『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が、10月4日からTOHOシネマズ日比谷他で公開される。内戦が勃発したアメリカで、大統領にインタビューを実施すべく、4名のジャーナリストがニューヨークからワシントンD.C.を目指す。その行程で描かれるアメリカとは……。本作は、きわめて今日的なテーマを、鮮烈な映像と斬新なサラウンドで描いている(ドルビーシネマ、IMAXでも公開予定)。今回、その音響設計を担当したグレン・フリーマントルさんに、音作りについてのお話を聞く機会を得た。本作の完成度の高さに感心したという飯塚克味さんにインタビューをお願いしている。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
●10月4日 (金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
●監督/脚本:アレックス・ガーランド
●キャスト:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―
●配給:ハピネットファントム・スタジオ
●原題:CIVIL WAR|2024年|アメリカ・イギリス映画|109分|PG12

 10月4日(金)より全国で公開となる映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の来場特典として<全5種>のポストカードの配布が決定! 上の写真左側からIMAX版、ドルビーシネマ&ドルビーアトモス版、通常版3種類というラインナップで、通常版の絵柄は選べない。数に限りがあり、無くなり次第配布は終了となるので、あらかじめご了承いただきたい。

飯塚 今日はお時間をいただき、ありがとうございます。『シビル・ウォー』をIMAXとドルビーシネマで拝見し、とても素晴らしい作品だと思いました。そのサウンドがどのようにして作られたのか、お話を聞くのが楽しみです。

 まずは、StereoSound ONLINEの読者に向けて、グレンさんのプロフィールと、これまで手掛けた主な作品を教えてください。

グレン ありがとうございます。『シビル・ウォー』の監督のアレックス・ガーランドとは、彼が手がけてきた作品すべてでコラボレーションしております。彼が監督を務める前、原作を担当した『ザ・ビーチ』も一緒にやっています。アレックスが素晴らしいのは、サウンドにもこだわるところです。彼は、とにかくサウンドを追求する人なんですよ。

 私自身の経歴については、過去の作品をあげるとキリがないんですけれども、主なタイトルは『ゼロ・グラビティ』とか『ファンタスティック・ビースト』シリーズでしょうか。これまで235本の作品を手がけてきて、多くの素晴らしい人と一緒に仕事をしてきました。

 20 代前半の頃に、バーブラ・ストライサンドと一緒に仕事をして、その時に音が持つ感情、エモーションというものを彼女から教わりました。本当に多くの素晴らしい人と組んできて、様々なことを学ばせてもらってもらいました。

インタビューにご協力いただいた、グレン・フリーマントルさん ⓒJeff Vespa/Getty Images

飯塚 さて、本作ではグレンさんは音響監督を担当されたとのことですが、具体的にどういうお仕事をされたのか教えていただけますでしょうか。

グレン アレックスとの仕事では、早い段階から話し合いを始めます。ですので、作品の音響に関して最初に相談するのは私ということになります。何をどのように撮っていくかについて、実際の撮影に入る前に話し合うのです。

 撮影後に、おおまかに編集したラフカットが私の手元に届きますので、それを見ながら全体のコンセプトを再び話しあって、音響スタッフと一緒に作業に入ります。私はその全体を統括する役割になります。

 『シビル・ウォー』に関しては、戦争とは何か、どのように表現するべきかということを、アレックスとじっくり話し合いました。主人公たちが旅をして、戦地を抜けていくわけですが、戦争というものがいかに残酷なのかを表現することに重点を置いたんです。

 また観客の皆さんにただ座って見るだけではなく、作品の中に入って体験してもらう、戦争というものはいかに残酷で醜いものなのかを身をもって感じてもらう、そういう音を表現していこうと話し合いました。

飯塚 貴重なお話ありがとうございます。確かに音が凄まじく、最高の没入体験をさせてもらいました。さて、今のお話に関連して、作品中の銃撃やヘリの爆音についてうかがいたいと思います。

 普通のアクション映画だと、これらのサラウンドもちょっと気持ちよく仕上げていると思うんですが、『シビル・ウォー』では、不快に思えるほどの迫力を感じました。そうした受け止め方は正しかったのでしょうか?

グレン そう感じていただいて嬉しいです。というのも、まさにそれを狙っていたところもあるわけで、リアルさや戦争の残酷さというものを観客の皆さんに感じて欲しかったんです。

 音というものは、鳴っている環境によってだいぶ変わってくるんです。ヘリコプターにしても銃声にしても、戦争が行われている空間では本当に凄い音がするんです。

 戦地ではコンクリートや金属に囲まれている中でそれらが鳴り響いているので、その中に身を置くと、音が反響して戻ってきます。ただ鳴っているだけではなく、反響して戻ってくる。その反響音を再現することによって、観客が現場に身を置いているように感じてもらえる環境を作り出したかったというのが、私たちの狙いでもありました。

 それがすべての映画で共通とは言えませんが、『シビル・ウォー』においては正しい感じ方と言えると思います。本当に戦争の恐ろしさ、残酷さというものを、音を通して感じ取って欲しかったんです。

飯塚 『シビル・ウォー』では、静かなシーンと戦闘シーンでかなり音の印象に違いがありました。今回、ドルビーアトモスという器を使うにあたって、どういう狙いでサウンドデザインを進めていったのでしょう?

