StereoSound ONLINEでは、CESやIFAなどの機会があるごとにパナソニックテレビの最新事情について紹介してきた。今回のCES2021でも、パナソニック株式会社 アプライアンス社 副社長 スマートライフネットワーク事業部長の豊嶋 明さんと、ビジュアル・サウンドBU技術センター テレビ技術部部長の河村新一さんにリモートインタビューをお願いすることができた。以下でその様子を紹介する。(編集部)

麻倉 先日の「第36回HiViグランプリ2020」では、パナソニックの有機ELテレビ「TH-65HZ2000」が<ゴールド・アウォード>を受賞しました。おめでとうございます。

豊嶋 ありがとうございます。たいへん良い評価をいただき、改めてお礼申し上げます。

麻倉 それに続いてCES2021で発表された新製品は、位置付けとしてはどのようなものになるのでしょう。

豊嶋 これまでのOLED、有機ELのモデルでは、末尾が「2000」番モデルをハイエンドに位置付けてきました。今回は「HZ2000」シリーズの進化版となる「JZ」をハイエンドモデルとして計画しています。

麻倉 新製品開発時のテーマとしては、どんな点にこだわっていたのでしょうか?

豊嶋 有機ELテレビの映像と音については、他社さんには負けない強い思いを持っています。特に弊社が長年培ってきた有機ELパネルは、自発光デバイスとして進化できる余地がたくさんあるだろうと考えています。そういった意味で、今回は有機ELパネルの持つポテンシャルを極限まで引き出した技術を織り込んでいます。

CES2021で発表された有機ELテレビ「JZ」シリーズ

麻倉 前モデルの「HZ」シリーズは白と黒の再現性がどちらも向上した印象でした。今回は極限に挑んだということでしたが、具体的にはどのあたりをターゲットに改良を進めたのでしょうか。

豊嶋 白ピークの輝度と黒の階調性を進化させました。映画の場合、暗部階調をしっかり出さなくてはならないとか、暗いシーンにいきなりハイライトが入ってきた場合にもピークをきっちり出すといったことが求められます。そういった場面でも、明部・暗部それぞれの階調表現を正しく再現できるような技術的な織り込みをしています。

麻倉 「GZ」と「HZ」では、独自の放熱板を使ったパネルを宇都宮工場で製造したというお話でした。今回の「JZ」シリーズもそれは同じで、さらに新しいものを加えたという理解でよろしいでしょうか。

豊嶋 「GZ」と「HZ」は構造としては同じで、宇都宮工場で造ったパネルを極限まで使いこなしていくという方向での進化でした。「JZ」についてはまったく新しいパネル構造を採用しています。

麻倉 「GZ」と「HZ」シリーズは放熱板の進化が一番の特徴で、パネル全体の構造は変わらなかったわけですね。今回は全体の構造を含めて全体を進化させた、ということでしょうか?

豊嶋 おっしゃる通りです。高いピーク輝度や豊かな階調表現を実現するには、ある程度の電力が必要です。となると当然、放熱の問題が出てきますので、より効率のいいパネルとして進化させました。

麻倉 分かりやすく言うと、どのような点が変化しているのでしょうか?

豊嶋 パネルには、有機ELとして発光する部分と放熱効果を受け持つ部分がありますが、それをどう組み合わせるかという構造から見直しています。同じ電流や電力をかけても、そもそも放熱効果が違いますので、パネルとしてより明るくできることになります。

麻倉 黒の階調も改善されたそうですが、これは放熱とは別に細かな制御を加えたということですか。

豊嶋 今回は、画像エンジンの「AIプロセッサー」も新しくしています。どういった場面が映っているかをAIで判断することで、それぞれのシーンに合わせて階調表現を変えるといった、最適な画像処理を加えています。

麻倉 今回のプロセッサーでは、そのAI処理が入ったことがトピックですね。従来とは次元が違うということでしょうか。

豊嶋 これまでも、シーンごとの明るさや動きの情報を検出する機能は搭載しており、それによって処理を最適化していました。今回は「家庭で使う」ことを踏まえて解析方法を根本から考え直しました。

麻倉 「家庭で使う」ということですが、どんな使い方に着目したのでしょう?

豊嶋 家庭でのテレビは、映画を観たり、スポーツを観戦したり、バラエティ番組を楽しむといった色々な使い方があります。そこで、今どういったコンテンツが映っているかを、解析・ジャンル分けすることで最適化しています。

 例えばスポーツ、サッカーの映像だとAIが認識したら、芝生の青さや動きの俊敏さ、ゴールを決めた時の歓声の臨場感だったりと、映像や音声を最適な形にできるように制御するのです。

麻倉 これまでは、番組表などの情報を元にジャンルに応じた画像処理を変えるというやり方でしたが、今回は実際の映像情報を見て、それを分析しているのですね。サッカーでは芝生がキーワードでしたが、映画やバラエティの場合は何に注視するのでしょうか。バラエティなら肌色、映画だったら階調という気もしています。

豊嶋 バラエティ番組はメリハリのきいたカラフルな映像が多いので、そこをしっかり出すようにしています。また出演者のトーク場面が多いので、言葉がはっきり聞き取れるように音声処理を変えています。映画は暗いシーンが多いので、暗部階調をしっかり出すことが重要になってきます。

麻倉 日本メーカーのテレビは映像イコライジング機能が充実していますが、実際にはなかなか使いこなせていないという問題もあります。その意味でテレビが入力信号を分析し、最適な処理を加えてくれるのは理想的です。

豊嶋 テレビメーカーとしては、映像や音声を突き詰めて、一番いい状態で観て、聴いていただきたいという思いがあります。でも、そのためにユーザーが面倒な作業をしないといけないというのは、お客様視点ではない。そうではなく、テレビが自動的に最高の絵と音をプレゼンしてくれるという価値を今回盛り込んだつもりです。

麻倉 その点について河村さんにうかがいたいのですが、今回、技術面でこだわった点、新しい技術や発想を盛り込んだのは、どういうところなのでしょうか?

