4K UHD BLU-RAY REVIEW:THE OTHERS

タイトルアザーズ
2001
監督アレハンドロ・アメナーバル
製作フェルナンド・ボバイラ ホセ・ルイス・クエルダ パーク・サンミン
製作総指揮トム・クルーズ リック・シュウォーツ ポーラ・ワグナー ボブ・ワインスタイン ハーヴェイ・ワインスタイン
脚本アレハンドロ・アメナーバル
撮影ハビエル・アギーレサロベ
音楽アレハンドロ・アメナーバル
出演ニコール・キッドマン フィオヌラ・フラナガン クリストファー・エクルストン エレイン・キャシデ ィ エリック・サイクス アラキーナ・マン ジェームズ・ベントレー ルネ・アシャーソン アレクサンダー・ヴィンス キース・アレン

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その“存在(アザーズ)”が見えた時、全てが変わる。

ニコール・キッドマン主演、彼女の夫(当時)トム・クルーズ製作総指揮、スペイン映画界の俊才アレハンドロ・アメナーバル監督作。ヘンリー・ジェームズのホラー古典『ねじの回転』を想起させるような幽霊譚であり、グルーミーな雰囲気醸成に秀でたニューロティック・スリラーだ。アメナーバルの『オープン・ユア・アイズ』に惚れ込んだクルーズが、『オープン~』のリメイク『バニラ・スカイ』製作前夜に企画。1,700万ドルの製作費でワールドワイドで2億1,000万ドルの興行収入を稼ぎ出し、批評家からも好評で迎えられた作品である。

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この映画のようなオールドスクール(古典的)なスリラーは、いつも資金調達が大変だ。スタジオは派手なホラーを好むからね。だがこの映画はほとんどの場面が家の中で撮影され、予算を抑えることが出来て資金調達の助けになった。製作総指揮として契約したトムは、脚本をニコールに送り、彼女も脚本をいたく気に入り、すぐにアレハンドロと連絡を取った。彼はすでに別の女優(レイチェル・ワイズ)にオファーしていたが、最終的にニコールがグレース役に最適だと考えを改めた。そして彼女のクラシックな美しさに注目し、一方でニコールも作品にさらなる魅力をもたらしてくれた。(プロデューサー、フェルナンド・ボバイラ)

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1945年第二次大戦末期、ナチスから解放された直後のイギリス海峡のジャージー島。戦地から帰らない夫を待ちながら、広大な屋敷に娘アンと息子ニコラスと暮らすグレース(キッドマン)。光アレルギーを患う子どもたちを守るため。屋敷の窓という窓は昼間でも分厚いカーテンを閉め切られていた。そんな屋敷に使用人募集の新聞広告を見てきたという3人の男女が訪れる。かつてこの屋敷で奉公していたというメイドの母娘と庭師で、突然いなくなった使用人たちの代わりを務めることになった。だが3人の訪れとともに、屋敷内で奇怪な出来事が続けて起きるようになる。

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怪異に見舞われる屋敷。目に見えぬ存在を感じながら、片手にランプ、もう片手にショットガンを持ちながら暗い廊下や部屋を進むグレース。その彼女に母親としての強さを感じる一方、彼女の不安定な衝動性、危険とも思える過剰反応に恐怖に似た感情を抱かせる。ヒロインの感情の目まぐるしい変化が非常に繊細に表現されており、観客は彼女の神経の張り詰めた世界に抗い難いほど引き込まれてしまうのだ。当時のホラー映画にみる派手な流血や特殊効果、これ見よがしの脅かしに不満を抱いていたアメナーバルは、古典ホラーの超自然的なムードの研究に取り組んでみせた。

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例えば参考にした映画を挙げれば、ロバート・ワイズ監督作『たたり』、ジャック・クレイトン監督作『回転』、ヒッチコック監督作『レベッカ』、ピーター・メダック監督作『チェンジリング』、スタンリー・キューブリック監督作『シャイニング』。「これらの幽霊屋敷映画を組み合わせて、最後にちょっとしたトリックを仕掛けた」というアメナーバルだが、それは語り(脚本)のセンスと抑制、ウィットに富んだ演出で扱われ、さらに(映像設計で重要な要素となる)光恐怖症の子供たちという斬新な設定から生まれた、唯一無二ともいえる独特のムードで染め上げたのである。

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役作りをするに連れて、私は怖くなった。同時に、グレースのキャラクターを変えることについて、アレハンドロと話し合った。グレースをより人間らしくしたかった。子供たちを包み込むような愛情はもちろん、子供たちを救いたいという思いに突き動かされていることを演技に込めたかった。この映画はギリシャ悲劇のようで、親密で本能的でありながら、ほとんどオペラ的でもあった。グレースは複雑で、その精神は常に奥深い。グレースを演じることは、私のキャリアにとって極めて重要だった。私がブラックコメディを演じられることを証明した『誘う女』と同様に、この映画は私にとって、そして他の女優たちにとっても多くの扉を開いてくれたと思う。(ニコール・キッドマン)

