DECEMBER 2026 NEW RELEASES- THE CRITERION COLLECTION
THE CRITERION COLLECTION has announced its DECEMBER 2026 slate of 4K UHD BLU-RAY(7)and BLU-RAY(1)releases ー Amongst them are:NASHVILLE(1975)and THE ENGLISH PATIENT(1996)
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
12月のクライテリオンは、4K UHD BLU-RAYを4作品をリリース。その中からまず紹介するのは、12月1日にリリースされる名匠ロバート・アルトマン監督作『ナッシュビル』(1975)である。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
ワイルドで、素晴らしく、罪深く、笑えて、センセーショナル
アメリカの文化的遺産として語り継がれるべき金字塔。建国200年を目前としたカントリーミュージックのメッカ、ナッシュビルを舞台に当時の文化と政治をパノラマのように描き出し、アメリカの幻滅を巧妙かつ鋭くあぶり出した名作だ。カントリースタアから売れない歌手、記者、ウェイトレスに至るまで、さまざまな背景、価値観、そして奇癖を持つ24人の登場人物の物語が織りなすシネマティックなタペストリーには、喜劇、悲劇、風刺劇、音楽ライブが等しく融合している。
ここで描かれるナッシュビルは、何気ない無頓着さで隔絶された世界だ。のちにアルトマンは『ザ・プレイヤー』で有名人のカメオ出演を多用して、スタアを見かけた時の親しみやすさを演出したが、ここではナッシュビルの異質さを描き出すのに用いられる。アルトマン作品でお馴染みのエリオット・グールドやジュリー・クリスティの、奇妙だが巧妙に演出されたカメオ出演がそれに当たり、ナッシュビルの著名人たちは自分たちのコミュニティ以外とは無縁で、世間知らずなままとして描かれている。文化的な断絶がもっとも顕著に表れるのは、サブプロットである置換党(架空の第三政党)のポピュリストの大統領候補ハル・フィリップ・ウォーカーの選挙運動であり、この選挙運動は本作品を風刺の領域に位置づけているので注目されたい。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
アメリカの映画批評家・ライターであるジャン・スチュアートは、映画の舞台裏を詳細に描いた著書『ナッシュビル・クロニクルズ』(2000/The Nashville Chronicles: The Making of Robert Altman's Masterpiece)の中で「70年代の時代精神を語るとされる映画を考えたとき、『ナッシュビル』は揺るぎないトップの地位を占めている」と記した。その一文が示すように、本作品の中には世相と政治がもたらす緊張感に満ちた電流が脈打っている。それは1960年代の政治的混乱の多大な影響と、1970年代の高まるシニシズムと高官たちの巧妙な策略の副産物だ。1960年代の混乱は本作公開のわずか2ヶ月前にひとつの節目を迎えたが、一方で不必要な戦争の激化を招いた。こうした根深く広範におよぶ国家的な緊張と荒廃が、本作品の登場人物たちを結びつけ、そして引き裂いていくのである。
アルトマンの狙いは1970年代の混迷するアメリカ社会を、ナッシュビルという典型的な古き良きアメリカンスタイル ー 伝統的な南部としての保守的な政治・文化が根強く存在する場で浮き彫りにしてみせることにあった。それゆえに本作品は、当初脚本に記されていた以上に多面的で、洞察力に富み、驚くほど予言的なものとなっている。社会の状況を救済でも告発でもなく、さまざまな人物とエピソードの積み重ねで描いてみせたアルトマンの、その本質を捉える能力は、この壮大で傑作において最大限に発揮され、忘れられない結末へと突き進む。ラストはアメリカ映画史上もっとも息を呑む、予想外の瞬間のひとつだ。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
撮影監督は『メル・ブルックス/新サイコ』『メテオ』のポール・ローマン。アルトマンとローマンのコラボは、本作品の前年の『ジャックポット』、翌年の『ビッグ・アメリカン』の2作品のみだ。だが、その撮影技法は1970年代のアメリカ映画の特徴をよく表していると同時に、アルトマン映画の特徴も色濃く反映している。アルトマンは、ヴィルモス・ジグモンドとの初期コラボ作品である『ギャンブラー』『ロバート・アルトマンのイメージズ』『ロング・グッドバイ』の頃から、アナモフィック用に改造したズームレンズ(アンジェニューの球面ズームレンズの背面側に、パナビジョン社開発の2倍スクイーズのリア・アナモフィック・アタッチメントを組み込んだシステム)でほとんどの映像を撮影し始めていた。
