名古屋駅前の映画館「ミッドランドスクエア シネマ」に導入されたMIDLANDQUALITY SOUNDSYSTEM「粋(いき)」。本稿では「スクリーン1/至高(Siko)」および「スクリーン8/鼓動(Kodo)」のカスタムメイドのサウンドシステムを提案しインストールした株式会社ジーベックスのスタッフにサウンドシステム導入までの経緯、サウンド・コンセプト、音調整などについてうかがった。

ミッドランドスクエア シネマの「粋(いき)」に注目  写真:嶋津彰夫

株式会社ジーベックス
泉本正志氏

―「ミッドランドスクエア シネマ」におけるODS上映のクォリティ向上の相談を受けて、泉本さんが提案されたことはなんですか。

泉本正志(以下・泉本) もともと「ミッドランドスクエア シネマ」の音響システムは他の映画館と比べてもかなり上質なサウンドシステムを採用し、これまでもクォリティの高い上映を行なっていたんです。そんななか、同館の担当者から、映画以外のコンテンツ(=ODS)を重視したサウンドシステムを導入したいという提案をいただきました。既存のスピーカーシステムを単に入れ替えるだけでミッドランドスクエア シネマが考えている理想の、高品位な音を実現できるのか何度も話し合いを重ねていたんです。

―ここ数年、ODS上映というキーワードを耳にすることが増えているように感じるのですが、ODSの需要は高まっているのですか。

泉本 そうですね。近年、都市部ではオーソドックスな映画上映のみならず、2チャンネル(ステレオ)の音楽コンテンツを音楽ファン向けに劇場のサウンドシステムで提供する機会が確実に増えていると思います。けれども、映画館の音響システムはそもそも複数のスピーカーを導入したサラウンド環境において理想の音が得られるように設計・調整が施されているため、2チャンネルの音楽コンテンツをプレイバックすると、どうしても音響的に物足りなさを感じてしまう場合が多いのです。
 ミッドランドスクエア シネマは名古屋駅前に全14スクリーンを完備する大規模なシネコンです。ODSにこれまで以上に注力し他の映画館と差別化を図りたいという明確なヴィジョンがあるので、その狙いを実現するには映画館の規模や音響特性に見合ったサウンドシステムを導入するのがベストだと考え、最終的にイースタンサウンドファクトリーの設計・製作によるカスタムメイドのサウンドシステムを提案しました。

―カスタムメイドのサウンドシステムを導入することで、L/C/Rのフロントスピーカーのクォリティ・アップを図ったのですね。

泉本 はい、その通りです。イースタンサウンドファクトリーのスタッフとは綿密に話し合い、スピーカーの音圧を高めるだけにとどまらず、音の質感まで向上させることでODS上映の魅力をいっそう高めることができると、英国製リニアリサーチのパワーアンプの導入も合わせて提案したんです。
 リニアリサーチのパワーアンプのポテンシャルや音の素性をミッドランドスクエア シネマのスタッフの方々に知ってもらうため、劇場の従来のスピーカーシステムでパワーアンプだけをリニアリサーチに取り替え、音を実際に試聴してもらいました。その体験会を通じて、ODSを重視する「スクリーン1」と「スクリーン8」に導入するカスタムメイドのサウンドシステムを理想的な音で駆動するには、リニアリサーチのパワーアンプが不可欠だという結論に至ったのです。

―パワーアンプのAB比較を映画館で行なうケースはひじょうに稀なのではないでしょうか。ところで泉本さんはカスタムメイドのサウンドシステムの利点はどこにあるとお考えですか。

泉本 カスタムメイドのサウンドシステムは映画館の規模や音響特性に見合ったものを導入できるということももちろん大きいのですが、すでに歴史を刻んだ劇場の場合、スクリーン裏の形状などさまざまなケースに即したものを設計・製作できるという点も無視できないのです。
 ミッドランドスクエア シネマの「スクリーン1」のスクリーン裏にはバッフルが装備されていたので、イースタンサウンドファクトリーにはその開口部のサイズに合った5ウェイのサウンドシステムを設計・製作してもらいました。いっぽう、「スクリーン8」はバッフルこそありませんでしたが、4ウェイのサウンドシステムを設置した後スピーカーの左右には従来から起用されていたポール状の緩衝材を流用することで、スピーカー本来の音を引き出す工夫を取り入れています。

―われわれは普段、スクリーン裏のサウンドシステムがどのように設置されているのか把握することも目視することもできませんが、御社はさまざまなケースに対応する必要があるのですね。
実際のところ、「スクリーン1/至高」および「スクリーン8/鼓動」導入後の反応はいかがですか。

