今年の1月、StereoSound ONLINEに試聴記を寄稿したウェストミンスターラボ(WestminsterLab)の「Quest(クエスト)」。このプリアンプとの組合せを想定して開発された、モノブロック・パワーアンプ「Rei(レイ)」がわが国に上陸した。

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 そこで輸入元の協力を得て、QuestとReiの2モデルをぼくのリスニングルームでテストすることに。ここではそのインプレッションをお伝えしたい。

モノーラルパワーアンプ
Westminsterlab Rei
¥4,000,000(ペア、税別、WestminsterLab 1.5m電源ケーブル付属)

●出力:100W(8Ω)、200W(4Ω)、400W(2Ω)
●周波数特性:5Hz〜40kHz(±0.1dB)、2Hz〜52kHz(-1dB)
●歪み率:<0.1%@1kHz(100W@8Ω)
●接続端子:バランス入力1系統(XLR)、バランス出力1系統(XLR)
●入力インピーダンス:200kΩ
●出力インピーダンス:0.018Ω
●出力電圧:12Vrms
●寸法/質量:W232×H112×D320mm/16kg

リアパネルにはXLRバランスの入出力端子を備える。右下には「Rei」というネーミングの由来となった「零」の文字も。写真右は搭載されたトランジスター。基板の上側と下側にそれぞれ6基、合計12基が使われている

左は天板を外した状態で、右は底面側。本体シャーシには宇宙航空グレードの6063アルミ合金を採用

 ウェストミンスターラボは、2007年に英国ロンドンで設立された新進気鋭のハイエンドオーディオ・ブランド。音質を吟味したUSBケーブルの開発・販売でスタートした同社は、2016年のドイツ・ミュンヘンの「ハイエンドショー」でAB級のステレオ・パワーアンプ「UNUM(ウナム)」を発表、その高評価を経て、2019年にA級モノーラル・パワーアンプのReiを、2020年にプリアンプのQuestを登場させている。そう、開発年次はReiのほうがQuestよりも1年早いのである。

 Reiはステレオペアで400万円(税別)。借用したQuestはカーボンファイバー・シールデッド・ヴァージョンなので330万円(税別)。合わせてなんと730万円。わが家史上最高価格のセパレートアンプの試聴ということになる。

 では、Reiの概要について述べよう。写真でおわかりの通り、横幅232mmのハーフサイズのひじょうにコンパクトなアンプで(6mm離して2基並べると、Questと同じ幅となる)、宇宙航空グレードのアルミ合金をCNC加工した筐体に、カーボンファイバー素材の天板を組み合わせたチャーミングなルックス。ぼくはこの清新なデザインにまず強く心惹かれた。

取材は山本さんのオーディオルームで行っている。「Rei」は普段オクターブ「MRE220」が置かれているのと同じ、「K2 S9900」の隣に設置した

 質量はなんとか一人で持ち上げられる16kg。プライスタグが7ケタを超えるアンプのそのほとんどは巨大で重すぎて、一人で動かすことができないケースが多いことを考えると、まずここにこのパワーアンプの「ハイエンドオーディオのオルタナティヴ」として魅力があると思える。

 コンストラクションがまた興味深い。ヒートシンクの裏側に出力回路のプリント基板が垂直に取り付けられ、天板側に出力用電源が、底板側に制御用電源が平行に配置されている。ともに大型のトロイダルトランスを積んだリニア電源回路だ。

 Reiは、先述の通り原理的にスイッチング歪みが生じないクラスA動作のモノーラルアンプで、8Ω負荷で100W出力をギャランティする。スペック表を見ると4Ωで200W、2Ωで400Wと倍々で出力が増えていることがわかる。充実した電源回路が充てられていることの証左だろう。

 一般的なクラスAアンプは、筐体がチンチンに熱くなって真夏は電源スイッチを押すのをためらってしまうという方が多いと思うが、このアンプはそうではない。試聴日はほぼ一日動作させたが、電源を落とすときに天板に手をかざしてみても、ほんのりと温かい程度なのである。

プリアンプの「Quest」はオーディオラックの最上段に設置。ここにハイレゾ音源やアナログレコードの信号をつないでいる

 これは出力電流と負荷に応じてバイアスの動作点をたえず変化させる同社独自のiBias回路の働きによるもの。過剰な発熱を抑えることは、長時間の安定した動作の実現に結びつくはずだ。またヒートシンクを眺めてみると、1本1本のフィンの太さと長さが微妙に異なることがわかる。これは共振ポイントを分散させるための工夫だろう。

 出力トランジスターは、1チャンネル当り6パラレルの12基。このトランジスターは、同社が設定した動作パラメーターに基づいてテストされ、差異1%以内で選別し、マッチングを図っているという。