長所は手持ちの球面ズームレンズをそのまま活用でき、フロントアタッチメントに比べてフォーカス合わせが容易。画面の中心から周辺まで比較的均一な画質を保ちやすいという特徴もある。一方で、コンバーターの光学系により1〜2ステップほどF値(明るさ)が暗くなる。アナモフィック特有のオーバル(楕円形)ボケや美しい水平フレアもほとんど発生しない。総じて単焦点レンズの光学性能に及ばないという欠点があった。それでもローマンとアルトマンは、固定焦点距離で撮影されたと思われる 2、3 ショットを除いて使用。ほぼすべてがあの独特のズームの動作を示しており、本作品でも中心的な撮影スタイルの装置となっている。
本編の大部分は、自然光のないクラブ、バー、コンサート会場、あるいは家屋や施設の室内で撮影されている。ローマンは(前述の理由から)ネガをプッシュ現像(少なくとも1~2ステップ増感)する必要があった。正式な記録は手元にないが、当時の高感度フィルムも使っていないはずだ。たとえ当時高感度とされた、フィルム感度200または400ASAであっても、T4.5またはT5.6程度の露出で撮影するにはかなりの光量が必要となる。だが、本作品はドキュメンタリータッチのドラマという側面も持っているため、ロケーションの雰囲気を損なうことなく、過度に照明を調整して必要な露出を確保することを避けなければならなかった。ではローマンはどのように対処したのか。まず、ネガを露光するためだけに光量を多く確保するため、注目すべき俳優に比較的強い直接光源を当て、フレームの残りの部分はその場にある雰囲気に溶け込ませ、しばしば露出不足にすることだった。
その露出不足を補うためにローマンは、当時ニューヨークにあったTVCラボラトリーズが開発・提供していたケムトーン・プロセスを再用している。ケムトーン・プロセスは化学的なフラッシング(露光調製)と増感現像を高度にコントロールして組み合わせた技術である。コントラストを抑制し感度を上げて暗部のディテイルを向上、ナイトシーンやローライトレベルでのロケーション撮影で効果を発揮したことで知られている。フラッシングといえば先駆者ヴィルモス・ジグモンド。彼はアルトマン監督作『ギャンブラー』で、生フィルム(なんとジグモンドはカメラ内でフラッシュを施していた!)に弱光を感光させ、黒(暗部)のディテイルを出すテクニックを初披露した。
ケムトーン・プロセスは現像中にフラッシュを施す方法であるが、より安定した効果を実現できる。本作品には目立ったハイライトはほとんどない。画像情報のほとんどはガンマカーブの中間グレーとつま先(シャドウ部から中間調へ立ち上がるカーブの左下の緩やかな曲線部)の間にあり、フラッシングの使用は理に適ったものであった。
アルトマンは演出術のひとつとして、俳優を画面から遠ざけることを好んだ。ローマンはその意図を汲み、可能な限りクローズアップを控え、もっとも重要な場面においてもカメラを俳優から遠ざけている。そのため本作品のシーンの数々は、照明も構図も厳正に構築されることはなく、まるで撮影クルーがクラブに入ってそのまま撮影を始めたかのようだ(ある意味、1960年代に勃興したダイレクト・シネマの精神を継承している)。さらにその映像は、デニス・M・ヒルとシドニー・レヴィンの抑制の効いた、そして絶妙なタイミングの編集によって磨き上げられている。
本作品は、2013年、クライテリオンからBLU-RAY(35mmインターポジからの2Kスキャン/デジタルレストア版)がリリースされている。パラマウント・ピクチャーズがテクニカラー・ロサンゼルスで、MTI Film社開発の修復・補正システム(Correct DRS™)とAutodesk(旧Discreet)社のVFX・合成・編集システム(Inferno)を使用して復元。映像品質は際立っていたが、2021年、パラマウントが「オリジナル素材の4Kスキャンから新たにリマスターした(newly remastered from a 4K scan of the original elements)」という謳い文句でBLU-RAYリリース。パラマウントはオリジナルネガを使ったとは明言していないが、オリジナルネガ(一部インターポジ)使用というのが一般的な見解であった。なぜならパラマウント版は、4Kオリジナルネガに遡って制作される4KレストアBLU-RAY「パラマウント・プレゼンツ」シリーズの第24弾であったからだ。ところがリリースされたパラマウントは、発色は非常に優秀であったものの、全編を通じて過度なDNR(デジタルノイズリダクション)に悩まされており、映像ディテイル(とくにハイライト)の損失も問題とされた。
