序論 MM型カートリッジの音質は何で決まるのか
磁気回路よりも、振動系が音質変化の決定的な鍵を握る。優れた基本設計と性能で、シュアーは一時代を築き上げた
海老澤 徹
20世紀も半ばを過ぎた1958年にステレオレコードが登場した。それも米国とヨーロッパでほとんど同時期に全く独立してである。米国ウェストレックス(Westrex)の45/45方式と、ヨーロッパでは、英国デッカ(Decca)と西ドイツ(注1)のテレフンケンの傍系会社のノイマン(Neumann)が共同研究開発したタテ・ヨコ方式の2方式である。
結局、これは米国のRIAA(注2)とヨーロッパの大手レコード会社との話し合いで、従来のモノーラルレコードの再生に、そのまま使える互換性の良さから、ウェストレックスの45/45方式に統一使用されることになった。危うく世界のステレオレコードは異なった2方式に分断される事態から逃れ得たのであった。
この45/45方式の2チャンネル・ステレオ録音方式は、既に1931年に英国EMI(注3)のA.D.Blumlein(注4)が実験的に実現していて、録音された原盤も残っているが、当時の社会的状況がそれを求める程成熟していなかったためか、商用レコードとして実現しなかったようである。
45/45方式のステレオレコードは、内包角が90度の角度を持つレコード盤の音溝の左右の壁の、中心を貫く縦線に対して、それぞれ左右に45度の角度を持ち、機械的振動に対して相互に独立した振動を受容することによって2チャンネルのステレオ録音を可能とするところから名付けられた名称であった。従って、録音再生用のフォノグラフ・ピックアップ・カートリッジ(以下、カートリッジ)は、従来の左右水平に振動するのみのモノーラルレコード用カートリッジに対して、45/45方式のカートリッジの振動系では、それぞれ45度のみの振動自由度ではなく、360度の振動に対する自由度がなくてはならないことは、言うまでもない。このような難しい、新たな問題を抱えたカートリッジに対して、非常に合理的な回答を与えたのが、米国のマイクロフォンで有名なシュアー(Shure)のMM型(注5)カートリッジだった。
注(1)当時はドイツ統一以前なので東西2つのドイツに分かれていた (2)Record Industry Association of America (3)Electric and Musical Industries Limited (4)Alan Dower Blumlein (5)Moving Magnet(ムーヴィング・マグネット)型
シュアー M3D