聴き手に迫り、ダイレクトな感触があるアナログの感触。太めの音で、“肌に合う”感覚が楽しい作品集

SACD/CD盤として好評発売中の『ルパン三世1977〜1980 ORIGINAL SOUNDTRACK 〜for Audiophile〜』。その全曲に「炎のたからもの」を加えた2枚組のアナログ盤『ルパン三世1977~1980 ORIGINAL SOUNDTRACK ~for Audiophile~Analog Edition』が発売となった。

33 1/3回転 180g重量盤 2枚組
『ルパン三世 1977~1980 ORIGINAL SOUNDTRACK ~for Audiophile~ Analog Edition』

(日本コロムビア/ステレオサウンド SSAR-82/83) ¥12,100 税込

DISC 1
[Side-A]
1.ルパン三世のテーマ
2.愛のシルエット
3.デンジャラス・ゾーン
4.マグナム・ダンス~ロンリー・フォー・ザ・ロード

[Side-B]
1.サンセット・フライト
2.愛のテーマ
3.ルパン三世 '79
4.トルネイド<次元大介のテーマ>
5.螺旋飛行~黄昏のサンジェルマン
6.黒い陰謀

DISC 2

[Side-C]
1.スーパー・ヒーロー<ルパン三世のテーマ> 歌:トミー・スナイダー
2.斬鉄剣<石川五右衛門のテーマ>
3.ラヴ・スコール<峰不二子のテーマ> 歌:サンドラ・ホーン
4.ルパン三世 '80
5.そよ風の誘惑
6.ラヴ・イズ・エヴリシング 歌:木村 昇

[Side-D]
1.C-DAG~非常線突破
2.モンマルトルにて
3.貿易風
4.炎のたからもの 歌:ボビー
5.サンバ・テンペラード~C-DAG

●マスタリング/カッティング:武沢茂(日本コロムビア)
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SACD/CD盤と同様に日本コロムビア株式会社の全面協力で、オリジナル・マスターテープを使用。マスタリングおよびカッティングは日本コロムビアの武沢茂氏が担当。マスターテープからアナログのままカッティングするのではなく、スチューダー「A80」で再生したマスターテープの音をdCSのA/Dコンバーター「902」に入力して96kHz/24ビットのPCM信号に変換。コロムビアのカスタムDAW(デジタルオーディオワークステーション)で微調整した後、コロムビアのカスタムD/Aコンバーターでアナログ信号に戻し、アナログ調整卓で最終的に微調整を行なってからカッティングをするという手間のかかる方法をとった。複数のマスターテープの持つそれぞれの音の個性を活かすために選んだ方法だという。

SACD/CD盤を愛聴しているぼくもアナログ盤の発売には心が躍った。放送当時、「レコード」と言えばアナログレコードのことで、それが最新の技術で甦ったのだから興奮もひとしお。しかも重量盤だ。

試聴を始める数時間前にレコードプレーヤーやアンプ類の電源を入れてウォームアップを開始。準備万端整えて試聴をはじめた。

Side-Aの1曲目は「ルパン三世のテーマ」。『ルパン三世PARTⅡ』の初期のオープニングテーマだ。SACDでもよく聴いているのにアナログ盤の方が“肌に合う”感触だ。当時モノーラル音声だったテレビ放送を見ていたときの感覚が甦る。鮮度の高い音は予想以上だし、楽器編成の豪華さとメンバーがノリにノッて演奏していることがわかる生き生きとした演奏は記憶の中で美化された当時の『ルパン三世』そのもの。

まさにテーマ曲と言えるこの楽曲は、Side-Bの3曲目「ルパン三世'79」、Side-Cの4曲目「ルパン三世'80」の3バージョンが収録されている。それぞれにアレンジが大きく異なるが、それでいてあの曲だ。熱心なファンならばそれぞれの曲を聴けば、洒落た映像を組み合わせた各オープニング映像が甦るはずだ。

それにしても、このリズム感の良さ、スピード感というか緩急自在のプレイの妙がよく伝わるのはなぜだろう。楽器から楽器へとメロディをやりとりするタイミングとか、プレイヤーの息の合った感じが実によく伝わる。それがアナログレコードの良さと言ってしまうのは短絡的だが、そうとしか思えない、一体感のあるプレイなのだ。

続いてはエンディング曲。Side-B 2曲目の「愛のテーマ」、Side-C 3曲目の「ラヴ・スコール<峰不二子のテーマ>」など、少年だった頃はかなり大人っぽいと感じていた曲が、当時のままの色気と洒落た雰囲気をそのままに楽しめた。ヴォーカルの色っぽさと可愛らしさが同居した歌声は、強弱のニュアンスも豊かで、生演奏に近い感触がある。

『ルパン三世』の音楽と言えば大野雄二だが、ジャズ、フュージョンをベースにした斬新な曲が多いことも大きな魅力。リズミカルにスリリングに展開するSide-Dの1曲目「C-DAG~非常線突破」はポップスの要素も取り込んだ馴染みやすいメロディが印象的だ。Side-Cの2曲目「斬鉄剣<石川五右衛門のテーマ>」は和楽器を数多く取り入れながらも曲が展開していくと、ジャズでもフュージョンでもポップスでもないメロディになるのが面白い。こういう和洋も新旧も貪欲に取り込み、それをクールでお洒落にまとめあげる感覚は、まさに『ルパン三世』そのものだとも感じてしまう。

そして、アルバムの白眉は最近でもテレビ放映されるほどの不滅の名作である『ルパン三世 カリオストロの城』のテーマ曲「炎のたからもの」(Side-D 4曲目)と「サンバ・テンペラード〜C-DAG」(Side-D 5曲目)。これを2枚組のアルバムの最後に連続して配置したのは、心憎い演出だろう。

デジタル音源なら選曲も素早くできるし、配信サービスならプレイリストで好みの順で聴けるのが当然だが、アナログレコードでは、再生する度にカートリッジを下ろし、場合によってはレコード盤をひっくり返さないと好きな曲順では聴けない。だからこそ、アナログレコードの曲順はかなり大事。そういう意味でも、本作を通して聴くと1977年から1980年の『ルパン三世』を満喫した気分になるのはぼくだけではないはず。

アナログレコードで感じたこの楽しさの理由が気になって、SACDも再生してみた。分析的に比較すれば、SACDの方が個々の音がシャープでより鮮明。音色や演奏のニュアンスこそ変わらないが、SACDは描線がより細く、アナログレコードは少し太めになる。くっきりとした鮮明さはSACDの方が優れるが、アナログレコードは太めの感触となる印象だ。聴き手に迫る感じ、ダイレクトな感触があるといってもよいだろう。こうした違いは聴く人や機器で違いもあるかもしれないが、ぼくはこの感じがアナログレコードの音の魅力ではないかと思う。決してノスタルジーではないと思うし、このアナログレコードの“肌に合う”感じはCD全盛期以降に生まれた人でもわかると思うのだ。

SACDも優秀な出来だが、アナログレコードもほぼ同じ曲を収録したとは思えないくらいひと味違う魅力がある。現代のデジタルアニメとは違う手塗りのセルアニメを見る感覚と言えるかも。往年のファンはもちろんだけれども、最近になって昔の『ルパン三世』の魅力に気付いた人はぜひアナログレコードで当時の感触にもっと近づいてみてほしい。

ルパン三世のサントラがSACD化! 思わずリズムを刻んでしまう、最高の音に仕上げました

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