FEBRUARY 2026 NEW RELEASES- THE CRITERION COLLECTION

THE CRITERION COLLECTION has announced its FEBRUARY 2026 slate of 4K UHD BLU-RAY(4)and BLU-RAY(3)releases. Amongst them are: 3:10 TO YUMA(1957) PLAYTIME (1967) NETWORK (1976)and THE MAN WHO WASN'T THERE (2001)

4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION

いまは、3時5分・・・

クライテリオンの2026年2月リリース・タイトルがアナウンス。今回、4K UHD BLU-RAYは4タイトル。クライテリオン・プレミア・シリーズ(旧ヤヌス・コンテンポラリーズ/クライテリオン・コレクションと差別化したサブレーベルで、配信サービス「クライテリオン・チャンネル」と提携して、劇場公開されたばかりの新作をBLU-RAY & DVDリリース)からは黒沢清監督作『Cloud クラウド』が登場予定となっている。まず2月3日に登場するUHD BLU-RAYタイトルは、デルマー・デイヴィス 監督作『決断の3時10分』(1957)である。犯罪小説の大家エルモア・レナードの短編小説を下敷きに製作された西部劇で、2007年にはラッセル・クロウとクリスチャン・ベイル共演作『3時10分、決断のとき』としてリメイクされている。主演は『復讐は俺に任せろ』(クライテリオンUHD BLU-RAYあり)のグレン・フォード、『シェーン』のヴァン・ヘフリン。監督は脚本家出身で、グレン・フォードとのコンビ作も多いデルマー・デイヴィス 。撮影は『上海から来た女』のチャールズ・ロートン・Jr。

United States • 1957 • 92 minutes • Black & White • 1.85:1 • English ※ When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD

4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES

  • NEW 4K DIGITAL RESTORATION, with uncompressed monaural soundtrack
  • HDR PRESENTATION OF THE FILM(DOLBY VISION / HDR10 COMPATIBLE)
  • Alternate 5.1 surround soundtrack, presented in DTS-HD Master Audio
  • Interviews with author Elmore Leonard and actor Glenn Ford's son and biographer, Peter Ford
  • English subtitles for the deaf and hard of hearing
  • PLUS: An essay by critic Kent Jones

Released: FEBRUARY 10, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 1-DISC)

広告会社のコピーライターとして生計を立てていたレナードが、最初の成功を収めたのは1951年に発表した処女短篇「Trail of the Apache」によってである。1950年代から60年代初頭にかけて、彼は西部劇作家として30以上の短編小説を発表している。1953年出版の初長編も西部劇「The Bounty Hunters」であった。これらの作品の多くは勧善懲悪の西部小説と一線を画しており、すでにアウトサイダーや弱者への愛情が込められていた。悪も善人半分、善も悪人半分という登場人物造形に加えて、登場人物を会話を通して作り上げ、それぞれの話し方で特徴づけている。彼の西部小説の映画化作品は本作品に加えて、ランドルフ・スコット主演『反撃の銃弾』、ポール・ニューマン主演『太陽の中の対決』、バート・ランカスター主演『追撃のバラード』がある。

デルマー・デイヴィスといえば『邂逅(めぐりあい)』『めぐり逢い』の脚本、60年代に監督した『避暑地の出来事』『恋愛専科』などのバカンス映画やラブロマンスで高い評価を得ているが、やはりデイヴィス演出の真骨頂は50年代に量産した西部劇にあろう。そこにはマッチョなヒーローは登場しないし、勧善懲悪とも縁がない。貧しい牧場主エヴァンス(ヘフリン)が、悪名高い無法者ウェイド(フォード)を護送する危険な任務に臨む本作品も然り。ウェイドを刑務所に送るため駅まで護送し、3時10分のユマ行きの列車に乗せようとする理由は単純だ。彼には家族を養うための金が必要だったのだ。

