『管球王国』117号「マイ・ハンディクラフト」企画で是枝重治氏は6V6類似のMT7ピン・ビーム管6005/6AQ5プッシュプル・パワーアンプを発表。往年のコーナーホーン型スピーカー、バイタボックスCN191から典雅で切れ込みのよい音を引き出すべく設計され、出力6W+6Wでまとめられた。

 さて、P-K分割回路の測定ではまったく同じ計測器をプレート側とカソード側に同時に繋ぐ必要があるので、歪率計は同じものが2台必要です。また、5極管部の動作確認には1MΩ入力の歪率計(HPの339Aなど)が必要になります。初段部と分割部が直結されたP-K反転回路は簡単で美しい回路ですが、最適動作点を見つけるのはたいへん困難です。意外に知られていないのですが、P-K分割回路はプレートとカソードそれぞれにまったく同じ性質の負荷を同時に加えないと、動作そのものが成立しません。歪率や周波数特性はプレート側とカソード側に同じ負荷を与えたときは同じですが、片側のみですと奇妙奇天烈な特性になります。

 プレートとカソードの負荷抵抗と次段グリット抵抗の相対誤差はたいへん大事で、それぞれ2本の誤差は1%以下でなければなりません。でも、相対誤差は普通のデジタルテスターで選別できます。美しく完璧な平衡性は常に同じ特性の負荷をプレート側とカソード側に繋ぐことが絶対条件なのです。このことは特にご注意ください。また、初段管が5極管だと、SPICEソフトなどで出力部を含めたアンプ全体の最適動作点を見つけることは難しいでしょう。といいますのは、励振部の最適点は出力部を含めた総合的な最良ポイントとは異なるからです。そこに音質というわけのわからぬ視点を加えると、どんな人工知能でも解は得られません。

是枝氏リスニングルームのバイタボックスCN191クリプシュホーンリプロデューサー。コンシューマー用大型モデルとして、LPレコード登場直前の1947年に発表された。正面の平面部の横幅は80cm。フロントローディング・フォールデッド・コーナーホーン型で、38cm口径ウーファー(K15/40など)と7.6cm口径のコンプレッションドライバー+ホーン(S2+CN157)による2ウェイである。10インチ口径フルレンジ、グッドマンAXIOM80を4基並列にしたシステムが右に見える。

ステンレス製本体シャーシは深さ28㎜。電源部フィルターコンデンサーはコーネルダブラー製フラットパック

 本機は以前にお話しした6V6のプッシュプルステレオアンプとよく似ています。6AQ5は6V6相当ですし、EF80も5極管です。トランスを挟んで左右に真空管を振り分けています。本誌51号の7695プッシュプルアンプもそうでした。この配置は好きなのですが、電源トランスの漏洩磁束の影響を受けやすく、本機でも同様でした。特に小型化を意図していませんが、電源トランスにトロイダルトランスを使えば自然にこの寸法になりました。シャーシの深さは28㎜ですが、このサイズでは内部に収納できる電解キャパシターは限られます。そこで、コーネルダブラー社のフラットパックキャパを使いました。本誌100号でお話ししたPX25シングルアンプでも使っています。

 倍電圧整流入力キャパの容量は100μF以上あることが大事ですが、立型キャパのほとんどが磁性体のリード線なので使いたくありません。本機のシャーシの素材は1・5㎜厚のステンレスでトランスカバーも同じです。理想は1〜1・2㎜なのですが、側板の角孔の仕上がりを考慮して1・5㎜になりました。無理を通すこともできますが、実製作側の意見を尊重するのがベストです。インジケーターランプはネオン球を2個、シャーシ内部に入れました。光はサイドの放熱孔を通して見えます。

第1表 パーツリスト

負帰還量13dBで最大出力は6W+6W。SP時代のスピーカーCN191が鮮やかに切れ込みよく、典雅な音で鳴る

 さて、両チャンネル同時駆動での最大出力は6W/1%です。負帰還量は13 dBほどですが、比較的低歪みでした。出力インピーダンスは8Ω端で3・1Ωですから、無帰還の直熱管シングルアンプと同じくらいです。トランスカバー上部の温度は室温プラス30度でした。

 いま私はリンのクライマックスDSとその60分の1の価格のブルーサウンドNODEしか使っていません。LPはおろかCDやSACDプレーヤーもありません。盤を手に取って扱うことが試練なのです。音源は主にQobuzの配信音源です。ネット回線速度を10Gbpsに上げるとDSの音はまったく無類ですが、そういう現代環境では、SP時代のCN191はどうでしょうか。

 信じ難いと思われるでしょうが、アンプとの相性が良ければ最新のスピーカーをはるかに超越した世界が開けるのです。本機の音もたいへんに典雅で、切れ込みよく鮮やかでした。CN191は低域過剰なので、ちょうど良いのかもしれません。ですから、小型スピーカーではトーンバランスが取れないかもしれません。やや硬めでもありますが、これは鳴らし込むうちに馴染んでくると思いました。

第2図 周波数特性

第3図 歪率