試聴編
民生用/業務用パワーアンプの個性も聴き取る。出力管はEL34、807、6L6の3種20cm口径フルレンジWE755AをアルテックA7大型エンクロージュアと業務用/民生用パワーアンプで鳴らす
① ラックスキットA3500
ラックスキットが発足した翌年の1972年2月発売。EL34・UL接続pp、シリコンダイオード整流回路、OPT1次側からの位相補正回路、3極管を初段としたムラード型位相反転回路などマランツ社との共通性が随所に見出せるが、シャーシレイアウト、外観などラックス社独自のもの。EL34の最大定格をオーバーしたオペレーションによりUL接続で40Wの出力を有しているが、今日的な使用においては、B電圧が低めのPTに交換するか、終段を自己バイアス方式に変更する、あるいは6L6GCに変更するなどの工夫が必要であろう。(杉井)
人気を博した出力40Wの国産EL34pp。整った鳴り方で音楽の温かみを醸し出す
杉井 今回の試聴では、同じ管種を使ったアンプを聴き比べると違いが出て面白いと思い、私の方ではEL34を使ったアンプをいくつか用意しました。ラックスキットA3500もそのひとつです。この時代のラックスでは特に生産台数の多かったステレオパワーアンプだと思いますが、同社でEL34を使ったアンプとしてすぐに名前が挙がるのが、やはりこのA3500とインテグレーテッド型のA1033だと思います。比較的廉価でありながら、UL(ウルトラリニア)接続で40W×2と出力は大きめです。そういうこともあり、多く市場に出回ったアンプなのだと思います。
新 WE755Aは私も以前、自宅で使っていましたが、エンクロージュアはアルテックH825よりも小さなエレクトロボイス製でした。WEのスピーカーにはシャープな音を期待しがちですが、このWE755Aには耳に優しく柔らかい傾向の音だった印象があります。この組合せで聴いて改めて、そういう音であることを再認識しました。もちろんアンプとの相性もあるのですが、その個性はよく出ていたと思います。
杉井 WE755Aをお持ちの方は少なくないと思います。しかし、ラックスA3500で鳴らそうと考える方はまずいないでしょう。私も聴くまで音が想像できなかったのですが、実際に聴いてみるとラックスのキャラクターが色濃い印象でした。WE755Aは組み合わせるアンプによって金属的な輝かしい音も聴かせるスピーカーですが、この組合せでは明らかにペーパーコーンで鳴っている音、紙っぽい音。新さんがおっしゃるように、優しい傾向の音です。高域が抑えられるのは明らかにA3500の個性だと思います。
土井 ラックスA3500は、もちろん発売された当時も聴いたことがあります。久しぶりに聴きましたが、私は当時の印象よりも今日の印象の方がよかったです。ただし、ラックス独自のトーンに音をまとめて部屋の空気まで変えてしまうような個性は変わっていません。
新 「御諏訪太鼓」を聴くと、太鼓のサイズがそれほど大きくないんです。音色やバランスは悪くないのですが、実際の太鼓の鳴り方に比べると「録音された太鼓」という印象が強い。この印象が今後のパワーアンプでどのように変化するのか、確認していきたいと思います。太鼓以外の鳴り物や笛の再現は良好です。WE755Aから和の風味をしっかり引き出していると思いました。
「モルゲン」は、ファツィオリのピアノが輝かしさを抑えた優しい音で鳴っていました。もう少し輝かしさが出てもいいかなと思いましたが、これもアンプによってどう印象が変わるか楽しみです。「ちあきなおみ」も同様で、高域がやや控えめの優しい音。それはヴォーカルよりも間奏のストリングスによく表れていて、よくまとまっていると感じました。心地いい音、優しい音、温かい音など、一般的によくいわれる真空管アンプのイメージに近い鳴り方ですね。
杉井 「御諏訪太鼓」は、太鼓の革がピンと張っている感じではなく、やや緩い感じで叩かれているような印象を持ちました。弾けるようなアタック感が薄いんですね。ただ、太鼓の量感はそれなりに出ていたと思います。「モルゲン」は、音源そのものの優しい調子も相まって、ひじょうにマイルドで温かみのある再生でした。「真空管アンプの音を聴いてみたい」という人にこの音を聴かせれば「イメージ通りの音ですね」というかもしれない。楽曲のイメージとは合っていますが、個人的にはもう少し個々の楽器の主張を聴いてみたいところです。
「ちあきなおみ」は、春の陽だまりの中で聴いているかのような穏やかで平和な再生。どの曲も優しいトーンでそつなく聴かせてくれるのですが、WE755Aを中心に考えると、その特有の音がまだ出し切れていないという感じがします。
土井 「御諏訪太鼓」はとても日本的で整った鳴り方なのですが、無形文化財としての格調は希薄。田舎の古きよきお祭りのような雰囲気は出ているのですが、もう少し響きに上質さが欲しいと感じました。「モルゲン」もバランスはいいです。しかし、薄味で少し物足りなさがありました。バターを使って香りや味を濃くするのではなく、サラダ油だけでさっぱりとした和風に仕上げた肉料理という感じ。もう少し西洋っぽい味わいが加わってもいいかなと思いました。
「ちあきなおみ」もバランスは問題ありませんが、こちらは和の風味が控えめで演歌を聴いているという実感が薄い。お二人がおっしゃるように、一般の方に「これが真空管アンプの音です」といって納得してもらいやすい音といえるでしょう。実際の真空管アンプの音が優しさや温かみだけではないことは、本誌読者の方ならよくお分かりだと思いますが……。
《試聴に使用した機器》
[CDプレーヤー]スチューダーA730
[プリアンプ]アルテック1567A
《試聴ディスク》
『日本の大太鼓』
CD(ビクターVZCG-526)
よりTr.1「飛龍三段がえし」宗家小口大八と御諏訪太鼓
文中:「御諏訪太鼓」
『DREAMSVILLE』ロベルト・オルサー・トリオ
ロベルト・オルサー(p)、ユーリ・ゴルベフ(b)、マウロ・バッジオ(ds)
CD(澤野工房AS 152)
よりTr.12「Morgen」
文中:「モルゲン」
『男の郷愁』
ちなきなおみ
CD(テイチクTECE-25713)
よりTr.7「男の友情」
文中:「ちあきなおみ」