MM型カートリッジの音質が形作られる要素を構造から考察し、根強い人気を持つシュアー製MM型カートリッジの交換針を比較試聴。ヴィンテージ機となったシュアーM44-7、V15 Type IIIで、オリジナルと現行の交換針を聴き比べる。

【3】JICO VN35EBN(BASIE MODEL)

JICO VN35EBN(Basie Model)
●針先:無垢楕円●カンチレバー材質:アルミニウム合金●適正針圧:0.75~1.25g

──続いては、岩手県一関市のジャズ喫茶「ベイシー」のマスター、菅原正二氏の監修によるVN35EBNです。菅原氏が長年愛用し続けているシュアーVN35EとVN35MRを再現するというコンセプトで作られた交換針です。こちらはアルミ合金カンチレバー/無垢楕円を採用したモデルです。

古屋 これは予想外の音です。驚きました。

 そうですね。

古屋 ベイシーの菅原さんが監修されたということで、ジャズの「デスモンド」などはさぞかしガツン!としたサウンドで鳴るだろうと思っていたのですが、良い意味でスムーズな音、上品な音でした。「リスト」や「モーツァルト」のクラシックを聴くと本当に滑らかで、周波数の凹凸も感じられずフラット。雰囲気が全体的によく出て、とにかく聴き心地のいいサウンドです。その印象は「デスモンド」や「ベラフォンテ」を聴いても同じで、きわめて上品な鳴り方でした。繰り返しになりますが、これは予想外の音です。きわめて完成度が高く、いろんな音楽をオールマイティに再生できる交換針だと思います。

 本当に綺麗な音が出ていました。ただ、正直なところ、V15 Type IIIのボディにオリジナルのVN35Eを組み合わせた音と比べると、聴き手の気持ちを鷲掴みにするというような鳴り方ではないんですね。先ほど古屋さんがおっしゃったように、ベイシーのイメージから、もし、どんどん向かってくるような音を連想すると、それを期待して聴いた方はきっと驚かれるでしょう。

古屋 とても綺麗な音で、違う視点から見るとダイナミックレンジがフラット。これはクルマにたとえるならかなり安全運転ですね。「デスモンド」や「ベラフォンテ」を聴くと、時速200キロ出るクルマが余裕をもって、涼しげに120キロで走っているような印象を受けます。

 ただ、システムによって音は変わりますからね。

古屋 おっしゃる通りです。この試聴室とベイシーではプレーヤーもスピーカーも、鳴らしているシステムがまるで違います。なので、言わずもがなですが、これを使えば即座にベイシーのような音が得られると期待するのはお門違いです。

 先入観を持たずに聴くべき交換針ですね。

古屋 ですが、この交換針は非常によくできた製品だと思います。もしかしたらジャズ・サウンドを追究してこられた菅原さんの志向が、スムーズで優雅な音を求める方向に変化してきたのかなとも思えてきますね。読者の皆さんにも、ぜひご自分の再生環境で鳴らしてみて、その音を聴いて判断していただきたいですね。それだけの価値がある交換針であることは間違いありません。

【4】JICO VN35E SAS/B

JICO VN35E SAS/B
●針先:SAS(ラインコンタクト)●カンチレバー材質:ボロン●適正針圧:1~1.5g●備考:他にサファイアカンチレバーの「VN35E SAS/S」、ルビーカンチレバーの「VN35E SAS/R」あり

──4機種目は、SAS針でボロンカンチレバーを用いたJICO VN35E SAS/Bです。M44編でもSAS/ボロンカンチレバーのN44-7 IMP SAS/Bを聴きましたが、こちらはそのV15 Type III版という位置づけです。

古屋 これもまた驚くべき音でした。MC型カートリッジのような高度な音作り、という意味ではN44-7 IMP SAS/Bの印象に通じます。MM型がMC型に変わったような、クリアーで、かっちりしていて、それでいて嫌味がない。滑らかな透明度という感じでしょうか。これはボロンカンチレバーの効果でしょう。先ほどもお話しましたが、ボロンカンチレバーは下手にMC型で使うよりもMM型で使うほうが効果的だと思います。MM型の良い意味での曖昧さが、ボロンの明瞭さと重なることで成功している例です。これは私もひとつ欲しいぐらい好きですね。

 滑らかで聴きやすく、優しい鳴り方です。私としてはもう少し感情に訴えるような、起伏が欲しい部分はあります。「ベラフォンテ」を聴くと、歌詞の内容と声がもっと深く結びつくような歌唱を期待してしまうんです。

古屋 今回はシステムが、どちらかと言うと明るめの方向に調整されていますから、それも影響しているかもしれません。

 そう。全体的にやや明るいトーンですね。

古屋 私はとても気に入りました。MM型とボロンカンチレバーの相性の良さは、今回の試聴でも特に大きな発見ですね。

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