2000年代の半ばより、同じ風貌の男性が夢に出てくるとして、世界中にその噂が広まった新たな都市伝説「THIS MAN」。見たことも、会ったこともないのに、夢を見た女性たちの証言を元にモンタージュを作ると、なぜか顔の特徴が一致するという。

 本作『THIS MAN』は、その都市伝説に着想を得た天野友二朗監督が大胆なアレンジを施して作り上げた注目の一作。ここでは、本作で主人公・八坂華を演じて、映画初主演を飾った出口亜梨沙にインタビュー。出演の感想や役作りについて話を聞いた。

――よろしくお願いします。今回、『恋する男』(2020)で映画初出演を決めてから4年、いよいよ初主演作が完成しました。おめでとうございます。まずは、公開を迎える今の心境を教えてください。
 ありがとうございます。主演だから頑張ろうって特別に意気込むよりかは、一つの作品に対して真摯に向き合っていこうという、いつもと同じ気持ちで取り組んでいました。

――では、現場に入る時は今までと変わらず?
 はい! 多少セリフが多いかなとは感じましたので、頑張らないといけないと、少し気合を入れ直すことはありました。

――主演が決まって、最初に台本を読んだ時の感想は?
 とにかく、すごく重い話だなと感じました。しかし、台本だけでは掴みきれないところもあったので、本読みの際に監督とお話しする時間をたくさんいただいて、意見を出し合って、すり合わせていきました。

 主人公の八坂 華については、少女っぽいというか、子供っぽい。本当純粋な女性という印象を持ちました。一方で、ふわふわしているというか、流されやすい部分もあると思いました。ただし、途中でバイト先の店長の不幸がなければ、もっと自分を出せたんじゃないかなとも考えました。

――そう伺うと、冒頭のシーンの特異性がより際立つように思います。
 そうですよね。私もすごく綺麗な映像だと思います。監督が一番拘っていたのが、「怖いシーンを怖くしようとするのではなくて、幸せなシーンをとにかく幸せに演じる」ことで、その方が「後の怖いシーンがより際立つ」と仰っていたので、幸せそうなシーンは本当に、(夫・義男役の)木ノ本さんとどれだけ密にコミュニケーションがとれるかを大事に演じました。

――監督との話し合いを通じて、華の役作りで変わったところはありますか?
 夫婦のラブラブシーンのところで、本当に仲のいい夫婦なら、こういうことした方がいいと思います、という提案を結構しました。監督もそれいいねと仰ってくれて採用されたのが、義男が華の前髪をぐちゃぐちゃにするところです。私は、本当に仲のいい人にしか前髪は触らせないので、そういう仕草を入れたいですと提案して、採用してもらいました。木ノ本さんからも、仲のいいカップルならこういうことするよねっていう提案は、たくさんいただきました。

――では、監督を含め事前にコミュニケーションを重ねることで、監督や共演者との関係性や、役作りがより深められていったと。
 はい。監督とは本当に、本読みの段階からずっと話し合いをしていましたし、意見も出し合いました。撮影に入ってからも、あのシーンはこう思いますと、長時間にわたって話し合いをすることもありました。そうしたことを通じてお互いに信頼関係が作られていったのかなと思います。監督って本当に心が広いんです。こうして下さいではなくて、「自分が納得しなかったら、何回でも撮り直して大丈夫です。時間が掛かってもいいので、納得するまで演じてください」って仰ってくださって! それを受けて私も全力で芝居に臨みました。

――共演の津田寛治さんのコメントに、「現場での監督の目には狂気が宿っていた」というものがありました。
 そうなんです。だからものすごく気合が入っているのは感じましたけど、そういう状況でありながらも、好きなようにやって下さいという雰囲気はありました。まあ、傍から見ても、監督、少し働きすぎじゃないですか? って心配になるほどでしたけど。

――さて、少し物語の方に話を進めたいと思います。幸せの最中にいる華に、悪い出来事が降りかかってきます。
 華については、自発的にというよりかは、巻き込まれていくだけなので、周りの出来事に身を任せていく、来たものを受けてどうするのか、という感じです。