本作品は名作『真昼の決闘』との類似点を指摘する向きも多い。終盤に向かうに連れ、エヴァンスは孤立無援となっていき、もはや法は正義を満たすことはできない。たとえエヴァンスがウェイドを列車に乗せることができたとしても、ウェイドは自ら語ったようにいずれユマ刑務所から脱獄するだろう。そうなればエヴァンスの努力は無駄になる。だがエヴァンスは、たとえ命の危険にさらされても、正義と公平の原則を貫くのだ。

デイヴィスと撮影監督ロートン・Jrは、エヴァンスの窮状の切迫感を観客に強く訴えかけるため、あらゆる手を尽くしている。カラー化の波が押し寄せる中で白黒で撮影し、カメラレンズに赤いフィルターをかけることで暗い空と白熱的な雲(白)を生み出し、風景をより乾燥した印象に仕上げている。この効果はロングショットによってさらに強調されており、必見となろう。

※ When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD

タイトル決断の3時10分
1957
監督デルマー・デイヴィス
製作デヴィッド・ヘイルウェイル
原作エルモア・レナード
脚本ハルステッド・ウェルズ
撮影チャールズ・ロートン・Jr
音楽ジョージ・ダニング
出演グレン・フォード ヴァン・ヘフリン フェリシア・ファー レオラ・ダナ ヘンリー・ジョーンズ リチャード・ジャッケル ロバート・エムハート ロバート・エレンスタイン

4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION

現代パリの摩天楼に現れたユロ伯父さんの大冒険

私はチャップリンやキートンとは正反対だ。昔のコメディアンは、「この映画のコメディアンは私だ。ダンスも歌もジャグリングも、何でもできる」と言っていたものだ。しかしユロは、彼自身が人生そのものなんだ。ギャグは必要ない。ただ歩くだけでいいんだ ー ジャック・タチの言葉通り、『プレイタイム』(1967)はそれまでの彼の作品と同様に、セリフは後から同期され、音量は抑えられ、観客の視線を様式的なアクションや視覚的なギャグに誘導し続けてみせる。舞台は超消費主義が蔓延するミッドセンチュリー・モダンのパリ。6幕構成のストーリーのなかで、一日を通し幾度も出会うふたりのキャラクター。ひとりはアメリカ人観光客グループと共にパリを訪れた若いアメリカ人観光客バーバラ、もうひとりはモダン・パリに塗り固められた小径を軽快に漂い続ける、ご存じユロ氏である。

France • 1967 • 123 minutes • Color • 1.78:1 • English, German, French ※ When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD

本作品は人と物のめくるめく出会いの連続の映画であり、陶酔的な美しさにあふれた物語である。空港ターミナル、オフィスロビー、ホテル、住宅展示場、マンション、ジャズの香り漂うレストラン。磨き上げられ硬質な光沢が支配するデザインの狂騒。そこはキャラクターたちによる、即席の遊び場となる。まさにプレイタイム。そして現代都市建築と都市計画、レジャー産業と消費文化、産業デザインとインテリアデザイン、さらには交通手段に至るまで手当たり次第に笑い飛ばしていく。

語り草となっている延べ面積45150平方メートルにおよぶコンクリート製2棟式美術セット。衰退を迎えていた65mmフィルムでの撮影/70mmプリントの制作(当時35mmプリントは制作されていない)。あらゆる理由によって遅延を重ねた約1年に及ぶ撮影。手間暇をかけた9か月のポストプロダクション。1967年12月に155分ロードショー版がフランスで先行公開されるが、封切後も手を加え続け最終的に上映時間を120分に短縮。それでも興行的に失敗し、否定的な批評の犠牲になり、正当な評価を受けるまで長い時間を要することになる。2022年には123分版が復元され、いまでは高い評価を受ける本作品だが、失われた32分の所在は謎のままである。

