パナソニックは、CES2022でヨーロッパ向けの有機ELテレビ「LZ2000」シリーズを発表した。55/65/77インチの3サイズで、ハリウッドのカラリストによる画質チューニングも盛り込んだ「MasterOLED Pro」ディスプレイの搭載や、新しいオーディオシステムの採用など、多くの面で進化を果たしている。

 麻倉怜士さんによるStereoSound ONLINE CESリポートでは、これまでも毎年パナソニック・テレビについての最新事情をお届けしてきた。今回も、LZ2000シリーズに関するリモートインタビューにて、その詳細をお届けする。

 インタビューに応じていただいたのは、パナソニック株式会社 エンターテインメント&コミュニケーション事業部 事業部長の豊嶋 明さん、ビジュアル・サウンドBU 技術センター ハード設計部 部長の米田 昭さん、ビジュアル・サウンドBU 商品企画部の真田 優さんの3名だ。(編集部)

麻倉 今日はCES2022で発表された「LZ2000」シリーズについてうかがいたいと思っています。その前に、パナソニックは最近組織が変わったということで、テレビとしてはどのような体制になるのか、教えていただけますか。

豊嶋 これまでは、家電領域の社内カンパニー傘下にあるスマートライフネットワーク事業部でテレビやオーディオ製品を扱っていましたが、新体制ではオーディオ・ビジュアル事業、イメージング事業、スマートコミュニケーション事業などを独立したひとつの事業体として専門に受け持ちます。その事業部も、今年4月からパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社という組織に変わる予定です。

 その際は、パナソニック ホールディングス株式会社の傘下に8つの事業会社が入り、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社はそのひとつということになります。これまでの、テレビとかビデオ、オーディオ機器という製品ジャンルでの区分をやめて、色々なコア技術を磨いてよりよい製品を作れる体制に変更します。

麻倉 なるほど、基本構造は変わらないことがわかりました。融合により、面白い製品を期待したいです。さて今年のハイエンド有機EL製品は、型番が昨年の「JZ」から「LZ」に変わりました。テレビ製品としての進化はどういう点にあるのでしょう。

豊嶋 リアリティを追究して、お客様に感動してもらえる製品を目指そうということから、画質と音質の両方に注力しました。

 画質面では、有機ELパネルの進化が必須ですので、制御の部分について、パネルのパフォーマンスを最大限に引き出せるように追い込んでいます。

 あわせて、これまでもシーン検出AIで画質を最適化する機能を入れていましたが、その検出精度を上げて、お客様が手間をかけずに、常に一番いい画質で見ていただけるように仕上げています。

麻倉 技術は日々積み重なってくわけで、ひと口に“進化”といっても、開発時には様々な取捨選択があると思います。そういった技術のマネジメント、匙加減はどうしたのでしょう。LZ2000のようなハイエンドモデルの場合、持っている技術はすべて投入しようというスタンスなのでしょうか?

豊嶋 基本はその通りですが、中には3年後、5年後を見据えて長期に仕込んできた技術もあります。それらを含め、2022年にお届けできる技術は、出し惜しみしないでたっぷり盛り込みました。

麻倉 さて有機ELパネルですが、パナソニックではこれまでもサプライヤー側でのパネル進化に加えて、独自の使いこなしを追求しており、私もその進化を毎年興味深く拝見していました。

豊嶋 ご存知の通り、弊社は有機ELパネル(セル)を外部調達しています。そのパネルのパフォーマンスをどうやって引き出すかは、独自に積み上げた知見を最大限活用しています。

 LZ2000では、有機ELパネルそのものが新しくなりました。パネルの潜在能力も上がっていて、われわれが引き出せるパフォーマンスも拡大していると考えています。

麻倉 新パネルは、どんなところが進歩しているのでしょう。

米田 簡単に言いますと、素子の発光効率が改善されています。今回そのパネルの特長を活かして、さらに輝度が上がるような使いこなしに取り組んでいます。

麻倉 放熱プレートは、パナソニックのパネル作りのひとつのハイライトですが、今年はどのようなところが変わっているのでしょうか?

