島根県松江市美保関町を舞台にした映画『いざなぎ暮れた。』が、3月20日より、東京のテアトル新宿で公開される。先行上映となった撮影地・島根では、当初の予定を大幅に超えるロングランを達成しており、“神様”に一番近い港町で繰り広げられるブラックな笑いは、先に海外の各種映画祭で多くの入選・受賞を果たすという好評ぶり。いよいよ凱旋上映を迎え、その全貌が明らかになる。ここでは、親戚に詐欺を働くノボルの恋人ノリコを演じた武田梨奈にインタビューした。

――出演おめでとうございます。まず、今回演じたノリコの役づくりについて教えてください。
 ありがとうございます。キャバ嬢ということで、見た目は派手にしつつも、内面の大和なでしこ的な部分を出そうと考えて演じました。初めて親戚に逢うところで、急に姿勢を正したりするなど、そういうことを意識しながらやっていました。

――大和なでしこ的な部分はどこから?
 監督とお話をしていく中で、ノリコはすごく女性らしいというイメージが共有できたので、それを表現するようにしたんです。

――演じる上で苦労した部分は?
 オープニングのところですね。車の中で、会話しながら進んでいくシーンなんですけど、その時の二人の距離感が最初は、分からなかったんです。カップルではありますけど、どれぐらい付き合っているのか(同棲はしている)、絆はどれぐらいあるのかなどなどの想像が難しくて……。事前リハーサルの後、知り合いの俳優仲間にいろいろなタイプのノボル君を演じてもらって、役を固めていきました。個人的には撮影に入る前にあまり役を固めたくないのですが、今回は難しさもあったので、ある程度固めてから臨むようにしました。

――では、普段はそれほど固めない。
 そうですね。現場に入って変わることも多いので、ベースを決めて後は現場で、ということが多いのですが、今回は割と固めていきました。

――その結果が、モナコ映画祭での審査員の「あなた達は映画の中でちゃんと生きていた。作りものとは思えなかった。本当に感動した」という感想につながっていったのですね。
 一番うれしい言葉をいただきました! 映画ってフィクションですから、ノボルもノリコも実在しているわけではないし、物語も創作ですけど、そうした“非現実”を“現実”にするのが私たちのやるべきことだと思っているんです。映画を観てくださった審査員の方たちが感情移入してくれて、さきほどの言葉をかけていただきました! 最高の評価だなって思います。

――一方で、ブラックな面の評価も高かったようですね。
 海外の方って、ブラックユーモアが好きみたいですね(笑)。「ハイキック・ガール!」(2009)や「デッド寿司」(2013)で海外に行かせてもらった時に、やはり観客の方が一番盛り上がるのは、「ハイキック~」だと顔面を蹴られるところですし、「デッド~」では寿司同士が戦っているところなんですよ(笑)。日本と笑いのポイントが違って、面白いなって思いました。本作でも、親戚をだますところは、笑いが巻き起こっていましたから。

――芝居の評価も高まっています。女優として活動していく上で、何か変化はありましたか?
 ありがとうございます。そうですね、意識はすごく変わったなって思います。それこそ10代とか20代前半のころは、役について考えてはいますけど、余裕がなくて、この子(役)はこうだと思って(決めて)演じている印象だったなって、今、観返すと、強く感じます。

 今はもう少し客観的に役のことを考えられるようになったし、監督さんや共演者の方とも、「私はこの役はこうだと思っていますけど、どうですか」って相談できるようになりました。衣装についても、いままではこれを着てくださいと言われたものを着るだけでしたけど、今は、選択肢をいただけたら、こうしたらどうでしょうって、自分から提案できるようになりました。衣装(化粧)も含めて、全体的にその人(役)を演じられるようになったし、作品全体も見られるようになったのかなと思います。――本作でも?
 はい。キャバ嬢ということで、自分で髪を染めにいきました。元々のセリフでノリコが「髪の根本、黒くなってるじゃん」ってあったんですが、これを「髪の毛プリンになっちゃてるじゃん!」と変えて言ってみたら、毎熊さんが「プッチンプリンみたいで可愛いよ」ってアドリブで返してくださって。その場で生まれたやり取りですね。

 加えて、もともと本作はアクション――後ろ回し蹴り、飛び蹴り――もガッツリあったんです。でも、作品全体を見た時に、キャバ嬢が急に格闘家みたいになるのは一気に現実味がなくなってしまうので、見せ方を変えましょうって、(監督に)提案しました。

 今までは、俳優部の仕事を狭い範囲でしか捉えられていなくて……。最近では、お芝居するだけが仕事じゃないんだって、考えられるようになりました。

――製作側の意識も入ってきた。
 そうですね。お芝居して“はい終わり”ではなくて、公開へ向けての活動も大事なんだって思います。今日もこうして取材デー組まれていますけど、いろいろな方が宣伝や取材のための動いてくださっていますから、私たちも、たくさんの方に作品を知ってもらうために何ができるかを考えて、行動に変えていきたいと思っています。

――女優としての心構えが変わったきっかけは?
 「木屋町DARUMA」(2015)に出演させていただいたことは、大きかったですね。とても非現実的な内容を、いかに現実味を持って観ていただくか、と考えるきっかけになった作品です。