――その都度の戸惑いの表情は、よく表現されていたと思います。
 ありがとうございます。

――ところで、本作の影の主役とも言える「THIS MAN」の造形はいかがでしたか?
 オリジナルの都市伝説の絵は知っているんですけど、絶妙にちょっと違うところが面白いなって思いました。実は、知り合いのお父さんにそっくりなんです(笑)。存在としては怖いものなのですが、少し親近感も湧きました。

――さて、そんなTHIS MANが華の夢にも出てきてしまいます。そこでようやく自分で行動を起こします。
 物語としては、その行動が次の不幸の引き金になってしまうこともあり、その後のお芝居では、華の苦悩をより表現しようと思っていました。

――自分で行動を起こしますが、かなりたいへんなことになっていました。
 本当にそうなんですよ。撮影は本当に辛かったです。ネタバレにならない範囲でお話すると、まず暑かったし(エアコンが使えない)、狭い部屋にたくさんの人がいるので酸欠になりそうになるし、耳なし芳一みたいに体じゅうに呪文を書きつけるので、動けないし。撮影が終わった後は今度、書いた呪文が落ちないんです。3回ぐらいお風呂に入りました(笑)。そういえば、呪文を書いているところはタイムラプス撮影しているので、どこかで公開したいですね。

――本作では、世界的に有名な「THIS MAN」をモチーフに、監督オリジナルの展開が盛り込まれています。出演してみていかがでしたか?
 監督はブラックジョークがお好きなんだろうと思いました。私も、監督が本作で描いている世界観や、後味の悪さというかブラックな部分は大好きなので、出演できてうれしかったです。こうしたブラックな世界観って大好きなんです。映像配信サービスも結構観ているんですけど、まず、ブラックな作品を探しちゃいますから(笑)。

 ラストについては、観る方が、誰に感情移入しているかによって、ハッピーエンドか、バッドエンドなのかが変わるのだろうと思いますけど、私(華)の中では結構なバッドエンドでした。観て下さる方には、いろいろな視点で観て(感じて)いただけたら、より楽しめるのではないかと思います。

――ブラックな作品が好きというと、グロいのも平気?
 いえ、まったく……。ホラーとか、スプラッターはだめなんですよ。だから、あのシーンとか、あのシーンとかはもう、見られなくて目を背けていましたし、鳥肌が立ちました。

――ところで、出口さんにとって身近な都市伝説と言えばどんなものがありますか?
 私の世代ですと、アニメ「地獄先生 ぬ~べ~」が一番身近でした。いろいろな都市伝説・お化けが出てくるので、めちゃくちゃ見ていました(笑)。あとは、不幸のメールですね。何で送ってくるんだろうと思いながら無視していましたけど。

――では最後に読者にメッセージをお願いします。
 監督が一番大事にされていたのが、人間ドラマなんです。観て下さる方々にはそこに注目していただいて、ただ怖いだけの映画じゃないということを感じてほしいですし、自分ならどうするかなど、何かを考えるきっかけになれば嬉しいです。よろしくお願いします。

映画『THIS MAN』

2024年6月7日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

<キャスト>
出口亜梨沙 木ノ本嶺浩 鈴木美羽 小原徳子 茜屋日海夏 校條拳太朗 般若 アキラ100% 中山功太 津田寛治 渡辺哲

<スタッフ>
監督・脚本・編集:天野友二朗
企画・製作:Union
配給:アルバトロス・フィルム
(C)Union Inc.

●出口亜梨沙 プロフィール
1992年生まれ 大阪府出身
テレビ情報番組のリポーターとして芸能活動を開始し、以後グラビアアイドル、女優と活動の幅を広げていき、多方面で活躍。主な出演作に『甘い夏』(2022)、『シモキタブレイザー』(2024)、舞台『宇宙戦艦ティラミス』(2023)など。本作にて映画初主演を飾る。

公式SNS(X)
https://x.com/deguchiarisa

ヘアメイク:池田眞美子
スタイリスト:山本慎一