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VIDEO
撮影は『マルメロの陽光』『海を飛ぶ夢』のハビエル・アギーレサロベ。ムービーカム/35mm球面レンズ/1.37:1オープンマット撮影。上映サイズはソフトマット1.85:1ビスタサイズ。35mmオリジナルカメラネガからの4Kデジタルレストア、4Kスキャンからの一連の作業を担当したのはマドリッドのチェリータワーズ(エンリケ・セレッソの配給会社マーキュリー・フィルムズ傘下の映像・音響研究所)。HDRエンコードされておらず、レストア監修を務めたアメナーバルによれば「HDRを試してみたが、この映画にはSDRのコントラストレベルとREC.709の色空間が最適であった」という。3層/BD-100収録。映像平均転送レートは 92.7Mbpsを記録する。

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アメナーバル作品ならではのローキー、アンダートーン美学の愉悦。まずUHD BLU-RAY鑑賞の前に、アメナバールが非常に特別なイメージを求めていたことを理解しておくべきであろう。撮影監督アギーレサロベは、土地の雰囲気や時代の空気を掴み取る感性に恵まれた撮影監督である。 当然ながらフィルム撮影による質感再現にこだわり(多くの人が期待したであろう)高精細な見た目と絶縁している。アメナバールはアギーレサロベに「光は人を殺す」という原則に基づいて映像設計するように指示。またベンハミン・フェルナンデスが監修した舞台美術は、たとえば秋の日光が差し込むときは茶色と銀灰色に満ち、日光が遮られると深い影が潜在的な脅威を伝えるといったように、視覚的な雰囲気づくりを誇張することなく映像に溶け込んでいる。この点にフォーカスして本盤を鑑賞するだけでも、BLU-RAYとの大きなアップグレードを視認することができるはずだ。

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暗闇への恐怖というものは、誰にも共通する普遍的な感情である。もちろん、観客を怖がらせようとする映画製作者はこのことを知っており、私たちが共通して抱えるトラウマの引き金を最大限利用しようとする。皮肉なことに、彼らの主な武器は光なのだ。『アザーズ』では、光が登場人物と言ってよい。これは照明戦略の最高の例のひとつだ。レンブラント照明やゴシック照明ではなく、室内は均一して暗く、だが非常に繊細で、非常に効果的なのだ。(撮影監督ロイ・H・ワグナー)

2011 LIONSGATE BLU-RAY

2023 CRITERION UHD BLU-RAY

2011年BLU-RAY版(映像平均転送レート 39Mbps)の色調から大きくかけ離れてはいないが、それでもローキー画調に点在する色彩、光彩と陰影のわずかな変化も視認することができ、あらゆる場面の美しさや緊張感を最大限に引き出すことに成功している。BLU-RAYのバンディング弊害からの解放は嬉しい改善のひとつ。粒子感は霧のシーンでは粒子の質量がわずかに後退、逆に光学処理ショットではわずかに厚くなるものの、それ以外は中庸でスムーズな流動性を持つ。これまで明らかではなかった細かい画像ディテイルが立ち上がり、深み、鮮明さ、密度などあらゆる側面が印象的に再現され、屋敷内の調度品やクラシカルな仕立ての衣装、ワイドショットの背景の奥深くまで彫刻されている。非HDRながら優れたコントラストレベルを誇り、黒レベルもBLU-RAYの不安定感を解消。色調は2011年BLU-RAYに比べてクールトーンが押し出されている。肌質の表現が優秀で観応えがあり、舞台設定や人物設定との整合性も完璧に取れている。

2023 UK STUDIO CANAL UHD BLU-RAY

2023 CRITERION UHD BLU-RAY

『アザーズ』のUHD BLU-RAYは2種類存在する。クライテリオン版と、同時期にリリースされたスタジオカナル版(UKほか欧州地区)である。同じ4Kマスターを使用、いずれもSDR/BT.709使用となるが、92.7Mbpsという超ハイレートのクライテリオン版に対し、スタジオカナル版は79Mbpsに抑えられている。同等の映像クオリティにみえるが、細かく検証していくと解像感や階調表現でクライテリオンが勝っている。いずれも僅少の傷痕やパラが残存するのだが、その痕跡もクライテリオン版が少ない。サウンドに関しては(後述)いずれもリミックス・ドルビーアトモス・サウンドトラックを収録しているものの、24ビット仕様のクライテリオン版に対し、スタジオカナル版は16ビットに抑えられている。但し、クライテリオン版はアトモス・トラックのみ収録。対するスタジオカナル版はDTS-HD MA5.1(16ビット仕様)を収録している。

