奈子、山内あいな、黒坂優香子
青山友、渡辺健太、26時のマスカレイド、ZeroPLANET
<スタッフ>
監督・脚本・編集:高橋朋広
主題歌:SILENT_SIREN「HERO」「恋のエスパー」
製作:プラチナムピクセル
配給:プラチナムピクセル
配給協力:プレシディオ
宣伝:とこしえ
(C)『もしサイ』&『HERO』製作委員会
映画公式サイト https://ss10th.com/moshisai/
SILENT_SIREN公式サイト https://silent-siren.com/
テキスト:原田和典