4K UHD BLU-RAY REVIEW:LE SAMOURAÏ

タイトルサムライ
1967
監督ジャン=ピエール・メルヴィル
製作レイモン・ボルデリエ ウジェーヌ・レピシエ
製作総指揮N/A
脚本ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影アンリ・ドカエ
音楽フランソワ・ド・ルーベ
出演アラン・ドロン フランソワ・ペリエ ナタリー・ドロン カティ・ロジェ カトリーヌ・ジュールダン ミシェル・ボワロン マルセル・ボズフィ

4K SCREEN CAPTURE

アラン・ドロン、天寿を全うす。美男の代名詞でもあった彼は、母国フランス以上に日本で人気を誇った俳優である。映画雑誌の人気俳優ベストテンでは、60年代から70年代にかけて15年近くも上位に君臨している。映画デビューは1957年、『七つの大罪』のイヴ・アレグレ監督作『女が事件にからむ時』の小さな役であった。続く1958年、イヴの兄マルケ・アルグレ監督作『黙って抱いて』で、ジャン=ポール・ベルモンドと初共演。やがてふたりはスタア街道を驀進し、長きにわたりフランス映画界をリードしていった。今回紹介する『サムライ』(197)は、アメリカ進出に失敗した後、復活を遂げた『冒険者たち』(1957)に続いて出演した仏フィルム・ノワールの傑作である。

4K SCREEN CAPTURE

非情の閃光を背にまた一人殺った!殺しの一匹狼か、孤独なサムライかー
暗黒街に白熱するすさまじい殺気!
パリ暗黒街の殺し屋ジェフ・コステロは、依頼主に騙され、警察からは追われ、腹背に敵を持つ羽目になる。自ら死地に赴くまでの緊迫の2日間。緻密に組み立てられたストーリーテリングの妙。全編を冷徹なタッチで貫き、主人公の孤独を浮き彫りにしたのは。仏フィルム・ノワールの巨匠ジャン=ピエール・メルヴィル。ちなみにメルヴィル作品のUHD BLU-RAY(米)は、クライテリオンからは『影の軍隊』『仁義』、キーノ・ローバーから『賭博師ボブ』『いぬ』がリリースされている。

4K SCREEN CAPTURE

撮影監督は『大人は判ってくれない』『太陽がいっぱい』の名匠アンリ・ドカエ。ドカエの作り出す画面には明確なスタイルが認められるが、そのひとつは厳密なフレーミングにある。フレーミングを組み立てたのちに、ライティングを構築することを慣わしとするが、それはライティングへの絶対の自信と強い意志の表れとみるべきだろう。それゆえに本作ではスタジオ撮影のオペレートを『ある晴れた朝突然に』のジャン・シャルヴァンに託す一方で、アベイラブルライト(その場にある灯り)を基本とした屋外ショットでは自らカメラをオペレートしている。

4K SCREEN CAPTURE

本作は国内版BLU-RAYを含め、数種類のパッケージがリリースされている。まず2017年クライテリオンBLU-RAYだが、これは2005年HDマスターからの2Kデジタルレストア版である。新たな修復は2022年、仏パテ社がクライテリオンと共同で、ボローニャの老舗リマジネ・リトロバータで行っている。使用された素材は35mmオリジナルカメラネガと(一部)インターネガ及びインターポジ。HDRグレードはHDR10とドルビービジョンを採用、『愛と宿命の泉』2部作の撮影監督のブリュノ・ニュイッテンと『パリ・ジュテーム』などのカラリストであるレイモンド・テレンティンが監修している。2023年には仏パテが、上記の2022年4Kレストア/HDRマスターを使用してUHD BLU-RAYをリリース。パテが行った2011年2Kレストアが不評だっただけに、名誉挽回した形だ。

4K SCREEN CAPTURE

そして本盤。パテと同様の2022年4Kレストアマスターを使用しているが、HDRグレードが異なっている。リマジネ・リトロバータのカラリスト、ジャンドメニコ・ゼパがHDRグレードを行っており、それがパテ版UHD BLU-RAYとの色調の差異に表れている。映像平均転送レートはハイレート90.9 Mbpsを記録。HDRはHDR10のみ。ちなみにパテ版の映像平均転送レートは83.7Mbs(うちドルビービジョンHDR 7.95Mbps)。本盤で目立った改善点は、明るさとコントラストの強化だ。多くのシーンはこれまでになく非常に暗く、暗部や陰影の深みが増幅。ハイライトは抑え気味ながら光彩のレンダリングが巧みであり、発光や反射光をバランスよく拡張しているため、低照度で薄暗いトーンを損なうことなく視認性を維持することができる。

2017 CRITERION BLU-RAY

2023 PATHE DISTRIBUTION 4K UHD BLU-RAY

2024 CRITERION 4K UHD BLU-RAY

画像が明瞭度とシャープネスが改善され、より細かいディテイルやテクスチャが鮮明に彫刻されている。粒子の層も精確にレンダリング(低照度ショットはいくぶん厚みが増す)。軟調な画面も散見されるが、これはインターポジ使用部分の限られ、ネガ使用部の安定度は全編を通じて優秀だ。

色調にも変化がある。当然ながら2017年BLU-RAY版とは大きな違いがあるが、2023年パテ版ともわずかな差異を視認できる。「白黒映画のように撮りたい」といメルヴィルの言葉を反映してか、いずれも青のクールトーンに傾いている。それでも本盤にはより多くのウォームトーンが点在しており、平坦になりがちな色調に控えめな生気を与えている。

4K SCREEN CAPTURE

音響エンジニアは『白鯨』『パリは燃えているか』『愛のコリーダ』のアレックス・プロント(音響ディレクター)『白鯨』『昼顔』『カトマンズの恋人』のルネ・ロング(リレコーディング)。35mm磁気オーディオトラックからリマスターされたリニアPCM 1.0 MONOトラックを収録(音声レート1152 kbps)。ちなみに2023年パテ版はDTS-HD MA 2.0 MONO(音声レート1145 kbps )トラックを収録。いずれも24ビット仕様である。

4K SCREEN CAPTURE

映像ほど明快なアップグレードではないものの、2017年BLU-RAYに残っていたノイズはほぼ解消されており、細部にわたって的確にクリーンアップされたサウンドを聴取できる。ご存じのように台詞を抑制した映画であるが、その極めて口数の少なくかわされる声が持つ存在感と質量で魅了する。ほとんど沈黙と言っていい音の世界で、ジェフ・コステロは周囲の環境に気を許さず、自己の存在を消すかのように生き、仕事を遂行する。それは「サムライ」というより「忍びの者」のようだ。

4K SCREEN CAPTURE

映像平均転送レート 90863 kbps(HDR10)
音声平均転送レート 1152 kbps(LPCM 1.0 MONO | 48kHz | 24-bit)

その姿に重ねられる音楽は、『冒険者たち』『ラムの大通り』のフランソワ・ド・ルーベによるもの。ミニマルだが緊張感があり、画面の前景と背景に漂うかのようにエレクトリックオルガンのリフが響く。エレクトロニックサウンドとアコースティック楽器を組み合わせた手法が絶品で、しかもジェフ・コステロの存在を邪魔しないかのように、一方で彼が生み出す沈黙に反応するかのように響くのだ。このスタイルの巧妙さは、まさに音楽の美の結晶。必聴である。

UHD PICTURE - 4.5/5  SOUND - 4/5

4K SCREEN CAPTURE

映像平均転送レート 90863 kbps(HDR10)
音声平均転送レート 1152 kbps(LPCM 1.0 MONO | 48kHz | 24-bit)

バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi
バックナンバー:銀幕旅行