4K UHD BLU-RAY REVIEW:THE WOLFMAN
タイトル | ウルフマン |
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年 | 2010 |
監督 | ジョー・ジョンストン |
製作 | スコット・ステューバー ベニチオ・デル・トロ リック・ヨーン ショーン・ダニエル |
製作総指揮 | ビル・カラッロ ライアン・カヴァナー |
脚本 | アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー デヴィッド・セルフ |
撮影 | シェリー・ジョンソン |
音楽 | ダニー・エルフマン |
特殊メイク | リック・ベイカー |
出演 | ベニチオ・デル・トロ アンソニー・ホプキンス エミリー・ブラント ヒューゴ・ウィーヴィング ジェラルディン・チャップリン マリオ・マリン=ボルケス エイサ・バターフィールド リック・ベイカー ニコラ・デイ サイモン・メレルズ |
4K SCREEN CAPTURE
Title | THE WOLFMAN |
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Released | Oct 22, 2024 (from Shout Factory) |
Run Time | 103min (TC), 119min (DC) |
Codec | HEVC / H.265 (Resolution: Native 4K / DOLBY VISION / HDR10 compatible) |
Aspect Ratio | 1.85:1 |
Audio Formats | English Dolby Atmos (48kHz / 24bit and 16bit / Dolby TrueHD 7.1 compatible), English DTS-HD Master Audio 5.1 (48kHz / 24bit), English DTS-HD Master Audio 2.0 (48kHz / 24bit) |
Subtitles | English SDH |
Video Av.Rate (TC) | 76490 kbps (HDR10) / 8540 kbps (DOLBY VISION 11.16%) |
Video Av.Rate (DC) | 76491 kbps (HDR10) / 8541 kbps (DOLBY VISION 11.17%) |
Audio Av.Rate (TC) | 3535 kbps (Dolby Atmos / 48kHz / 24bit), 3888 kbps (DTS-HD Master Audio 5.1 / 48kHz / 24bit), 2008 kbps (DTS-HD Master Audio 2.0 / 48kHz / 24bit) |
Audio Av.Rate (DC) | 3973 kbps (Dolby Atmos / 48kHz / 16bit), 3851 kbps (DTS-HD Master Audio 5.1 / 48kHz / 24bit), 2008 kbps (DTS-HD Master Audio 2.0 / 48kHz / 24bit) |
4K SCREEN CAPTURE
今宵は満月。月が欠けるまで、悲鳴が止まらない。
『遠い空の向こうに』の監督ジョー・ジョンストンが、ベニチオ・デル・トロとアンソニー・ホプキンスのオスカー俳優を迎え、ユニバーサル・モンスターズの古典『狼男』のリメイクに挑戦したゴシック・ホラー『ウルフマン』(2010)。1891年、兄の婚約者グウェン(エミリー・ブラント)から兄の行方不明の報を受けた舞台俳優ローレンス・タルボット(デル・トロ)は、母の死後25年ものあいだ疎遠にしていた生家である屋敷に戻る。そこで父ジョン(ホプキンス)と再会したローレンスは、それを機にタルボット家の呪われた秘密と忌まわしき宿命の扉を開けることになる。
4K SCREEN CAPTURE
プロジェクトは2006年に始動。『セブン』の脚本家アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが、オリジナルのストーリーに新たな登場人物や、視覚効果を贅沢に注ぎ込んだプロットポイントを加えた脚本を完成させた。当初『ストーカー』のマーク・ロマネクが監督に就任。だが創作上の相違からプロジェクトを離れ、スタジオは『13デイズ』の脚本家デヴィッド・セルフを雇って脚本の大幅な改訂を行っている。ジョンストンの監督就任が決まったのは、4週間後にクランクイン予定が迫った2008年2月。準備期間に余裕がない中で、ジョンストンはセルフに2度目の書き直しを依頼。セルフはキャラクター設定や父と息子の関係をより詳細に再構築しながら17ページ以上の台詞とアクションを追加している。本作は2008年6月にクランクアップしたものの、翌2009年5月に撮り直しが行われ、セルフは追加の書き直しも行っており、そのひとつは結末の変更にあった。
2010 UNIVERSAL BLU-RAY
2024 SHOUT FACTORY 4K UHD BLU-RAY
拘り抜いた明暗技法の再現
