シンガーソングライターとして活躍する白波多カミンを主演に迎えた映画『東京バタフライ』が、いよいよ9月11日(金)に公開となる。彼女演ずる野川安曇がボーカルを務める大学生バンド「SCORE」(スコア)は、その人気からメジャーデビューを決めるが、とあることがきっかけで空中分解、解散してしまう。それから6年、メンバーはそれぞれの道を歩んでいたが、心の奥底では解散のしこりが残っていた……。ここでは本作で映画初主演、そして主題歌、さらに劇伴も担当した白波多カミンにインタビューした。

――バンド経験の有無に限らず、仲間とひとつのものに取り組んだことのあるひとには必ず響く作品という印象を受けました。今回が映画初出演とうかがいましたが、お話をいただいた時、どのようなお気持ちでしたか?
 天にも昇る気持ち、そのくらい浮かれていました。でも実際にセリフを覚えてカメラの前で言う段階になると、それがどんなに難しいか分かってくるんです。すぐできるようなイメージを持っていたんですが……。安曇ちゃんと自分をどう融合させるか考え、力のある言葉をしゃべることの難しさを知り、という感じですね。

――試行錯誤を重ねていくうちに、自分のなかに安曇が入り込んでいった。
 撮影が進んでいくにつれて安曇ちゃんをどういう風にインストールするのか、だんだん分かってきましたね。でも私は「これで大丈夫か?」みたいな場所にいると逆に燃えるタイプなんです。逆境が気持ちいいというか。私の全部を出し切ってやるぞ、その後は灰になったっていいんだって思って、演技に取り組みました。そして、共演の俳優さんが本当に助けてくださった。俳優さんが安曇ちゃんという人物を、より深く引き出してくれたように思います。力を合わせて取り組んでいくうちに、本当に昔から友達で、一緒にバンドを続けてきたような気分になりました。

画像2: シンガーソングライター白波多カミンが映画初主演を飾った『東京バタフライ』が9月11日より公開。「私の全部を出し切ってやる」と、意気込んで演技に取り組んだ

――演技の面ではほかのSCOREのメンバーが先輩ということになりますが、音楽ということでは白波多さんが先輩です。
 そうなるかもしれません。楽器を持つのが久しぶりだったり、そもそも初めて楽器に触れる俳優さんもいらっしゃいましたので、どういう持ち方が自然なのかとか、たとえばどんな気持ちでギターを抱えているのかとか。ドラムにしても、たしかに叩けば音は出ますけど、ただそれだけじゃなくて、バンドのグルーヴを創り出すという重要な役割がある。そういうお話はちょっとしましたね。

――安曇はどんなキャラクターの持ち主か、改めて説明していただけますか?
 自分できちんと納得してから行動するタイプです。「やれ」って言われようと、納得できないものはできない。介護職について安曇ちゃんがどう考えていたか分かりませんが、彼女が訪れた家庭では当初、お婆さんとお孫さんがうまくいっていなかった。そのディスコミュニケーションに、SCOREの末期の自分を重ね合わせていたのかな。うまくいかない二人の橋渡しを自分ができたらいいなと思っていたのかもしれません。

――そしてお孫さんがだんだんギターを覚えていって、お婆さんが笑顔になって。
 お孫さん役の兵頭小百合さんには、最初からギターを教えたんですよ。コードを覚えて、一所懸命弾いていくところが本当にかわいくて(笑)。いちばん嬉しくて、楽しかったシーンのひとつですね。

――童心に帰っているような印象を受けました。アルバム『くだもの』でアヴァンギャルド・ジャズの重鎮・坂田明さんと共演した白波多さんに、こういう一面があったとは! という感じです。
 私は京都時代にノイズをやっていたこともあるんです。そのうち非常階段のJOJO広重さんと知り合って、アルケミーレコードからアルバムを出すことができました。私は坂田さんのブリブリで狂暴な音が大好きなんですよ。いつか共演できたらとは思っていて、広重さんは坂田さんと交流があったので、レコーディングに参加していただいたという感じですね。坂田さんとはふたりで静かな曲も演奏したんです(「わたしの東京」)。二人で一緒の景色を見ながら同じ山に登っているような感じでした。最後に頂上に達して、すごく良い感じで“チョン”って終わって。夢みたいでしたね。こんなすごいミュージシャンの方と一緒に音が出せて何て幸せなんだろう、生きててよかったって思いました。