2013 CRITERION BLU-RAY(2K RESTORATION)
2021 PARAMOUNT BLU-RAY(4K RESTORATION)
2013年クライテリオンBLU-RAYの権利は完全失効しているが、今回のUHD BLU-RAY化ではパラマウントから新たに権利を再取得している。再取得した時期は不明だが、それにより2021年パラマウントBLU-RAYも廃盤となっている。今回どのような経緯でUHD BLU-RAY化されたかは、良好な関係にあるパラマウントの2021年4Kスキャン・マスターが使用されるという以外、まだ正式のアナウンスはない(最終的にライナーノーツで明らかにされる)。ただこれまでの、このようなケースにおけるクライテリオンの制作工程を振り返ると、パラマウントから4KスキャンDPXファイルを提供してもらい、クライテリオン主導で新たなデジタルレストア、HDRグレードを行ったとみるべきであろう(UHD BLU-RAY化の権利のみを取得した場合、クライテリオンでは通常、旧版BLU-RAYが同梱される)。とはいえ、現時点では憶測の域を出ない。その仕上がりに、乞うご期待である。
2013 CRITERION BLU-RAY(2K RESTORATION)
2021 PARAMOUNT BLU-RAY(4K RESTORATION)
1974年、ナッシュビルにあるカントリー・ミュージックの聖地グランド・オール・オプリ(公開ライブ放送のラジオ番組、およびその会場)は、ダウンタウンに在った狭く冷房もないライマン劇場から、10マイルほど離れたテーマパーク ー オプリランドUSAに移転している。本作品の製作は、この移転と同時期に行われた。アルトマンは、新たなミュージックシティを建国200周年を迎えたアメリカの縮図と捉えおり、視覚的な側面だけでなく聴覚的な側面 ー なによりもサウンドスケープを重視して演出した。サウンドトラックは映像と同じくらいパノラマ的で、音は三次元的な響きを持ち、音楽だけでなくノイズのための空間も作り出している。本作品でもっとも騒々しいシーンは、ナッシュビル・モーター・スピードウェイでの場面だ。90秒ほどの短いシーンだが、そこにははっきりと聴こえる台詞もミュージカルナンバーもない。登場人物たちの唇が動いているのは見えるが、声は聴き取れない。アルバカーキ(バーバラ・ハリス)が歌っているのかどうかは判別しにくい。もし歌っているとしても、NASCARのエキゾーストノート、拡声器の騒音、そして人混みの雑音にかき消されてしまう。まるでパントマイムを観るかのようだ。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
それは前述の『ギャンブラー』の音響演出(多くの会話や雑音を混ぜ合わせ、主要人物を強調しないという独特の音響編集)を「音が悪い」と批判した批評家たち、あるいは『宇宙大征服』(1968)で俳優たちが互いにセリフを遮り合う演出をしたアルトマンを解雇したジャック・ワーナー(あのバカは俳優たちを同時に喋らせている!)への明らかな反抗だ。わかったよ。じゃあ、本物のオーバーラップを聴かせてやるよ!そこでマルチトラック録音の先駆者とされるプロダクションサウンドミキサーのジム・ウェッブ(aka. ジェームズ・E・ウェッブ)は、画面に映るほぼすべての俳優にマイクを装着した。『エルヴィス・オン・ツアー』などの コンサートドキュメンタリーやスポーツ中継での経験を持つウェブは、 前述の『ジャックポット』のために、ライオンズゲート8トラック無線音響システム(Lions Gate 8-track wireless sound system)を設計した。本作品では8トラック無線音響システムを複数台同期させ、最大24チャンネルの多重同時録音システムを構築している。本作品では従来のブームマイクの代わりに、俳優たちにワイヤレスラベリアマイク(ピンマイク)を装着。俳優たちは即興演技、あるいは互いに割り込み、動き回る演技が可能となり、同時にカメラの自由度が高まったことで、同期した音声でロングショットを撮影することも可能となった。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