グレン 作品中の静かなシーンでは、鳥が鳴いていたりします。今回は、そういう静かな環境の中で聞こえてくる音をあえて取り入れて、戦争のシーンでは全体の音量を大きくして、銃声などを派手に感じさせるといったことを意識しました。

 もうひとつ意識的に行ったのが、銃撃などの効果音と音楽を混ぜないことです。コンクリートの建物の中で銃撃戦が行われるシーンがありますが、前半は銃の音だけを入れて、最後に2階から敵兵士を射殺するシーンで初めて音楽を入れています。逆に音楽をかけている時は、銃の音を抑えるといったことも行いました。

 音楽も本当に限られたシーンでしか使っていなくて、作品全体で12曲しか流してないんです。キャンプのシーンでも、最初に音楽を取り入れて、後で銃撃の音だけに絞っていくといった具合に、これまでにないような使い方をしています。それがこの作品の特徴かな、という風にも思います。

飯塚 音楽をあまり使わなかったというのは、監督からの指示だったんですか? それともグレンさんから提案したのでしょうか?

グレン 監督の決断です。あまりにも音楽を入れてしまうとリアルズムが薄れてしまう、戦争の恐ろしさというものが伝わらないと考えました。ハリウッド式の戦争映画というよりも、リアリティを追求した戦争映画に仕上げるために、音楽はあまり使わなかったわけです。

飯塚 今の時代にマッチした、素晴らしい選択だったと思います。ところで、個人的に気になったのが、映画の冒頭にテストトーンが入っていたことです。あの狙いを教えていただけますか?

グレン 劇場で、スピーカーテストのためにあの音を流したんです。すると監督が、これかっこいいねって言いだしたんです(笑)。テストトーンを流すことによって人々の関心を引いて、あれは何だろうと考えさせる音だと思ったので、そのまま取り入れることにしました。

飯塚 ひじょうに斬新なサウンドデザインだと思いました。

グレン 多くの人から、「今の音は何? なんか考えちゃったんだけど」といったコメントをいただいているので、効果的だったのかなと思います。

飯塚 撮影の際に、通常よりも爆薬の量を増やして大きい音を出して、俳優たちの生の反応を撮影したとのことでした。本作の爆音やヘリの音は、実際の撮影現場の音を録音して使ったのでしょうか?

グレン 作品の音素材として、現場の音も多少残っています。監督自身ができるだけ現場でのセリフのやり取りも残したいタイプなので、残せるものは残して、足りないところは後から編集で足していく、会話であれば録り直すというような手法を取っています。

飯塚 最近は、日本でも劇場の音響に対するこだわりを持った観客が増えています。IMAXやドルビーシネマといったラージフォーマットで映画を見たという人も多くいます。そういった人たちに、どういった点に注意して本作を見てもらいたいとお考えですか?

グレン 音のダイナミックさを楽しんで欲しいと思います。今回のサウンドはドルビーアトモスでミックスし、それをIMAXに変換しています。どちらも凄くパワーのある音ですし、音が観客に向かってくる、直撃するような楽しみ方もできます。

 その音の中に身を置いて、緊迫した状況というのを体感してもらえる。フルレンジの、ベースの効いた音を体感してもらえると思います。この作品は、そういう楽しみ方をしてもらえたらいいかなと感じています。

飯塚 『シビル・ウォー』は本当に、“感じる映画”だと思います。ぜひ多くの方に、ドルビーシネマやIMAXといった高品質フォーマットで体験してもらい、没入体験を味わって欲しいですね。

 最後にグレンさんにお伝えしたいのですが、日本のホームシアター愛好家の多くが『ゼロ・グラビティ』でドルビーアトモスの魅力を初体験しました。また個人的には、『MEN 同じ顔の男たち』のトンネルの中で音が回るシーンが大好きで、何度も見返しています。ぜひこれからも、素晴らしいサラウンドを届けて下さい。

グレン ありがとうございます。アレックス監督の次回作も担当していますので、楽しみにしていてください。
(9月19日、リモートインタビューにて)

『シビル・ウォー』は、ぜひお気に入りの映画館で体験して欲しい。
音が描き出す戦争の恐怖に、きっと戦慄するはずだ …… 飯塚克味

 冒頭、いきなり「ザー」というテストトーンがスピーカーから流れだし、周囲を3周する。AVアンプではおなじみのテストトーンだが、映画館で聴くとこんな感じになるのか。こんな始まりでスタートする本作。

 その後、観客は内戦状態のアメリカへ放り込まれることになる。何がきっかけだったのか、どういう事情なのか、まったく分からない。ただふたつに分かれた勢力が激しく争っている。車に給油するだけでも命がけのやり取りが行われる。今、世界で続いている戦争も、外側で客観的に見ている者と内側にいる人間とでは、これくらい落差があるのかもと思わせる説得力のある状況が続き、緊張感MAXの状態がひたすら続く。

 映像もすごいのだが、この映画に関しては音の力が、多い時では半分以上の効果を発揮している。目の前を飛び交う銃弾、狙撃されそうな恐怖、基地で耳にするヘリコプターの爆音など。どれもが現実に近いものを体感させる作りになっている。ぜひ、あなたが信頼できる映画館で、本作が描く戦争の恐怖を疑似体験してもらいたい。

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