中国のTCLというと、テレビ量販店の店頭で見たことがあるという人は少なくないだろう。残念ながら日本での知名度はこれからのブランドといえるかもしれない。しかし、TCLは創業からおよそ40年となる歴史を持ち、薄型テレビでは韓国のサムソンにつづいて世界での販売出荷台数第2位を誇るメーカーだ(2019年実績)。液晶パネルの生産から薄型テレビの生産・販売までグループ会社内で完結したテレビ事業を行ない、世界規模で活躍している。

 ここでは、今秋発表されたTCLの4Kテレビのうち、メーカーがもっとも力を入れているモデル、65C815をテストした。薄型のフォルムで洗練されたデザインにまとめあげられたモデルで、インテリア性に優れたモデルだ。

 液晶パネルはVA方式で、そこに量子ドット技術を盛り込んだ〝QLED〟液晶搭載の倍速駆動パネルを採用していることが特徴のひとつとなる。LEDバックライトはエッジ型で部分駆動は行なわない。そして、今や4Kテレビでは当然の装備とも言える4Kチューナーは非内蔵。そのいっぽうで内蔵するスピーカーはフロントに配置されたスピーカーと背面のウーファーによるドルビーアトモス対応のサウンドシステムを搭載している。

 

ドルビーアトモス対応の良質な音響システムは65C815の大きなセールスポイントだ。画面下にサウンドバースタイルのサウンドシステムを配置、画面背後に楕円型のウーファーを搭載している

 

画面向かって右側面に電源ケーブル以外の接続端子を配置している。HDMIは4K/60pの18Gbps仕様を3系統搭載。そのうち1系統がARC(オーディオ・リターン・チャンネル)に対応している

 

 

 4Kチューナー内蔵機としては、Q815シリーズがあり、こちらもQLED液晶パネルを採用し、LEDバックライトは直下型で部分駆動も行なう。ただし、パネル駆動は等倍速。スピーカーは一般的なインビジブルタイプだ。パネルなどのスペック的には優位と思われるQ815シリーズはやや厚みのあるボディで、デザインも標準的な薄型テレビの雰囲気だ。インテリア性に優れ、単体でホームシアター的に使える65C815をメーカー的な主力モデルとしているのはグローバル戦略の一環かと思われる。4Kチューナーの非搭載を含め、国内向けラインナップの整備にも今後は期待したい。

 

機能を割り切ることでコストパフォーマンスは向上

 さて、そのイチオシモデルである65C815の機能や性能を詳しく見ていこう。HDR対応は、HDR10、HLGに加えてドルビービジョンに対応。サウンドバー仕様のスピーカーもドルビーアトモス対応だ。このほか、倍速駆動では独自の「MEMC120㎐」技術を採用し、スムーズな動きを再現する。このあたりは、国内勢の4Kテレビと比べても遜色はない。

 OS(基本操作ソフト)はAndroidTVを採用。インターフェイスも他メーカーのAndroid TV OS搭載機と共通で、操作感はほぼ同様。そして、動画配信サービスも充実しており、ネットフリックスやAmazon Prime Video、huluといった大手サービスに対応。世界標準のサービスだけでなく、日本向けのサービスである、ABEMA、GYAO!、U-NEXT、FODなどにもしっかりと対応している。最近はテレビ放送よりも動画配信サービスを目当てとして薄型テレビを選ぶ人も多いので、4Kチューナー非内蔵でそのぶん安価というのは、いい割り切りとも解釈できる。

 

基本操作ソフトはAndroid TV OSを搭載。ネット動画サービスは、Netflix、Amazon Prime Video、hulu、YouTube、DAZNなど世界的サービスのほか、日本独自サービスであるTVerやU-NEXT、ABEMA、GYAO!、FODにも対応している

 

 

QLED液晶ならではの明るく色鮮やかな映像

 まずは地デジ放送を観た。全体にややソフトな印象だが、ノイズは少なく見やすい映像だ。色合いがなかなか良好で、特に彩度の高い色が鮮やかだ。広色域で発色に優れ、明るい画面が実現できることが量子ドット技術の効果だろう。

 量子ドットはバックライトと液晶パネルの間に挟まれており、直径2〜10 nm(ナノメートル)サイズの半導体微粒子を使用して光の波長(色)を変換する技術。直径が短い微粒子は青く発光し、直径が長くなるほど赤に近づくという。これにより純度の高い色を再現でき、光の利用効率も高いため、高輝度も実現できるというものだ。

 これに加え、画面を1296のゾーンに分け、エリアごとに入力された映像信号を詳細に分析してコントラストの高い映像を再現するマイクロディミング技術も加わり、くっきりとした鮮やかな映像になっている。

 この明るく鮮やかな映像を際立たせるためか、明るい部屋で楽しむことを意識した画質傾向であると感じる。そこで、視聴室を全暗環境から、やや薄暗い程度の明るさとして視聴を続けていく。