マルチトラック録音(そしてドルビーノイズリダクション)により、アルトマンは騒々しい群衆シーンで俳優個々の声を分離して強調し、絶え間なく続く雑談や談笑を個別のチャンネルに分離することができた(アンミキシング)。ポストプロダクションでは、サウンドエディターが多数のチャンネルを精査し、カメラの動きや編集に合わせて音源の相対的な音量を調整している。本作品の音楽シークエンスでは、ウェッブは会話用にボディマイクを残し、ステージの周りに数十個のマイクを配置してライブドキュメンタリーを録るように配線したという。キャストの多くがカントリーソングを自ら作詞作曲し、ロケ地で歌唱、生演奏しているが、マルチトラック録音の恩恵で本作品が持つ独特なリアリティにさらに深みが加わったといえる。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
本作品のサウンドトラックは、膨大な数のソーストラックから4トラック磁気ステレオ(4-track magnetic stereo)にミックスダウンされたが、これは1975年当時の独立系スタジオ映画としてはかなり大きな出来事だった。そのような映画の光学サウンドトラックにハイフィデリティなステレオサウンドを収録する方法は実践されておらず、ステレオは一般的に大作ミュージカル、歴史大作、一部の70mm(特にブローアップ版)上映作品などに限られていた。ご存じのように4トラック磁気ステレオは、1953年、20世紀フォックスがシネマスコープ用に開発した35mmフィルムサウンドシステムである。フィルムストリップの両端に2本のオーディオテープのストライプがあり、左・中央・右・後方の4つのスピーカーに音声を供給した。磁気プリント制作には、標準プリントの少なくとも2倍の費用が掛かる。また映画館は特別な映写機に投資する必要もあった。そんな制限がある中、4トラック磁気ステレオ上映(対応映画館)された本作品は、『アメリカン・グラフィティ』『ファントム・オブ・パラダイス』『地球に落ちてきた男』などとともに、4トラック磁気ステレオの終焉を飾った代表作のひとつとして記憶されている。1976年以降、4トラック磁気ステレオは段階的に廃止されていき(1983年の『スカーフェイス』『愛のイエントル』が最後の商業作品とされる)替わってドルビーステレオの登場を迎えることになる・・・。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
TWO-DISC(4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY with the film and special features)COMBO PACK RELEASE
- 4K REMASTER FROM THE 4K RESTORED DSM, by Paramount Pictures(2021)
- HDR PRESENTATION OF THE FILM(DOLBY VISION / HDR10 COMPATIBLE)
- Audio commentary featuring director Robert Altman
- Documentary on the making of the film, featuring interviews with actors Ronee Blakley, Keith Carradine, Michael Murphy, Allan Nicholls, and Lily Tomlin; screenwriter Joan Tewkesbury; assistant director Alan Rudolph; and Altman's widow, Kathryn Reed Altman
- Three archival interviews with Altman
- Behind-the-scenes footage
- Demo of Carradine performing his songs from the film
- Trailer
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
- PLUS: An essay by critic Molly Haskell
Released: DEC 1, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 2-DISC)
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
| タイトル | ナッシュビル |
|---|---|
| 年 | 1975年 |
| 監督 | ロバート・アルトマン |
| 製作 | ロバート・アルトマン |
| 製作総指揮 | ジェリー・ワイントローブ マーティン・スターガー |
| 脚本 | ジョーン・テュークスベリー |
| 撮影 | ポール・ローマン |
