ZMFの純A級真空管ヘッドホンアンプ「Aegis」(¥825,000、税込)は、オンラインの世界でも知られるキーン・マックナイトが回路設計やサウンド設計に関わった製品だ。とあるオーディオショーでキーン・マックナイトの自作アンプを聴いたZMFの創業者 ザック・メアファーが、その音を気に入って製造を打診、製品化が実現した。今回はそんなAegisを、同じくZMFのヘッドホンでじっくりと聴いた模様をリポートする。
ヘッドホンアンプ:ZMF Aegis Class A Tube Amp Japanese Edition ¥825,000(税込)
●使用真空管:整流管GZ34、出力管EL34✕2、プリ管6SL7✕2
●接続端子:ヘッドホンジャック(XLR、6.35mmアンバランス、4.4mmバランス)、アナログ入力(RCA)
●周波数応答:11Hz〜33kHz/-3dB
●1mW出力時のTHD+N:0.05%未満
●出力:1〜2.5W(負荷とインピーダンス設定により異なる)
●入力インピーダンス:20kΩ(RCA)
●出力インピーダンス:
6.35mm=Low 5Ω、Med 11Ω、High 31Ω
XLR=Low11Ω、Med 28Ω、High 85Ω
●出力:1〜2.5W(標準2W)、8〜300Ωヘッドホン出力時
●寸法/質量:W362✕H203✕D286mm/21kg
「Aegis」には真空管の保護カバーも付属している。ただし音を聴く時にはカバーは外した方がいい場合が多いので、聴き比べて選んでいただきたい(もちろん設置には充分な配慮を!)
アンプの構成はカソードフォロワー型、真空管を電流増幅に利用する構成だ。低い出力インピーダンスと高い電流駆動能力を提供でき、さまざまなインピーダンスのヘッドホンを駆動できる。また歪みが少なく、より直線的な特性が得られる傾向があり、忠実度の高い音質を実現できるという。あわせて、インピーダンスがLOW/MID/HIGHの3段階で切替え可能で、高感度なヘッドホンやイヤホンから低インピーダンスタイプまで幅広く駆動できる。
入力はアナログ端子(RCA)が1系統。回路構成が複雑になるのを嫌ってシングルエンド専用とした潔い設計だ。ヘッドホン出力はXLRバランス、6.35mm標準ジャック、4.4mmバランス出力(高感度IEM用-6dBパッド)となっている。出力は1〜2.5W(標準2W)、8〜300Ωのインピーダンスに適合する。
整流管にGZ34、初段に6SL7×2、出力管にEL34×2を使用しており、オーソドックスな真空管アンプらしい見た目に仕上がっている。フロントパネルはウッド製で、レシプロ航空機のダッシュボードからインスピレーションを得たデザインで、ビンテージ感に溢れた質の高い仕上げ。電源を入れると赤く輝く真空管や、精密に動くVUメーターなど風格のあるフォルムだ。
入力端子はアナログRCA端子が1系統のみ。ヘッドホン端子は6.3mmアンバランス、4.4mmとXLRバランスの合計3系統をフロントパネルに搭載している
広い音場再現力を持つ「Caldera」を、鮮やかな音で生き生きと鳴らす
さっそく音を聴いてみよう。まずはZMFの「Caldera(カルデラ)」(¥649,000、税込)と組み合わせる。80mm平面振動板ドライバーを使用し、CAMS(カルデラ非対称磁石構造)を採用したモデルだ。
ウラジーミル・フェドセーエフ指揮モスクワ放送による『チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」(自筆譜による世界初録音)』の第3楽章を聴くと、音場が広く包囲感や豊かだ。S/Nの良さや低域から高域までのワイドレンジな再現は現代の半導体アンプと比べても遜色がない。
音色も自然で、解像感も不満はない。反応がよく生き生きとした鳴り方で、さらに真空管らしいしなやかさや、色彩感豊かな高音域が魅力的だ。華やかでリッチな感触は真空管らしい旨味とも言えるが、音色を支配するほどの強い味付けではなく、フレーバー的に正確な音の印象の後に香ってくる。これもAegis+Calderaの大きな魅力と言える。
ZMFの人気ヘッドホンとの組み合わせで「Aegis」の実力をチェック
ヘッドホン:ZMF
Caldera ¥649,000(税込、写真右)
●型式:オープン型●使用ドライバー:80mm平面駆動型ドライバー●インピーダンス:60Ω●感度:95dB/m/W●重さ:480〜510g●イヤーパッド:ラムスキン
Verite ¥462,000(税込、写真左)
