オーディオファンの多くは、お気に入りのシステムを最高の状態で使いこなしたいと願って日々努力を重ねている。しかしそのためには機材だけでなく、きちんとした再生環境をどうやって整えるかも重要なテーマだ。
オーディオ専用ルームであれ、リビング兼用であれ、部屋のサイズや壁の素材など様々な原因から調音、整音が必要なケースがほとんどだろう。とはいえそのために工事を行うのもなかなか難しい。そのため多くの場合、音響ボードなどでルームチューニングを行うことで、理想的な再生環境を探っているわけだ。
今回はそういった悩みをお持ちの方に向けて、アコースティックリバイブのアコースティック・コンディショニング・エキサイター「RWL-3 absolute」と「WS-1」を準備、実際にルームチューニングでお悩みの読者・鈴木貴晴さん宅に持ち込んで、音の印象がどう変わるかを体験いただいた。アドバイザーは山本浩司さんにお願いしている。(StereoSound ONLINE編集部)
※今回の取材に関する山本さんと鈴木さんのコメントはこちら ↓ ↓
横浜市の瀟洒なマンションの一室をリスニングルームとしている鈴木貴晴さん。このお宅にはHiVi誌の取材で 8年ほど前にうかがったことがあるが、今回は、以前から興味をお持ちだったというアコースティックリバイブ製の調音ボードの効果を体験してもらうことになった。
鈴木さんはピュアオーディオとホームシアターの二刀流で音楽や映画を楽しんでおられるが、今回の取材では愛聴CDを再生しながら、調音ボードの「RWL-3absolute」と吸音用アクセサリーの「WS-1」を試してもらった。
鈴木さんが愛用するスピーカーはアメリカ、ウィルソンオーディオの「SOPHIA 2」(特注のブガッティブルー。とてもきれいな色合い)で、ゴールドムンドのプリアンプ「MIMESIS 27.3」とモノブロック・パワーアンプ「MIMESIS 18.4」で鳴らされている。再生機はリンのユニバーサル・プレーヤー「UNIDISK 2.1」だ。
RWL-3absoluteとWS-1が、いかなる音質向上に資する効果を発揮したかは、ぜひ動画コメントでご確認いただきたいが、ここではテキストで、軽くこのときの試聴取材をレビューしておきたい。
10年の時間をかけて、好みの音を追い込んできた“貴シアター”とは
鈴木さんのオーディオルーム(自称:貴シアター)は、快適な居住性といい絵、いい音を目指して、マンション購入時に細かい希望をオーダーして仕上げた空間だ。
しかしそこまでこだわって作っても、後から気になる点がでてくることもあるとかで、実際に特定の帯域の低音対策で苦労をしているそうだ。今回はそういった点も含めてアコースティックリバイブ製品を使ったルームチューニングにトライしている。
鈴木邸の主な再生システム
●プロジェクター:ソニー VPL-VW500ES
●ユニバーサルプレーヤー:リン UNIDISK 2.1
●BDレコーダー:パナソニック DMR-BZT9600
●プリアンプ:ゴールドムンド MIMESIS 27.3ME(inALIZE 96/24)
●AVセンター:ヤマハ RX-A3010
●パワーアンプ:ゴールドムンド MIMESIS 18.4ME
●スピーカーシステム:ウィルソンオーディオ SOPHIA 2
SOPHIA2はかれこれ10年以上お使いだとのことで、ゴールドムンドのペアで鳴らされたそのサウンドは、じつにスムーズでなめらか。ヴォーカルには独自の艶があり、弦楽器の音の広がりも申し分ない。使い手としての鈴木さんのスキルの高さを実感させる、ウェルメイドなサウンドだ。
鈴木さんご自身は、部屋の構造と寸法比、そしてスピーカー位置とリスニングポイントの関係で生じる、定在波の悪影響による尾を引くような低音のだぶつきを解決したいとの思いを抱いておいでだが、「音波の拡散を目的とした調音ボードの使用が、その解決策になるとはちょっと思えませんね」というのが体験試聴前の鈴木さんの発言だった。
実際に試聴取材を行なってみて、その事前予想はほぼ当たっていて、確かに定在波の影響によると思われる低域のブーミングが発生しているが、それ以上にブーミングを起こしている帯域よりも、中低域の厚み不足が気になった。
鈴木さんが以前に部屋の特性を測ったというスベアナデータを見せてもらうと、やはりブーミングを起こしている40〜70Hzより上の80〜200Hzの帯域に明らかなディップがあることが判った。中低域にディップがあることで低域のピークがより目立って気になるのだろう。
今回試聴したアコースティックリバイブ製ルームチューンアイテム