 パナソニックの4Kレコーダー、DMR-SUZ2060で録画した4K放送を観た。HLG(ハイブリッド・ログガンマ)方式のHDR番組にもきちんと対応しており、陽光のまぶしい輝きや鮮やかな色を豊かに描いた。ソフトタッチながらも、4Kらしいきめ細かさはきちんと伝わる。

 

QLED液晶の概念図。半導体微粒子(量子ドット)を利用して、青色LEDの光の波長を変換し、広色域と画面の明るさを効率的に獲得するテクノロジーだ。TCLの最新モデルのうち、C815、P815の4台は、グループのパネルメーカー(TCL SCOT)で生産されたQLED液晶パネルを搭載している

 

 

鮮やかな色彩と 厚みのある音に注目

 動画配信サービスは、まず内蔵アプリで試してみた。テレビ内蔵のネットフリックスのアプリではドルビーアトモスの音声に非対応だったのは残念。Amazon Prime Videoも同様だったが、Amazon Fire TV Cube端末をHDMI入力に接続したところ、ドルビーアトモス音声の再生ができた。そこで、ドルビーアトモスタイトルの『イントゥ・ザ・スカイ〜気球で未来を変えたふたり〜』を再生した。

 音はなかなか立派で、高度を上げていく気球が嵐の中を抜けていく場面では激しい気流が吹き抜けていく感じや上部にある気球が激しく揺さぶられる様子が包囲感豊かに再現される。左右の音の広がりは良好で、音の移動感や定位もよい。高さ方向の再現はやや曖昧な感じになるが、テレビ内蔵のサウンドバータイプとしては充分に健闘している。本体背面にあるサブウーファーのおかげで、低音感もよく伝わる。凍りついた気球の上部に登っていくときの様子も迫力たっぷりで、空気で膨らんだ気球の表面を移動するときのボコボコとした音、周囲の風の音など緊迫したシーンにふさわしい迫力だ。

 画質モードは映画用と思われる「動画」を選択した(画質モードの名称がやや不自然なのはご愛敬か)。ちなみに画質モードは、「ダイナミック」「標準」「スマートHDR」「スポーツ」「動画」「ゲーム」「PC」が選べる。「動画」でも画質傾向は明るめになるので、室内環境はふだんと同じかやや暗い程度が適している。

 「動画」モードでは4K解像度とHDRのよさがよくわかる映像を描く。寒さで凍りついた肌や髪の感触もよく出ている。空を舞台とした明るいシーンが多いため、液晶テレビで問題になりやすい、暗部の階調感などが気になることも少なかった。

 UHDブルーレイは、4K&HDRでリマスターされた『機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX』から『〜めぐりあい宇宙』を見たが、鮮明に蘇ったセル画の色調をそのままに再現。暗部の再現はやや苦しいものの、鮮やかになった色彩もきちんと描かれる。ビーム兵器の色彩など、彩度の高い色がやや派手な感触になる傾向はあるが、アニメらしさも感じられる。サウンドバー仕様のスピーカーは、力強くなったセリフや音楽を厚みのある音で再現した。低音感もしっかりとしているので、モビルスーツの戦いの場面も迫力のあるサウンドで楽しめた。

 

 内蔵アプリでのドルビーアトモス音声のコンテンツへの対応など、まだ改善の余地はいろいろある。画質は標準的なレベルだが、国内の他のライバルメーカーの上級機と互角に渡り合うにはさらなる進化を求めたい。とはいえ、高機能の65インチ大画面が実売12万円という価格設定は魅力的だ。大画面を優先するネット動画鑑賞派の方なら、ぜひ候補のひとつとして検討いただきたい。

 

サイドフォルム。液晶テレビとしては相当に薄いデザインが魅力的だ。前2本、後ろ1本の3本脚スタイルのスタンドもスタイリッシュな印象を醸し出す

 

細身のリモコンが付属。ネットフリックス、hulu、U-NEXT、ABEMA、YouTubeのダイレクトボタンを装備している

 

 

4K LCD DISPLAY
TCL 65C815
オープン価格(実勢価格12万円前後
● 型式:4K液晶パネル搭載ディスプレイ
● 搭載パネル:VA倍速液晶
● 解像度:水平3,840×垂直2,160画素
● バックライト:エッジ型LED
● チューナー:地上デジタル2系統、BSデジタル/CS110度デジタル2系統
● 接続端子:HDMI入力3系統(1系統ARC対応)ほか
● HDR対応:HDR10、HLG、ドルビービジョン
● サウンドシステム:ドルビーアトモス対応サウンドバー
● 寸法/質量:W1,446×H934×D366mm/27kg
● 問合せ先:(株)TCLジャパンエレクトロニクス TEL 0120-955-517