磁気伝導を使った信号ケーブルや電源アクサリーをラインナップしているHigh Fidelity Cables(ハイ・フィデリティ・ケーブルズ)のマグネチックウェイブガイド最新モデルである「MC-1 Pro Double Helix Plus Signature」「MC-0.5 Helix Plus Signature」を取材した。今回は自宅の視聴室で、2週間かけてエージングしながら画質と音質への効果をチェックしている。今までの電源アクセサリーとはまったく異なる“磁気伝導技術”による効果とは?

マグネチックウェイブガイド High Fidelity Cables

「MC-1 Pro Double Helix Plus Signature」¥500,000(税別)

「MC-0.5 Helix Plus Signature」¥160,000(税別)

 マグネチックウェイブガイドシリーズは、電源環境を改善する円柱状のアクセサリーで、片方に3ピンの電源プラグが付いている。これをオーディオ機器の電源プラグに近い場所に挿すだけで音が変化するという。

 その動作原理は本文で鳥居さんが紹介してくれている通りで、上位モデルのMC-1 Pro Double Helix Plus Signatureは内部にコンデンサー等も装備して、より大きな電力を使う製品(パワーアンプなど)との組み合わせに向いているようだ。

 より小型のMC-0.5 Helix Plus Signatureも使い方や動作原理はMC-1 Pro DHPSと同じ。こちらは直径5cmほどの円柱形状なので、より手軽に扱えるだろう。

 オーディオやオーディオビジュアルにこだわる人ならば、電源への関心も高いだろう。電源ケーブルのグレードアップはもちろん、音質に配慮したオーディオタップを使うなど様々なアクセサリーがある。

 そんな電源アクセサリーでぜひ注目して欲しいのが、ハイ・フィデリティ・ケーブルズのマグネチックウェイブガイドシリーズだ。同社は、独自の技術である磁気伝導技術を応用した信号ケーブルで注目を集め、ケーブルコネクターや電源ボックスなどを発売してきた。今回紹介する2モデルも磁気伝導技術を応用し、電源の質を改善するアクセサリーだ。

 まず「MC-1 Pro Double Helix Plus Signature」(以下、MC-1 Pro DHPS)は、ダブルヘリックスデザインを採用した最上位モデルで、つい先日、オレンジ色のカラーとギターのイラストがあしらわれた「Limited Edition MC-1 Eddie Edition Power Conditioner」も発表された。「〜Eddie Edition」はいかにもロックファン向けという感じだが、音質改善の効果などについてはMC-1 Pro DHPSとまったく同じ。そして、MC-1 Pro DHPSよりもコンパクトなサイズで使い勝手を高めた「MC-0.5 Helix Plus Signature」(以下、MC-0.5 HPS)もある。

空いたコンセントに差すだけの簡単さ。エージングで音がどんどん変わる

 今回は、MC-1 Pro DHPSとMC-0.5 HPSを借用して2週間ほどかけてエージング、その効果を実際に体験してみた。わが家では、フロント用のアキュフェーズ「A-46」とマルチチャンネル用のヤマハ「MX-A5200」という2台のパワーアンプと、プロジェクターのJVC「DLA-V9R」を別々の電源タップに接続しているが、今回はアンプ用にMC-1 Pro DHPS、プロジェクター用にはMC-0.5 HPSを使った。

 MC-1 Pro DHPSなどのマグネチックウェイブガイドシリーズは、効果を発揮するまで通電状態でしばらく使い続ける必要がある。これは、MC-1 Pro DHPSを中心とした電源の通り道に磁気フィールドが形成されるまでに時間がかかるため。メーカーによると、時間が経過するほど音質が向上し、1000時間ほどで最大の効果を発揮する状態になるそうだ。なお、電源タップからMC-1 Pro DHPSを抜いてしまうと効果はリセットされる。

今回の視聴では、鳥居さんのシアターシステムの電源タップにマグネチックウェイブガイドを取り付けた。写真左のプロジェクター用電源タップはMC-0.5 HPS、右のパワーアンプ用にはMC-1 PRO DHPSを使い、それぞれ電源環境を改善したい機器のコンセントに一番近い空きプラグに差している

 電源コンセントに差すだけで簡単に使えるアイテムだが、差しっぱなしにしていることが不可欠となる。今回の取材では2週間ほど差しっぱなしにしたが、アンプやプロジェクターを常時通電しているわけではないので、実質的な通電時間は100時間程度だろう。1000時間には及ばないが、それでもかなりの効果を確認できた。

