ロス市警伝説の刑事は、「怪物」だった
正義感に燃え、ロス市警に配属された新人刑事ジェイク。彼とコンビを組むベテラン刑事アロンゾは、ジェイクにこう言い放つ。かよわい子羊でいるか、獰猛な狼でいるか、それを選べ。ルールもモラルも通用しない犯罪捜査の最前線で、ジェイクは思いも寄らぬ事態に巻き込まれていくことになる。監督はアントワーン・フークア。デンゼル・ワシントンとは本作が初顔合わせ。その後は『イコライザー』『マグニフィセント・セブン』『イコライザー2』でコンビを組んでいる。ワシントンはオスカー主演男優賞を受賞し、共演のイーサン・ホークは助演男優賞にノミネートされた。
『トレーニング デイ』はハードな犯罪スリラーで、しかも主人公のアロンゾは悪役だ。観客に少しでもアロンゾへの共感を持たすことが出来れば、この映画は特別なものになるだろう。私は台本に、そう書き留めたのを覚えている。そして、デンゼルがイーサンに『ロジャーが子供たちに麻薬を売った』という台詞を言うシーンで、彼は目に涙を浮かべていた。デンゼルはとても誠実だった。だから私はイーサンに『このシーンをうまくやれば、君たちはオスカーにノミネートされるよ』と伝えたんだ。(監督アントワーン・フークア)
フークワはミュージック・ビデオのディレクターから劇場映画監督に転身し、本作公開時は映画業界で波を起こし始めたばかりだった。デンゼル・ワシントンとは本作が初顔合わせ。だが『リプレイスメント・キラー』(98年/主演チョウ・ユンファ)でフークワの監督スキルや視覚的なストーリーテリングに注目していたワシントンは、クランクイン前からフークワと良好な関係を築き、撮影が進むにつれ『トレーニング デイ』の成功を確信したという。
撮影監督は『アバター(オスカー受賞)』『キングダム/見えざる敵』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のマウロ・フィオーレ。アリフレックスおよびムービーカム/35mmアナモフィック撮影作品(コダックで撮影、富士フィルムにプリント)。デジタルレストアはワーナー・ブラザーズのモーション・ピクチャー・イメージング(MPI)が担当。LUT(ルックアップテーブル)は富士フィルム(LUTナンバーは未公開)。HDRはHDR10のみ採用。
本作は2006年にBLU-RAYとHD-DVDでリリースされた最初のタイトルの1本。2006年BLU-RAYは1層25Gb/MPEG-2(映像平均レート13.6Mbps)仕様であり、長い間アップグレードが待たれた作品である。結果は細部にわたるアップグレードを提供、フィルムのニュアンスを維持しつつ強靭な画力で魅了する。粒子感は幾分強め。大顔絵から美術衣装の質感やディテイル描画が際立っている。
HDR の恩恵によるハイライトは、純度が高く、より鮮明でバランスが取れている。黒レベルは大幅に改善されており、堅牢な陰影ディテイルを維持し、全編を通じて豊かなトーンで満たされている。BLU-RAYと色調の異なるカラーグレード。より豊かで深みのある色調が目を奪うが、多くのシーンでティール(小鴨色)やサップグリーン(黄草色)の色彩光彩が強調されている。
本編の音響エンジニアは『シンドラーのリスト』『アポロ13(オスカー受賞)』のスティーヴ・ペダーソン、『逃亡者』『ショーシャンクの空に』のマイケル・ハービック、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『パシフィック(TV)』のダニエル・J・レイフィー。新たなアトモス・ミックスは『アリー スター誕生』『ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結』のアトモス・ミックスや邦画『太陽の子』のサウンドデザイナーであるマット・ヴォウルス。
この映画では観客は常に危険に晒されている。画面には映らないものが発する音、つまりスクリーンの外から聴こえてくる、叫び声、銃声、サイレン、そしてさまざまなノイズが、観客に見えない脅威を感じさせるのだ。サウンドトラックに記録されたすべての音が、避けられない暴力的衝突を告げている。観客がこの映画が持つ「死の美学」を無視し得たとしても、都会のジャングルの闇の待ち受ける「死」の音から逃れることはできないだろう。(音響デザイナー、マット・ヴォウルス)
2006年BLU-RAYはロッシー(ドルビーデジタル5.1)音声仕様であったが、今回のアトモス・ミックスは価値のあるアップグレードとなっており、1音1音がシアタールームに深く浸透し、映画に命を吹き込んでいる。発声と会話は全体を通して優先され、首尾一貫した明瞭度を提供。濃厚なミッドレンジ。引き締まったローエンド。サラウンドチャンネルは休息知らず、車内でのアロンゾとジェイクの静かな会話シーンでさえ、精妙なサラウンド効果を楽しむことが出来る。
アトモス・ミックスは必要に応じてアンビエントや音楽を拡張。効果音の明快な定位やパンニングは抑えられるが、危険なムードの街頭や混沌とした室内などのサウンドスケープには説得力があり、重層的な3Dサラウンドサウンドとなっている。日本語吹替音声、日本語字幕収録。
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4.5/5
バックナンバー:銀幕旅行
バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi