いつまでも夢心地が続くほど世の中は甘くないとわかっていても、あまりにも突然の知らせに呆然とするしかなかった。10月10日に発令された“SOLEIL活動休止のお知らせ”。我々にできることは、残り少ない公演に足を運び、音楽に酔いしれ、もう二度と来ないかもしれない“桃源郷の感触”をリアルタイムで体内に注入することだけだ。

 マンスリーライブシリーズ "READY SOLEIL GO" Costume produced by starblinc SOLEILの第2弾は、10月13日に渋谷O-Crestで開催された。オープニングアクトは重鎮ガールズ・スカ・バンド、The DROPS。さかのぼること1988年に結成され、メンバーを変えながらタイトでグルーヴィーな音作りに磨きをかけている彼女たちが観客を踊らせに踊らせたあと、いよいよSOLEILの登場だ。衣装はもちろん、60年代をコンセプトとしたファッションブランド“starblinc”の提供だ。

 エルガー作「威風堂々」は今回、なし。「MULTIPLIES」(後述)が出囃子となり、それに乗ってミュージシャンたちが現れた。SOLEILのメンバーはもちろんヴォーカル&グロッケン&小道具のそれいゆ、ベース&プロデュースのサリー久保田。サポート・メンバーはギターの平川雄一(The Pen Friend Club)、ドラムの白根賢一(GREAT3)、そしてコーラスのもえか(まちだガールズ・クワイア)だ。ぼくは東名阪ツアーで初めて、もえかのコーラス・ワークを耳にしたが、その頃よりもさらに彼女に対する注目や声援が明らかに高まっているのもSOLEILライブの見どころのひとつだろう。笑顔いっぱいでハモリをつけ、タンバリンやマラカスでもいい味を出すもえか目当てに来るオーディエンスは、今後さらに増えそうだ。

 オープニング・ナンバーは、久しぶりの披露となる「MARINE I LOVE YOU」。極限までキャッチーなリフレイン、“天から授かった”としか言いようのないそれいゆの歌声、手旗を取り入れた振り付けが一体となってこちらの胸を、心をしめつける。「エモ色のコラソン」では早くも段ボールギターが炸裂。続くセクションではThe Silver Sonicsのカヴァーで「涙のムーンライト」、さらにノーランズ/石野真子のカヴァー「恋のハッピーデート」、オリジナル・ソング「さよなら14才」とスカに寄せたナンバーでまとめた。「アナクロ少女」では言うまでもなく新体操のリボンを用いて感動をふりまき、「キャンディの欠片」における潤いのある歌唱に耳を傾けていると、今後の彼女がバラード・シンガーとしても素晴らしい境地に達するであろうという予感を持たずにはいられなくなった。

 ステージ中盤では、最新アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』に入っている「ZOZOI」がライブ初披露された。フランス・ギャルが1970年にシングル・カットしたナンバー、さらに細かいことをいえばブラジルの鬼才セサル・カマルゴ・マリアーノ(エリス・レジーナの夫)とのコラボレ―ションだ。サリー久保田とフランス・ギャルといえば、かつて彼が率いていた“Les 5-4-3-2-1”で松野アリミ(ここに参加する前はCoCoと人気を二分したribbonのメンバーだった。CoCoについてはhttps://online.stereosound.co.jp/_ct/17307769を参照)が「Le Coeur Qui Jazze」を歌っていたことを個人的には思い出すのだが、フランス・ギャルの曲を日本のガール・シンガーに結び付けるアイデアは永遠の鉄板といっていいだろう。しかもフランス・ギャルの60~70年代の曲には、相当な割合でジャズのセンスがふりかけられている(モダン・ジャズ系のピアニストとして活動したアラン・ゴラゲールの貢献も大きい)。それいゆの歌う「ZOZOI」も、ジャズ的なハーモニーやビートを存分に生かしたものだった。

 段ボールギターは「School’s Out」で再び登場、それいゆはお立ち台に上ってピート・タウンゼントばりのギター・スマッシュを決めた。すかさずタンバリンに持ち替えて「ファズる心」へ。ただ叩いたり振るだけでなく、あげたりおろしたりもしていたが、音が歯切れよく切れて、バンド・サウンドに溶け込んでいたのはさすがだ。アンコールではむろんドラムを担当し、「恋するギター」「Pinky Fluffy」を叩き語り。もうこの風景もあと少しで見られなくなるのだと思うと、バスドラの踏みひとつひとつまでが心臓の鼓動にシンクロしてくる。メンバーがステージを去る時に流れたのは、11月20日にモノラル盤アナログ・シングルとして発売される「Twinkle Heart」。B面は先に触れたYMOのカヴァー「MULTIPLIES」だ。完全限定発売なので、ぜひ予約をお勧めしたい。

 SOLEILの実演が楽しめるのは、泣いても笑ってもあと3回。10月27日には栃木・岩下の新生姜ミュージアム(JR/東武 栃木駅北口から徒歩12分)でフリーライブ「SOLEIL Halloween Party Party ~岩下の新生姜ミュージアム秋のスペシャル・ライブ~」を行なう。11月15日には渋谷・O-CrestでTweedeesと2マンライブを、12月22日にはクリスマスライブ「“SOLEIL Christmas Live Costume produced by starblinc」を渋谷の「ビーツ・シブヤ(Veats Shibuya)」で開催。これをもってSOLEILは活動を休止する。

テキスト・フォト:原田和典

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