1980年代後半から90年代にかけて、米国に仕事で行く機会が多かった。取材の合間を見て、各地のオーディオショップや家電量販店をのぞいて彼我の違いを数多く発見したが、とくに驚かされたのがポークオーディオ(Polk Audio)製スピーカーの人気ぶりだった。

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お手頃価格なのに本格サウンド、その秘密はどこにある? POLK AUDIOのスピーカー、3つのラインナップに注がれた技術と熱意が今明らかに!

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 当時わが国にも同社製スピーカーは輸入されていたが、さほど注目される存在ではなかった。当時の代表モデルを何度か聴く機会があったが、低音のたっぷりとした鳴りっぷりのよいスピーカーというのがそのインプレッション。

 おおらかなサウンドであることは間違いないのだが、日本人のぼくの耳には低音がゆるすぎる、音に繊細さが欠けるという印象だったのである。試聴経験のある仲間の反応もほぼぼくと同じようなものだった。このへんに日米の音楽&オーディオファンの音の嗜好の違いがあるのかもしれないと当時は思っていた。

 その後、ポークオーディオ製品は日本市場から消えてしまっていたが、北米では相変わらず人気は高く、当地でのスピーカー売上げは、毎年トップ・グループの一角を維持し続けていると人伝てに聞いていた。

 そして、2017年にポークオーディオを擁するオーディオ企業体、Sound United社がD(デノン)&M(マランツ) ホールディングスを買収、それに伴って2020年のサウンドバー「SIGNA S3」を皮切りに、ポークオーディオ製品がD&M扱いで日本市場に再参入することになった。

D&M本社にディスプレイされたポークオーディオのスピーカー。写真左2列が「Monitor XT」、左から3列目が「Signature Elite」、右端が「Reserve」シリーズ

 ポークオーディオのスタートは1972年とのことなので、今年同社は創立50周年を迎える。そこで、ここでは日本市場での最上位ラインとなる「Reserve」シリーズの小型2ウェイ機「R200」とフロアー型3ウェイ機「R700」のリスニング・リポートをお届けしたい(Reserveシリーズは2021年6月に日本での発売をスタート)。

自分たちが買える最高級品質のスピーカーを!

 まずその前に同社の沿革について軽く触れておこう。米国東海岸、メリーランド州ボルチモア市で同社を設立したのは、ジョンズ・ホプキンス大学の学生だったマット・ポーク、ジョージ・クロッパー、サンディ・グロスという音楽好きの3人の若者だった。

 当時お金に余裕のなかった3人が目指したのは、自分たちが買える最高品質のスピーカーをつくるということ。このコンセプトは50年経った現在でも生きており、同社のタグラインには“GREAT SOUND FOR ALL”と記されている。

 1970年代半ばにドロンコーン(パッシブラジエーター)を用いた「MODEL7」(MONITOR7とも呼ばれた)と「MODEL10」が大ヒット、同社の経営は軌道に乗る。

 その後、L/Rチャンネル相互のクロストーク成分を打ち消すSDA(Stereo Dimensional Array)システムを提案するなど、技術面でも他社にないアプローチを採り、ポークオーディオは国内外で大きな注目を集める存在になっていった。

 1986年にはNASDAQに株式公開を行ない、同社は大企業への道を歩んでいくことになる。現在は家庭用スピーカーの他に車載用やカスタムインスタレーション用スピーカーなども展開している。

 現在日本市場で展開されている家庭用スピーカーは、「MonitorXT」「Signature Elite」「Reserve」の3シリーズで、ここに紹介するR200とR700は最上位シリーズのReserveの中核モデルとなる。もっともわが国への導入はされていないが、Reserveの上に「Legend」というシリーズが存在するという。

 わが国での最上位シリーズとはいっても、R200がペアで10万円強、R700が同じくペアで26万円強と手の届きやすい価格に抑えられている。創業の理念である “GREAT SOUND FOR ALL” コンセプトに基づいて開発されたのは間違いないが、重要なのは言うまでもなくその音質、“GREAT SOUND” が実現されているかどうかである。

ユニットの振動板からバスレフポートまで、独自技術を搭載

 ではR200、R700の概要について述べよう。両スピーカーともに中央部に高域エネルギーの拡散性を改善するウェーブガイドを備えたリングラジエーター型トゥイーターが採用されている。一般的なドーム型は超高域で頭頂部と周辺部が逆相駆動となってノッチフィルター的な減衰を示すが、リング型は超高域までフラットなレスポンスを示すのが大きな特長だ。