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AUDIO
音響編集は『月曜日にひなたぼっこ』のマイテ・リベラ・カルボネルが務めているが、事実上の音響編集を監修したのは監督アメナバールである。リレコーディングミキサーは『ベイビー・ドライバー』『ボヘミアン・ラプソディ(オスカー受賞)』のティム・キャバジン、『サラマンダー』『TAR/ター』のスティーヴ・シングル。オリジナル磁気トラックからのドルビーアトモス・リミックス。作業は前述のチェリータワーズが行い、映像同様にアメナバールの最終承認を得ている。音響平均転送レートは 4.3Mbpsを記録。ちなみにスタジオカナル版は 3.4Mbps、2011年BLU-RAYは 3.9Mbps。

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『アザーズ』の厳粛な音響風景は、眠りを妨げられたときと同じように耳を傾けさせ、暗闇の中の遠くのざわめきを解読し、それに悪意のある目的を当てはめる。これはここ数年でもっとも静かで、背筋の凍るホラー映画だ。(監督アンソニー・ミンゲラ)

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開幕と同時に発せられるグレースの叫び声を聴いただけで、その恐ろしさに『アザーズ』ジャンキーは飛び上がるであろう。だが本領はここからだ。観客を暗闇に引きずり込む撮影手法が本作の身上であるなら、アメナーバルが創造したサウンドスケープも物語の核心から切り離すことができない。開幕からほどなく3人の使用人が訪れた時、グレースは「Silence is something that we prize very highly in this house. So we have no telephone, radio or anything that makes a racket. We don't have electricity either. The Germans kept cutting it off, so we learned to live without it.」と忠告する。彼女が「この家でとても大切にしている」という静寂は、同時に観る者を注意深く聴き入らせ、想像力を掻き立てる重要なファクターとなっている。重苦しいまでに寂寞な空間や部屋や廊下は、静寂を呼吸しており、静寂で振動する恐怖空間の再現こそがアメナーバルの狙いなのだ。ドルビーアトモスはこれを余すところなく描き出し、圧倒する。

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高S/Nで高解像なサウンドは本盤のハイライトだ。発声は明晰を極め、ミニマルな効果音やノイズが確かな感触をもってすべてを覆う。本作のもっとも居心地の悪い瞬間は、時折発せられる大音量の効果音ではなく、底寒い静寂の中にある。観る者に緊張を強いる、音の明暗法ともいうべきサウンドデザイン。ここでは静寂が支配しているがゆえに、それ以外の異音が危局に直結している点に注目されたい。アトモスミックスはそうした音響演出の一助となっており、(決してトップスピーカーを多用しているわけではないが)恐怖効果をより一層高めているのである。

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音楽はアメナーバルが担当。可視より不可視なものの方が観客を恐怖に陥れることを熟知した映像設計によって、ぞっとするような恐怖感と戦慄を誘発したのと同様、楽曲の大部分が古典ホラーの伝統に則った簡素で抑制されたものとなっている。楽器の数を絞り込むことによって音質を立たせる狙いがあり、木管楽器と弦楽器に重点が置かれ、打楽器は最小限に抑えられている。アメナーバルのお気に入りの作曲家のひとりであるバーナード・ハーマンの作風を思い起こさせ、悲劇的で強迫的、神経の尖りがみえるスリリングな楽曲だ。アトモスミックスで聴取してみると、女性の声、彷徨うようなピアノ、寂しげなオルゴール、繊細な金管楽器など、幾多の作曲家がすでに使ってきたものがすべて効果的に使用されているのがわかる。これはいい意味で驚きであった。あらゆる不気味な音楽の常套句を盛り込むことによって、グレースと子供たちの憂鬱を引き立てながら、同時に血の通った暖かみと本物の感情を浸透させており、すべてが新鮮、深い意味を持つ調べを響かせてみせる。

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『アザーズ』が観客に歓迎された理由のひとつは、音楽の効果的な雰囲気のトーンによるところが大きい。実に不気味な映画の雰囲気に、音楽が紛れもなく強力な密度を加えていることは疑いようがない。しかし一部の観客は、音楽に型にはまったメロディがないことを爽快だと指摘する一方で、ストーリーを引き立てる静かなスタイルに反応を示さず、場合によっては退屈だとさえ主張する者もいた。後者の区別は、爽快感を求めすぎたホラー音楽によくある運命である。なぜなら、このジャンルでは中庸を見つけるのが難しいからだ。ジェームズ・ニュートン・ハワードの『シックス・センス』のように、じわりじわりと煮えた切るものか。はたまたクリストファー・ヤングの『ヘルレイザー』の音楽のように、爆発的に外向的な恐怖演出の延長線上にあるものに聴こえるかのどちらかである。(音楽編集者 クリスチャン・クレメンゼン)

UHD PICTURE - 4.5/5  SOUND - 5/5

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映像平均転送レート 92678 kbps(BT.709)
音声平均転送レート 4317 kbps(Dolby Atmos | 48kHz | 24-bit)

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