かつては熱心にオーディオを追求していたが、結婚などをきっかけにオーディオから離れてしまった人は少なくないだろう。あるいはもっと手軽に、リビングなどで気楽に楽しむシステムが欲しいという人も多いだろう。そんな人々の思いはひとつ、“質には妥協したくない”。予算の制約はあるものの、その範囲内で可能な限り質の高いものを選びたい。音質を含めて、長く愛用できるシステムを使いたい。趣味のオーディオだからこそ、そういう贅沢さも求めたい。
今回はそんな質の高さを存分に楽しめて、しかも多様化する最新の音楽メディアにも幅広く対応するオーディオシステムを考えてみた。なかなかの難題であるが、現在の最新のコンポーネントをよく吟味すれば決して不可能ではない。
ストリーミング、CD、ハイレゾ、アナログレコードまで、現在の主な音楽ソースを手軽に楽しめるお薦めシステムを組んでみた。定価で合計60万円弱だが、これから本格オーディオを始めたいという人には一度体験していただきたい
ストリーミング、ハイレゾファイル、CDディスクまで。
「PLAY CD Edition」の対応力と音質に感動する
再生機器には、エバーソロ「PLAY CD Edition」を選んだ。ミュージックストリーマー「DMP-A6」で大きな話題を集め、安価で高機能、しかも音質もかなり優秀だと高く評価されたエバーソロの、オールインワン・ミュージックストリーマーだ。
¥187,000(税込)という価格ながらも、DMP-A6などとほぼ共通のミュージックストリーマー機能を持ち、60W+60W(8Ω)のパワーアンプを内蔵。近年人気の高いアナログレコード再生のためのMM/MCイコライザーアンプまで一体化している。CDの再生/リッピングが可能なCDドライブも備え、配信サービス、CD、アナログレコードとほとんどのオーディオ再生に対応するモデルだ。なお弟機の「PLAY」はCDドライブを搭載していない。
オールインワン ミュージックストリーマー:Eversolo PLAY CD Edition ¥187,000(税込)
●ディスプレイ:5.5インチ タッチスクリーン
●内蔵DACチップ:AK4493SEQ
●内部メモリー:4GDDR4+32GeMMC
●接続端子:USB3.0✕2、RJ-45(10/100/1000Mbps)、HDMI(ARC)、デジタル入力(光/同軸)、デジタル出力(同軸)、アナログ入力(RCA)、フォノ入力(RCA、MM/MC)、サブウーファー出力
●対応デジタル信号:最大DSD512、リニアPCM 768kHz/32ビット
●再生ファイル:DSD(DSF、DFF、SACD ISO)、最大DSD512のDST、MP3、APE、WAV、FLAC、AIF、AIFF、AAC、NRG、CUE
●対応ストリーミング:TIDAL、Qobuz、HIGHRESAUDIO、AmazonMusic、他●対応Bluetoothコーデック:SBC、AAC
●アンプ(D級):60W (8Ω)✕2、110W (4Ω)✕2●
寸法/質量:W230✕H75✕D230mm/2.9kg
※ラインナップ:PLAY ¥165,000(税込、CDドライブ非搭載)
スピーカーは、デンマークのオーディオベクター「QR1 SE」(¥330,000、ペア、税込)を選んだ。自社開発によるAMTドライバーと、6インチウーファーを組み合わせた2ウェイ・ブックシェルフスピーカーだが、同ブランドの最新技術が採り入れられ、コンパクトなサイズに同社の魅力を凝縮したモデルとなっている。
PLAY CD EditionとQR1 SEの第一印象は、思った以上にコンパクトなこと。オールインワンのPLAY CD Editionは横幅230mmのハーフサイズで、自宅のちょっとした棚などに気軽に置いて使える。QR1 SEもブックシェルフ型スピーカーとして標準的なサイズで、スタンド設置だけでなく、背の低い棚や広めの机ならばデスクトップ設置も不可能ではない。
さっそく音を聴いてみよう。USBメモリーに保存したハイレゾ音源から、小澤征爾指揮 サイトウ・キネン・オーケストラによる『ベルリオーズ/幻想交響曲』の第5楽章を再生。小型スピーカーながらも低域のゆったりとした感触があり、オーケストラの雄大なスケール感も遜色なく再現される。どっしりとした重厚感があり、力強く、それでいて踊るように軽快なメロディを臨場感豊かに聴かせてくれた。
