東京・世田谷の「東宝スタジオ」は、数々の日本映画の名作が制作されてきた国内最大級の映画撮影スタジオだ。そして数年前には大規模なリニューアルを実施、最新設備を備えた施設に生まれ変わっている。その詳細は潮 晴男さんにリポートしてもらったが(関連リンク参照)、さらに今回、「ポストプロダクションセンター1」内の「ダビングステージ1」がドルビーアトモス・シネマのミックスに対応したという。今回はさらなる進化を遂げたダビングステージ1にお邪魔して、ドルビーアトモス・シネマに対する東宝スタジオの取り組みを聞いた。対応いただいたのは、TOHOスタジオ株式会社 ポストプロセンター ポストプロ営業部長の早川文人さんと、同サウンド部 シニアテクニカルマネージャーの竹島直登さん。(StereoSound ONLINE)
編集部注:東宝スタジオでは、一般見学は受け付けていません
今回お邪魔した、東宝スタジオの「ポストプロダクションセンター1」。ダビングステージ1やアフレコステージ、フォーリーステージ、サウンドエディットルーム、試写室などを備えている 「資料提供:TOHOスタジオ」
潮 ご無沙汰いたしました。前回は2019年に、東宝スタジオ全体のリニューアルが一段落したタイミングでお邪魔しました。あの時も最新のデジタル撮影への対応など、興味深いお話を聞かせてもらいました。ただ、1点だけ気になっていのが、ダビングステージがドルビーアトモスのミックスに対応していなかったことでした。
早川 もう6年経つのですね。あの時にも潮さんから、ダビングステージ1はドルビーアトモスのミックスに対応しないんですか? と質問がありましたね。ただ当時はドルビーアトモスの需要がどれくらいあるのか、また会社上部には進言をしていましたが需給のバランスで積極的に進んではいませんでした。
潮 でもいよいよ今回、ダビングステージ1がドルビーアトモスのミックスに対応したとのことで、個人的にも興味津津です。ぜひ詳しいお話を聞かせてください。
早川 ありがとうございます。やっと、ご期待に応えることができました(笑)。
潮 さっそくですが、ダビングステージ1は日本国内のドルビーアトモス用ダビングステージとしては、何ヵ所目になるんでしょう?
竹島 もともとグロービジョンさんと東映デジタルセンターさんのふたつがあり、さらに昨年、角川大映スタジオさんにもドルビーアトモス対応のダビングステージが完成しましたので、弊社は4番目になります。
潮 その4つでは、ダビングステージとしての空間、エアボリュウムという意味ではダビングステージ1が一番大きんじゃないかな。映画館の席数でいうとどれくらいの大きさですか?
竹島 シネコンの小さめのスクリーンくらいで、200席弱ぐらいの広さだと思います。
潮 その意味では、興行ができるサイズの空間で音をミックスしているということで、なかなか贅沢だと思います。
小型映画館ほどのサイズを備えたダビングステージ1。スクリーンは幅10.8×高さ4.5mという大きさで、フロントL/C/Rスピーカーやサブウーファーはその裏に配置されています
竹島 この部屋は一般的なドルビーアトモスのダビングステージに比べても天井が高いので、そういう部分でも、劇場に近い形での音響制作を実現できていると思います。
潮 確かに天井が高いのはいいですね。ところで、東宝スタジオとして本格的にドルビーアトモス対応に向けて動き出したのは、いつ頃からで、そこにはどんな経緯があったんでしょうか?
