MM型カートリッジの音質が形作られる要素を構造から考察し、根強い人気を持つシュアー製MM型カートリッジの交換針を比較試聴。ヴィンテージ機となったシュアーM44-7、V15 Type IIIで、オリジナルと現行の交換針を聴き比べる。

試聴を終えて

根強い人気を誇るシュアーのカートリッジ。多種多様な現行交換針との組合せにMM型の新たな楽しみが隠されている

──今回は、シュアーのMM型ステレオカートリッジM44-7とV15 Type IIIで現行交換針の比較試聴を行ないました。それぞれ6機種の交換針を聴き終えて、いかがでしたか。

 試聴中にも申し上げた通り、私はMM型カートリッジをそれほど多く聴いてきたわけではありません。ですから今回の試聴は、個人的にも有意義なものになりました。また、この記事を喜んでくださる読者の方は、我々が思っている以上にたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。シュアーM44やV15 Type IIIを大切にしている方は現在も多いので、「交換針がいろいろ出ているけれど、何を買ったらよいか分からない」という方も多いと思うんです。今回の記事が、そういう方々の参考になることを大いに期待しています。

古屋 私もそう思います。自分自身にとっても、たいへん楽しい試聴になりました。交換針の前に、まずカートリッジ本体の話をしますと、M44-7とV15 Type IIIという2機種のカートリッジの間に明らかな音の方向性の違いがあることを改めて実感しました。それにM44-7とV15 Type IIIでは、ボディそのものの鳴りが違う。純正品から新しめの製品までいろいろな交換針を試しましたが、それぞれのボディに組み合わせることで、まずは、はっきりとM44-7らしい音、V15 Type IIIらしい音が出る。

 M44-7らしさ、V15 Type IIIらしさの範疇で、個性豊かな音を聴かせてくれましたね。

古屋 個人的には、カンチレバーの材質の違いがかなり音に反映されることを実感できた、いい機会になりました。カンチレバーの材質がアルミかボロンか木材かで、鳴り方がまったく異なりました。

 まったく違いましたね。牛殺や黒柿といった木材を用いた製品は、やはり木材らしい暖かみのある鳴り方が印象的でした。

古屋 一方で、針先の形状の違いはあまり意識しませんでした。針先が丸であっても楕円であっても、聴いている分にはそれほど違いは分からなかった。しかし、針ごとにトレースの仕方が違うのはよく分かるんです。実は今回の試聴盤の「リスト」には、再生箇所にちょっとした傷がありました。その傷に対して、どの針もレスポンスが違う。何事もなかったかのようにすんなりトレースするものもあるし、盛大にバチっと音を立てるものもある。それは簡単に言えば、ダンパーの働きかたの差です。反発力が高い針は、ちょっとした傷はものともしないけれども、反発力が低くモタっと戻ってくる針だとはっきりとノイズが出る。

 盤質の良いレコードばかりかけているとあまり気付きませんが、反りや傷があるレコードをかけるとカートリッジの性能、あるいは針の素性がよく分かることがありますね。

古屋 そこで登場したのが、今回試聴したV15 Type IIIの後継モデルであるV15 TypeⅣなどで採用されているダイナミック・スタビライザー。これはスタイラスカバーに取り付けられたホコリ取りのブラシで物理的にカートリッジを支えることで、レコードの反りに対して後方のカンチレバーを安定させる機構です。これもまた大胆ながら理に適った設計で、シュアーの研究力の高さ、先見の明を示しています。いまだに高い人気を誇る理由は、そうしたシュアーの先見性やクォリティの高さに根付いている気がします。生産終了になったカートリッジが現在でも愛され、JICOをはじめとしたメーカーからたくさんの交換針が発売されている、という事実からもシュアーの人気がうかがえますね。

 それから、同じ丸針でも様々な種類がありますが、M44-7編の最初に聴いた2機種、接合丸針と無垢丸針の音質的な違いはほとんどありませんでした。ならば、どういう基準でどちらを選べばいいのか。今回はそういうところまで古屋さんが掘り下げて話をしてくださっているので、交換針に止まらず、MM型カートリッジ全般に対して有効な情報が詰まった記事になっていると思います。

──シュアーの純正交換針は人気が高く、中古市場でも高い価格で取引されています。ですが、MMカートリッジの針交換はヴィンテージに限らず、現行製品でも充分に楽しめるということですね。

古屋 むしろ昨今のヴィンテージは、ダンパーが劣化しているものが多く、コンディションの良い個体に巡り合う可能性は高くないでしょう。ボディについても、1960年代頃の「カモメマーク付き」などの人気が高いのは、外観を愛でることを含めて趣味としては理解できますが、古いコイルが断線している可能性もありますし、音質を求める上で本質的なことではありません。せっかく買っても、もはや当時の半分ぐらいのパフォーマンスしか発揮できない交換針だってあるわけです。であれば、ヴィンテージ品の可能性に賭けるよりも、比較的手ごろな現行製品を手に入れたほうが、針交換は確実に楽しめると思います。今日の試聴を通じて、改めてそう感じた次第です。

 そうですね。ダンパーのコンディションはとても大事ですから。

上からシュアーN44-7、JICO N44-7 IMP SD、中電N44HW II。N44-7、N44-7 IMP SDはスリーブ末端にはんだ付けがされている。これは、アーマチュアの後端にテンションワイヤーを設け、振動系の前後への移動を抑えていることを示している。N44HW IIは音質を考慮した上で、製造時のばらつきを防ぐためにダンパーのみで支持している。

古屋 ええ。もの凄く大事です。交換針の品質は、ゴムダンパーのコンディションがすべてと言ってもいいぐらいです。それと、カンチレバーを吊っているテンションワイヤー。このワイヤーの有無でも音の違いは明確に出ます。交換針とボディの嵌合の具合も重要で、緩すぎると音に大きく影響します。それから、毎回申し上げていることですが、シェルに取り付けるためのねじを締めすぎると本体を傷めてしまいますから、注意が必要です。

 長くMC型ばかり使ってきましたが、比較的安価で手に入れられるMM型では、交換針との組合せに多くの発見や楽しみが隠されている、という学びが得られました。

古屋 私もたいへん勉強になりました。ありがとうございました。

『管球王国』115号(2025 WINTER)より

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