上位モデル「PLAY CD Edition」にはCD-ROMドライブも搭載されており、CDリッピングやディスクの再生も可能。トレイは本体正面左側に出てくる仕様なので、ラック等に収納する場合は注意を
この演奏はクライマックスでの大太鼓の力強い鳴りが印象的で、太鼓の膜が破れるかと思うくらいビリビリとした激しい打音が繰り返されるが、その迫力をしっかりと伝えてきたことには感心した。中高域を受け持つAMTドライバーも、エネルギー感の豊かさと踊るような美しいメロディを小気味よく再現するし、各楽器の音色を忠実、ていねいに描き分け、解像感の高さも感じる。
ポップスの名盤『ドナルド・フェイゲン/ナイトフライ』でも、特徴的な歌唱を自然なたたずまいで聴かせてくれるし、バックの演奏もリズム感豊かだ。さまざまな機器で聴いてきたアルバムだが、音色の自然さとそれぞれの音をていねいに描き分ける表現力、そして楽曲の質の高さを感じさせるリズムの生き生きとした感じが好ましい。
次はCD再生だ。ディスクトレイが正面左側から出てくるのが面白い。そのため左側に他のコンポを置くことはできないが、あまりギチギチにラックに押し込むのも良くないので、その点ではちょうどいいだろう。
『ピンク・フロイド/狂気』(50周年記念盤、SACD/CDハイブリッド)のCD層を再生してみたが、ベースとリズムに厚みのある重心の低い鳴り方で、ボーカルがフワっと中央に浮かび上がる。「マネー」のような多重録音を駆使した曲も、ステレオとしての音の広がりや立体感を生かした、奥行のある音場として再現する。耳なじみのいい自然な感触の音色なのに、サウンドステージは現代的な解像度の高い立体的なものだ。発表当時にオーディオファンを沸かせた“ステレオ録音の極致”をしっかりと味わわせながら、音質はあくまでも聴き心地のよい自然さがある。音質も、音場感や空間の表現としてもよく出来たシステムになっていると感じた。
リアパネルにはHDMI(ARC)、各種光デジタル、USB、アナログ/フォノ入力、サブウーファー出力端子等を搭載する。本機をデジタルトランスポートとして使うこともでき、その場合は同軸デジタル、またはUSBから音声が出力される
PLAY CD EditionのパワーアンプはClass Dタイプだが、効率の良いPFC-LLC電源を組み合わせ、スピーカーの持ち味をしっかりと引き出してくれる。ボディはアルミニウム合金を切削したもので、コンパクトサイズながらも、底面にヒートシンクを備えることで発熱の問題を解消している。オーディオ出力の回路設計も、トータルバランスに優れた完成度の高いもので、人気の高いオールインワン・ミュージックストリーマーとして、かなり完成度が高いことがわかる。
配信はQobuzを選んだ(操作は専用アプリの、Eversoloコントロールで行った)。最新のサービスにもきちんと対応するのがエバーソロの長所で、さらに独自開発のオーディオエンジンによりAndroid OSの制約をバイパスしてハイレゾ音源を再生できる点も継承する。他にも、家庭内LANやクラウドサービスに保存したハイレゾ音源などの再生が可能なUPnP、WebDAVといったプロトコルへの対応も万全だ。
前面ディスプレイではアプリを操作する感覚でタッチ操作ができるし、マルチルーム再生やルームコレクション機能まで備えている。このあたりの先進性はこれまでのエバーソロ製品と共通だ。
再生時の各種設定は「EversoloControl」アプリから行う。入力ソースで「PHONO入力」を選ぶと、下のサブ画面でフォノイコライザーのMM/MCの切り換えが可能になる
『ドナルド・フェイゲン/ナイトフライ』(48kHz/24ビット)を再生すると、ストリーミングながらも、USB音源と遜色のない音質で楽しめた。ボーカルのニュアンスが豊かで、リズムのキレがよい。ストリーマーとしての実力も充分だとわかった。
このサウンドをPLAY CD EditionとQR1 SEというシンプルな組み合わせで楽しめる点にも感心した。これなら本格的なオーディオルームでなくても存分にいい音を楽しめる。しかも、PLAY CD EditionはARC対応HDMI端子も備えているので、薄型テレビの音声(リニアPCM出力のみ対応)をスピーカーで楽しむこともできる。この活用範囲の広さは立派だ。
ティアック「TN-4D-SE」による、アナログサウンドも素晴らしい!
