自閉症の兄と自由奔放に生きていた弟が出会ったとき
過去への心の旅が始まった・・・

レインマン 1988年

監督 バリー・レヴィンソン
製作 マーク・ジョンソン
製作総指揮 ピーター・グーバー ジョン・ピーターズ
原作 バリー・モロー
脚本 バリー・モロー ロナルド・バス
撮影 ジョン・シール
音楽 ハンス・ジマー
出演 ダスティン・ホフマン トム・クルーズ ヴァレリア・ゴリノ ジェリー・モーレン 
   ジャック・マードック マイケル・D・ロバーツ ボニー・ハント ベス・グラント

アカデミー賞:作品・監督・主演男優・脚本賞受賞/ベルリン国際映画祭:金熊賞受賞

4K SCREEN CAPTURE

よく練られた脚本。スマートな演出。繊細な演技。ロード・ムービーとバディ・ムービーをミックスした、人間に対する真に感動的で知的な観察の映画となっている。(ロバート・B・コネリー、モーション・ピクチャー・ガイド)

10代で家を飛び出してロサンゼルスで暮らすチャーリーは、父親の訃報を知り、遺産目当てに故郷シンシナティに帰郷する。そこで初めて自閉症の兄レイモンドの存在と、彼が40年以上も病院で暮らしていること、そして莫大な遺産金すべてを相続することを知らされる。借金の返済に追われるチャーリーは大金をモノにしようと、嫌がるレイモンドを病院から連れ出してロサンゼルスに向かう。その道中で兄は少しずつ外界へと心を開き、弟は初めて人間的な生き方に目覚めていく・・・。

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この映画の構想に先立って、1986 年にサヴァン症候群(**)のキム・ピークとビル・ザクターに会い、彼らの体験に基づいてシナリオを書いた。当初の脚本ではレイモンドは幸せで人懐こい性格だったが、チャーリーに想定していたダスティ(ホフマン)がレイモンドを演じることになり、彼の提案も含めて大幅な変更を行った。ダスティは納得いくシナリオができるまで撮影に参加しないと粘り続けので、1年の間に5人ものライターが加わった。最終的にロンと書き上げた脚本でグリーンライトになったんだ。(脚本バリー・モロー)

ボルチモアの青春物語『ダイナー』(1982)で監督デビュー、その脚本でオスカーにノミネートされた知性派バリー・レヴィンソンが、興行収入の勝利に導いた『ナチュラル』『グッドモーニング、ベトナム』に続いて監督した秀作ドラマである。このプロジェクトは長い間プリプロダクションが行われ、監督決定に紆余曲折があり、マーティン・ブレスト、スティーヴン・スピルバーグ、シドニー・ポラックの名が挙がっては消え、最終的にクランクイン2週間前にレヴィンソンが決定している。

**自閉スペクトラム症などの発達障害や知的障害があり、一方で記憶力や計算技能などある特定の分野において突出した能力を持つ症状。本人のIQと比較したときに、ある能力のみ突出しているケースを指すこともある。とくに前者は非常に稀な症例とされる。

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複数のカメラを使うクロス撮影は『レインマン』から始めた。当時は脚本家のストライキがあったため、シナリオを一言も変更することは許されなかった。そこでダスティとトムは、シナリオを変更せずに、あらゆる場面でアドリブを繰り広げた。これは2台のカメラで彼らを同時に撮影すべきだ、彼らから与えられたものは何でも撮るべきだ、と考えてクロス撮影を取り入れたんだ。アメリカでは単焦点レンズが好まれるが、オーストラリアにいる時からズームレンズを使っていて、さまざまなサイズやアングルの画像をクロス撮影できた。(撮影監督ジョン・シール)

撮影は『刑事ジョン・ブック/目撃者』『イングリッシュ・ペイシェント(オスカー受賞)』のオーストラリア人撮影監督ジョン・シール(本作でアカデミー賞ノミネート)。35周年記念となる2023年、35mmオリジナルカメラネガを4Kスキャン/デジタルレストア/HDR&SDRグレード。HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。一連の作業は米パークサーカスが担当。監督レヴィンソンの最終承認を得ており、同梱BLU-RAYも同レストア4Kマスターを使用している。アスペクトは1.85:1ビスタサイズ収録。ちなみに2014年に登場した25周年記念MGM BLU-RAY(同・国内版)は、35mmインターポジからの2Kデジタルレストア版となる。