| 音楽監修・編曲 | リチャード・バスキン |
| 出演 | (alphabetical order)デヴィッド・アーキン バーバラ・バクスレー ネッド・ビーティ カレン・ブラック ロニー・ブレイクリー ティモシー・ブラウン キース・キャラダイン ジェラルディン・チャップリン ジュリー・クリスティ ロバート・ドクィ ドナ・デントン シェリー・デュヴァル アレン・ガーフィールド ヘンリー・ギブソン スコット・グレン エリオット・グールド ジェフ・ゴールドブラム バーバラ・ハリス デヴィッド・ヘイワード マイケル・マーフィ アラン・ニコルズ クリスティナ・レインズ バート・レムゼン リリー・トムリン グウェン・ウェルズ キーナン・ウィン |
AWARDS
| アカデミー賞 | 1975年 |
|---|---|
| ☆ 受賞 | 歌曲賞 (キース・キャラダイン) |
| ★ ノミネート | 作品賞・監督賞・助演女優賞賞 (ロニー・ブレイクリー、リリー・トムリン) |
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
続いて紹介するのは、12月8日にリリースされるアンソニー・ミンゲラ監督作『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)である。本作品は公開30周年を記念してリリースされるものだが、クライテリオン初のミンゲラ作品 ー 4K UHD BLU-RAY/BLU-RAYリリースとなる。その理由は後述するが、いずれにせよシネフィル待望の4K UHD/HDR化であることは間違いない。
ー When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD
あなたに抱かれて、地図のない世界へ ー
第二次大戦下の北アフリカのサハラ砂漠。飛行中の複葉機をドイツ軍の砲手が撃墜する。その機体の残骸からベドウィンの一団がパイロットを引きずり出して救出した。時が経ち、1944年イタリア、トスカーナ地方。フランス系カナダ人でカナダ陸軍医療隊の看護婦ハナ(ジュリエット・ビノシュ)は、重度の火傷を負い瀕死の状態にある男性患者の看護にあたっていた。その患者は英語訛りで話し、自分の名前を思い出せないという。彼の唯一の所持品はヘロドトスの『歴史』の写本で、中には個人的なメモや写真、思い出の品々が挟まれていた・・・。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
第二次大戦を挟む激動の時代という時間軸と、アフリカとヨーロッパというふたつの大陸に跨って繰り広げられるロマンあふれる映像叙事詩。原作はブッカー賞に輝いた、カナダの詩人で小説家であるマイケル・オンダーチェによる同名小説(邦題:イギリス人の患者)。これをTV『モース警部』シリーズ(脚本)『愛しい人が眠るまで(英国アカデミー賞脚本賞)』で注目されたアンソニー・ミンゲラ(2008年他界)が脚色、監督している。第69回アカデミー賞では12部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演女優賞(ビノシュ)を含む9部門を受賞。また、デジタル・ノンリニア編集された映画として初めて編集賞(ウォルター・マーチ)を受賞した作品でもある。またマーチは音響賞も受賞しており、同一作品での編集賞と音響賞の同時受賞も史上初の快挙であった。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
オンダーチェの原作は、詩的で、複雑で、ポストモダンな小説だ。原作に込められたテーマも、実に複雑かつ曖昧で、重層的で多岐にわたるため、映画化されたこと自体が奇跡と言ってもよかろう。こうした名作小説を映画化すると、大抵の批評家やライターが飛びつくのは、映画は原作に忠実か、という問いだ。だがこれは愚問である。心理学者で哲学者のヒューゴ・ミュンスターバーグが、1916年『映画劇 その心理学と美学』で指摘したように「映画と文学作品はまったく異なる芸術形式であるため、映画が文学作品に厳正忠実であることはほとんど不可能」なのだ。本作品では原作に忠実云々に囚われず、ミンゲラやプロデューサーのソウル・ゼインツたち(オンダーチェ本人も協力)は、複雑で詩的なポストモダン小説を、非常に優れたハリウッド風メロドラマへと見事に昇華させている。メロドラマという言葉は、ハリウッド古典ジャンルについて語る際に、かなり安易に使われることが多い。この分野での決定版とされるベン・シンガーの著書『メロドラマとモダニティ(Melodrama and Modernity : Early Sensational Cinema and Its Contexts)』では、メロドラマの特徴として、高揚した感情(特に哀愁)、明確に描かれた善悪、多くの偶然と必然、そして暴力的なアクションの強調を挙げている。それに倣えば、本作品にはこれらのすべてがある。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