MM/MCカートリッジによる感触の違いまで楽しめる
今回は、もうひとつの主役としてダイレクトドライブ方式のアナログターンテーブル、ティアック「TN-4D SE」(¥80,080、税込)も準備した。PLAY CD EditionがMM/MCイコライザーアンプも内蔵しているので、アナログレコードがどれほどの音で楽しめるかも試してみようという趣向だ。
TN-4D-SEは、ブラシレスDCモーターを薄型化し、ターンテーブル自体も薄型ですっきりとしたデザインを実現している。モーター制御はマイコンによるフィードバック回路を備え、速度偏差は水晶精度、低ワウ・フラッターでの再生が可能だ。プラッターはアルミダイキャスト製。さらに今回は、付属のフェルト製ターンテーブルマットを使っている。
ダイレクトドライブ・アナログターンテーブル:TEAC TN-4D-SE ¥80,080(税込)
●駆動方式:ダイレクトドライブ(ブラシレスDCモーター)
●回転数:33 1/3、45
●ワウ・フラッター:0.1%以下
●ターンテーブル:アルミ・ダイカスト製、直径30cm
●トーンアーム:スタティックバランス型S字トーンアーム
●実効アーム長:223mm
●付属カートリッジ:SUMIKO社製MM型ステレオカートリッジ(Oysterを装着済み)
針圧1.5〜2.5g (2.3g 推奨)
●適用カートリッジ質量:3〜12g、14〜23g (付属ヘッドシェルを含む)
●針圧可変範囲:0〜5g
●付属ヘッドシェル質量:11g(ネジ、ナット、ワイヤー含む)
●接続端子:アナログ出力1系統(RCA、フォノ/ライン切替式)
●消費電力:2.0W以下(待機時0.5W以下)
●寸法/質量:W420×H102×D356mm/約6.1kg(ダストカバーを外した場合)
スタティックバランス型S字トーンアームはSAECとのコラボレーションで、可動部にSAEC独自のナイフエッジ機構を採用している点にも注目したい。一般的なベアリングによる方式に比べて上下方向により繊細な動きが可能なことが特徴という。
もちろんカートリッジ交換が可能なユニバーサル型で、14〜23gの幅広いカートリッジに対応、アンチスケーティング機構や針圧調整機能も備えている。MMフォノイコライザーも搭載済で、フォノイコライザー非内蔵のアンプと組み合わせても問題ない。試聴機はピアノブラック仕上げだが、木目が美しいウォルナット仕上げも選べる。
まずは付属のSUMIKO製MMカートリッジをセットし、TN-4D-SE内蔵フォノイコライザーを使った音を聴いてみた。最初に聴いたのは、『ドナルド・フェイゲン/ナイトフライ』のアナログ盤。ハイレゾ音源やストリーミング再生との印象の違いを確かめるのが目的だ。
TN-4D-SEはフォノイコライザー(新日本無線製のオペアンプNJM8080)を搭載しており、出力端子横の「PHONO EQ」スイッチでオン/オフを選択できる。プラッター部も含めて厚さが10cmほど(カバーは除く)の本体にブラシレスDCモーターを内蔵した、薄型ダイレクトドライブ方式が特長だ
TN-4D-SEとPLAY CD Editionの組み合わせでは、音のふくよかさ、なめらかさがよくわかる。ドラムやベースが刻むリズムも弾力があって、自然な感触となる。針圧などを入念に調整したこともあり、デジタル音源と遜色のない情報量と精度の高さを感じるし、アナログらしい音のつながりの良さというか、密度感を強く感じる音だ。素直な感触で、忠実感の高い音色になっているのも好ましい。
TN-4D-SEはミドルレンジの製品なので、入門用モデルより価格は上がるが、音の良さでアナログ再生に興味を持った人なら、頑張ってこちらを選んでくれるだろう、そう感じさせる魅力を持っている。そういうユーザーに向けては、製品としての個性の強さを主張するタイプではなく、アナログレコード本来の良さをきちんと感じさせてくれる、TN-4D-SEのような素直な音作りのモデルがいいと思う。
TN-4D-SEの内蔵フォノイコライザーは、実用上充分な音質を備えていることがわかった。これなら、アクティブスピーカーなどとの組み合わせでもアナログの持ち味が楽しめるだろう。ただし、アナログレコード再生の世界は奥が深く、フォノイコライザーでも確実に音は変わる。そこで次は、PLAY CD Editionの内蔵フォノイコライザーを試した。TN-4D-SEの出力をPLAY CD Editionのフォノ入力につなぎ、Eversolo Controlアプリからフォノイコライザーモードを「MM」に設定する。
SAEC(サエクコマース)とコラボレーションした、可動部にナイフエッジを用いた新開発トーンアームを搭載している。これにより、ベアリング構造では得られない分解能の高いサウンドを実現している
