生まれながらに呪われた宿命の家がある・・・

ホーンティング 1999年

監督 ヤン・デ・ボン
製作 スーザン・アーノルド ドナ・ロス コリン・ウィルソン
製作総指揮 ヤン・デ・ボン
原作 シャーリー・ジャクソン
脚本 デヴィッド・セルフ
撮影 カール・ウォルター・リンデンローブ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 リーアム・ニーソン キャサリン・ゼタ・ジョーンズ オーウェン・ウィルソン リリ・テイラー
   ブルース・ダーン マリアン・セルデス トッド・フィールド ヴァージニア・マドセン

4K SCREEN CAPTURE

悪霊に取り憑かれた屋敷を訪れた一行が怪奇現象に遭遇するさまを描いた、ご存じシャーリー・ジャクソンの怪奇譚『山荘綺談(改題:丘の屋敷)』を映画化したオカルトホラー。本作は2度目の映画化となり、60年前の1963年に名匠たロバート・ワイズが演出している(邦題『たたり』)。次々と怪奇現象が起こり、犠牲者が出たと評判のニューイングランドの古い屋敷ヒルハウスに、心霊現象を研究する教授とその助手たちが訪れる。夜になるとポターガイスト現象が起こり、悪量そのものは姿を見せない。監督ワイズは「たたり」と呼ばれるものの怖さを、音響効果や心理的な視覚効果で表現。科学文明の中で直面する理不尽な恐怖を描いた点で、モダンホラーの原点と言える作品であった。

1963年当時は技術的な理由でできなかったことがたくさんあった。そのため、幽霊は目に見える存在ではなく、幽霊のサウンドを聴かせるという、より暗示的なアプローチとなった。音とサスペンスの使い方は素晴らしかったが、私たちはシャー​​リー・ジャクソンの物語にもっと緊密に取り組みたかった。この映画はリメイクではない。音はもちろん、照明やカメラワークの点でも前作とは異なるものにしたかった。(監督ヤン・デ・ボン)

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当初本作は、スティーヴン・スピルバーグと作家スティーヴン・キングの共同プロジェクトとして始まり、『たたり』からインスピレーションを得ながら、原作の新たな翻案版として共同で執筆を行った。クリエイティブ面での相違があったためプロジェクトは中止となるが、キングは脚本を改訂して TVミニシリーズ『ローズ レッド』の脚本を書き上げている。

一方でスピルバーグは、まだ無名だったデヴィッド・セルフに脚本を依頼。1997年、スピルバーグはセルフの手による『13デイズ』(2000年に映画化)の草稿を高く評価しており、本作の脚本執筆に繋がった。セルフにとってメジャースタジオでの最初の脚本となったが、パラマウントの意向により脚本家兼小説家のマイケル・トールキン(92年『ザ・プレイヤー』でオスカー受賞)が雇われ、結末を含む内容が大幅に修正された(脚本の最終クレジットはセルフ名)。ドリームワークス配給作品。

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撮影は『インデペンデンス・デイ』『ジャッカル』のカール・ウォルター・リンデンローブ。パナビジョン・パナフレックス/35mmアナモフィック撮影。特殊効果ショットは純正ビスタビジョン/横駆動式撮影。その視覚効果は『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』『ジュラシック・パーク』でオスカー受賞のフィル・ティペットが担当(ILMはCG/VFXのわずかなパートを担当するのみ)。

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本作は長らくBLU-RAYリリースが待たれたタイトルだが、パラマウント主導により2020年に35mmオリジナルカメラネガからの4Kデジタルレストアが行われ、同年BLU-RAYリリースに至っている。本盤はその2020年レストア4K DSM(デジタルソースマスター)を採用。新たにHDRグレードが行われ、HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。

2020年パラマウントBLU-RAYには日本語字幕が収録されていたが、本版に同梱されるBLU-RAYには収録されていない。ちなみに2020年にオーストラリア/アンブレラ・エンタBLU-RAYもリリースされているが、これは35mmインターポジからの4Kレストア版となる(下欄比較映像参照)。

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私たちは怪奇映画撮影の大家フレディ・フランシスが撮った『回転』(1961)から多くのインスピレーションを得た。白黒アナモフィックで美しく撮影され、被写界深度が驚くほど深い。アントニ・ガウディの建築を思わせるヒルハウスのセットは、天使のような顔とゴシック様式の豪華さで溢れており、時にはオペラの舞台を思わせる。現代の若い登場人物がその中を歩くということだけで、すでに非常に強力でドラマチックだった。だからドイツ表現主義的な照明は必要なかった。映画には雷雨や稲妻の効果すらないんだよ。(撮影監督カール・ウォルター・リンデンローブ)