原作に込められたテーマ、あるいはプロットのファクターを列記するだけでも、愛、情熱、忠誠心、愛国心、帝国主義、戦争、シニシズム、芸術、歴史、人種差別、喪失、そして勇気。映画では上質なフィルム・ノワールのように、ほぼ終幕から始まる。原作にある豊かな文体が過去の層をゆっくりと明らかにしていくさまを、撮影・編集という視覚的な手法で鮮やかに表現しつつ、ミステリアスな謎はギザギザの断片として組み込まれ、徐々に全体像を形成していく仕掛けとなっている。ミンゲラは、本来なら混乱を招くはずの時系列の飛躍や、無関係な登場人物たちの散漫な物語の織り合わせに、息を呑むような調和をもたらしている。しかも、その背景には、複雑な軍事、考古学、そして夫婦間の駆け引きが数多く存在する。主人公が重度の火傷で死にかけているという、原作の半分を占めるストーリーを映画化するという大胆さは、言うまでもない。興味深いのはミンゲラが、原作にある反人種差別的、反植民地主義的なテーマを敢えて矮小化し、ロマンスに重きを置いて描いた点だ。こうした点からも本作品は、原作者オンダーチェのサポートを得ながら、類まれなるミンゲラの才気と洞察力によって作られた名作小説の美しい(本当に美しい!)改訂版と理解されたい。それゆえにポストモダニズムをメロドラマへと転換させた傑作として楽しむべきであろう。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
本作品でオスカーを受賞した撮影監督は、オーストラリア出身のジョン・シール。オスカー候補となった『刑事ジョン・ブック/目撃者』で注目され、『レインマン』『いまを生きる』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』など、ジャンルも多岐にわたる。シールの生み出す画面には明確なスタイルが認められるが、それは厳密なフレーミングである。本作品のプリプロダクションの段階では、アナモフィックレンズ撮影を薦める声も多かったという。砂漠のように横方向へ無限に広がる空間をドラマチックに捉えるには、アナモフィックが完璧にマッチする。そのことをシールもミンゲラも十分に理解していた。だが彼らが導き出した答えは、球面レンズを使用した1.85:1ビスタサイズであった。
その理由のひとつは、完全なクリーンシングル(別の人物の体の一部などが一切フレームに映り込まない、完全にひとりのショット)が撮れることにあった。シールはそれまでもクローズアップ撮影においても卓越した才能を発揮してきた。たとえば本作品のタイトルロールを演じたレイフ・ファインズ然り。その顔は自然光、あるいはアベイラブルライト(その場に存在する光/自然光や環境光など)を基本に、たとえ人工光源による補助光が必要なショットでも、光源から発せられるはずの光の性質、量、方向性に忠実なライティングを施し、骨格を際立たせ、観客の視線を惹きつけている。その大顔絵は、感傷的にならずに温かみがあり、客観に走らず状況に応じて的確だ。またシールにとって砂漠は、単なる風景描写ではなく、人間の顔のクローズアップと同じくらい丁寧に彫刻された、地球の肖像画とさえ言える。地平線を厳正に配置し、前景、中景、後景のそれぞれに重要な視覚的な情報を捉えるためには、1.85:1ビスタサイズが最適と判断したのである。それゆえ人物(縦の被写体)が登場するショットでは、風景との関係性の中で配置され、時に小さく、時にはシルエットとして、常に地形と対話しているかのようにフレーミングされており、そのインパクトは絶大だ。
シールは照明技法に関して外光(自然光)派に属し、外光の美しさとリアリズムを極限まで追求するという哲学を強く持った撮影監督である。シールは「映画のカメラや照明は、描かれる物語の地理や時代に対して忠実でなければならない」(2023年9月/オーストラリア・シネマテーク)と語っており、観客をスクリーンの中の世界へ完全に没入させるために、その場に不自然な人工照明を嫌い、自然光を軸としたアベイラブルライトをベースに画を組み立ていく。半世紀にわたるキャリアを通して、シールには根源的な信念がある。それは、自然界 ー その光、風景、天候 ー こそが、撮影監督が持つもっとも強力な道具であるという信念だ。あらゆる自然が美しさをそのまま提供してくれるのだから、わざわざ美しさを作り出す必要はない!
