藤原伸夫

本機のサークロトロン回路はOPTをスピーカーに置き換えた形態。カソードフォロアーによる励振とAB2級動作で、出力は40W

合理と情理、あるいは理性と感性。技術的には不合理の極みであるOTL。しかし、音質の魅力が開発に向かわせた

 経済合理性が優先される業務用オーディオ機器と異なり、筆者をはじめ熱心なオーディオファイルは、人の情理に適うサウンドを求め自由な発想に基づいて開発されたオーディオ機器がもたらすサウンドに魅力を感じ、受け入れてきました。その結果、過去のオーディオとされたかに見えたアナログディスク再生や真空管アンプはオーディオファイル向けの製品として復活を遂げ、現在のハイエンドオーディオ市場の重要なカテゴリーを画するに至っています。

 一方、イオントゥイーター、コンデンサースピーカーなどと並び、ユニークな存在でありながら市場の拡大につながらないオーディオ機器として、真空管式OTL(Output Transformer Less:出力トランスなし)アンプが挙げられましょう。不合理な機器の存在が公認のハイエンドオーディオにあっても真空管OTLアンプは技術的には不合理の極みでありますが、もたらされる音質の魅力は筆者をしてU・BROS333OTLの開発に向かわせるものがありました。

電源効率、発熱に課題の管球式OTL。だが、後年に入手したラックスMQ36で音の鮮度と克明な描写力に驚愕した

【1】歴史

 真空管式パワーアンプから出力トランスを追放する製品の試みは、1952年、米国スティーブンス社の2A3パラレル動作SRPP出力回路による、ボイスコイルインピーダンス500Ωのスピーカー駆動用真空管OTLアンプから始まります。さらに、今日のボイスコイルインピーダンスを駆動する目的で、1954年にジュリアス・フッターマン氏によるブラウン管テレビの垂直偏向出力管12B4を出力管に用いた真空管式OTLアンプH1が発表され、その後、テレビのカラー化に伴い登場してきた低電圧大電流動作の水平出力管に置き換えられ、H3に至りました。

 わが国でも真空管式OTLアンプ用として前記のハイインピーダンスのスピーカーが商品化されており、島田聡氏(1952年)をはじめとするアマチュアによる自作が活発に行なわれていた時代で、昭和光音工業(現スタックス)より50L6真空管を用いて商品化がなされました。1960年代後半は真空管からトランジスターへ能動素子が切り替わり始めていた時期で、代表的なアンプメーカーの最上位のアンプは真空管式でした。ソニー、トリオは来るべきトランジスターアンプ時代の覇者となるべく、脱真空管を宣言していた時代です。

 注目すべきはラックスMQ36、テクニクス20Aで、ともに大規模な真空管式OTLアンプで、真空管式パワーアンプの限界を出力トランスに定めた開発コンセプトは興味深いものがあります。ラックスMQ36は民生分野には縁のなかったレギュレーター用の大型双3極管6336Aをパラレルプッシュプルで用い、テクニクス20Aは当時新鋭の、電源利用効率が向上したハイ・パービアンスのビーム管50H-B26の5パラレルプッシュプルで出力段を構成していました。後年、ラックスMQ36を入手した筆者は、現代の半導体アンプでは得難い鮮度感、高S/N感、出力トランス付き真空管アンプにない克明な描写力に驚愕した覚えがあります。

写真・左がラックスのOTLステレオパワーアンプMQ36がパラレルプッシュプルで使った電源レギュレーター用の傍熱型双3極管6336A。写真・右が6C33C-Bで、大型のガラスバルブに収められた肉厚のプレート電極、堅牢な電極支持が見て取れ、民生/通信工業用とは大きく異なる。6C33C-Bはヒーターが2基独立だが、プレートが一体となった3極管

【2】課題

 真空管は熱電子による電流放出構造で低電圧、大電流動作に適しておりません。最大出力を規定する動作抵抗(ON抵抗:Rpmin)が半導体素子のそれに比べ桁違いに(数十〜数千倍)大きく、負荷となる現代スピーカーのインピーダンス(4〜8Ω)を直接駆動するにはマッチング損失が大きく、電力整合(マッチング)を行なう目的で出力トランスが組み合わされます。第1図「3極管と多極管のプレート特性」、第2図「最大出力電流を説明する図」をご参照ください。

 電力整合を行なわず、直接、現代スピーカーを駆動するために、動作抵抗が低いレギュレーター管やブラウン管TVの水平出力管を用いて出力トランスを介さずに直接スピーカーを駆動するアンプなどが製品化されましたが、それでも、上記の理由により、スピーカーに伝達される数倍の電力が出力管で消費されるという大きな課題が依然として残されております。真空管式OTLアンプ普及の阻害要因は、電源利用効率の低さがもたらす消費電力の大きさ、発熱量の増加による過大な温度上昇、真空管定格を大幅に超える動作設定による信頼性の低下に集約されるといえます。

第1図 3極管と多極管のプレート特性

第2図 最大出力電流を説明する図