4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES

  • NEW 4K DIGITAL RESTORATION, with 3.0 surround DTS-HD Master Audio soundtrack
  • SDR / BT.709 PRESENTATION OF THE FILM
  • Introduction by actor and comedian Terry Jones
  • Three selected-scene commentaries, by film historian Philip Kemp, theater director Jérôme Deschamps, and Jacques Tati expert Stéphane Goudet
  • Like Home, a visual essay by Goudet
  • "Tativille," a 1967 television program featuring an interview with Tati from the set of PlayTime
  • Beyond "PlayTime," a short documentary featuring behind-the-scenes footage from the production
  • Interview with script supervisor Sylvette Baudrot
  • Audio interview with Tati from the U.S. debut of PlayTime at the 1972 San Francisco International Film Festival
  • Tati Story, a short film by Goudet on the life and career of Tati
  • "Monsieur Hulot's Work," a 1976 television program about Tati's beloved character
  • Cours du soir (1967), a short film written by and starring Tati
  • Alternate English-language soundtrack
  • PLUS: An essay by critic Jonathan Rosenbaum

Released: FEBRUARY 10, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 1-DISC)

2009 CRITERION BLU-RAY

2014 CRITERION BLU-RAY

本作品の復元プロジェクトが始まったのは1997年。驚くべきことに、集められた65mmオリジナルネガは想像していたほど損傷しておらず、裂け目や欠損箇所も90%は従来のプロセスで解決でき、残りはデジタルで解決できると結論付けられた。物理的な復元作業は1998年末に開始され、休止期間を挟み、2002年のカンヌ国際映画祭での上映を目指して再開された。4Kスキャニングはオリジナルネガから生成されたインターポジ(コダック VISION 5242)を10ビット解像度で行い、新しいデジタルネガを生成後にデジタルレストア、カラーグレーディングを施している。オリジナルネガに収録されている画像サイズは、40.56mm x 23mm、1.7635:1の比率となる(本盤は1.78:1収録)。これはタチが65mmアスペクト比2.20:1をそのまま採用せず、1.85:1アスペクト(スタンダードサイズ)上映を念頭に入れ、マスキングでわずかに狭めて撮影したことによるものだ。

本作品の新たな修復作業は、スタジオカナル主導で2012年に始まり、2013年に完成。ここでは65mmオリジナルカメラネガを6.5K解像度でスキャニング。欠損箇所や追加箇所は1967年35mmインターネガ、および2002年レストア35mmインターポジを6.5K解像度でスキャン。いずれも16ビット解像度でスキャニングしている。以降のレストア作業は4K解像度で行なわれ、全工程を伊ボローニャの修復ラボ、イマジネ・リトロバータが務めている。クライテリオンからは2009年BLU-RAYと2014年BLU-RAY(BOXセット:THE COMPLETE JACQUES TATI に所収)がリリースされている。2009年版は2002年4Kレストアマスターを使用。一方で2014年版は2013年6.5Kスキャン/4Kレストアマスターを使用している。

解像感やコントラスト改善に伴うディテイル描画力は大幅なアップグレードとなっているが、色調に関してはオリジナルの映像設計に則ったクールなモノトーンに対し、緑味の強いウォームトーンに変更されており、物議を醸したのも記憶に新しい。今回のUHD BLU-RAY化ではSDR/BT.709仕様となるようだが、新たなSDRグレードの結果に注目したい。サウンドは6トラック磁気マスターから生成されたDTS-HDマスターオーディオ3.0を収録(本作品のサウンドトラックは、6チャンネルのうちフロント3chだけを使用してレコーディングされている)。

2009 CRITERION BLU-RAY

2014 CRITERION BLU-RAY

タイトルプレイタイム
1967
監督ジャック・タチ
製作ベルナルド・モーリス
脚本ジャック・タチ
撮影ジャン・バダル アンドレア・ウィンディング
音楽フランシス・ルマルク フランソワ・ローベ
出演ジャック・タチ バーバラ・デネック ジョルジュ・モンタン アンドレ・フーシェ ジャクリーヌ・ル・コンテ フランス・リュミリー

4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION

全米テレビ界の恐るべき全貌を抉る衝撃の大作!