 それから、「海すずめ」(2016)で共演させていただいた吉行和子さんからも、大きな影響を受けました。愛媛県の宇和島を舞台にした作品で、吉行さんはその町に長年住んでいるトメというお婆ちゃんを演じることになっていたんです。衣装も決まっていましたけど、吉行さんはわざわざオフの日に地元の商店街を回って、いろいろな小道具を集めてきて。監督に、「こうした髪飾りをつけたら、より地元のお婆ちゃん感が出ませんか」って提案されたんです。それを付けた時に、本当にトメさんに見えて、その場にいたスタッフの方々もトメさんだねっていうことになって。セリフだけではなく、自分が身に着けるものまで考えて役づくりをするのってすごいなと思って。私にはそういう余裕がなかったので、それ以降、意識するようにしたんです。

――ところで、最近はアクションのない作品への出演が多いですね。意図的ですか?
 いえいえ、そんなことはありませんけど、確かにオファーをいただく作品は、アクションのないものが多いですね。個人的にはもっともっと、アクションをやりたいので、個人でSNSに動画をアップしたりしていますから、別に“封印”しているわけではありません。

――作品に話を戻しまして、冒頭、車を降りて、二人でプチ喧嘩をするところは、女の子の拗ね具合がとても上手に再現されていました。
 毎熊さんも普段はとても優しいのに、ノボル君にスイッチしたとたん、ご自身が意識されているのかは分かりませんけど、とても近づき難い雰囲気になるんです。

 ノリコは結構甘えん坊なので、当初は、腕組してご飯食べようよってやろうって考えていたんです。でも、撮影が始まってノボル君を見たら、それができなくて……。隣にいるのに、近づけなかったんです。近づけないから怒っちゃう、なんで甘えているのに来てくれないの、っていう意味合いを含めたお芝居にしているんです。

――今回、撮影で訪れた美保関町はいかがでしたか?
 心が落ちつくというか、いい意味で、昔から今まで、住んでいる人や町の外観も含めて、変わらないっていうよさが魅力的な、安心できる場所でした。冒頭に「目に見えるものがすべて」というセリフがありますけど、本当にすべてが一望できる感じでした。朝起きた時の空気がめちゃくちゃ気持ちよかったです。

――観光したり、美味しいものを食べたりは?
 残念ながらあちこちを見る時間は取れなかったんですけど、毎回の食事はとてもおいしくて、楽しみでした。お酒もおいしかったです! ただ、朝が早かったので、一杯だけと決めて、早めに寝るようにしていましたけど(笑)。

 親戚の家業でもある醤油屋さんは、本物のお店をお借りして撮影したんです。毎熊さん(ノボル)は、あちこち走り回っていましたけど、私はお店で醤油を堪能していました。味は少し甘めで、ほかにポン酢とかもあって、お土産に買いました!

――本作で、印象に残った、あるいは好きなシーンを挙げてもらうと。
 やはり最後のところですね。実はあれ、毎熊さんのアドリブなんです。撮影の前に、監督と毎熊さんが離れたところで、なにやらヒソヒソ話をしていて(笑)。どうしたんだろうと思って撮影に入ったら、急に予定にないセリフが出てきたんです! すっごくドキッとして、恥ずかしくなってしまって……。本当にどうリアクションしていいか分からなくなってしまったんです。あのシーンをもう一度と言われたら、もうできませんね(笑)。

――さて、「ハイキック・ガール!」から11年、今年は20代最後の年になりました。
 早いですね。そうそう30歳を迎えることも、意識が変わるポイントになりました。数年前までは、どこか焦りのようなものがありましたけど、いまは30になるのが楽しみで、どんな30になるんだろってワクワクしています。

映画「いざなぎ暮れた。」

2月21(金)島根県・東宝5で先行上映
3月20日(金・祝)より東京・テアトル新宿にて公開

<出演>
毎熊克哉 武田梨奈
青山フォール勝ち・岸健之助・和田まんじゅう(ネルソンズ) 山口提樹 潮 圭太(メンバー) 奥村隼也 どさけん 江西あきよし 大皷長次 蒼央 小池澄子

<スタッフ>
脚本・監督:笠木 望 製作:泉 正隆 エグゼクティブプロデューサー:新田敦生 プロデューサー:覚野公一 森田耕司 現地プロデューサー:住吉 裕 岩成優子 ラインプロデューサー:矢加部英達 撮影監督:原俊介 音楽:栗谷かずよ 録音:田中秀樹 ヘアメイク・衣装:長野一浩 監督助手:東畑渉 助監督:富澤昭文
協力:吉本興業 あなたの街に住みますプロジェクト 松江市 松江観光協会 美保関町支部 松江観光協会 たまつくらふと 松江フィルムコミッション協議会 大山隠岐国立公園満喫プロジェクト島根半島東部協議会 美保関地域観光振興協議会 
製作:「いざなぎ暮れた。」製作委員会 制作:レフトハイ 配給・宣伝:吉本興業
(C)2018「いざなぎ暮れた。」製作委員会

公式サイト https://izanagi-kureta.com/

武田梨奈
https://www.sma.co.jp/s/sma/artist/147?ima=0000#/news/0
https://twitter.com/TakedaRina

関連記事
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17349571
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17343998
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17343468
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17342749

衣装協力:
黒ブラウス×スカート:panormo
花柄ワンピース:desigual
アクセサリー:flake jewelry