 まずは最初の3日間の改善効果。視聴ソースはUHDブルーレイの『ジョーカー』で、主に冒頭のシーンを見た。室内で化粧をするアーサーのクローズアップ、ゴッサムシティのビル街を眺めたショット、ピエロ姿のアーサー等では、なんとなく映像がクリアーになったように感じた。精細感が高まり、ディテイルも鮮明になった気がする。これが2日、3日と経過していくと、色の鮮度や輝度のピークが高まり、ランプが新品になったような輝度のアップが感じられた。

 音は、ネルソンス/ウィーン・フィルによる『ベートベン/交響曲全集』から「交響曲第5番第1楽章」と、森口博子の『GUNDAM SONG COVERS2』から「月の繭」(どちらも96kHz/24ビット/FLAC)を聴いた。使い始めて3日ほどで音像のフォーカスが上がったように感じられ、日にちが経過するほどに細かな音の再現性が向上。純度の向上や特に中低域のエネルギー感の増大が確認できた。

磁気フィールドが電源線を通る電気の質を向上させる、磁気伝送技術とは?

 電源タップに接続するだけで、このような効果が出るのはなんとも不思議だ。メーカーの資料などを読んでみたが、技術の詳細はなかなか難しい。以下で、その仕組みをなるべくわかりやすく紹介してみたい。

 MC-1 Pro DHPSは接続した電源タップなどの電気の通り道に磁気フィールドを形成する。この磁気フィールドは線材を通る電気を包み込み、線材の内側に圧縮するような効果を発揮する。線材を通る電気は線材の中心だけでなく表皮も伝わるが、それをなるべく線材の中心に集まるようにするわけだ。そして、電気の流れを押し出すような効果も持つという。これによって、電気の流れがスムーズになり、安定した伝送を実現するようだ。

2台のパワーアンプ、アキュフェーズ「A-46」とヤマハ「MX-A5200」をつないだ電源タップにMC-1 DHPSを取り付けたところ、ハイレゾ音源や映画ソースでもヴォーカルの再現などに顕著な変化が現れた

 また電気の流れをよくするだけでなく、線材の外に漏れてしまうことも防ぐ。つまり電気のわずかなロスも防ぐというわけだ。同時に線材の外から入ってこようとするノイズも磁気フィールドが遮断する。このため、外来ノイズの影響も抑える効果がある。

 結果として電気の通り道が整理され、流れもよくなることで、安定したAC100Vが確保でき、ノイズの影響も抑えられる。かなりおおざっぱな理解ではあるが、基本的にはこのような理屈で電源の質を改善していると考えていいだろう。

1週間が経過。ダイナミックレンジの増大を確認

 設置から1週間ほど経過すると、画質・音質ともに明らかにダイナミックレンジが増大した。画質は透明感が増し、HDRの高輝度表示によるピークが伸びたと感じる。たとえば、化粧をするアーサーの瞳のハイライトの輝き。顔面ストレッチをしているときに瞳から涙がこぼれるが、その涙の艶やアイシャドウの黒が混ざった様子もよくわかる。ピエロの化粧をした肌の質感も実になまなましい。一方、明るい部分だけでなく、街角の影の部分も階調性がよくなっており、微小なノイズの影響も減って見通しが改善されている。

 音は、低域のパワー感というか立ち上がりの素早さが向上し、音楽がよりダイナミックになる。『交響曲第5番』での出だしの旋律の勢いも増すし、演奏のテンションの高さもよく伝わる。森口博子の歌も高音域の伸びがスムーズになり、サビでのコブシを効かせた力強い歌唱がエネルギッシュになる。絶対的な音圧が上がったというよりも、動的な音圧の変化が鮮やかに出て、微小音も綺麗に響く。この “質” の変化は大きな魅力だと感じた。

鳥居さんは、プロジェクターにJVCの「DLA-X9R」を愛用している。こちらでも明部、暗部の表現にはっきりとした違いが出てきたそうだ

 1週間が過ぎて、これまでに感じたダイナミックレンジの増大、質感の向上などが、画質・音質ともに着実に定着しているように感じた。電源の質が改善されることで、アンプやプロジェクターの本来の性能が発揮されてきたと実感している。