2020 UMBRELLA ENTERTAINMENT BLU-RAY

2023 SHOUT FACTORY 4K UHD BLU-RAY

2020年パラマウントBLU-RAYもクオリティが高かったが、本版はさらに画質評価のハードルを上げている。細粒の粒子感を伴った画像は鮮明度を増強。安定したシャープネスとディテイル描画力、優秀な解像感を誇り、演色性(物体の色の見え方に影響する光の性質)も改善している。

上映タイムの99%は低照度のヒルハウス内で展開されるが、重厚なヒルハウスと豪華なプロダクションデザインの全貌が露わとなり、建築様式の隅々までを視認できる。HDRとWCG(広色域)の効果は絶大、コントラストを拡張、深みのある黒を実現しつつ陰影詳細を強化している。カラーパレットには温かく深い色が浸透。ヒルハウスを彩る茶と赤の色合いも観応えあり。

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心理学的に、人は暗闇にいることを好まない。長い時間真っ暗な画面を見ていると憂鬱になる。一方で、極端な照明効果の影響は、ある時点を過ぎると効果が消えてしまう。たとえば、映画全体が暗い場合、緑がかった照明で撮影すると、最初はその効果が印象的に見えるかもしれないが、目が順応してしまい、しばらくすると観客は緑の実感を失ってしまう。同じことが光と闇でも起こる。変化がなければ、光と闇の間には救いはない。(カール・ウォルター・リンデンローブ)

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音響エンジニア(サウンドデザイン/リレコーディングミキサー)は『T2』『ジュラシック・パーク』『タイタニック』『プライベート・ライアン』でオスカーに輝くご存じゲイリー・ライドストロム。ドルビーデジタルEX上映作品。DVDでは初めてDTS-ES 6.1(ディスクリート)規格を採用。

DTS-HD MA 5.1ミックスと2.0ステレオ・ミックスを収録。デフォルトの5.1chトラックは、2020年リミックス5.1chマスターとなるが、パラマウントBLU-RAYのドルビーTrueHDトラックから仕様変更となっている。残念ながらEXやESは未収録、さらにドルビーアトモス、DTS:Xは未採用となるものの、ロスレス・ミックスの精度が高く、アップミックス再生特薦でもある。

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44年前のサウンドトラックながら、分解能と明瞭度に長けたパフォーマンスを披露。密度が高く引き締まったミッドレンジ。筋肉に瘤のような頑丈なローエンド。発声、効果音、音楽のバランスも優秀。ニアフィールドサウンドは音場内に正確に配置され、多次元の遠近感を与えており、怪異が増幅していくに連れて強烈な没入感に溺れること必至。リスナーを軋みと呻き声を上げるヒルハウスの真ン中に導き、雷に打たれたような効果音が襲いかかる。ミニマルな効果音も変動し続け、あらゆる角度から聴覚を刺激。体験型重量級のLFEエンハンスも聴き逃がせない。

初めて亡霊が存在を明らかにするシーンでは、映画館の照明は揺れ、空調のダクトもミシミシと軋む。この映画のサウンドデザインの目的は、音の現実を描写することでも、心理的な状態を描き出すことでもない。現実的かどうかなど二の次だ。その目的はひとつ、観客を怖がらせるということだけだ。そのためサウンドは画面を飛び出し、直截的に観客の脳を刺激するのだ。(音響エンジニア/フィリップ・ブロフィー)

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音楽は御大ジェリー・ゴールドスミス。ホラー古典『オーメン』や『ポルターガイスト』には及ばないかも知れないが、ぞっとするような美しさを備えた、氷のように棘のある楽曲を響かせる。熱狂的なストリングスと鳴り響く金管を伴う典型的な90年代後半のゴールドスミス・スコアもあれば、一方でまるで穏やかなそよ風で漂ってしまいそうな、クモの糸のように薄い音彩も披露。必聴である。

UHD PICTURE - 4.5/5  SOUND - 4.5/5

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映像平均転送レート 76497 kbps(HDR10)| 8543 kbps(DOLBY VISION 11.2%)
音声平均転送レート 4224 kbps(DTS-HD Master Audio 5.1 | 48kHz | 24bit)
          2017 kbps(DTS-HD Master Audio 2.0 | 48kHz | 24bit)

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