1973年『セルピコ』、74年『オリエント急行殺人事件』、75年『狼たちの午後』と立て続けに傑作を放ってきた名匠シドニー・ルメットが、テレビ業界を舞台に権力をめぐる人間の果てしない欲望を描いた『ネットワーク』(1976)の登場である。

United States • 1976 • 121 minutes • Color • 1.85:1 • English ※ When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD

UBS(ユナイテッド・ブロードキャスティング・システム/架空のテレビ局)が、アーサー・ジェンセン(ネッド・ビーティ)率いる複合企業に買収された。その経営権を握るのは、ジェンセンの腹心フランク・ハケット(ロバート・デュヴァル)だ。彼らがテコ入れしたのが、赤字続きのネットワークニュース部門。ここを率いるマックス・シュマッチャー(ウィリアム・ホールデン)は、長年の友人で「UBSイブニング・ニュース」のベテラン・アンカーマンであるハワード・ビール(ピーター・フィンチ)を呼び出し、視聴率低下のためにあと2週間しか放送できないと告げた ー 映画はここから始まる。番組終了と総合司会の役職解雇に不満を募らせたビールは、翌日の番組放送中になんと「来週の火曜日、番組内で自殺する」と宣言。即刻会社から解雇を言い渡されたビールだったが、マックスの庇い立てもあり、視聴者に謝罪と別れを告げる機会を与えてもらう。

ところが、どうだ。放送が始まるとビールは謝罪するどころか、人生はくだらない、俺は怒り狂っている、もう我慢できないと暴言を吐き始めたのだ。社内や現場は騒然となるが、編成部門の責任者で機械仕掛けの女ダイアナ・クリステンセン(フェイ・ダナウェイ)は違った。ビールの怒りに満ちた演説。その後の視聴率急上昇。これを利用する手はない。視聴率を稼ぎ出すまたとないチャンスと捉えたダイアナは、ニュースをグロテスクなエンターテイメント番組に仕立て上げようと思いつく・・・。鮮烈で鋭いメディア風刺と大胆不敵なユーモア、不気味なほど現代社会に即したメッセージを併せ持ったニュー・ハリウッドを代表する名作である。

1976年 第49回アカデミー賞

受賞主演男優(ピーター・フィンチ)主演女優(フェイ・ダナウェイ)助演女優(ビアトリス・ストレイト)脚本(パディ・チャイエフスキー)
ノミネート作品 監督(シドニー・ルメット)主演男優(ウィリアム・ホールデン)助演男優(ネッド・ビーティ) 撮影(オーウェン・ロイズマン)編集(アラン・ハイム)

4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES

  • NEW 4K DIGITAL RESTORATION, with uncompressed monaural soundtrack
  • HDR PRESENTATION OF THE FILM(DOLBY VISION / HDR10 COMPATIBLE)
  • Audio commentary featuring director Sidney Lumet
  • Paddy Chayefsky: Collector of Words (2025), a feature-length documentary about the screenwriter by Matthew Miele
  • The Making of "Network" (2006), a six-part documentary by Laurent Bouzereau
  • Trailer
  • English subtitles for the deaf and hard of hearing
  • PLUS: An essay by writer and New York Times columnist Jamelle Bouie

Released: FEBRUARY 24, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 1-DISC)

※ When viewing this clip, please set resolution to 2160p/4K

オスカー脚本賞を受賞したパディ・チャイエフスキーは、50年代のテレビ黄金時代を代表する脚本家・劇作家である。チャイエフスキーの親密で写実的と称されたテレビシナリオは、1950年代のテレビドラマに自然主義的なスタイル(ナチュラリズム)をもたらしたことでも知られている。活躍の場を劇映画の世界に移してからも優れた脚本を創作し続け、『マーティ』(1955)、『ホスピタル』(1971)と本作品で3つのオスカーを獲得している。とりわけ本作品の脚本は彼の最高傑作とされ、いまなお「教養があり、ダークなユーモアと息を呑むほどの先見性を備えた作品であり、20世紀最高の脚本」と高い評価を得ている。「質の高い番組に対するネットワークの関心の欠如」を非難してテレビ界を去ったチャイエフスキーは、その後もテレビ業界を風刺するというアイデアを常に持ち続け、最終的に本作品でそのアイデアを実現した。