河村 ひとつはダイナミック・レンジを広くすることでした。広くした上で、その中でどう制御するかをパネルやプロセッサーを刷新して一段階も二段階も上げた、そういうことになります。

麻倉 これまで御社では、パネルなら2〜3世代使ってからプロセッサーを新しくする、あるいはプロセッサーを長期間使って、その間にパネルを改善するといった順番で製品開発を進めてきました。しかし今回は、パネルとプロセッサーの両方ともが新しい。開発もかなり難しかったのではないでしょうか。

河村 はい、たいへんでした(笑)。量産の立ち上げでも七転八倒の状況で、しかもコロナ禍で部品調達にも影響が出ています。でも新製品は出さなくてはなりませんから、みんな頑張っています。

麻倉 先ほど、ジャンルに応じて音が変わるというお話がありました。この点について、ユニットなどの音質面の構造、新しい工夫などはあったのでしょうか?

河村 スピーカーの数を増やしています。その上で、各チャンネルからどんな信号を出すかも見直しました。これまでは主に上向きのスピーカーを使って臨場感を演出していましたが、今回は360度全体を包み込むようにスピーカー配置を刷新し、音場処理も見直しています。

麻倉 これからは、テレビでもイマーシブ再現、立体音響が重要になっていきますから、ぜひそちらも頑張ってほしいと思います。

 ところで、一昨年のIFAで、パナソニック・ブランドが欧州で好調だというお話をお聞きしました。

豊嶋 ありがたいことに、弊社の有機ELモデルはヨーロッパでも好評をいただいています。欧州の専門誌でもたくさんの賞に選ばれ、画質や音の面で高い評価をいただいております。

麻倉 アメリカや中国は大きな画面を好む傾向が強いのですが、日本とヨーロッパは小さな部屋でクォリティを大事にする。そういうところが共通している点も、有機ELが人気のある要因でしょう。

豊嶋 世界全体としては、大画面テレビ市場は伸びています。特に北米と中国は大画面化のスピードが早いエリアですが、日本と欧州は生活様式もあってそこまで大きくはシフトしない。その分“質”が重視されるのでしょう。

今回のインタビューもリモートで行っている。写真右上がパナソニック株式会社 アプライアンス社 副社長 スマートライフネットワーク事業部長の豊嶋 明さんで、右下がビジュアル・サウンドBU技術センター テレビ技術部部長の河村新一さん

麻倉 御社では、有機ELテレビの新しい切り口として透明パネルを業務用に採用しました。今回のCESでは、他社から折り曲げや巻物ディスプレイが出品されましたが、パナソニックとしてはこれまでの有機ELにはない新しい魅力というものを、どのように展開していこうとお考えですか。

豊嶋 有機ELデバイスそのものは、今後も使い方や活用方法が広がっていくと考えています。当社も今までの有機ELテレビだけではなく、まずはB to Bで透明有機ELを始めて、その後は折り曲げタイプについても新しい価値として提案してきたいですね。

麻倉 最後にひとつ言わせていただきます。私がパナソニックのテレビで一番問題だと思っているのは、「なぜ8Kテレビがないんだ?」ということです。この点はどうお考えなのでしょう。

豊嶋 昨年も同じアドバイスをいただいたと思うのですが(笑)、8Kの素晴らしさは分かっていますし、商品化に向けての技術的検討は進めています。8Kの世界は広がっていくでしょうから、弊社として今年から来年にかけて8Kにシフトしていくのか、それとも4Kを突き詰めていくのかを、市場を見ながら考えていきたいと思っています。

麻倉 8Kについては有機ELと液晶という選択肢がありますが、そのどちらにするかは考えていないのでしょうか。

豊嶋 可能性としては、両方あると思います。

麻倉 パナソニックさんはとても影響力のある存在なのですから、市場の動向を見て判断するのではなく、市場を作る意気込みが欲しいと思います。

豊嶋 おっしゃる通り、弊社としてはどのように8Kと取り組んでいくかが重要です。先ほどの話とも関係してくるのですが、8Kのよさを最大限に活かそうとすると大画面は不可欠です。弊社としては、大きい画面で8Kを楽しんでいただくという“価値”をお客様に提供できるんじゃないかと思っています。大画面と8Kの関係をよく考えた上で戦略を組み立てていきたいですね。

麻倉 ありがとうございました。お話を聞いて、「JZ」シリーズの実機を観るのが楽しみになりました。ステイ・ホームの主役はテレビですから、是非頑張ってください。