 ぼくが常用しているアンプは、オクターブ(独)の「Jubilee Pre」と「MRE220」の組合せである。Jubilee Preは、真空管と半導体によるハイブリッド構成の同社製最高峰プリアンプ。MRE220は、変換効率の高い自社製PMZ型トランスを出力に用いたモノブロック機で、5極管接続のKT120をパラレル・プッシュプルで動作させたハイパワーアンプだ。

山本さんの愛用アナログレコードプレーヤーはリンの「Klimax LP12」。試聴時は、フォノイコライザーからのバランス出力を使った

 まずプリアンプをJubilee PreからQuestに代えて、その音の変化を確認してみる(スピーカーはJBL K2 S9900)。1月のレビュー記事で、Questの音を「情報量がきわめて多い高解像度サウンド」と評したが、わが家の再生環境でもその印象は変わらない。

 メロディ・ガルドーの新作のハイレゾファイル(ルーミンのネットワークトランスポート『U1 mini』とソウルノート『S3 Ver.2』のUSB入力を使って再生)など、彼女のヴォーカルがシャープに結像し、音のタッチは肌理の細かいシルキーな肌触りとなり、ストリングスが艶やかになめらかに広がっていく。比較すると、Jubilee Preの持味は、音像の実在感を色濃く描写するところにあると改めて気づかされる。

 では今回の主役登場だ。パワーアンプをMRE220からReiに変更し、K2 S9900を鳴らしてみよう。

 このウェストミンスターラボ純正組合せのサウンドは、フレッシュな音の魅力に満ち溢れていて、筆者を驚かせるに充分だった。

ストリーミングの再生システム。左のラック下から2段目がルーミン「U1 mini」で、これを使ってストリーミングサービス「TIDAL」を再生した。そのUSBデジタル出力を、右下にあるソウルノートのSACD/CDプレーヤー「S3 Ver.2」のUSB DAC機能を使ってアナログ信号に変換している

 メロディ・ガルドーの新作のハイレゾファイルをMRE220で鳴らした音と比較すると、ドラマーのブラッシュワークがぐんとフレームアップされ、音楽の細部がひときわ鮮明になる印象だ。言わば超高解像度レンズで撮った8K映像のような趣なのである。

 オクターブのペアの音に比べると、油脂を控えて清冽さを引き出したような可憐な味わいも感じられ、ストリングスの広がりと立体感、ミュートトランペットのひびきの美しさもひとしおだ。

 また提示されるサウンドステージは実に広大だ。ハイレゾファイルで聴いたライの最新作『HOME』冒頭の、デンマーク国立少女合唱団による無伴奏コーラスが、幅と高さと奥行を伴って立体的に広がっていき、その見通しのよさとスケールの豊かさに瞠目させられた。ボトムの厚いミディアムバウンスの8ビートも、このパワーアンプで聴くとヌケが抜群によく、聴いているうちに心が浮き立ってくる。

 それから、このウェストミンスターラボの純正組合せでK2 S9900を鳴らしてみてとくに感心させられたのが、音量を上げていっても音がにじまず明瞭で、音楽の熱量だけがリニアに上昇していくイメージが得られることだ。これは剛性の高いコンパクト筐体のよさ、またそれによって実現されたシグナルパスの短縮化が大いに効いているのだろう。大型のハイパワーアンプにありがちな「大男、総身に知恵が回りかね」的な鈍さをまったく感じさせないのである。

ウェストミンスターラボではアナログケーブルもラインナップしている。写真左は「STANDARD」シリーズの2.5mで価格は¥750,000、右は「ULTRA」シリーズの1.5mで価格は¥1,100,000(どちらもペア、税別でカーボンファイバーシールドなし)。今回はプレーヤーとプリアンプの間で使っている

 アナログレコードで聴いたヤーランレコーズの45回転盤LP『Lifeline/MUSIC OF THE UNDERGROUND RAILROAD』の演奏も驚きに満ちたものだった(リン『Klimax LP12』で再生)。これはLifelineという女性一人を加えたゴスペル・カルテットのライヴをステレオペア・マイクロフォンでワンポイント収録した作品だが、聴衆の拍手が真横まで広がり、まるで演奏会場にワープしたかのような音場感が得られたのである。

 アナログレコードのチャンネルセパレーションは、CDなどのデジタルメディアに比べれば大きく劣るわけだが、この驚くべきステレオイメージの実現は、Reiがモノブロック・パワーアンプであることのメリットが活きているのだろう。

 2021年、わが国に颯爽と登場したウェストミンスターラボのQuestとRei。その清新なハイクォリティ・サウンドでハイエンドオーディオ界に新風を巻き起こすことは間違いない。ぜひ一度その音に触れられることをお勧めしたい。