チャイエフスキーによれば、草稿段階ではコメディ映画の脚本を書くつもりだったいう。だがテレビニュースが視聴者の暴力や殺人に対する感覚を麻痺させ、それが放送局にも影響を与えていると考えていたチャイエフスキーは、脚本に自らの感情を注ぎ込んだ(チャイエフスキーが執筆中に、フロリダのニュースキャスターだったクリスティーン・チュバックが、生放送中に自ら自殺すると読み上げてから頭部を撃ち抜いた事件が起きている)。こうして完成した脚本は、リアリティ番組の到来を20年も先取りしていたと言われている。それはまるで企業支配のアメリカの腐敗した魂を透視するレントゲン写真のようであり、現代の怒りに駆られたニュースサイクルまでも驚くほど先見の明をもって予見していたのである。

※ When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD

撮影監督は『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』のオーウェン・ロイズマン。プリプロダクションの段階でロイズマンと監督ルメットは、ストーリーが進むにつれて撮影スタイルを変化させていくことで意見が一致していた。前半部分はナチュラリズム、次第にリアリズムの傾向を強めていき、最終的にはメリハリを効かせた商業主義的な映像スタイル(商業的な目的で使われる宣伝写真を思わせるライティング)へと変化を遂げていく。前半から中盤以降への変貌は「リアリズムとナチュラリズムは別物だ。リアリズムはナチュラリズムに方向性を持たせ、凝縮したものだ(ルメット)」という映像テーマに根差したものでもあり、カメラワークも次第に抑えられ、やがてほとんど動きがなくなってしまう。ナチュラリズムのライティングは人工照明を極力排し、自然光やアベイラブルライト(その場にある灯り)を活用したもの。例えば開幕、オフィスビル前の夜道でのシュマッチャーとビールの場面。パナビジョンのウルトラスピード​​レンズを絞り開放で撮影したショットは、本物の夜のムードを醸し出している。続くバーでのショットも然りだ(いずれも増感現像を行っていない)。

一方でリアリズムは、現実世界にある生の素材を故意に様式化しており、ナチュラリズムの理屈からは考えられないライティングも登場する。ニュースルームやスタジオ、役員室や公共施設といった明るい照明の世界に視覚的な暗さを大胆にレイアウト。例えばニューヨーク公共図書館の場面では徐々に照度を落としながら、最後は人物の顔は完全に影で覆われてしまう。極度のローライトレベル撮影を敢行したクリステンセンとシュマッチャーの場面は、夜のムードを保ちながら、人物の顔と窓の外の夜景空間を同時に捉えるに足りる低照度のライトレベルを保つことが絶対条件とされ、25Wの電球を人物へのキーライト(主光)として使って撮影されている。照度はおよそ0.3ルクス。満月の夜の屋外や星明りの夜に近い照度である(日本語字幕表示はご法度)。

本作品の3つの撮影スタイルの構築は(多くの映画と同じく)厳密な領域を設けているわけではなく、むしろ実行可能な関連し合う範囲でなされている。クライマックスではふたつのスタイルがクロスカッティング(交互編集)されているように。本作品におけるロイズマンの撮影技術をはじめとする技術的成果は『フレンチ・コネクション』と並べ称されるべきものだが、まずはストーリーテリングありき、俳優たちの巧演を支えるように(どちらかといえば)控えめに披露されている。

