ウエスギの最新パワーアンプであるU・BROS120RX。全段バランス増幅回路、OTL設計+マッチングトランスの構成で前世代機U・BROS120Rを刷新した意欲的な真空管パワーアンプだ。1972年に登場したウエスギ研究所の初号機UTY1に由来するホワイト&ブラックのカラーリングを施した特別仕様U・BROS120RX Limited Editionをステレオサウンドストアで限定頒布する。そのアウトラインの紹介と、上杉研究所の藤原伸夫氏による開発記「マイ・ハンディクラフト」特別編を、Part1/Part2の2部構成でお届けする。

「最も美しいプッシュプル回路」と評されるサークロトロン

 サークロトロン回路は、その構成・動作のシンプルさから「最も美しいプッシュプル回路」と評せられております。第1図に動作原理を示しますが、上下の出力管には各々に独立した電源から負荷に対して相補の関係で電流ループが構成されていることを特徴とします。この結果、上下の出力管を流れる直流電流(アイドリング電流)は相殺され、コイルには交流(信号)成分のみが流れます。

第1図 サークロトロン回路の動作原理

 すなわち、1次巻線は1巻線で直流電流の流れないシングル出力段の出力トランスと同じ動作を行ない、トランスによるプッシュプル波形の合成を必要としません。コイルの外でプッシュプル電流が合成されていることにご注目ください。これは出力トランス付きSEPP回路と同様の、大きな特徴です。

上下の出力管プレート電流用独立フローティング電源は設計の利点にもなる

 サークロトロン出力回路の優位な点として以下が挙げられます。

出力トランス内で磁気結合による波形合成を必要とせず、1次2次巻線は各々1個の巻線によるインピーダンスマッチング機能に徹すればよいこととなります。

従来のDEEPプッシュプル回路に比べて1次インピーダンスは4分の1でよく、巻線構造がシンプルで、容易に出力トランスの高性能化が可能となります。

波形合成するAB級ないしB級プッシュプル用出力トランスではプッシュプルを構成する各々の出力回路に休止期間があるためプッシュプル巻線の有効利用率が100%を下回りますが、サークロトロン回路では、1次巻線は巻線の有効利用率が100%の1巻線でよく、高効率化が実現され、通過電力の割に出力トランスの小型化が可能となります。センタータップ整流とブリッジ整流の差を想起してください。

 逆に、サークロトロン出力回路の不利な点として、上下の出力管には各々にプレート電流を供給することが必要であり、そのためにフローティング構造(アースを含める)の独立した電源が2基必要となる点があります。2chステレオアンプでは合計4基の独立した電源が必要です。このことが、開発当時のステレオHi-Fi大衆化の流れの中で、本方式の普及を妨げる最大の要因でありました。

 しかし、ダイオードと大容量電解コンデンサーによる大容量の電源の実現が容易な現代では、電源を複数用意することは容易で、むしろ機能別に独立した電源を用意することは、相互干渉低減の効果があり、現代の音質重視アンプにあってはむしろ利点といえましょう。ただし、大振幅を発生する出力トランス1次側部品の輻射面積は大きく、静電結合による相互干渉で音質を劣化させる動的クロストークが大きく生じますので、部品実装上の注意が必要です。

 以上を総合的に評価して、サークロトロン出力回路が当社のプッシュプルパワーアンプの標準回路として定着することとなりました。ところで、サークロトロンの名称はアンプ出力ステージの略図に由来します。前記の動作原理を示すブリッジ回路は、第2図のように円形に描くことが可能です。

第2図 円形を描く回路イメージ