早川 プロダクションセンターとしては、会社に対してもドルビーアトモスのミックスに早く対応したいという提案は行っていました。
もともと2009〜2010年にこの建物(ポストプロダクションセンター1)を建てる時から、次世代のイマーシブオーディオフォーマットとしてドルビーアトモスの話は聞いていました。当時、故・多良政司さん(スタジオエンジニア。東宝スタジオサービス取締役も努め、ポストプロダクションセンター建設にも携わる)がハリウッドのドルビー本社を訪ねたそうで、その時に天井にスピーカーが2個付いていたという話を聞いたことがあります。
そういった情報はありましたが、日本映画の場合、劇場の上映システムを含めて音声フォーマットを新しくするのには時間がかかりますので、すぐにというわけにはいきませんでした。洋画作品などでドルビーアトモスが凄いという話にはなるのですが、日本映画でそれを制作しようということになると、映画館数も少ないし、制作コストもかかるので、5.1chや7.1chでいいんじゃないの……、ということになっていたんです。
潮 作品を作るのが先か、上映館が先か。鶏と卵と同じで、永遠のテーマですね(笑)。
竹島 ダビングステージ1を作る時には、天井に2個スピーカーがつけられるように準備はしていたんです。ただ、ドルビーアトモス・シネマの詳細が出てきたら天井スピーカーの数も増えていて、その後もレギュレーションが変わっていったので、なかなかフィックスできませんでした。
潮 なるほど。そんな苦労を乗り越えて具体的な形になったのが、この数年だったと。
竹島 ひとつの契機になったのは、『ゴジラ-1.0』でした。あの作品はこの部屋で5.1chと7.1chのサウンドミックスを行いましたが、ドルビーアトモスでも上映するという話になった時に、弊社にはミックスできる場所がなかったので、東映デジタルセンターさんで作業をすることになったんです。
東宝の看板作品である『ゴジラ』を他社のダビングステージで作業しなくてはいけないという事態について本社でも色々考えたようで、そこから話が進んでいきました。
天井には左右各9個のスピーカーが取り付けられている。これらの設置角度もすべて最適な値に調整されているとのこと
潮 確かに『ゴジラ』は東宝にとって、他の作品とは違う特別なコンテンツでしょうからね。ところで、この部屋はもう稼働しているそうですが、最初にミックスしたドルビーアトモス作品は何だったのでしょう?
竹島 8月末に公開された川村元気監督の『8番出口』になります。もともとダビングステージ2で5.1chと7.1ch音声を仕上げていたんですが、ドルビーアトモスで公開するという話になって、ダビングステージ1でミックス作業を行いました。せっかくドルビーアトモスにするならということで、音響チームにもう一度集まってもらって、ステム(オリジナルの音素材)からミックスをやり直しました。
潮 実際の作業としては、5.1chや7.1chを先に作って、それをドルビーアトモスに拡張する方がやりやすいんですか?
竹島 いえ、先にドルビーアトモスを作って、そこから5.1chや7.1chにミックスダウンしてく方が作りやすいですね。
早川 5.1chや7.1chからドルビーアトモスに変換する方法もありますが、それだとフォーマットのメリットを活かしきれないこともあります。ステムが準備できるなら、いちから作ったほうがいいと考えています。
潮 そうですよね、視聴者としても最初からドルビーアトモスでサウンドデザインされた方が嬉しいですよ。ところで『ゴジラ-1.0』は2023年末の公開ですが、それが契機だったということは、ダビングステージの改装はその後に行ったということですね?
竹島 工事は昨年12月末から着手しました。天井まで届く、4階建ての足場を組んでスピーカーの設置作業を行ないましたが、実際に登ってみるとかなり怖かったですよ(笑)。完成したのは今年の5月、ゴールデンウイーク明けでした。約4カ月の工事期間となりました。
潮 ダビングステージ1については、アメリカのソルター社(Charles M Salter)が設計したというお話でしたが、今回も同じですか?
竹島 今回は日本音響エンジニアリングさんに御協力いただいています。建物の駆体を大きく触るといった工事ではなく、ソルター社が設計したダビングステージ1の音場を可能な限り崩したくないという思いが、会社にも僕らにもありました。その部分にはかなり神経を使って、いかにドルビーアトモスに対応するか、日本音響さんと相談して慎重に作業を進めました。
取材はダビングステージ1で行っている。インタビュー後にドルビーアトモス・シネマのデモ音源も聴かせていただいた
潮 天井スピーカーは何個設置したんですか?