2014 MGM BLU-RAY

2023 MVD VISUAL/MGM UHD BLU-RAY

私は利用可能な光を撮影するというアイデアがずっと好きで、出来上がった画像も気に入っている。それがあるがままの状況だからだ。『レインマン』は利用可能な光を使って撮影した。ローライトレベルでは絞りを開放することになり、解像度もわずかに後退するが、私はその画像も気に入っている。(ジョン・シール)

まず、2014年BLU-RAYでわずかに水平(Horizontal)拡張されていた画像が、UHD BLU-RAYでは正規の縦横比率に戻っている。ロサンゼルスでのプロローグまでの画像はいまひとつの仕上がりだが、舞台がシンシナティに移ると(葬儀シーン)絵力に俄然元気が出てくる。フィルム粒子はいくぶん細粒ながら規則正しく残存。これにより豊かな質感とディテイル描画が提供され、衣装のファブリックやプロダクションデザインに新たな発見が浮かび上がる。遠景ショットも実に優雅だ。

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自然光やアヴェイラブルライト(その場にある灯り)での撮影を、80年代のハリウッドのメジャースタジオは気に入らなかった。私の光やレンズへの強いこだわりも気に入らなかった。ソフトフォーカスなど以ての外だった。決して私は頑固なリアリスト(自然主義者)ではないが、フレーム内に想定される光の性質に忠実な撮影を行うことで、光のリアリズムは数段に高められる。それは間違いないことだ。(ジョン・シール)

2014年BLU-RAY(とりわけ2011年版)では輪郭補正やDNRの弊害による見苦しいアーティファクトが実装されており、光源主義者シールのならではのレンズ操演、柔和な絵作りが霧散していた。UHD BLU-RAYではそれらが改善され、見晴らしもよい。ハイライトはHDRにあり、ニュアンスの豊かな深みのある色彩を提供。肌の色合いは自然で、顔のディテイル描画も良好。

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ハイライトはブルーミングも抑えられ安定しており、黒レベルも深いため、ローライトレベル・ショットも説得力のある陰影ディテイルを楽しむことができる。いまどきの高精細・高解像とは一線を画す仕上がりだが、映画通が喜ぶ魅力的な品質が備わっており、これまでのベストと言えよう。

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音響エンジニアは『地獄の黙示録(オスカー受賞)』『ワン・フロム・ザ・ハート』のリチャード・ベッグス(サウンドデザイン)『ナチュラル』『ミシシッピー・バーニング』のビル・フィリップス(音響編集)。2014年BLU-RAY収録5.1chトラックをリユース。転送レートはわずかに下回るものの、比較視聴ではほぼ同等のクオリティを持つ。

ハンス・ジマーの起用は『ワールド・アパート』(監督クリス・メンゲス)のスコアを評価されたためだが、前作と多くの共通点があるのは当然だ。フェアライトCMI を含むさまざまなキーボード、パンパイプを含むエキゾチックなサンプル木管楽器や打楽器アイテム、ディジュリドゥ(アボリジニの金管楽器)とスチールドラムが加わり、スコアにまったくユニークなサウンドスケープを与えている。また、ロード・ムービーを飾るに相応しい、前へ前へと進む感覚も兼ね備えており、後にも先にもこれほど興奮したサウンドパレットはなかった。(音楽編集者ジェームス・フランバーグ)

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サウンド配置は一貫して的確、違和感とも無縁。5.1chトラックはエンジニアの技量の高さを維持しており、会話のトーンがはっきりと伝わり、効果音や音楽とのバランスが絶妙に保たれている。サウンドデザインのあらゆる側面のバランスが取れているため、アップミックス再生と見事に適合。環境音やアンビエント、出世作となったハンス・ジマーのスコアを難なく拡張、調和度を増したまろやかなシンセの音色とパーカッシヴなリズムは注目に値する。

UHD PICTURE - 4/5  SOUND - 4/5

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映像平均転送レート 68398 kbps(HDR10)| 3083 kbps(DOLBY VISION 4.31%)
音声平均転送レート 3796 kbps(DTS-HD Master Audio 5.1 | 48kHz | 24bit)

HANS ZIMMER: LEAVING WALLBROOK / ON THE ROAD, FROM RAIN MAN

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