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
シールの撮影テクニックにみる特徴は、低い角度から差し込む自然光に照らされた広大な風景、つまりはゴールデンアワーを余すことなく、能う限り活用したフレーミングにある。同じ砂漠や山並み、あるいは平坦な野原であっても、夜明け、正午、夕暮れでは異なる表情をみせることを理解しており、それに合わせて撮影スケジュールを組むことを常としている。風成砂はゴールデンアンバー(黄金色と琥珀色、あるいは黄橙色)に輝き、影は長い階調を刻み、空は熱を帯びた(暖色の)地平線から澄みわたる(寒色の)天心へと移り変わる。シール監督は日の高い時間帯を可能な限り避け、砂漠のシーンを撮影した。それは低い陽光が砂丘を立体的に彩り、色温度が風景全体をゴールデンアンバーへと変化させる時間帯だ。一般にシールの原色弁証法は、温かみのあるゴールド(太陽、火、砂漠、肌)と冷たいブルー(空、影、夜、遠近)の対比とされている。本作品では、砂漠はゴールデンアンバー、イタリアの修道院の内部は灰味を含んだブルーがメインカラーとなる。ゴールドの温かみは過去であり、砂漠、記憶、生命、情熱、情事、火などの象徴となる。一方でクールトーンの冷たさは現在を語り、悲しみ、廃墟、回復、あるいは心理的・物理的な距離や喪失を浮き彫りにしているのである。本盤のカラーグレーディング監修、最終承認はシール自ら行っており、彼の撮影テクニックを余すところなく伝えてくれるはずだ(さア、HDRとWCGの観せどころだ!)
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
照明の選択、レンズの選定、カメラワークのすべては物語に貢献するべきだ。物語から注意をそらすような美しいフレーミングや構図は、自己満足に過ぎない。影は画面構成を形作り、視線を誘導する重要なツールであり、平坦で均一な照明は、その奥行き、雰囲気、そして視覚的な面白さを損なってしまう。広角レンズは顔を歪ませる。望遠レンズは空間を圧縮する。俳優への影響を考慮せずにレンズを選ぶと、演技の質が低下してしまう。また技術を披露するためだけに存在するドリー、クレーン、ステディカムの動きは、観客を物語から引き離してしまう。ジョン・シール
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
DIRECTOR-APPROVED 4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
TWO-DISC(4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY with the film and special features)COMBO PACK RELEASE
- NEW 4K DIGITAL RESTORATION, supervised and approved by director of photography John Seale, with 5.1 surround DTS-HD Master Audio soundtrack
- HDR PRESENTATION OF THE FILM(DOLBY VISION / HDR10 COMPATIBLE)
- New program featuring Seale and script supervisor Dianne Dreyer
- Two audio commentaries, featuring director Anthony Minghella, producer Saul Zaentz, and author Michael Ondaatje Documentary on the making of the film
- Interviews with Minghella, Ondaatje, Zaentz, editor Walter Murch, production designer Stuart Craig, stills photographer Phil Bray, and historians Robert Collins and David Hall
- Deleted scenes with commentary by Minghella
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
- PLUS: An essay by critic Bilal Qureshi