パナフレックス・ミレニアムXL/スーパー35方式/球面レンズ撮影。収録アスペクトは1.37:1、上映アスペクトはソフトマット/1.85:1ビスタサイズ。119分ディレクターズカット(DISC-1)と103分劇場公開版(DISC-2)を4K UHD収録(BLU-RAY版はDISC-3)。いずれも35mmオリジナルカメラネガからの2024年4Kデジタルレストア/HDRグレード版となり、NBCユニバーサル・スタジオポストが修復作業(映像・サウンド)を手掛けている。HDRはHDR10とドルビービジョンHDRをサポート。本作の主要フィルムはコダック VISION 3 500T/カラーネガティブフィルム 5219、日中のシーンには VISION 2 200T/カラーネガティブフィルム 5217を使用しているが、グレーディングのLUT(ルックアッププテーブル)は実際に使用されたカラープリントフィルムVISION 2383に準じている。ちなみに2383の特徴のひとつとして、トーンスケールの肩部(特性曲線の傾斜度下降域)の濃度がわずかに高く、黒の再現力が高められている点にある。一方で足部(傾斜度上昇域)のバランスが改善されており(映写時の)ハイライトの明瞭度がより向上している。これにより撮影監督のシェリー・ジョンソンは、ライティングと露光、ラボやポスプロにおいて大胆かつクリエイティブにアプローチすることができた。その明暗演出の再現は映像修復の最重要項目であったという。
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特殊メイクはご存じリック・ベイカーによるもので、本作でオスカーに輝いた狼男の大顔絵と姿絵を4K UHDで鑑賞するだけでも本盤購入の価値がある(人物の大顔絵はいずれも絶品)。多くの映画ファンはこれだけで満足すると思うが、後述する点にも注目して貰いたい。本作は交流配電の幕開けである1891年が舞台だが、街は白熱灯、郊外(屋内)では蝋燭の明かりを設定して光源レイアウトされている。まず屋内ショットだが、4K UHDで鑑賞するとモールディング(繰型/細部に施した帯状装飾)を施した装飾が目を奪う。光と影でメリハリを付けるような形状仕上げとなっており、さまざまな陰影模様が生まれて量感や不気味なムードを演出しているのだ。『スリーピー・ホロウ』でオスカーに輝いた美術監督リック・ハインリクスが光の明暗(特に陰影)によってストーリーを語るような美術造形に徹していたため、なかでもタルボット家の屋敷は入射光を極力避け、フラッドライトなどの反射光を利用しており、非常に観応えがある。
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圧巻は蝋燭の灯りのみのローライトレベル撮影ショットの再現だ。増感現像やポスプロに頼り切ることなく、マジックアワーを利用してテスト撮影を重ね、フィルムの感光性を厳正にチェックしたことによる成果であり、ライティングに対する絶対的な自信と執着を楽しまれたい。ローレンスが狼男に変身する手術室は、実写主義の画家トマス・エイキンズの絵画「アグニュー・クリニック」を参考にしており、ステージ中央はガス灯の強い光を浴び、それを囲む雛壇の聴衆は光沢のある陰影の一部となるようにライティングされている。この陰鬱で、とても不快な外観も観逃がせない。補助光や逆光の存在感で酔わせる夜間の屋外ショットは、ポスプロでのカラコレの成果でもある。陰影部をキーイング(明暗成分から画像・映像素材の一部を指定・抽出)して低照度部から最暗部の滑沢性を計り、ハイライトはバイパスブリーチ(残銀処理)を施されて真珠のような輝きを放っているが、これがHDRで見事に再現されている。「月は謎めいた存在でなければならない」というコンセプトのもと、物語が進むにつれて月光が変化する。ナイトシーン毎に異なる月光効果が付与されているのだが、CG/VFXと実写撮影の光彩表現に微妙な差異が生まれている点が惜しまれる。
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リミックス・ドルビーアトモス・サウンドトラック
本盤のサウンドトラックのデフォルト設定はリミックス・ドルビーアトモス・サウンドトラックとなっているが、オリジナル尊重派の映画ファンのためにオリジナルDTS-HDマスターオーディオ5.1トラックが収録されており、さらにオプションとしてDTS-HDマスターオーディオ2.0トラックも収録されている。これらのサウンドトラックはディレクターズカット、劇場公開版共通となる(BLU-RAY版には未収録)。比較的新しい作品ゆえに、5.1トラックのクオリティも高く、満足できる仕上がりだ。だがドルビーアトモスは間違いなくオリジナル5.1を凌ぐ出来栄えとなっている(同じ場面の比較試聴も容易)。アトモス・リミックスは前述のNBCユニバーサル・スタジオポストのサウンド部門で、本作のリレコーディングミキサーでもあったフランク・A・モンタノが参加している。
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開幕と同時にダニー・エルフマンのスコアが観る者を包み込み、ホームシアター・スペースに浸漬していく。フランシス・フォード・コッポラ監督作『ドラキュラ』でヴォイチェフ・キラールが書いた楽曲とあからさまな類似点があるものの、ルオーケストラ用に書かれ、大胆で力強い弦楽器が強調されたエルフマンのスコアの没入感は作品全体を通じて続いていく。アトモスで聴くスコアは、時代設定や陰鬱なムード、ストーリーに内在する恐怖とロマンスの表現力をより豊かものに変えており、とても味わい深い。物語が進むにつれて、金管楽器の対位法、重いパーカッションの要素、微妙なシンセパルス、さらには合唱団が加わり、クライマックスに向けてスケール感が増幅していく。もちろんアトモスによる聴覚の愉悦はスコアだけに止まらず、狼男の咆哮、発声の残響、屋内外のオフスクリーン・アンビエンス、雨音、馬の蹄鉄音、銃声や空気を舐める炎などのアクション音の迫真性を著しく高めており、バランスも申し分ない。バランスと言えば最優先される会話は一貫して明瞭に再現されており、ホプキンスやデル・トロの口跡はダイナミックレンジと発声の幅の広さを誇っている(ホプキンスの生まれながらのウェールズ語は字幕が必須かも知れないが)。
4K SCREEN CAPTURE
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 5/5
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