竹島 左右それぞれ9個で、合計18個になります。その他にサラウンドとサラウンドバックスピーカーも入れ替えています。
潮 サラウンド、サラウンドバックスピーカーも新しくなったんですね。
竹島 エレクトロボイス「EVF-1152D-99」です。改装する前は、サラウンドとサラウンドバックスピーカーはエレクトロボイスのユニットを使った特注品でした。それを残すという案もあったんですけど、レイアウトの関係で外さざるを得ませんでした。いいスピーカーだったんですよ。
潮 このスピーカーは、試聴して選んだんですか?
竹島 弊社では、ダビングステージに以前からエレクトロボイス製を使っていて、このスピーカーもダビングステージ2で採用しています。今回も、トルビーさんから提示されているスペックに適合するエレクトロボイスのスピーカーはこれしかなかったんです。ただ、エンジニアとしてこういう音が出るだろうというイメージはついていたので、安心して機種を選ぶことができました。
早川 ダビングステージ1はフロントL/C/Rやサブウーファーもエレクトロボイス製で、ここは完成当時から変わっていません。
潮 エレクトロボイスのスピーカーを使っているダビングステージは減っているんですよね。ちょっと地味だけどいい音がするから、個人的には好きなんだけどなぁ。ところで、アンプは何を使っているんでしょう?
竹島 アンプは、フロント用も含めてすべてアムクロン製です。もちろん、フロント用とサラウンド、天井スピーカー用で型番は違いますが。
早川 ダビングステージの場合はサポート体制や流通量も大切ですので、それらも含めてアムクロンが最適だと判断しました。
潮 改装作業は自社で行ったのでしょうか?
竹島 スピーカーの導入と設置については、楽器音響さんにお願いしました。今回は天井スピーカーとサラウンド、サラウンドバックスピーカーを入れ替えていますが、それらのスピーカーの角度はすべて微妙に違っています。楽器音響さんにはそのための金具を特注で作っていただいたんです。
潮 コンソールはそのままですか?
竹島 AvidのS6に変わっています。S6は、ドルビーアトモス・シネマとの親和性が高いということもあり、現時点ではエンジニアの負担を考えると、選択肢としてはこれしかなかったということころです。以前使っていたNEVEのDFC GeMiNiは、規模を縮小(16chフェーダー)して残してあります。
サラウンドとサラウンドバックスピーカーも、トップスピーカーと同じエレクトロボイス「EVF-1152D-99」に入れ替えた。これは同じく東宝スタジオのダビングステージ2と共通とのこと
潮 その他に改装時に注意したことはあったのでしょうか?
早川 スピーカーレイアウトの設計時点で、アメリカのワーナー・ブラザースさんにアドバイザーとして入ってもらいました。元々ダビングステージ1はハリウッドにあるワーナー・ブラザースさんのダビングステージ9を参考にしているんです。
竹島 今回ワーナー・ブラザースさんから、CMA(Critical Mix Area=ダビングステージのリスニングエリア)についてのアドバイスをいただきました。通常のドルビーさんの規格ではこのエリアが結構ピンポイントなんですが、ダビングステージ1ではCMAを少し拡大しています。
潮 拡大したというのは、スピーカーの角度を変えたということですか?
竹島 そうです。CMAの大きさに合わせてそれぞれのスピーカーの角度が決められていますので、エリアを広げるためには1個1個のスピーカーの角度を再調整しなくてはいけません。これは、他のダビングステージでは行われていないと思います。
潮 具体的には、どれくらい広げたんでしょう?
竹島 一般的なCMAはミキシングエンジニアの席近辺だけですが、今回はその後ろにある監督席まで入るようにしました。その方がミックス作業の際にも監督の意向を反映できると考えたのです。
もちろんCMAの中じゃないとドルビーアトモスの効果が分からないかというと、そんなことはないんです。でもダビングステージ1では、ミキサーと監督で同じ聴こえ方にしたかったんです。
潮 それにしても、30個以上あるスピーカーの角度をひとつひとつ決めていったわけですから、時間もかかったでしょう。
竹島 設計が固まるまでにものすごく時間がかかって、施工業者さんには本当に申し訳なかったです。このタイミングで決定してくれないと、金具の製作が間に合いません、なんて言われました(笑)。
潮 いいものを作るためには、そんな苦労も必要ですよ。ダビングステージはある意味で、映画音響の計測器ですから。ところで、完成したダビングステージのチェックはドルビーが行うんですか?