米田 放熱プレートに関しては、昨年モデルで構造を大きく変更しました。今年はパネルも新しくなったので、そのパネルに対して一番マッチングするように合わせ込んでいます。

麻倉 ユーザーに一番わかりやすい新パネルの進化点は、輝度が上がったことでしょうか?

豊嶋 パネル自体の輝度とコントラスト再現も改善しています。単純にピーク輝度が上がったというよりも、テレビとしての総合画質が改善されていると思います。

麻倉 これまでもHZ、JZと毎年輝度がアップしてきましたが、黒の階調再現の進化、黒輝度の再現性がよくなっていることにも感心していました。LZ2000でも、黒再現にはこだわったんですね。

豊嶋 明るいところは破綻なく、同時に暗い部分もしっかり再現することに注力しました。特に暗部のコントラストや階調再現には技術陣がこだわりを持っていますので、画面全体でのコントラスト改善がご確認いただけると思います。

麻倉 シーン検出のオートAIも、精度が上がったというお話でした。

豊嶋 コンテンツが多様化していることもあり、最近のテレビは様々なシーン、映像を表示しなくてはなりません。LZ2000ではオートAIのシーン検出精度を上げて、それらのシーンの特徴を正しく理解した上で、お客様が一番いいと思ってくれる映像に合わせ込んでいきたいと考えました。

麻倉 その検出は、スポーツやドラマといったジャンルで行うのですか? あるいは、明るい場面、暗いシーンといった具合に、映像の内容で検出するという方法も考えられます。

豊嶋 ジャンル検出に近い内容で処理した上で、場面ごとの輝度情報などを加味しています。アルゴリズム全体としては、これまでに確立したノウハウがありますので、そこに対してシーンを認識させる処理を改善しました。判別パターン自体も細分化しています。

麻倉 その分析結果を活かして、色々な絵づくりができるようになるわけですね。

豊嶋 観ているコンテンツの種類によって、忠実な再現をするべきか、少しメリハリの効いた絵にした方がいいのかなど、シーンごとの微調整を含めて、検出した後で賢く処理する機能を入れています。

麻倉 今年は各社とも、テレビの奥行再現に注力しようという傾向があるようです。具体的には、画面をエリアに分けて被写体を検出し、人物にはちゃんと超解像処理をして、背景には強くかけないというものです。パナソニックとしても、奥行再現に対するケア、描画に力をいれていると思います

豊嶋 はい。基本的には他社さんと同じ方向での絵づくりを考えているところです。

麻倉 最近はテレビでネット動画を見るユーザーも増えています。LZ2000ではネットコンテンツへの対応はどうされていますか。

豊嶋 若い方がテレビでネットコンテンツを視聴する機会が増えていますので、いかに使いやすくするかの工夫が必要です。UIもそうですし、リモコンもネットコンテンツを観る前提でのボタン配置などを検討していきます。

麻倉 ハリウッドと協業して、映画にも最適な「Master OLED Pro」ディスプレイを採用したそうですが、こちらはどういった進化があったのでしょう。

米田 いくつかありますが、オートAIを始めとした画質処理用の検出機能に、カラーセンサーを追加しています。そのカラーセンサーで検出した内容を反映したうえで、新しいパネル、新しい信号処理を追い込んでいきました。

麻倉 ゲーム機能に関連して、最近は4K/120pをどう表示するかも話題です。

豊嶋 弊社ではJZ2000から4K/120pやALLM、VRRといった信号に対応していますが、LZ2000ではここをさらに進化させていくことを念頭に置いています。

真田 ゲーム用の設定画面、画質についても工夫しました。代表的なところでは、「Dark Visibility Enhancer」で暗部の情報を持ち上げて、よりよく見せるという処理を入れています。

 映画のような制作者の意図が強いコンテンツでは、暗部を見せすぎてはいけません。ですので、映画用の画質モードではオリジナルを尊重します。しかしゲームユーザーは情報がちゃんと見えること、認識できることが大切です。このように、コンテンツによって暗部の見せ方にも違いがありますので、それに応じて画質処理を変えられるのがLZ2000の特徴です。

麻倉 私はJZ2000で、オートAIによる音の変化に驚きました。スタジアムの歓声やライブの雰囲気などは、オートAIをオンにした方がよかったのです。

豊嶋 オートAIは、コンテンツに応じて絵と音を連動させています。そのシーンにあった音が再現できるように調整しているのも、弊社の特長かもしれません。

 またLZ2000では、音そのものも進化させています。イネーブルドスピーカーとワイドスピーカーの搭載はJZシリーズと同様ですが、フロントスピーカーはアレイスピーカーに変更しました。

麻倉 アレイというと、ユニットを縦方向に配置したということですか?