※ When viewing this clip, please set resolution to 1080p/HD

タイトルネットワーク
1976
監督シドニー・ルメット
製作ハワード・ゴットフリード
脚本パディ・チャイエフスキー
撮影オーウェン・ロイズマン
音楽エリオット・ローレンス
出演ウィリアム・ホールデン フェイ・ダナウェイ ピーター・フィンチ ロバート・デュヴァル ネッド・ビーティ ビアトリス・ストレイト ウェズリー・アディ ビル・バロウズ コンチャータ・フェレル

4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
DIRECTOR-APPROVED 4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION

髪型を変えるように少しだけ人生を変えたい

『ネットワーク』と同日にリリースされるのが、ジョエル & イーサン・コーエン兄弟監督作『バーバー』(2001)である。タイトルバックにクレジットされるのは、兄のジョエルが監督、弟イーサンが製作、脚本にはふたりの名が並ぶ。ローバジェット作品ながら高い評価を得た犯罪スリラー『ブラッドシンプル』を夜に放って以来(例外を除いて)コーエン兄弟はこのスタイルで銀幕を飾って来た。どの作品も中毒性たっぷり、精巧精緻で創意あふれるストーリー、計算され尽くした様式美、毒の効いたユーモアで貫かれている。もちろん、本作品も例外ではない。冷徹でありながらも面白く、暗く不吉な遊び心も持ち合わせている。「実存主義的なフィルム・ノワールであり、カラスより真っ黒なブラックコメディ」と評されたのも頷けよう。

ジェームズ・M・ケイン(『深夜の告白』『郵便配達は二度ベルを鳴らす』)の犯罪小説に強く影響を受けた本作品は、表面的にはパスティッシュに近く、ノワール調のスタイルは、アイデンティティ、罪悪感、そして贖罪といった問いを織り交ぜるための枠組みに過ぎない。これはコーエン兄弟が語ったように「中年の危機を描いた映画」であり、心理的なサスペンスと罪悪感に苛まれる人間の内面描写に焦点を置いた「ヒッチコックファンに贈るドストエフスキー小説の映画化作品」なのである。

2001年 第54回カンヌ国際映画祭

受賞監督賞
ノミネートパルム・ドール

United States, United Kingdom • 2001 • 116 minutes • Black & White • 1.85:1 • English ※ When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD

主人公はエド・クレイン。第二次大戦後のカリフォルニア州中部サンタローザで理髪師として働く彼は、自分を理髪師だと思ったことは一度もない(モノローグ)という寡黙で、自分の居場所を見失い、かろうじて人生を漂流しているような男だ。銀髪、スモーカーズフェイス、陰鬱な風体のエドを演じるのは、ハリウッドに欠くことのできない個性派アクターであるビリー・ボブ・ソーントンである。彼の強烈な存在感は、動かず何もしない場面であっても観客の視線をクギ付けにする。

ソーントンが主役となれば、さぞかし情熱的な犯罪が発生するのではないかと期待させるが、驚くほどスローテンポでドラマは進行していく。エドは妻のドリス(フランシス・マクドーマンド)が不貞を働いているであろうことを気に留めず、「ここは自由な国だ」と肩をすくめて受け流す。エドとドリスの結婚生活も幸せそうには見えず、ほとんど口も利かない。だがベンチャーキャピタリストのクレイトン・トリヴァー(ジョン・ポリト)が理髪店にやって来たことで、エドの人生は一変する。ヘンリー・フォード以来最大のビジネスチャンスがあるんだ。ドライクリーニングっていうやつで、すべて化学薬品を使うんだよ。必要な資金は1万ドル。そんな資金はない。それでも衝動的にドライクリーニング店に投資すると決めたエド。それが悲劇を招くことになる。

When viewing this clip, please set resolution to 720p

DIRECTOR-APPROVED 4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES

  • 4K DIGITAL RESTORATION, supervised and approved by director of photography Roger Deakins, with 5.0 surround DTS-HD Master Audio soundtrack
  • HDR PRESENTATION OF THE FILM(DOLBY VISION / HDR10 COMPATIBLE)
  • Audio commentary featuring filmmakers Joel and Ethan Coen and actor Billy Bob Thornton
  • New conversation between the Coens and author Megan Abbott
  • Archival interview with Deakins
  • Short making-of documentary and deleted scenes
  • English subtitles for the deaf and hard of hearing
  • PLUS: An essay by author Laura Lippman