早川 ドルビー米国本社からエンジニアが来て最終チェックをするという話もあったのですけど、ダビングステージ1に関してはドルビージャパンさんが担当する事に落ち着きました。
ダビングステージ1の改装工事の様子。天井スピーカーに加え、サラウンド、サラウンドバックスピーカーもすべて入れ替えているとのことで、かなり大規模な改装になったようです
潮 さて、ダビングステージ1でのドルビーアトモス第一作は『8番出口』とのお話でしたが、今後もドルビーアトモス作品のオーダーは順調にありそうですか?
早川 お声がけいただくことは増えています。また東宝配給の他に、TOHO NEXTというレーベルで公開している作品群もあります。そこではアニメや音楽作品、また視聴者がスマホ投票でストーリーを決定していくインタラクティブな実験的タイトル等もあります。それらの中でドルビーアトモスを採用するケースも出てくるのではないかと思っています。
潮 東宝スタジオのエンジニアさんは、ドルビーアトモスのミックスは既に経験されているんですよね?
竹島 はい。僕を含めて、ダビングステージ1ができる前から、外部のスタジオだったり、あるいはドルビーアトモス・ホームにはなりますが、Netflix 用のドルビーアトモス作品の制作は手掛けていました。
早川 今後は、公開時に5.1chや7.1chだった作品についてもドルビーアトモスでリマスターして劇場公開するといったケースが増えていくかもしれません。特に人気の高い名作アニメーション作品をドルビーアトモスで作り直すといったこともありそうですので、その場合はぜひ弊社のダビングステージ1をお使いいただければと考えています。
潮 確かに、過去の名作を現在の技術で蘇らせるのもこれからは大切です。ぜひここのような最新設備を活用して取り組んでもらいたいですね。
竹島 ドルビーアトモス・シネマのダビングは現在も何本か進行しており、僕自身も現場に立ち会っています。
潮 実際にダビングステージ1でミックス作業をしてみて、いかがでしたか?
竹島 元々ダビングステージ1はセパレーションがいい空間だったんですが、それがさらに良くなりました。それぞれの音がチャンネル間のどこで鳴っているかが分かりやすくなった気がします。
しかもそれはドルビーアトモスに限ったことではなく、5.1chや7.1chの音源を改装前と後で聴き比べても、チャンネル間の音のつながりがよくなっていたり、よりサラウンド感を得られるようになっています。
潮 音のつながりが改善されて、いっそうサラウンドらしさを感じることができたと。
ダビングステージ1の入口にて。右のプレートにはワーナー・ブラザースとソルター社への謝辞が刻まれています 「資料提供:TOHOスタジオ」
竹島 改装前は音がごちゃごちゃしていたのかも、と感じちゃうくらい今は状態がいいですね。最近は音素材のクォリティも上ってきていますので、それをきちんと再現できるようになったと言えるかもしれません。
潮 昔の日本映画はセリフもシャキシャキで強調気味だったけど、最近はかなりナチュラルになっていますよね。
竹島 昔はセリフの収録にワイヤレスマイクを使うことが多かったので、そういう傾向がありました。しかし今は、ノイズをなくすためのプラグインソフトも性能がどんどん良くなってきているので、現場でのいらない音などをカットできます。それもあって、セリフの収録でもガンマイクをメインに使えるようになってきました。
潮 ということは、アフレコの機会も減ってきているんですね?
竹島 ノイズリダクションの性能がよくなっていることもあって、同録した音声を使うケースが増えています。といっても、現場によっては交通量が多いとか、雨が降っているといったこともありますので、アフレコは必要です。ただアフレコはするけれど、同録と比べていい方を使いますよっていう感じですね。
潮 音楽作品でドルビーアトモスを採用するケースも出てきていますが、そのあたりはどうお考えですか?
