レザボア・ドッグス 1991年
監督 クエンティン・タランティーノ
製作 ローレンス・ベンダー
製作総指揮 リチャード・N・グラッドスタイン ロンナ・B・ウォーレス モンテ・ヘルマン
脚本 クエンティン・タランティーノ
撮影 アンジェイ・セクラ
音楽監修 カリン・ラクトマン キャシー・ネルソン
出演 ハーヴェイ・カイテル ティム・ロス マイケル・マドセン クリストファー・ペン 
   スティーヴ・ブシェミ ローレンス・ティアニー カーク・バルツ エディ・バンカー
   クエンティン・タランティーノ スティーヴン・ライト(声の出演)

4K SCREEN CAPTURE

ご存知タランティーノ、長編監督デビュー作。低予算映画ながらサンダンス映画祭、カンヌ国際映画祭(特別招待作品として出品)で注目され、一般公開されるや絶大な支持を集めることになる。ノンリニアな物語構造で描かれる強盗計画の破綻は、ポップカルチャーにウンチクを傾けるメガクールな登場人物たちと相まって、とびきり気の利いたフィクションとしてシネフィルの心を虜にした。

腕の立つ曲者たち8人がチームを組んでダイヤ強盗を企てる。ところが襲撃に失敗。事前に計画した通り倉庫に集合した残党たち。警察へ密告したのは誰だ?息継ぎも許さぬ罵り合いは止まることを知らない。ジャンルは犯罪アクションとなろうが、動くのは躰よりむしろ口のほう。なにしろ冒頭からいい年したおっさんギャングがコーヒー片手にマドンナ談義。もうそれだけでも、ギャング映画を根底からひっくり返したタランティーノの手腕を計れよう。

撮影を始めたとき、照明やレンズについてほとんど知識がなく、アンジェイから多くのことを学んだ。私はフレーミングにうるさいので、基本的に私がフレーミングをコントロールし、アンジェイが照明をコントロールしたんだ。(クエンティン・タランティーノ)

4K SCREEN CAPTURE

撮影は3年後に『パルプ・フィクション』を撮ることになる、ポーランド人撮影監督アンジェイ・セクラ。セクラはコダック5245/50Dストック(ASA50感度/デイライト用フィルム/エクタクロームXR)で全編撮影。5245/50Dストックの乳剤にはカラードカプラーマスクが含まれており、鮮やかな色再現が特徴のひとつ。パナビジョンのプリモ(Primo)レンズと組み合わせることで、超微粒子の立体的な画像、コントラスト域の広い被写体に対する陰影ディテイルを得ることが出来る。

経済的な事情でアナモフィックレンズで撮影できず、スーパー 35フォーマットで撮影した。だが球面レンズが使えるため、深い被写界深度を得ることが出来た。アナモフィックプロセスはポストプロダクションで行われ、オリジナルネガをインターポジやインターネガに変換して、さらにアナモフィックスクイーズを施した。結果は悲痛なもので、オリジナルネガは高い解像感とダイナミックレンジを持っていたが、上映プリントの品質の低下は明らかだった。(アンジェイ・セクラ)

セクラは50年代や60年代の撮影アプローチを参考にしたということだが、セット撮影では大量のライト光を用いてスローストップで露光させている。F値/絞り値は4 ~ 5.6(F値を上げることによりカメラが取り入れる光量は減り、被写界深度が深くなって背景がよりシャープになる)。プリモレンズから可能な限り最高のパフォーマンスを得ることができ、良好な被写界深度を維持、黒(暗部)から光を構築することで構図を完全に制御したのだという。

4K SCREEN CAPTURE

製作30周年を記念して仏スタジオカナルが、初めて35mmオリジナルカメラネガを4Kスキャン、4K解像度による大規模なデジタルレストアを敢行。HDRグレードはHDR10とドルビービジョンをサポート。BLU-RAY版との比較で明快となるのは、これまで見たことがない驚くほど鮮明なディテイルが画面に溢れていることだ。BLU-RAYで散見された過度なDNRや輪郭補正の弊害、エイリアシングやバンディングから解放され、残存していた傷痕も除去されている。

5245/50Dストックの特徴と思われる微粒子感も心地よく、大胆で立体的な画像再現の一助となっている。多用されるクローズアップショットにみる肌の質感は崇高。広角ミディアムショットもシャープで鮮やか、説得力のあるディテイルが提供されており、予想をはるかに超えている。

コントラストバランスは一貫しており、深くインキーな黒、余剰を残しつつインパクトを強めたハイライトが目を奪う。タランティーノやセクラが狙ったカラースキームの再現は、可能な限り再現されてると言ってよかろう。カラー パレットはウォームトーンを宿し、茶、オレンジ、黄、琥珀色、暖色系のベージュ、グレーと灰緑が印象的。本作の命でもある鮮血の赤は凄烈。

2010 BLU-RAY - GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMEN JAPAN

2022 UHD BLU-RAY - LIONSGATE HOME ENTERTAINMENT

サウンドデザイン/音響編集監修は『ロボコップ』『スピード』でオスカーに輝くスティーヴン・ハンター・フリック。最新ロスレス・ドルビーTrueHD 5.1サウンドトラック収録(2007年米国BLU-RAYはDTS-HD High-Res 6.1、2010年国内BLU-RAYは16ビット仕様のTrueHD 5.1)。サウンドステージングはミドルワイド。フロントヘビーの音響デザインながら、良好な分解能と明瞭度を持つ。サラウンドチャンネルは予想以上のアンビエンスを提供。ローエンドのレスポンスはいまひとつ。

基本的にはオリジナルの音楽を必要としない。自分の映画に関しては、作曲家の誰も信用していないし、会ったことのない作曲家を雇って映画の魂を託したくない。だから音楽を使うなら、私がそれを選んでいる。(本作の『リトル・グリーン・バッグ』『スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー』といった)音楽はすべて私の選択によるものだし、これらの音楽を聴きながら脚本を完成させたんだよ。(クエンティン・タランティーノ)

本作の演技陣は、自らは持ち得る声の響き、イントネーション、音程を深く理解している。ハーヴェイ・カイテルらによる集団演技は、スリリングな声のオーケストラを奏でており、個々の発声も魅力的なダイナミックレンジな幅の広さを誇っているのだ。これこそが本作最大の聴きどころとなろう。

UHD PICTURE - 4.5/5  SOUND - 4/5

4K SCREEN CAPTURE
映像平均転送レート 65789 kbps(HDR10)| 7068 kbps(DOLBY VISION 10.74%)
音声平均転送レート 3785 kbps(DOLBY TrueHD 5.1 | 48kHz | 24bit)

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