Released: FEBRUARY 24, 2026
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY 1-DISC)

撮影は『ブレードランナー 2049』でオスカー受賞の名手ロジャー・ディーキンス。本作品はディーキンスにとって6作目のコーエン兄弟作品である。本作品は白黒作品として一般公開されたが、ご存じのようにカラーネガ(Kodak Vision 320T 5277)を用いて撮影してデジタイズされ、より精密な工程管理を行うためにポストプロダクションで白黒に色調変換、上映用白黒プリントを生成している(低速高解像度プリントフィルム Kodak 2302/限定カラープリント版はVision Premier 2393)。本作品の1年前、ディーキンスは映画作品(『オー・ブラザー』)で初めて全編デジタルインターミディエイト(DI)を用いたことで知られるが、ここでも古典的なノワール作品を彷彿させるビジュアルスタイルを、芳醇なムードと美しい白黒映像で愛情を込めて再現している(2001年長編DI作品は、本作品と『ムーラン・ルージュ』『スコルピオンの恋まじない』『ガーゴイル』の4作品)。本盤はディーキンス監修・最終承認を経た最新4Kデジタルレストア/HDRグレード版。オリジナル・カラーカメラネガからの4K UHD BLU-RAY化と伝えられてはいるが、正式なテクニカルプロセスはアナウンスされていない。後日アナウンスに注目されたい。

ディーキンスによれば「この映画では独創性と模倣の狭間で葛藤があった」というが、それは「フィルム・ノワールはあまりにも馴染み深く、これまでさまざまな映画で使い古されたジャンルであるため、必然的に特定の特徴が生まれる」からだという。だからというわけではないが、ディーキンスの本作品における撮影テクニックは非常に伝統的で、標準的なレンズとライティングを組み合わせることで洗練された映像スタイルを生み出している。

プリプロダクションで撮影スタイルについて彼ら(コーエン兄弟)が言及したのは、アルフレッド・ヒッチコックの『疑惑の影』だった。彼らが共感していたのは、写実的なルックよりも、カリフォルニアの小さな町の雰囲気だった。そのことについて話し合ううちに、結局は『フィルム・ノワールをやるのではない』ということになった。もっと現代的な感覚の映画をやりたかったんだけど、たまたまこうなっただけ。フィルム・ノワールやそのライティングを意識的に再現しようとしたわけではない。参考にしたものも何もなかった。『市民ケーン』や『サンセット大通り』にみるような撮影をやろうということではなく、他の作品と同じように「このシーンは、この物語にとって、どんな感じになるべきか」を考えながら撮影に臨んだだけだ。そのためにライティングを組み上げて、デジタルでフィニッシュして、その瞬間にしっくりきたことやっただけだ。それがたまたまフィルム・ノワールらしく見せただけなんだ。撮影監督ロジャー・ディーキンス

 

タイトルバーバー
2001
監督ジョエル・コーエン イーサン・コーエン(ノンクレジット)
製作イーサン・コーエン
製作総指揮イーサン・コーエン
脚本ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
撮影ロジャー・ディーキンス
音楽カーター・バーウェル
出演ビリー・ボブ・ソーントン フランシス・マクドーマンド ジェームズ・ガンドルフィーニ アダム・アレクシ =モール マイケル・バダルコ キャサリン・ボロウィッツ リチャード・ジェンキンス スカーレット・ヨハンソン ジョン・ポリト トニー・シャルーブ リリアン・ショーヴァン

NEW & BACK NUMBER:世界映画Hakken伝 from HiVi
NEW:2026年1月のクライテリオン 4K UHD BLU-RAY『蜘蛛女のキス』『ヤンヤン 夏の想い出』『デッドマン』『海賊ブラッド』『記憶の棘』『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』