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⑨ ウェスタン・エレクトリック143A
1947年に登場した143アンプには、143Aベーシックアンプ、143Bアンプとして(143A+141A)の組合せ、143Cアンプとして(143A+618Dラインコイル)の組合せの、3モデルが存在する。使用球は6SN7×4、350B/6L6×4、OC3/VR105×1、整流管に5R4GY×2という仕様で、350B使用時の出力は75W、6L6使用時は出力50Wが得られる。その切替方法は、B電源の取り出しの接続を変えることによる。(土井)
有機的であり、凄みのあるWEトーン。バランスが整った3ウェイシステムのよう
土井 最後はWE143A。6L6パラレルプッシュプル、50Wのモノーラルアンプです。前回のヴィンテージ企画と同様、今回もやはり最後はこのアンプだろうということで持ってきました。
新 こんなアンプはなかなかないと思います。これまでも聴いてきたアンプですが、20㎝口径のシンプルなWE755Aというスピーカーをここまで鳴らすのは凄い。音楽のディテールを余すところなく聴かせて、それを感動につなげるわけですから。これぞオーディオのマジックです。やはり次元の違う音だなと、つくづく思いました。
杉井 最後に真のウェスタン・サウンドと出会えたなという思いです。プリアンプはアルテックですが、出てくる音は完全にWEトーンです。今回は素晴らしいアンプがいくつもありましたが、次元が違いますね。
当時、WE755Aを鳴らすのに使われたのは143Aの下位モデルにあたるWE140アンプで、140でもかなりのスケール感で鳴るんです。その上位モデルで鳴らすわけですから、いわずもがなの鳴り方ですね。そう思いつかない組合せですが、WE755Aの能力を最大限に引き出すアンプだと思います。
土井 やはり凄かったですね。どう凄いのか、言葉にするのが難しい(笑)。15インチを使ってバランスが整った3ウェイシステムを聴いているかのような音です。力はあるのにゴリ押ししない143Aというアンプの特性がよく表れていました。
新 「御諏訪太鼓」は、録音の現場に自分がいて、そこで鳴っている音を聴いているかのような感覚でした。その意味で、オーディオの究極の目的を果たす組合せだと思います。「モルゲン」は、すべての楽器が有機的に絡み合って音楽を形成していることが改めて分かる再生でした。これまであまり意識しなかったシンバルの細かい音が、よく聴こえてくるんです。細部の積み重ねが素晴らしいですね。
「ちあきなおみ」は、これまで以上にギタリストの存在が感じられました。もちろん歌もストリングスも格別です。出力管がWE350Bだったらどんな音になるのだろう、と思いながら聴いていました。
杉井 「御諏訪太鼓」は、それぞれの演奏者にスポットライトが当たるような様子が見えてきました。鍛錬を重ねた奏者が懸命に演奏している雰囲気は、これまでの組合せでは感じられなかったものです。「モルゲン」は緻密な再生で、音楽そのものを聴いているという実感を持つことができました。
「ちあきなおみ」も、歌手や演奏者の緊張感がひしひしと伝わってくる再生です。どの音源にもいえることですが、癒しを求めて聴くタイプの音ではないと思います。疲れている時に聴くと打ちのめされる強烈な音ですから、その点は注意が必要です(笑)。
土井 「御諏訪太鼓」は、太鼓の胴の太さが伝わってくる鳴り方です。20㎝口径ですから、風を感じるほどの押し出し感はありません。でも、その様子を容易に想像することができる音です。「モルゲン」は、堂々たる演奏そのものの素晴らしさが伝わってきました。アンプの味付けではなく、演奏者本来のテクニックにしっかり耳が向かいます。
「ちあきなおみ」も20㎝口径とは思えないスケール感です。新さんがおっしゃったように、ギタリストの存在感がグッと浮かび上がってきました。クレジットに名前が載っていないのですが、本当に巧いギタリストですね。
試聴を終えて
アンプによってはA7の音を上回った。大型エンクロージュアは音作りもしやすい。サブバッフルは松材かラワン合板が好適
土井 今回は、WE755Aを大型エンクロージュアであるアルテックH825にサブバッフルを使ってマウントしました。冒頭で新さんがおっしゃっていたように、20㎝フルレンジであるWE755Aは小さめのエンクロージュアで楽しみたいと考える方が多いと思います。例えば、ジェンセンが起源でランドセルと呼ばれる密閉型KS12046などがよく知られていますね。
しかし、実際には、大きめのエンクロージュアの方が音作りをするのは容易です。私の感覚だと、ランドセルだと今回の4割ぐらいの音しか鳴らない。もちろん、密閉箱でも最近は音作りができるようになってきました。本誌でも何度か試している、裏蓋を少し開けて使うやり方です。
しかし、今回のH825ほど簡単にいい音が鳴らせるエンクロージュアはないのではないでしょうか。今日は、組合せによってはA7よりいい音で鳴っていたと思います。H825を使う場合、サブバッフルの材質の注意点として、松材あるいはラワン合板を使うことがベターだと思います。よくないのはシナベニア。水分が多いんですね。
新 ある程度予想はしていたものの、最後に聴いたWE143Aとの組合せは圧巻でした。予想をはるかに上回る鳴り方だったと思います。つい価格の話になってしまいますが、WE755AもWE143Aも近年はかなり高価です。それでも整備の行き届いたWE555やWE594と比較すれば、まだ手に入れやすいと思うんです。
杉井 本誌読者には無帰還3極管アンプを使われている方も多いと思いますが、もともとWE755Aは多極管で鳴らすことを前提に作られたスピーカーです。大きめのエンクロージュアに入れて使用する場合は特に、今回の9機種のような多極管アンプを組み合わせることが大切です。
耐入力が低いので小出力アンプでも大丈夫と思われるかもしれませんが、このH825に入ったWE755Aを3極管シングルアンプで鳴らすと低音が膨らんで制動の効かない鳴り方になるでしょう。その点は注意が必要です。
それともうひとつ、市場に出るWE755Aにはかなり個体差があります。バランスの合ったペアを揃えるのは難しく、すべてが今回のように鳴るわけではないことにも留意していただきたいと思います。
土井 今回の9機種のアンプで個人的に意外だったのはアルテックA326Aです。もっと低域の薄い、弱い音だと思っていたんです。大型システムで鳴らすと、中高域の色合いを中心に聴かせるアンプなので。後は、IPC AM1027やアルテック1520T、それにアルテック1568Aもとても存在感のあるよい音だと思いました。ダイナコMkIVもよかったですね。
新 それぞれ魅力的な音でしたね。
土井 実をいいますと、今回の企画は、必ずしも大型ではない密閉箱に入れたWE755Aを業務用と家庭用のパワーアンプで鳴らそうという考えが発端でした。私の手もとには25㎝口径のアルテック756B、30㎝口径のWE754Aと728Bなどがあります。今日の試聴で、これらをH825で鳴らしてみてはどうかという欲が出てきた(笑)。次に向けて、アンプの組合せを含めてイメージを膨らませてみたいと思います。
『管球王国』114号(2024 AUTUMN)より