泉本 導入後のさまざまな口コミ、SNS上でのお客様の反応は上々で一安心しています。今回のカスタムメイドのサウンドシステム導入前から、ミッドランドスクエア シネマのスタッフの方々とは交流があったので、今回のプロジェクトを実現できたことは個人的にもこの上ない喜びです。
 「ミッドランドスクエア シネマ」の今後の上映、ユニークな取り組みに注目していただきたいですね。ぜひとも、われわれがイースタンサウンドファクトリーのスタッフ共々、精魂を込めてインストールし細部まで調整を施した「スクリーン1/至高」および「スクリーン8/鼓動」の音を体験してください。

「スクリーン1/至高」に導入されたカスタムメイドのL/C/Rスピーカー。スピーカー本体はバッフルにおさまる格好だ 写真:嶋津彰夫

株式会社ジーベックス
河原常久氏

―サウンド・チューナーである河原さんから見たミッドランドスクエア シネマの「スクリーン1」と「スクリーン8」の音響的な特徴を教えてください。

河原常久(以下・河原) 「スクリーン1/至高」はスクリーンの裏が全面バッフルの構造になっています。スクリーンに反射されて背後に回り込む音やスピーカー自体の背面方向の音の影響が少ないので、より明瞭な音が得られるんです。「スクリーン1」は「至高」のネーミングに相応しい繊細な音の表現を目指して、ハイ(ベリリウムドライバー)の使い方を工夫しています。
 いっぽう「スクリーン8/鼓動」はバッフルレス構造のため、少なからずスクリーン背後の音の影響が伴いますが、L/C/Rスピーカーの左右には従来から起用されていた「アユミン」というサウンドトラップを受け継ぐことで音の明瞭度の改善を図っています。
 また、「スクリーン8」はサラウンドスピーカーが低域まで伸びた特性をもっているので、3本のフロントスピーカーとサブウーファーもそれに合わせた調整を施し、しっかり鳴らしています。低域がリッチな場合は高域もバランスを合わせ鳴らすのが理想ですので、ミッド・ハイのクロスオーバー周波数は「スクリーン1」と少し変えているんです。「鼓動」というネーミング通り、音数の多い映画向きの元気なコンテンツに向いていると思います。

―サウンド・チューナーとして、「スクリーン1」と「スクリーン8」の音調整において配慮した点と音の狙いを教えてください。

河原 「スクリーン1」「スクリーン8」共にローからハイまでの位相調整は時間を費やし、極限まで追い込んでいます。3本のフロントスピーカーのポテンシャルに合わせて、サブウーファーとサラウンドスピーカーもきっちり調整しました。
 イコライジングに関してはオーソドックスな王道手法による調整を施し、それぞれの劇場空間の固有の響きを最大限に活かせるように配慮しています。

―イースタンサウンドファクトリーの設計・製作するカスタムメイドのサウンドシステムの特徴について教えてください。今回、導入された2組のサウンドシステムはこれまでと何が違うのですか。

河原 今回導入されたカスタムメイドのスピーカーはODSを含んだ劇場の運用に合わせるため、スペック的にかなり余裕をもたせた設計になっているのが特徴といえます。「スクリーン1」と「スクリーン8」に導入されたサウンドシステムの搭載ユニットの性能およびエンクロージャー・サイズも桁違いで、これまでイースタンサウンドファクトリーが数々の現場で培ってきたカスタムメイドのサウンドシステムのまさに集大成といえるモデルではないでしょうか。

―今回導入されている英国リニアリサーチのパワーアンプ「44C20」の音の傾向・特徴について教えてください。他のパワーアンプとは具体的にどのような音の違いがあるのですか。

河原 リニアリサーチの製品はS/Nがとても良く、「リニア」という社名にふさわしい素直な特性をもったアンプです。劇場用のアンプはさまざまなメーカーから多くの機種が出ていますが、リニアリサーチのアンプはノイズの少なさが群を抜いています。
 電源周りがとてもしっかり作られているので、立ち上がりの鋭いピアニッシモから、フォルティッシモの音が消える直前まで安定して駆動できる特徴があります。非常に性能が高いため、スピーカーの素性や調整の良し悪しが明確に音に表われるので、われわれサウンド・チューナーはこのアンプの使用時いっさい気が抜けません。それほどデリケートな面があるんです。
 これはあくまで個人的な考えですが、「スクリーン1」「スクリーン8」共に真新しいスピーカーとアンプを導入したので、エージングが済む半年後頃には改めてブラッシュアップを図りたいですね。

「スクリーン8/鼓動」に導入されたカスタムメイドのL/C/Rスピーカー 写真:嶋津彰夫

ミッドランドスクエア シネマ 粋公式HP

関連記事はこちら