出てきた音は、エネルギー感が増した力強いもの。リズムを含めたバックの演奏やコーラスがさらに力を増してくるが、ボーカルが埋もれてしまうようなことはなく、むしろ立体的に浮かび上がる。ステレオ音場の広がりもさらに豊かになる。そして、アナログレコードらしい音の密度となめらかさは、いっそう上質になる。
調子に乗って、取材に同席してくれたティアックの担当者がアナログレコードのデモで使用する貴重な名盤を聴かせてもらった。
『ビートルズ/アビイ・ロード』の海外盤(国内盤より海外盤の方が音が良いという話は、アルバムにもよるが事実で、中古市場でも程度の良い外盤は価格がまるで異なる)、1967年制作の『007/カジノロワイヤル』サントラ盤、
1963年のフランク・シナトラ「シナトラズ・シナトラ」など、貴重なレコードの数々を聴いた。
当時と現代での録音の違いもよくわかるし、声の張りや音の存在感の違いに驚かされる。極めつけは『レッド・ツェッペリンII』。「ホール・ロッタ・ラブ」のギターの生々しさに驚かされるし、ダイナミックレンジの広さなどもスペック上はCDやデジタル音源の方が優位なはずだが、そんなことは頭から消し飛ぶような迫力がある。
ティアックの担当者氏が持ってきてくれた貴重なアナログレコードも多く聴かせていただいた
さらに、カートリッジをデノンの「DL-103」(MCカートリッジ)に交換した音も聴かせてもらったが、音の繊細さや密度感ではMMカートリッジとはまた違った魅力がある。この音を聴くと、さまざまなカートリッジを使い分けている人の気持ちもわかる、アナログレコードの魅力や面白さをたっぷり楽しめる試聴だった。
MCカートリッジへの変更では、単にPLAY CD EditionのフォノイコライザーをMMからMCに切り替えるだけでなく、カートリッジに合わせて針圧調整などもきちんとやり直している。こういう手間を面倒と考えるか、良好な再生のための当然の作業と考えるかでも、アナログレコードを聴いた時の印象は大きく変わるだろう。
ティアックのTN-4D SEは、カートリッジ交換はもちろん、針圧や水平調整などの基本的な調整機構もきちんと備えている。つまり、使い方を覚え、経験を重ねながら長く使っていけるモデルでもある。そのことを考えれば、この価格はお買い得と言っていい。
昔好きだった曲から最新ヒットまで、どれも高品質に再現。
音楽好きにぜひ体験して欲しい、魅惑的なシステムだ
PLAY CD Editionを発売したエバーソロはミュージックストリーマーを中心にラインアップしている、新進気鋭のメーカーだ。それでいてアナログレコード再生もきちんとカバーしているのだから面白い。しかも、最近はアナログも人気だからといったオマケ的なものではなく、きちんと作り込まれたフォノイコライザーを実装していることからも、オーディオに対する理解と愛情の深さがよくわかる。今や国内でも人気の高いブランドだが、その理由もこういうところにあると思う。
一方のティアックは上位ブランドのエソテリックを含めて、多くのアナログターンテーブルを発売しているが、マニア層だけではなく、エントリー層に向けてもきちんと作られたモデルを用意しているのも立派だ。そんな両ブランドが出会って、これだけシンプルな構成で多彩な音楽にアクセスできる良質なシステムが生まれた。これは素晴らしいことだと思う。
今回の機器は総額にするとそこそこの値段にはなってしまうが、アナログから配信まで、現代の主要な音楽メディアに対応し、それぞれの魅力をきちんと実感できるシステムとしては、充分お買い得だと思う。最初はPLAY CD Editionとスピーカーだけでもいいが、絶対TN-4D-SEも追加したくなってしまうに違いない。アナログターンテーブルを加えたシステムは得てして大規模になりがちだが、これだけシンプルな構成で実現できるというのもひとつの発見だと思う。
こんなシステムで、昔聴いた音楽から現代のヒット曲まで気軽に楽しみたいと思う人は少なくないはずだ。音楽好きにぜひ注目してほしい、魅惑的な提案だ。
スピーカーシステム:オーディオベクター QR1 SE ¥330,000(ペア、税込)
オーディオベクターは1979年にデンマーク・コペンハーゲンで設立されたスピーカーブランドで、高域再生用にハイル・ドライバー(リボン)型のAMTトゥイーターを搭載しているのが特長だ。QR1 SEはシリーズの中で一番小型のモデルとなる
●型式:2ウェイ2スピーカー、バスレフ型
●再生周波数帯域:44Hz〜45kHz
●使用ユニット:Gold Leaf AMT withS-stop、6インチウーファー
●クロスオーバー周波数:3kHz
●感度:86dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法:W190✕H325✕D232mm
(撮影:嶋津彰夫)