第47回カンヌ国際映画祭授賞式で、拍手とブーイングが巻き起こるなか、グランプリにあたるパルム・ドールが『パルプ・フィクション』に贈られた。壇上に上がったタランティーノ、31歳。『レザボア・ドッグス』に続く監督2作目にしての快挙に大喜び。『レザボア~』 ですでに熱を帯びていたタランティーノであったが、あらためて映画業界が認めた瞬間であった。
マリオ・バーヴァの『BLACK SABBATH(邦題:ブラック・サバス/恐怖!三つの顔)』を観たことがあるかい?三話からなるホラー・アンソロジーなんだけど、最初はバーヴァがやったことを犯罪映画でやろうとしていたんだ。あの映画のバーヴァは最高さ。でもそのうちに、J・D・サリンジャーが連作物語にグラース家を登場させたように、3人の主人公が登場しては消えるというアイデアを思いついたんだ。(クエンティン・タランティーノ)
「30年代に流行った三文犯罪小説が扱った低俗な話を採り入れながら、突飛な犯罪映画に仕立てようと思った」と早口でまくし立てていた通り、『レザボア~』にも増してノンリニアな物語構造、小説で使われていきたクロスカッティング技法、豊かで折衷的な対話、ユーモアの皮肉な使い方、吹き込まれるポップ・カルチャー、超クールな音楽サウンドトラックがエッジの効いたネオノワールと組み合わさって、新しい映画スタイルの到来を告げたのである。
ダンスシーンのアイデアはゴダールの犯罪ドラマ『はなればなれに(1964)』から生まれたんだ。ブルース・ウィリスに関して言えば、ジャック・ターナーが監督した『夕暮れのとき(1957)』のアルド・レイそのものさ。私にとって彼は 、アルド・レイ、ラルフ・ミーカー、キャメロン・ミッチェル、ブライアン・キース、そしていくつかの映画のロバート・ミッチャムといったあの時代のタフな男たちを思い起こさせる、唯一の今日のスタアなんだ。(クエンティン・タランティーノ)
写真はスチールブック・Ed.。スタンダード・Ed.と共に日本語字幕&吹替音声収録。
撮影は『レザボア~』に続いてアンジェイ・セクラが務め、コダック5245/50Dストック(ASA50感度/デイライト用フィルム/エクタクロームXR)で全編撮影。ノンアナモ撮影であった『レザボア~』に対し、アリフレックス35-IIIおよびパナビジョン・パナフレックス/アナモフィック撮影。
パラマウント・アーカイブ部門主導による、35mmオリジナルカメラネガを4Kデジタルレストア/HDRグレード(タランティーノ承認の有無はアナウンスされていない)。HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。仕上がりはノーブル、堂々たる一級品。これまでのライオンズゲート版BLU-RAYとの比較では、明快なアップグレードを視認できる。過度なDNRの弊害を払拭、明瞭度と深度描画力の改善が著しく、ほぼすべてのフレームに確然たるテクスチャリングが施されている。5245/50Dストックの特徴である微粒子感の再現も優秀。
HDRは自然光と人工光のいずれも豊かにする鮮明な視覚要素を追加。ハイライトは一貫性を保ち、深く豊かな黒レベルも揺るぎない。WCG(広色域)の恩恵は一目瞭然。色域が抑制されていたBLU-RAY版に対し、5245/50Dストックならではの鮮やかな色再現が蘇生している。ジャック・ラビット・スリムスのカラースキームは観どころのひとつ。
サウンドデザイン/音響編集監修は『ロボコップ』『スピード』でオスカーに輝くスティーヴン・ハンター・フリック。『レザボア~』に続いての登板である。ドルビーSRマスターからの5.1chリミックス。BLU-RAY版と同マスターと思われるが、整音精度はわずかに高まっている。ミックスはバランスが取れており、発声は終始明晰、サウンドステージのサイズも過不足がない。サラウンドは優れた指向性、スムーズなパンニングを提供。控えめながらも十分なローエンドは随所で活躍する。
なぜサーフ・ロックを選んだかって?スパゲッティ・ウエスタン(マカロニ・ウエスタン)の音楽のように聞こえるからさ。それだけの理由だよ。そもそもサーフ・ロックが、サーフィンやサーフ・カルチャーとどのように関係があるかなんて理解していない。(クエンティン・タランティーノ)
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4.5/5
SOUNDTRACK
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