――いっぽう安曇は、おそらくノイズやアヴァンギャルドの経験もなく、SCOREがメジャーデビュー直前に分裂させられた後の6年間、ギターにも触れていなかった。もし自分ならソロデビューをするとか、別のバンドを組むとか、いろいろ考えると思うんです。だけど安曇はそうではない。
 私にとっては「分かるなー、そうだよねー」という感じです。SCOREがあんな終わり方をしてしまったら、もう楽器も持ちたくないだろうし、音楽とも距離を置きたいだろうし、それは自然だなって思いました。

――“ここしかない”というところで、「バタフライ」が流れます。2016年のアルバム『空席のサーカス』(白波多カミン with Placebo Foxes名義)に入っていた楽曲ですね。
 最初、この映画は『東京バタフライ』ではなくて別のタイトルだったと聞いています。私が出演することが決まって、監督と何度かメールしていくうちに、「バタフライ」を主題歌にしようと思っていると連絡をいただいて、この曲がどのようにできたか等をお知らせしました。サウンドトラックに関してはこちらから立候補して、映像を見ながら、“ここにはこの音楽を入れたいな”“ここはピアノだな”とか、“ここは元気なシーンだからアコースティック・ギターでジャカジャカ行きたいな”とか考えて、ボイスメモで送って。

――そのサウンドトラックでは、声を重ねた、どこか聖歌のような響きも聴くことができます。
 SCOREの4人はバンドをきっちり終わらせたけど、それぞれの人生はまだまだ上昇していく。そこで浮かんだのが、教会の少年合唱団のイメージなんです。上へ上へと伸びていく高音で、空とつながっていくような。うまくいかないことがあったとしても、最終的に皆が上に向かう映画なので、それをどうサウンドで表現できるかなと考えました。

――今後(映画の後)、SCOREの4人はどうなっていくと思いますか?
 SCOREのメンバーはまだ若いので、年齢に応じてすごく変わっていくと思うんですけど、近い未来だと、安曇ちゃんはマイペースな人なので、自分が納得してひとつずつ問題を片付けていくでしょう。仁はプロのギタリストとして活動を続けていくだろうし、「音楽は諦めた」って泣いてる修のシーン、すごくグッときました。一度諦めるということは勇気いるだろうし、一度諦めるってこと自体に意味があると思います。個人的にはまたケロっとした顔でベースを弾き始めて欲しいですね。音楽との関わり方はひとつじゃないので。

画像4: シンガーソングライター白波多カミンが映画初主演を飾った『東京バタフライ』が9月11日より公開。「私の全部を出し切ってやる」と、意気込んで演技に取り組んだ

 稔は彼女のことがものすごく大事で、彼女の実家の和菓子屋さんに住み込んで、義理のお父さんに和菓子の作り方を学んでいる。いまはまだぎくしゃくしているところもあるけど、(義父は)絶対優しい人なはずだから仲良くなるだろうし、愛のある家庭を作っていくんでしょうね。でもまた音楽をやるかもしれないし、いろんな想像ができますね。

 私はこの映画で、とても大好きな時間を過ごすことができました。演じているうちに生きがいというか、生きている豊かさを感じることができて、すごく感謝しています。

映画『東京バタフライ』

9月11日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

<キャスト>
白波多カミン 水石亜飛夢 小林竜樹 黒住尚生
松浦祐也 尚玄 松本妃代 小野木里奈 浦彩恵子 熊野善啓 福島拓哉

<スタッフ>
監督・編集:佐近圭太郎
脚本:河口友美
音楽:白波多カミン
制作:WIT STUDIO Tokyo New Cinema
配給:SDP
(C)2020WIT STUDIO/Tokyo New Cinema

公式サイト https://tokyo-butterfly.com/
白波多カミン https://twitter.com/kamin30

テキスト:原田和典

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