●型式:オープン型●使用ドライバー:50mmベリリウムコーティングPEN(PolyEthelene Naphthalate)ドライバー●インピーダンス:300Ω●感度:99dB/m/W●再生周波数特性:10Hz〜25kHz●重さ:430g●イヤーパッド:Verite Pad、Universe Pad
今回はZMFの「Caldera」と「Verite」の2種類を「Aegis」と組み合わせて音を確認してもらった。同ブランドのヘッドホンは、エンクロージャーに木材を使っているのが特長で、サプライズミー(届いてからのおたのしみ)を含めた複数のカラーを選択できるようになっている。
今回の2機種はどちらもオープ型ヘッドホンだが、前者は80mmダイナミック型ドライバーを、後者は50mm平面振動板ドライバーを搭載している点が異なっている。またインピーダンスはCalderaが60Ω、Veriteは300Ωと5倍もの違いがあるが、Aegisはそのどちらも余裕を持ってドライブしてくれた。
続いて、グスターボ・ドゥダメル指揮ウィーン・フィルによる『ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」』から、「鶏の足の上に立つバーバ・ヤーガの小屋」を聴く。怖ろしげなムードや迫力たっぷりのイントロを力強く躍動感充分に鳴らす。細部をつぶさに描くというよりは、重厚感や音楽の勢いをリアルに鳴らす様が印象的だ。
Calderaは平面型らしい音場の広さと、軽やかな感触ながらも低音もしっかりと出す厚みのある音を備えたヘッドホンだが、Aegisと組み合わせると、その魅力がよりはっきりと、そしてダイナミックに描かれると感じた。
より精密な音の「Verite」を、躍動感たっぷりに駆動する
続いては、ダイナミック型ヘッドホン「Verite(ヴェリテ)」(¥462,000、税込)との組み合わせをチェック。こちらは振動板にベリリウムコーティングされたPEN(PolyEthelene Naphthalate)ドライバーを使用し、超軽量なマグネシウムシャーシを採用したモデル。より解像感の高い音になっていて、ややタイトながらも力強い低音域の重厚な響きや弱音まできめ細かく再現する。
写真の「Verite」には、6.35mmとXLRの2種類のケーブルとVerite PadとUniverse Padのふたつのイヤーパッドが、「Caldera」はケーブル2種類とラムスキンのイヤーパッドが付属する
『チャイコフスキー交響曲第6番』の第3楽章では、オーケストラの各楽器の音色をより粒立ちよく再現し、ホールの残響が消えていく最後の瞬間まで鮮やかに描き出す。Calderaと比べてもより精密さを感じるが、決して分析的な小難しい感じにはならず、精密なタッチの絵画を見るイメージだ。
こうしたタイプはともすると、美しい音ではあっても、躍動感に乏しい印象があるのだが、Aegisで鳴らすと実にダイナミックで、緻密でありながらも生き生きと音楽を奏でてくれる。Calderaの方がよりダイナミックに躍動する感じはあるが、Veriteも、やや静かで落ち着いたムードがあるものの、実体感のある優雅なサウンドと感じる。
『展覧会の絵』「鶏の足の上に立つバーバ・ヤーガの小屋」では、重厚さと動きのダイナミックさがよりはっきりと出てくる。ずっしりとした押し出しの強い低域とエネルギーをしっかり再現し、バーバ・ヤーガの姿を鮮やかに描いていく。こちらもVeriteの持ち味をさらに生かすように、そしてダイナミックな迫力を豊かなスケールで描いていくことに感心した。
試聴は鳥居さんのシアタールームで、愛用のネットワークプレーヤーとの組み合わせで行っている
このほか、手持ちのヘッドホンやイヤホンをAegisにつないで聴いてみたが、他の半導体ヘッドホンアンプと比べても解像感や駆動力で物足りなさを感じさせず、優れた実力を持っているのは間違いない。そのうえで、高域の独特な倍音感や音色のしなやかな感触、音の立ち上がりや立ち下がりの反応の良さが印象的だ。
真空管らしい音色の持ち味などはしっかりと感じるが、現代のアンプとしても充分以上の性能と実力を備えている。そのバランス感覚が見事だ。少なくとも、真空管と聞いて多くの人が連想する懐かしい音とか、柔らかい感触というイメージはない。特に反応の良さ、スピード感のある音には新鮮な驚きを感じる人も少なくないだろう。
Aegisはヘッドホンをしっかり駆動できるパワーや、高感度イヤホンで雑味を感じさせないS/N、低歪みといった特長を備えており、傾向の異なるヘッドホン/イヤホンとの組み合わせで、音楽を魅力的に楽しませてくれる。ヘッドホン再生で、生き生きとした躍動感や迫力を得たいと思っている人には、ぜひ体験して欲しいモデルだ。
(撮影:嶋津彰夫)