THE STUFF DREAMS ARE MADE OF - 夢がつまっているのさ

マルタの鷹 1941年

監督 ジョン・ヒューストン
製作 ハル・B・ウォリス ヘンリー・ブランク
原作 ダシール・ハメット
脚本 ジョン・ヒューストン
撮影 アーサー・エディソン
音楽 アドルフ・ドイッチ
出演 ハンフリー・ボガート  メアリー・アスター ピーター・ローレ シドニー・グリーンストリート 
   ウォード・ボンド グラディス・ジョージ エリシャ・クック・Jr バートン・マクレーン 
   ジェローム・コーワン ウォルター・ヒューストン

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俺は君を刑務所へ送ってやる。無期懲役だ、20年たてば釈放されるかもしれん。待っててやるよ。絞首刑になったら、ときどき思い出してやろう。

ダシール・ハメットが1930年に発表した、泣く子も黙るハードボイルド文学の傑作の映画化。主人公はご存知、私立探偵サム・スペード。演じるは、スタア前夜のハンフリー・ボガート。サム・スペードは型通りの正義の遂行者ではなく、ギャングどもの同じ世界に棲息し、生き延びるためには汚い手を使うことも厭わない。だが「これだけは許せない!」という自分なりの倫理観を持つ男。これまでのギャング映画のキャリアを生かしながら、ボガートはまったく新しいヒーロー像を創造してみせた。

ミステリが好きなら、『マルタの鷹』をお見逃しなく。これはもっとも洗練された脳のエクササイズであり、もっともクールでシニカルで、説得力のある神経質な笑いを誘発する傑作だ。そのすべてを生み出したのがジョン・ヒューストンで、これが監督デビュー作とは思えない完成度だ。(ニューヨーク・タイムズ誌)

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1930 年代後半に脚本家として成功していたヒューストンは、1941 年初頭にワーナーを説得、監督の機会を得ることができた。ヒューストンの選んだ作品は、ワーナーが2度映画化を試み失敗してきた『マルタの鷹』。最初は懸念を示したワーナーも、ヒューストンの脚本を読んで承諾。原作のアイデアに固執すること。ハメットの台詞の多くを残しながら、小説により忠実であること。ヒューストンは徹底的にハードボイルド・スタイルにこだわり、原作のムードを見事に映像化している。

フィルム・ノワールは脳裏に焼き付く。観客は方向感覚を失い、興味をそそられ、魅了される。ノワールは、陰謀を企む乙女、いたずら好きな不適合者、欠陥のある男性など、ねじれた運命の邪悪な網に巻き込まれた人々を親密に覗き見しながら、青々とした病的状態のザラザラした地下世界に私たちを導くんだ。(監督ジョン・ヒューストン)

限られた予算や撮影スケジュールを維持するため、ヒューストンは撮影台本(秒単位でのシーン構成、ショットごとのセットアップ)を作り、加えて細密な絵コンテを仕上げて撮影に臨んでいる。一例をあげれば、冒頭の探偵事務所から依頼人の登場、スペードの相棒が殺されて、謎の怪人物が現れるまでの展開のスピード感。事件の輪郭の描写のためには大胆な省略も辞さず、その手際の良さ、流れるような映像リズムは本作の魅力のひとつになっている。

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撮影は『西部戦線異状なし』『フランケンシュタイン』『カサブランカ』のアーサー・エディソン。ワーナー・ブラザーズ・モーション・ピクチャー・イメージング(MPI)が、残存していた良質な35mmオリジナルカメラネガをクリーニング。16ビット4Kスキャン、フレーム単位のデジタルレストアを実施(2022年に始まった総作業は1年に及ぶ)。 HDRはHDR10のみをサポート。2010年にワーナーからBLU-RAY(1層25GB/VC-1コーディック/平均転送レート25.6Mbps)がリリースされているが、UHD BLU-RAYはその映像を大幅にアップグレードしている。

2010 BLU-RAY - WARNER BROS.

2023 UHD BLU-RAY - WARNER BROS.

黒レベルははるかに豊かで、HDRによるコントラスト拡張は抑制が効いて余剰を許さず(ピーク輝度レベル843nit/平均28nit)、より広範なグレースケール階調を描画。ミッドトーンの拡張も絶妙だ。精細なシャープネスとディテイル描画力も強化され、軟調に見えるショットはごくわずか。クローズアップやミドルショットにみる顔や髪、衣服の細部をより知覚できるようになり、前景・中景・後景のさまざまなテクスチャが明らかになったことで、画像に顕著な奥行き感が追加されていることを視認できよう。ハリウッド黄金時代の映像を思わせる、幾分重みのある粒子感の再現も優秀だ。

『マルタの鷹』の撮影は『市民ケーン』が公開された1か月後、1941年6月に始まった。ジョン・ヒューストンとアーサー・エディソンは、『市民ケーン』の撮影技法を積極的に取り入れ、映画にうまく適応させる方法を示した。おそらく最初の映画だろう。『市民ケーン』に酷似したような深みと鮮明さ、広角レンズと屋根付きのセットの使用は、映画に不可欠なテクニックとして採用された。それまでのフーダニット(whodunit/犯人捜しのミステリ)にみるメロドラマ的な効果照明は影を潜め、ドキュメンタリーを思わせるようなリアリズム照明を考案している。しかも屋根付きのセットでローアングル・ショットも多用されている。ここで興味深いことは、使用されている広角レンズが一般的に使用されていた従来の24mmレンズではなく、エディソン所有の特殊な21mmレンズであることだ。このレンズを使ってエディソンは、パンフォーカス(ディープフォーカス)映像の歪みを制御している。(撮影監督ロジャー・ディーキンス)

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音響エンジニアは『ヨーク軍曹』『ダイヤルMを廻せ!』のオリバー・S・ギャレットソン(ワーナー専属)。35mm磁気トラックからの最新サウンド・リマスター(DTS-HDマスターオーディオ2.0モノラル)。2010年BLU-RAY版サウンドトラック(1.0モノラル/音声平均転送レート1.1Mbps)の脆弱さから解放。トップとボトムエンドに制限はあるが、オリジナルサウンドトラックが持つディテイルを失うことなく、すべてにおいて2010年トラックより堅牢なサウンドとなっている。耳障りだったヒスノイズもほぼ解消。個性豊かな声のオーケストラはムード満点、聴きどころのひとつだ。

音楽はのちにミュージカル映画で才能を開花させるアドルフ・ドイッチ(『アニーよ銃をとれ』『掠奪された七人の花嫁』『オクラホマ!』でオスカー受賞)。ヒスノイズから解放された不機嫌で刺激的なスコアがダイナミックに再現され、ザラついた粗目のカウンターポイントも聴きどころ。

UHD PICTURE - 5/5  SOUND - 4.5/5

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映像平均転送レート 74951 kbps(HDR10)
音声平均転送レート 1772 kbps(DTS-HD Master Audio 2.0 Mono | 48kHz | 24bit)

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