 余談だが、10日目頃にプロジェクターのフォーカスの甘さが目に付いた。パネルアライメントをチェックしてみると、RGBの光がややずれている。慌てて調整し直したところ、あっと驚くようなフォーカス感のいい映像になったではないか。ビルの間の路地で倒れ込むアーサーを映したカットの鮮明さと奥の景色のボケ感が実に美しい。映像の品質が向上してきたことで、パネルアライメントのズレまで気付かせてくれたのはマグネチックウェイブガイドの大きな効果だと思う。

いよいよ最終日。MC-1 Pro DHPSとMC-0.5 HPSを電源タップから取り外す……

 いよいよ最終日。この2週間は映画や音楽鑑賞がとても楽しく、画質や音質のちょっとした変化を発見して喜んでいたが、遂にマグネチックウェイブガイドを外して磁気フィールドの効果をリセットする。その時どんな違いが画質・音質に現れるかを確認するのが取材のクライマックスだ。知りたい気もするし、このままずっと使っていたい気もする。複雑な心境でMC-1 Pro DHPSとMC-0.5 HPSを取り外した。

 まずは画質。瞳のハイライトや涙で潤んだ目の艶っぽさはやや弱まる。映像全体の明るさや力強さも失われ、もう少し輝度を上げたくなる。精細感は明らかな劣化はないものの、映像がやや弛んだような感じはある。微妙な差ではあるが、今までの映像に比べると明らかにグレードが下がった印象になる。

 音質面では、音場の立体感、特に奥行感が失われた。音場の広がりや奥行そのものが狭まったわけではないが、楽器が並んだ様子とか、森口博子とバックバンドとの位置関係が曖昧になるような、やや平板な印象になる。そして、好ましく感じていた中低域のエネルギー感も、非力とはいわないが、元気のない印象になる。声の力強さや情感が失われたというか……。

2週間の体験取材を終えて、マグネチックウェイブガイドを泣く泣く取り外した。簡単に導入できるお値段ではないけれど、効果を知ってしまったら……と鳥居さんもかなり悩んでいる様子

 当然ながら、画質・音質ともにかなりの効果があったことがよくわかり、MC-1 Pro DHPSとMC-0.5 HPSを返却するのが惜しくなってしまった。そして、改めて感じたのは、マグネチックウェイブガイドの恩恵は、単なる電源の質の改善というよりは、アンプやプロジェクターの本来のポテンシャルを引き出すことにあるということ。そのため、ユーザーによって好みが分かれることは少ないように思う。

 その効果も絶大なので、興味のある人はぜひとも試して欲しい。ただし、価格はなかなかなので、誰にでもお薦めできないのも確か。長く愛用したいお気に入りの機器があって、そのポテンシャルを引き出したいという人がもっとも適したユーザーになるだろう。なお、さらなる効果を期待するならば、MC-1 Pro DHPSを複数使用するといいとのこと。実際、マグネチックウェイブガイドのユーザーは、購入後に追加する人もかなり多いそうだ。

 筆者自身は、MC-1 Pro DHPSはさすがに厳しいので、MC-0.5 HPSの導入を検討している。また、マグネチックウェイブガイドシリーズには、より安価な「MC-0.5 Magnetic Wave Guide」もあるので、ここからスタートするのもいいかもしれない。「この効果は一度体験すると手放せなくなる」 言い尽くされたフレーズだが、この製品を評するのにもっとも適した言葉だと思う。

マグネチックウェイブガイドに、バリエーションモデルも続々追加

「Limited Edition MC-1 Eddie Edition Power Conditioner」
 ¥500,000(税別)

 マグネチックウェイブガイドの新製品として「Limited Edition MC-1 Eddie Edition Power Conditioner」も発売された。こちらは、既発売のMC-1 Pro DHPSをベースに、80年代に多くの音楽を世界にもたらし、ロックンロールを大きく前進させた音楽の天才にオマージュを捧げた特別モデルとなる。

 本体カラーはメタリックタンジェリンと呼ばれる特注色で、これはHigh Fidelity Cablesの生産マネージャーによって設計されたもの。ボディには彼のカスタムギターをイメージしたアイコンをあしらい、注文時には、MC-1の認証カードとカスタムオレンジケースが用意されている。

「Limited Edition MC-0.5 Remedy Signature」¥160,000(税別)

 「MC-0.5 Helix Plus Signature」のバリエーションモデルとして、「Limited Edition MC-0.5 Remedy Signature」も発表されている。こちらは、医療用キットをイメージしたオリジナルケースとマスクが同梱されたパッケージ。だがこれは決してコメディを目指したものではなく、よりよいサウンドは常にブルーな気分から抜け出させてくれるという健康的な楽しみを提案したものという。