Released: DEC 8, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 2-DISC)
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
本作品の映像・音響テクニックを解説する上で、ジョン・シールと共に忘れてはならないのが、前述したウォルター・マーチの存在だ。本欄ではマーチの仕事について割愛させてもらうが(また別の機会に改めて・・・)ここでは下欄にリンクを貼った書籍をお薦めしたい。本作品の原作者マイケル・オンダーチェとマーチの対話で構成される良書である。ご興味がある方は、是非ともページを捲られたい。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
NOTE:ミンゲラ監督の代表作『イングリッシュ・ペイシェント』『リプリー』『コールド マウンテン』は、当時のミラマックス(ディズニー傘下)が世界配給権を握っていた。これらは大型プロジェクトのヒット作であり、現在の権利元のパラマウントやディズニーにとっても手放したくないドル箱の自社資産となる。これまでクライテリオンのような外部レーベルにライセンスを貸し出さずとも、スタジオ自身が本編のディスクを何度も再販して利益を上げられた経緯もある。
だが、近年の動画配信ビジネスの競争激化や収益性の悪化に伴い、ハリウッドの大手スタジオ、特にパラマウント・グローバルは、自社が保有する膨大な過去のカタログ資産を外部にライセンス供与してマネタイズする方針を強めている。自社で莫大なコストをかけてフィジカルディスクを作るよりも、信頼度の高いレーベルにマスターを提供して最高級の製品を作ってもらい、ライセンス料や分配金を確実に回収する方が、現在のスタジオ経営において極めて効率的だからだ。『イングリッシュ・ペイシェント』の4K UHDリリースも、そうした事情に負うところが大きい。
また、ボブ・ワインスタインとハーヴェイ・ワインスタインが絡んだ作品(本作品では製作総指揮)のリリースにおいて、クライテリオンをはじめとする映像ソフト業界や映画スタジオが非常に慎重、あるいは実質的に困難な状況に置かれているケースが多い。だが『イングリッシュ・ペイシェント』は、現在の権利元パラマウントを通じて正式にライセンスがクリアされているため、ワインスタイン兄弟の問題に阻まれることなくリリース可能となっている。
2017年の事件以降、ミラマックスの権利を引き継いだパラマウントとbeINメディア・グループは、組織や契約からワインスタイン兄弟の影を徹底的に排除してきた。ウェブサイトから彼らのクレジット項目を消去するといったレピュテーションリスクへの対策のノウハウもこの数年で確立されている。こうした経緯があって、映画としての歴史的価値を復活させつつ、スキャンダルのリスクは完全に回避できるという実務的な確信が、スタジオとクライテリオンの双方に整ったという見方が大半だ。事実、クライテリオンの公式ウェブサイト上のクレジットからも製作総指揮(ボブ・ワインスタインとハーヴェイ・ワインスタイン)のクレジットは削除されている。
ー When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD
| タイトル | イングリッシュ・ペイシェント |
|---|---|
| 年 | 1996年 |
| 監督 | アンソニー・ミンゲラ |
| 製作 | ソウル・ゼインツ |
| 製作総指揮 | ボブ・ワインスタイン ハーヴェイ・ワインスタイン スコット・グリーンスタイン |
| 原作 | マイケル・オンダーチェ |
| 脚本 | アンソニー・ミンゲラ |
| 撮影 | ジョン・シール |
| 美術 | スチュアート・クレイグ |
| 衣装デザイン | アン・ロス |
| 編集 | ウォルター・マーチ |
| 音楽 | ガブリエル・ヤーレ |
| 出演 | レイフ・ファインズ ジュリエット・ビノシュ クリスティン・スコット・トーマス ウィレム・デフォー コリン・ファース ナヴィーン・アンドリュース ユルゲン・プロフノウ ケヴィン・ウェイトリー ニーノ・カステルヌオーヴォ |
AWARDS
| アカデミー賞 | 2025年 |
|---|---|
| ☆ 受賞 | 作品賞・監督賞・助演女優賞(ジュリエット・ビノシュ)撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞・編集賞・音楽賞・音響賞(ウォルター・マーチ) |
| ★ ノミネート | 主演男優賞・主演女優賞・脚色賞 |