ポークオーディオの国内トップラインナップ「Reserve」シリーズ

●ブックシェルフスピーカー:R200 ¥103,400(ペア、税込、写真左、スタンド別売)
●フロアースピーカー:R700 ¥264,000(ペア、税込、写真右)

Reserveシリーズにはタービンコーンミッドレンジ(写真左)と高精細ピナクルリング・ラジエーター・トゥイーター(中央)が共通で搭載されている。写真右は、R700に使われているアルミ/ポリプロピレンウーファー

R600とR700のバスレフポートにはPower Port 2.0を採用する。これはポートの開口部を本体底面に設けたダウンファイアー型で、中央部に吸音材を充填したポール(クローズドパイプ・アブソーバー)を取り付けることで、不要なキャビネットとポートの共振を排除している。他のReserveシリーズは本体背面に同様の構造を持つX-Portを搭載

R700のスピーカー端子はバイワイアリング対応(写真左)で、他のモデルはシングルワイアリングという仕様だ。ネットワーク基板にはひとクラス上のパーツを使い、最適な補正を加えている

<その他のReserveシリーズのラインナップ>
●フロアースピーカー:R600¥206,800(ペア)、R500¥154,000(ペア)
●センタースピーカー:R300¥51,700(1台)、R350¥70,400(1台)、R400¥90,200(1台)
●ブックシェルフスピーカー:R100¥77,000(ペア)
●サラウンドスピーカー:R900¥77,000(ペア)

 R200のウーファー、R700のミッドレンジドライバーの振動板(ポリプロピレンに発泡剤を加えた素材)表面は流線型のタービン形状が採られている。この工夫によって質量を増やすことなく、剛性と内部損失を高めることに成功したという。内部損失が大きいとはすなわち、振動板の固有音が少ないということである。ちなみにR700の2基搭載された8インチウーファーの振動板素材は、ポリプロピレンにアルミニウムを貼り合わせたセンターキャップレス・コーンだ。

 バスレフポートの工夫も見逃せない。R200のリアポートには、同社のパテントである「X-Port」が採用されている。これは不要なポート共振を排除するために調整されたパイプ型のアブソーバー(振動減衰器)を指す。

 キャビネットの底部に配置されたR700のバスレフポートに採用されているのは、X-Portをさらに進化させた「Power Port2.0」。緻密に設計されたポート形状によって空気の流れをいっそうスムーズにして、ポートノイズを抑えるとともに、一般的なバスレフポートに比べて低音域をより深く、より高い音圧レベルで再生できるという。

「このスピーカー、ほんとうにこの値段?」との驚きが隠せない

 神奈川県川崎市のD&M 本社のマランツ試聴室でR200とR700をテストしたが、30年前のポークオーディオ製スピーカーのイメージを大きく覆す、ワイドレンジでハイダイナミックレンジ、クセの少ないクリアーなサウンドが聴け、「このスピーカー、ほんとうにこの値段?」との驚きが隠せなかったことを最初に申し述べておきたい。

マランツ試聴室でReserveシリーズの「R700」「R200」の実力をチェックした。SACD/CDプレーヤーやセパレートアンプは試聴室のリファレンス機器を使用

 30帖ほどはあろうかという広いマランツ試聴室で、後ろの壁から充分な距離(約3m)を取った場所にスピーカースタンドを置いてR200を聴く。

 6.5インチ・ウーファー搭載の小型2ウェイ機であるR200をこのようにセッティングすると、当然ながら低音がさびしくなりがちだが、R200はどんなプログラムソースを聴いても大きな不満を抱かせないのである。

 とくに驚かされたのは、その質感のよさ。むかしのポークオーディオ製スピーカーのように低域が肥大することなく、澄明で解像感がきわめて高い。製品説明をしてくださったマランツの澤田龍一さんによると、近年ポークオーディオは、よりワールドワイドな展開を視野に入れた製品開発に取り組むようになり、その成果がこのReserveシリーズの音質に結実しているのではないかとのことだった。

 澄明で解像感の高い低音に加えて、R200はヴォーカル帯域のリニアリティがきわめていいのも特長。声のニュアンスの再現がすばらしいのだ。

その他のポークオーディオスピーカーのラインナップ

ホームシアター用の視聴室では、サウンドバー「SIGNA S4」(市場想定価格¥54,800前後)と、「Signature Elite」を使った4.1.4システム(トップスピーカーは視聴室常設の埋め込み型、サブウーファーはMonitor XTシリーズを使用)も視聴している