●アコースティック・コンディショニング・エキサイター:RWL-3absolute ¥184,800(税別)
●アコースティック・コンディショナー:WS-1 ¥17,400(税別、1枚)
鈴木さんは、マンションのリビングダイニングでオーディオ&ホームシアターを楽しんでいる。間取りは下図(本人作成)の通りで、スピーカーが設置されている部分はやや奥まったスペースで、天井も30cmほど低くなっている。
これもあってか、一部の帯域(低音)が尾を引くように感じられるのが悩みだという。そこで今回はアコースティックリバイブの「RWL-3absolute」を3枚と「WS-1」を4枚持ち込んで、鈴木邸のサウンドクォリティアップに挑んでいる。
RWL-3absoluteは、内部に配置された特殊素材の深さの異なる溝により、スピーカーからの再生音、反射音の理想的な拡散を行うもの(吸音は行わない)。緻密に計算された湾曲角度により、広範囲に音波を拡散する事ができるという。更にトルマリン含浸のハイテク天然シルク素材と、同じくトルマリンと貴陽石含浸特殊発泡材によるマイナスイオン効果により、滑らかで瑞々しい質感を実現する調音が可能という。
取材ではL/Rスピーカーの真ん中に1枚使った場合と、スピーカーの後ろにそれぞれ1枚置いた場合(部屋のコーナーをなくすように配置)で音がどう変わるかを試している。
もうひとつのWS-1は、フラットな吸音特性を誇る特殊低反発ウレタンフォームで、サイズはW290×H32×D290mm。内部には、全帯域に渡ってフラットな吸音特性を実現する特殊低反発ウレタンフォームを採用。表面にはRWL-3absoluteと同じく天然シルクを採用することで、均一な吸音と拡散を併せ持つという。
今回はスピーカーの一時反射の強そうなポイントを中心にいくつかの場所にWS-1を置いて、音の変化を追い込んだ。結果としてはスピーカーの両脇、一段下がった天井と床の間で縦方向のフラッターが起こっている場所に置いた時の音質改善効果が一番大きかった。
後述するが、この帯域バランスの偏りはともかく、RWL-3absoluteとWS-1によって、予想を上回る著しい音質向上効果が得られたのは間違いない。それは、音像・音場表現の驚くべき改善だった。
L/Rスピーカーの真ん中後方の本棚の前にRWL-3absoluteをひとつ置いただけで、ヴォーカルの音像がキュッと締まってハイフォーカスな定位となり、奥行方向にも見通しのよい立体的な音場表現が得られたのである。
RWL-3absoluteを使用する前から、このリスニングルームのサウンドステージはとても見通しがよいなという印象を持っていたのだが、RWL-3absoluteを配置すると、いっそうその美点が際立つのである。つくづく人間の脳は相対比較するようにできているのだナと実感させられた。
RWL-3absoluteの表面は、手触りのよい天然シルクで覆われている。天然シルクは糸1本1本の太さが異なるため、シルクの表面生地だけでも大きな拡散効果が得られる。さらに、内部の天然鉱石が含浸された発泡材の凹凸と併せてナチュラルで理想的な音波の拡散効果が実現されていると思われる。
試しにRWL-3absoluteを裏返しにして音を聴いてみた。裏面は天然シルクで覆われておらず、単なる反射板として機能することになるが、この状態だとたしかに音像フォーカスが途端に甘くなることがわかった。
次に、L/Rスピーカーの後方の壁にそれぞれRWL-3absoluteを追加すると、今度は後方と側方の壁が取り払われたかのような広々とした気持のよい音場が得られる。
ステレオイメージが著しく向上することで、演奏現場のエアーが瞬間解凍されてリスニングルームに甦ってきたかのようなイリュージョンを抱くことができたのである。
鈴木さんは、愛聴盤のひとつというギタリスト村治香織の『アランフェス協奏曲』をかけてくださった。
「このCDは空間情報が見事に捉えられた作品なんですが、L/Rスピーカーの後方の壁にそれぞれRWL-3absoluteを置くと、左右の広がり、奥行の深さが出るようになり、ステレオイメージが格段によくなりますね。音がスピーカーの周りにまとわりつかなくなって、壁がなくなった感じがします。それからギターの音色にも艶が出てきました。加えて、ボリュウム位置は変えていないのに音圧感が上がって、音楽を聴いている満足感が高くなります」と鈴木さん。
