IMAXの品質を家庭で楽しめる。それを担保するプログラムが「IMAX Enhanced」

耳が早い方であれば、「IMAX Enhanced」という名前を聞いたことがあるだろう。2018年9月に、IMAXとDTSが発表した家庭向けのライセンスプログラムのことだ。その概要自体は発表されていたものの、この時点まで詳細は不明であったと言っていい。

すでにデノンのAVセンター(アンプ)AVC-X8500HやマランツAV8805などは、ソフトウェアアップデートでIMAX Enhancedに対応済というこの状況下で、DTSのチーフプロダクツ&サービスオフィサーGeir Skaaden氏にインタビューすることができた。IMAX Enhancedとはどのようなものなのだろうか。

XPERI Calabasas EVP & Chief, Products and Services Officer Geir Skaaden氏(右)、XPERI Japan ジェネラル・マネージャー 山本千里氏(左)

またAVの新規格か……、とゲンナリしたかたもいらっしゃるかもしれない。しかし、安心していただきたい。IMAX Enhancedでは、新規格についてまわる心配事はあまり気にしなくてよさそう。つまり、既存のハードウェアを持っているユーザーもそれなりの恩恵を得られそうなのだ。そこにまず触れてから、IMAX Enhancedについて確認していこう。

そもそも、IMAXとは、カナダのIMAX社による映画上映のためのシステムのこと。つい先月も川崎と名古屋に「IMAXレーザー」スクリーンがオープンしたことをお伝えしたばかり。

そのIMAXが、IMAX Enhancedで、初めてホームエンターテインメントの世界に参入する。要約すれば、映像と音声にこだわったIMAXの品質を、家庭で楽しめるようになるということ。そのために必要なのは、プログラムの認証を得たソフトを、同じく認証を得たハードウェアで再生すること。あくまで高品位再生を保証するものであるため、コンテンツは4K&HDRが前提だ。

なお、認証が与えられるハードウェアはAVセンター、ディスプレイ、プロジェクターのほかサウンドバーなども含まれている。

重要なのは、「エコシステムの形成」

IMAX Enhancedにおける、重要な要素は3つ。まずはコンテンツ。上記の通り、IMAXのマスターを基にしたコンテンツが供給される。

次に、ソフト・ハードごとに最適化される「IMAXモード」が用意されること。映像、音声は、認証されたハードウェアにおいて特別なモードで再生される。この音声再生のために採用されているのがDTSの技術だ。

そして最後に、エコシステムの形成。実はここがポイントで、上記の通り認証されたソフトを特定のハードで再生すれば、必ず素晴らしいクオリティを得られる、それを担保するシステムの構築こそが「IMAX Enhanced」というプログラム。混迷を極めるHDR映像再生に対してのIMAXからのひとつの回答なのだ。

コンテンツはIMAXのマスターがベース

それぞれの要素を見ていこう。コンテンツについては、IMAXからマスターが供給される。映像・音声ともに、単にIMAXの独自規格でエンコードされている、というものではないということ。現時点で協力を表明している映画スタジオはソニー・ピクチャーズとパラマウント・ピクチャーズ。フィルムを製作したディレクターとの共同作業のため、マスタリングは主にハリウッドで行われるという。

音声はIMAX劇場公開用に使われる5.0、7.0、12.0chの素材を5.1ch、7.1chや7.1.4などのDTS:Xに変換したもの。7.1.4の場合もチャンネルベースの音声だ。元の素材としては、映画館用のものとまったく同じ。もちろん、家庭用に調整されるわけではあるが、これだけでもグッとくる話ではないだろうか。

IMAXの劇場は、基本的にサブウーファーのないシステムであるため、これを「.1」(LFE)を含む音声へと変換することになる。このベースマネージメントの仕方がIMAX Enhancedのひとつの重要ポイントでもあるという。

音声フォーマットについて説明するSkaaden氏。IMAXの劇場ではスクリーン裏と劇場の後ろ側にスピーカーが設置される形が基本。ここに家庭との近似性を見出すことができるため、IMAX Enhancedの音声データは家庭でのサラウンド再生にも適しているという

映像のデータは、IMAX独自の「DMR(Digital Media Remastering)」によってノイズを除去するなどの独自処理されたものがマスターとなる。この処理では、特にHDRで問題になる高輝度部のノイズを効果的に低減できるそうだ。IMAX社では、現在のようにHDRが取り沙汰される前から高輝度映像の研究に取り組んでいるといい、この処理の効果に大いに自信をみせる。

また、IMAXカメラで撮影された素材などは、上下に画角が広い状態で映像が収録される。このこともIMAXEnhanced認証を得たソフトの特徴となる。

「IMAXモード」で、”さらに” 高品位再生を目指す

認証を受けたハードウェアでIMAX Enhancedのコンテンツを再生すると、ハードウェアは自動的に「IMAXモード」に切り替わる。ソフト(コンテンツ)、ハードの双方がIMAX Enhanced認証を受けているわけなので、それぞれの特性を分かった上での最適化がされるということだ。

ここに、コンテンツに認証を与える大きな意味がある。HDR映像再生に関して言えば、いちいちダイナミックメタデータを参照する必要もないということなのだから。

それでは、IMAX Enhancedのコンテンツを、認証を受けていない一般的なハードウェアで再生するとどうなるのか? ノイズを低減したという映像や、場合によっては上下の広い映像、DTS:Xの音声はそのまま再生できるのだという。冒頭の通り、認証を受けていないハードウェアでの再生でも一定以上の恩恵を期待できると考えていいだろう。

家庭でのIMAX Enhanced(7.2.4)システムの設置イメージ。DTSの技術が基本となっているため、オーバーヘッドスピーカーの設置位置などはある程度「どこでもよい」ようだ

ソフトの展開はUHD BD & OTTで

こうして、IMAX Enhancedの認証を得たソフトとハードが揃うことで高品位再生が約束される。このことこそが代え難い価値なのだが、そこで気になるのがソフト・ハードの充実度合いだ。

前述の通り、ソフト面ではソニー・ピクチャーズとパラマウント・ピクチャーズがスタジオパートナーとして名前を連ねている。4K&HDRが前提のため、品質で言えばUltra HD Blu-rayが有力となるが、OTT(インターネット経由でのストリーミングなど)でもコンテンツが提供される。

新作映画だけでなく、旧作品がリマスターされる予定もあるという。具体的な時期は未定だが、第一四半期(〜3月)にはアメリカで、第二四半期の半ばにはアジア、ヨーロッパでOTTサービスを開始する予定とのこと。

一方のハードウェア面でパートナーとなっているのは、ソニー、デノン、マランツ、アーカムの4ブランド。アーカムのAVセンターは日本未導入であるものの、その他のブランドは説明不要だろう。こちらの拡充も期待される。

ただし、IMAX Enhancedはあくまで高品位再生を保証するものであるため、ハードウェアに対する認証の基準も相当に厳しい。例えば、没入感を重視するために直視型ディスプレイのサイズは65型以上が求められる。プロジェクターのスペックを見ると、4K&HDR対応はもちろんのこと、レーザー光源であることも必須の項目だという。このほか、サウンドバーでは相応の音圧レベルが求められるようだ。さらに、スピーカーに対しても認証することを検討しているとのこと。

このあたりの基準を含め、まだまだ明かされなかったことは多い。それでも、AVの新たな映像、音声規格が発案されたのとはニュアンスが異なることはお分りいただけたのではないだろうか。

さらなる詳細は2019年初のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表される見込みだ。詳細が発表され次第、続報をお届けしたい。

IMAX Enhanced – A New Level of Quality in Home Entertainment

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