「Signature Elite」シリーズ (価格は税込)
●フロアースピーカー:ES60¥165,000(ペア)、ES55¥127,600(ペア)、ES50¥96,800(ペア)
●センタースピーカー:ES35¥57,200(1台)、ES30¥42,900(1台)
●ブックシェルフスピーカー:ES20¥57,200(ペア)、ES15¥46,200(ペア)、ES10¥37,400(ペア)

「Monitor XT」シリーズ(価格は税込)
●フロアースピーカー:MXT70¥99,000(ペア)、MXT60¥66,000(ペア)
●センタースピーカー:MXT35¥38,500(1本)、MXT30 ¥27,500(1本)
●ブックシェルフスピーカー:MXT20¥38,500(ペア)、MXT15¥27,500(ペア)
●サラウンドスピーカー:MXT90¥27,500(ペア)
●サブウーファー:MXT12¥49,500(1本)、PSW10¥38,500(1本)

 名エンジニアのアル・シュミットが録音・ミックスを手がけたシェルビイ・リンの『ジャスト・ア・リトル・ラヴィン』(2008年)を聴いてみたが、ヴォーカル音像が決して肥大することなく、L/Rスピーカー間中央の虚空にシャープに浮かび上がり、その驚くべき生々しさに耳を疑った。このスピーカー、ペアで10万円強なのだから。

 サウンドステージのリアルな提示とともにステレオイメージの表現も秀逸。ブラジルのベテラン・シンガー、マリア・ベターニャの『Que falta voce me faz』(2006年)では、ヴォーカルの背後に広がるストリングスが立体的に描写され、ハイエンドオーディオならではの「見るオーディオ」の醍醐味が楽しめたのである、繰り返すがペア10万円強のスピーカーで。これは驚き以外のなにものではない。

 と言いながらも、R700のパフォーマンスは、R200を大きく上回る衝撃的なものだったと告白しなければならない。

 8インチ・ダブル・ウーファーの本格3ウェイ機だけに、いっそうスケールの大きな余裕を感じさせるサウンドだろうなとの予想はできたが、R700の魅力はそれだけではなかった。R200以上に緻密で、モニタースピーカー的なアキュラシーまで表現する能力を備えているのである。

ポークオーディオではサウンドバーも3モデルラインナップしている。写真上は一体型の「REACT」(市場想定価格¥30,000前後)で、中段がワイヤレスサブウーファー付きの「SIGNA S3」(市場想定価格¥32,000前後)

 しかしながら、高性能モニタースピーカーにありがちな素っ気なさや生真面目さはあまり感じさせない。女声ヴォーカルなどでは、このスピーカーならではの人懐っこさ、色気や艶っぽさを感じさせるのである。このポイントこそがぼくがこのスピーカーに惚れた最大の理由だ。

 それに加えて、エアーやスペースの表現が秀逸。録音スタジオの空気感や緊張感、ライブ会場の匂いまでが伝わってくるのかのようで、これはまぎれもなくハイエンドオーディオの醍醐味だろう。

 これならクラシック音楽も十全に楽しめるはずと考え、ポール・ルイスが弾くベートヴェンのピアノ・コンチェルト『皇帝』(2010年。ハルモニアムンディ)をR700で聴いてみた。第二楽章冒頭の弦5部のハーモニーが見事に溶け合いながら解像される様を耳にし、しばし陶然となって聴き惚れた。加えて透徹したピアノの響きの美しさも特筆モノ。この美しさに同価格帯で対抗できるスピーカーは存在しないと断言したい。

 酷暑の夏の不快感を吹き飛ばしてくれたポークオーディオR200、R700の素晴らしいサウンド。同社の創業の理念である “GREAT SOUND FORALL” が高い次元で実現されていることが深く理解できた今回の取材だった。今後両スピーカーがわが国のスピーカー市場で大きな存在になっていくことは間違いないだろう。

 また、同社のシリーズは、センタースピーカーやサブウーファーがラインナップされていて、マルチチャンネル・ホームシアター展開が容易であることを最後に付け加えておきたい。

提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス

 

取材時の様子。左がお話をうかがった、株式会社ディーアンドエムホールディングス GPDサウンドデザイン シニアサウンド マスター インポートオーディオ アドヴァイザーの澤田龍一さん