早川 映画でも音楽作品でも、ドルビーアトモスのミックス自体には違いがありません。実際、いくつかの音楽作品についてはダビングステージ1で作業しませんかと交渉中です。近い将来、ここでミックスしたドルビーアトモスの音楽作品が劇場公開されるかもしれません。
潮 それは楽しみです。
早川 現在の日本映画でドルビーアトモスをどう使うかを考えると、実写作品の場合、大作じゃないと予算的にも難しいですし、作品内容によって費用をかけてまでアトモスで制作するか悩ましい問題もあると思います。アニメーションや音楽作品から取り組んでいくのも、ひとつの方法かもしれません。
潮 最近はアニメの音響さんの方がドルビーアトモスに対する経験もあるし、イマーシブオーディオへの意識も進んでいますからね。
早川 近年は、5.1chや7.1chについてはどこのスタジオでもそれほど違いがないように感じますが、ドルビーアトモスでは高さも重要なので、部屋の容積にもかなり影響されます。それもあって、同じ音素材を聴いてもだいぶ印象が違うと思います。となると、ドルビーアトモスをどこのダビングステージでミックスするかは重要ですので、実際の映画館に近い大きさを持ったダビングステージ1はいかがですか? と提案していきたいと思います(笑)。
潮 それはいい提案です! せっかくこんなにいいダビングステージができたんだからどんどん活用して、日本映画の立体音響を進化させてください。期待しています。
取材に協力いただいた皆さん。写真に向かって、潮さんの左がTOHOスタジオ株式会社 ポストプロセンター ポストプロ営業部長 兼 ポストプロ営業課長の早川文人さんで、その隣がポストプロセンター サウンド部 テクニカルクルー 中村日菜乃さん。右がポストプロセンター サウンド部 シニアテクニカルマネージャー 竹島直登さん
エネルギー感に満ち溢れたドルビーアトモスのサウンドに感動!
新たな“東宝サウンド”が、この空間から生み出されていくのは間違いない 潮晴男
久々に劇場音響の基準である85dBの音圧の洗礼を受けてきた。リニューアルされた東宝のダピンクステージ1のサウンドはドルビーアトモス仕様になったことで、一段とパワフルになった。空間の再現性だけでなく、以前にも増して音色そのものが力強くなったように感じられたのである。
東宝と言えば、磁気録音による4chで製作した『天国と地獄』や邦画初のドルビーステレオ作品として1981年に『連合艦隊』を劇場公開するなど、立体音響への取り組みにおいて先陣を切ってきたブランドだけに、ドルビーアトモス対応への遅れは彼らにとっても忸怩たる思いがあったことだろう。ダビングステージ1のサウンドはそうした鬱憤を晴らすかのように見晴らしがよく、それでいて全チャンネルのつながりが実にスムーズだった。
そのためのスピーカー設置に関する苦労話は本文をご覧いただきたいが、その間にスタジオをお休みして改修に臨んだだけのことはあったようだ。単純にトップスピーカーやアンプを加えたのではなく、サラウンドやサラウンドバックチャンネルまでトータルで見直しているところに、彼らの真骨頂がある。
ドルビーアトモス作品として是が非でもこのスタジオで作りたかったであろう、『ゴジラ-1.0』をぼくのリクエストしたシーンまで交えて視聴させてもらったが、いやはや、こんなところにまでLFEが入っていたのかという発見とともに、ゴジラの咆哮がドルビーアトモスチャンネルにまで響き渡る音響設計がありありと見える様子には驚かされた。
またこのダビングステージ1はいい音というだけでなく、出来の悪い音を映し出す鏡のようなモニターライクな側面も持ち合わせている。音響制作者の腕が見透かされるような怖いハコであることもよく分かった。派手さはないがエネルギー感に満ち溢れた音が、これからの東宝サウンドに反映されていくことは間違いない。この先どんなドルビーアトモスサウンドの提案がこのスタジオから生まれるのか、大いに期待して待ちたい。