鈴木さんのリスニングルームは比較的広く、12帖くらいだろうか。もっと部屋が狭くてスピーカーを側方や後方の壁ぎりぎりに置くしかなく、どうしても窮屈な音になってしまうという方にぜひRWL-3absoluteの使用をお勧めしたい。鈴木さんの部屋以上の効能が得られるのではないかと思う。
RWL-3absoluteを使用することで音像定位や空間再現性は大きく向上し、音色や質感も改善されたが、鈴木さんが希望される定在波による低域のブーミングはまだ取りきれていない。中低域のディップは明らかになくなって低音楽器によるリズムは厚みを増しているが、もう少し低域の固有帯域のブーミーさは解消したいところだ。
そこで今度は吸音用アクセサリー、WS-1の効果を試してみた。
約30cm角の座布団状のアクセサリーだが、これを一次反射が大きいと思われる場所、スピーカーの両サイドの床と壁、スピーカー前方約50cmの床、それからリスニング用ソファの前に置かれたガラステーブルの上などに置いてみた。
いちばん効果が大きく感じられたのが、スピーカー両サイドの床に置いた場合だった。下がり天井と床間で大きな定在波が発生していると思われ、スピーカー両サイドの床にWS-1を置くと、低域のこもりが解消されてすっきりし、音の雑味も消えて、より見通しのよいサウンドステージが出現した。
ソファ前のガラステーブルに置いたときも同様の効果を実感。ガラスの共振や反射による音のにじみや刺激成分が雲散霧消したからだろう。
再生機の条件を整えることで、低音の再現性も変化する?
今回はルームチューニングだけでなく、低域のだぶつきが電源の影響から来るものではないかも検証するため、機材の電源ケーブルをアコースティックリバイブ製に交換してみた。PC-TripleC導体、シルクテフロン絶縁、NCF電源プラグ・コネクターなど独自のノウハウを注ぎ込んだハイクォリティな電源ケーブルだ。
鈴木邸のプリアンプとCDプレーヤーの電源ケーブルをこのモデルに交換してみたところ、音が一気にクリアーになり、低域のたぶつきもかなり引き締まり、中低域のディップは更に解消されて力強く良質な低域再生が実現された。ルームチューニングの他にも、こういった使いこなしも忘れたくない。
いずれにしても、調音用アクセサリーの効能は部屋によって千差万別。カット&トライを繰り返して最適な使い方を見つけるしかない。
もっとも今回試したRWL-3absoluteとWS-1の素性のよさは格別で、ルームチューニング製品にありかちな質感がドライになってしまったり、響き過ぎて定位が乱れるなどの副作用が一切感じられない。
また、音像定位や空間再現性の向上は目を見張るものがあり、聴感上の音圧も上がるため、ステレオイメージやローレベル再生時のニュアンスを向上させたいとお考えの方にぜひともお勧めしたい。納得の効果が得られるはずです。
イリーナ・メジューエワさんが奏でたブラームスを、空気録音でも楽しんで下さい
『ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番、二つのラプソディ、他(CD)』 ¥3,960(税込)
● BJN-1018/19(2枚組)●アーティスト:イリーナ・メジューエワ●ピアノ:1925年製NYスタインウェイ CD135●録音:2021年4月21日〜23日(CD-2)&2021年12月2日〜3日 (CD-1)新川文化ホール(富山県魚津市)●レーベル:ビジン・クラシカル●STEREO、96kHz/24ビット録音●発売元: 日本ピアノサービス株式会社●収録曲:<CD-1>ピアノ・ソナタ 第3番 ヘ短調 作品5、主題と変奏(弦楽六重奏曲 第1番 作品18 第2楽章による)<CD-2>二つのラプソディ 作品79、四つのバラード 作品10、四つのピアノ曲 作品119
今回の動画コンテンツでは、イリーナ・メジューエワさんによる『ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番、二つのラプソディ、他(CD)』から、CD-1の1曲目「ピアノ・ソナタ 第3番 ヘ短調 作品5」冒頭部分を使っている。
本CDは、メジューエワさん8年ぶりとなるブラームス作品集。初期の大作「ピアノ・ソナタ第3番」のほか、中期の傑作「二つのラプソディ(作品79)」、最後のピアノ作品「四つのピアノ曲(作品119)」などを収録している。
圧倒的なエネルギーと豊かな情感を伴ってブラームスのロマンを高らかに歌い上げた奇跡的な名演で、1925年製ヴィンテージ・スタインウェイ(CD135)の多彩な音色と、壮絶なffから霊妙繊細なppまで重層的なダイナミクスを明確に捉えた録音も魅力だ。
提供:関口機械販売