豊嶋 いえ、横方向になります。JZ2000ではフロントL/C/R用にフルレンジスピーカーを3基並べていましたが、今回はアレイスピーカーにしたことで、音の指向性も含めて制御できる範囲が広がりました。お客様の状態、見ているコンテンツによって臨場感の出し方を工夫できるのが一番の違いです。

麻倉 ラインアレイスピーカーなら、セリフ主体の作品ではセンタースピーカーをしっかり鳴らす、ライブコンテンツなら広がり感を演出するといったことも可能ですね。

豊嶋 アレイスピーカーをきめ細かく制御することで音の定位を微細にチューニングできますので、音を演出する要素が増えることになります。

麻倉 ディーガの新製品「DMR-ZR1」ではBS4K/8K放送で使われている22.2ch音声をドルビーアトモスに変換する機能を搭載しました。同様の処理はビエラでも可能でしょうし、アレイスピーカーがあれば臨場感豊かなサウンドを再現できると思うのですが、そういった商品企画は考えていないのでしょうか?

豊嶋 アレイスピーカーは色々な可能性を秘めていますので、今お話にあったような展開も検討していきたいと思います。

麻倉 音の再生には「ピンポイントモード」「スポットモード」「エリアモード」の3種類があるそうですが、それぞれの違いを教えてください。

豊嶋 「ピンポイントモード」は音を特定の1点に向けて再生するもので、例えば夜中に一人で視聴する時に、周りに気兼ねなくお楽しみいただけます。

麻倉 その場合、どこに音を集中するかが重要ですが、カメラなどを使ってユーザーのいる場所を特定するのですか?

豊嶋 今回はマニュアル操作で、画面上のメニューから視聴者と画面の位置関係を選んでいただきます。「スポットモード」は複数人でテレビを観ている時に、特定の誰かに向けて音を大きくするものです。

麻倉 「エリアモード」は?

真田 例えばリビングダイニングでテレビを観ている場合、リビングにいる両親には音が聞こえるけれど、ダイニングで宿題をしている子供には気にならないように音量を抑えるといった具合に、空間ごとの鳴らし分けを行います。

今回のインタビューはリモートで行っている。写真左上がパナソニック株式会社 エンターテインメント&コミュニケーション事業部 事業部長 豊嶋 明さん、左下はビジュアル・サウンドBU 商品企画部 真田 優さん、右下がビジュアル・サウンドBU 技術センター ハード設計部 部長 米田 昭さん

麻倉 今後の展開についてもうかがいます。CES2022のディスプレイシーンでの最大の話題は、サムスンの「QD-OLED」パネルだと思います。青色有機ELとQD(量子ドット)フィルターの組み合わせでRGB光を取り出すというものですが、パナソニックとしても興味があるデバイスではないでしょうか。

豊嶋 パネルのポテンシャルは高いと認識しています。今後まだまだ進化できる要素を持っているでしょうから、使いこなしでそのポテンシャルをどこまで引き出せるか、とても興味深いですね。

麻倉 QD-OLEDはRGB発光ですから、色再現が根本的に進化するわけですし、輝度や視野角も改善されるでしょう。これまでパナソニックが培ってきた、自発光デバイスの絵づくりノウハウを発揮する余地がかなりあるんじゃないかと期待しています。

豊嶋 おっしゃる通り、パネルそれぞれに特色、長所短所があります。弊社としても自発光デバイスにはこだわりがありますので、これまで蓄積した技術を新しいパネルに組み合わせたら、よりよいパフォーマンスを発揮できるのではないかと考えています。

麻倉 最後にうかがいますが、LZ2000の国内向けモデルは例年通りに今年の春に発売されると考えていいのでしょうか。

豊嶋 国内での導入については未定ですので、もう少しお待ちください(笑)。

※画像はパナソニックのCES発表時の様子