©️RAM KATZIR photo VS.PROJECT

大阪うめきたに誕生した文化装置VS.。ここではVS.チーフエグゼクティブプロデューサー兼副代表・野村卓也氏、プロジェクトマネージャー・福本 律氏のお二人にVS.のコンセプトとビジョン、オープニング・エクシビジョンに真鍋大度氏を起用した経緯を語っていただいた。

VS.チーフエグゼクティブプロデューサー兼副代表
野村卓也氏

コンセプトは文化装置

――野村さんがVS.(ブイエス)のプロジェクトに携わるきっかけからお教えください。

野村卓也(以下・野村) 私は今回のVS.のプロジェクトに携わる以前、うめきた1期、グランフロント大阪内の知的創造・交流の場「ナレッジキャピタル」の構想に関わり、今も総合プロデューサーとして運営を担っています。VS.のプロジェクトが具体的になってきた段階で、トータルメディア開発研究所に協力をいただきながら、私が代表を努める野村卓也事務所とVS.共同事業体を立ち上げ、VS.の共同運営を開始しました。

――この地区は段階を経ながら、徐々に街が完成していくとうかがっています。

野村 はい。もともとこの地域はJRの貨物駅でオフィスや商業施設はなにもなかったのですが、2013年約3分の1の敷地に複合施設「グランフロント大阪」が誕生し、その中核施設の企画・プロデュースを私が担ってきました。
 うめきた2期、グラングリーン大阪のプランニングの初期段階ではVS.ではなく、「ネクストイノベーションミュージアム」(Next InnovationMuseum)というプロジェクト名で、次世代の革新的な街づくりを目指していました。
 私は日本人が将来を見据えて生きていく上で一番重要な基盤は、文化ではないかと考えているんです。文化とは芸術、教育、防災、食、農業なども含めたもので、それらを発信することを文化装置として捉えています。文化施設というと建物内にとどまってしまうイメージですが、文化装置だとインプットされたものが建物の枠を飛び越えアウトプットでき、社会に根付いていくと考えたんです。
ちなみにうめきたのプロジェクトがすべて完成するのは2027年の予定です。

真鍋大度氏をVS.のこけら落としに起用した背景

――VS.のオープニングエキシビジョンに真鍋大度さんを起用されたのはどのような経緯があったのですか。

野村 うめきた2期の構想段階から真鍋大度さんを筆頭とするアーティストの方々と意見交換をしながら、先程話した文化装置を具体的な形で表現するにはどのようなインプット・アウトプットができるのかを練り上げてきました。その過程で当初から真鍋さんからはインスタレーションには映像も大切ながら、上質な音が極めて重要であるという意見をもらっていたんです。
 真鍋さんとの交流は長く、2010年頃「ナレッジキャピタル」の開業前のトライアル・イヴェントを初め、2013年の開業後は学生達を対象とする映像コンテストの審査員やゲストとしても協力をいただいてきました。そういった繋がりのなかでVS.の構想段階から施設のコンセプトや空間の活かし方などを話し合ってきた経緯があったので、こけら落としは真鍋さんが一番相応しいと以前から決めていたんです。

――VS.のコンセプトに文化装置を掲げたのは必然だったのでしょうか。

野村 従来の主要駅の街づくりではオフィスビル、マンション、商業施設に加え、映画館などを設けるのが標準でした。しかし、そのためどのターミナルもどうしても似通ってしまい今では差別化が図れず、成り立たず、集客も望めなくなってきています。隣の「ナレッジキャピタル」では各種店舗のみならず、様々な文化を知ってもらうための施設として会員制のサロン、展示スペースとしてのザ・ラボを設けることによって、来場者の方々の好奇心や向上心に訴えかける場を重要視しているんです。文化を通じて人々が交流を交わすことで、新しい価値観が生まれる。その発展形が文化装置と名付けたVS.の根底にあり、コンセプトになっています。
 真鍋さんの個展を観賞することで大人のみならず、子供達も刺激を受けて、新たな発想が芽生えてくると思うんです。天井高の高い空間は日常的にスマホばかり見ている現代人が顔を上げて、インスタレーションを観賞することになります。その見上げる行為が現代人の窮屈な生活スタイルを変える可能性を秘めていると思うんです。今回の個展の「場」でそれを少しでも感じてもらえたら嬉しいですね。
 この街づくりをデザイン・監修してくれている建築家・安藤忠雄さんからは、「大阪だからこんなことが実現できたんだ。東京ではできないよ」という話をいただいております。

VS.プロジェクト・マネージャー
福本 律氏

施設の構想・計画・設計・施工に加え、運営まで担う

――福本さんのお仕事についてお教え願います。

福本 律(以下・福本) 私が所属しているトータルメディア開発研究所は1970年、日本万国博覧会の閉会を機に、万博を支えたスタッフ、ブレーンを結集して創立した会社です。創業以来、多くの公共文化施設、企業文化施設の開発に携わり、現在では館の運営にも幅広く取り組んでいます。

福本さんによるとトータルメディア開発研究所はこれまで国立民族学博物館、東京都江戸東京博物館、鉄道博物館、カップヌードルミュージアムなど公共・民間問わず、国内を代表するミュージアムの開発に幅広く携わってきたという。

――御社の強みはどこにあるのですか。

福本 従来は主に文化施設が開館するまでの構想・計画・設計・施工を請け負っていたのですが、20年ほど前から完成した施設の運営までお手伝いするケースが徐々に増えてきたんです。施設をつくるだけでなく、文化事業の担い手として社会貢献できるのが当社の強みですね。

ミュージアム等の文化施設は単に施設を維持管理するだけでなく、来館者とのコミュニケーションを通して教育普及や観光交流、まちづくり、企業ブランディングなど、施設コンセプトに沿ったミッションを達成していくことが不可欠となる。
トータルメディア開発研究所は長年に渡り培ってきた様々な文化施設開発の経験とノウハウを運営にも活かすことで、広く社会貢献を果たしてきた。うめきたに開業した新たな化装置「VS.」は、同社が創業当時よりかかげる「文化の事業化」を自ら体現する施設なのだ。

新しい施設として音にこだわる

――VS.のオープニングに真鍋大度さんを起用したのは何故ですか。

福本 チーフエグゼクティブプロデューサー兼副代表の野村卓也さんと真鍋さんが10年以上前から交流があったことも理由のひとつですが、真鍋さんは新しいテクノロジーを用いて、実験的かつ誰もが見たこともない表現を追求されるアーティストで、VS.のコンセプトと合致しオープニングエキシビジョンにふさわしいと考えたからです。
 真鍋さんからは今回の個展の構想前から「新しい施設として音にはいっさい妥協せず、とことんこだわった方が良い」といわれていました。VS.は常設の設備として非常に高精細でパワフルなサウンドシステムを有していることも大きな特長で、真鍋さんのようなアーティストの要求にも十分応えられるようになっています。

「VS.」は様々なジャンルの人やアイデアが鼓舞し合い、「良い対峙」により新たな価値を生み出す場を目指している。それだけに、多彩なクリエイターやアーティストらのパフォーマンスを最大限に引き出し、来場者の視覚・聴覚に深く訴えかけ、感動領域にまで踏み込むシステムを組み込むことが重要なファクターである。新しい文化装置「VS.」は、これまでトータルメディア開発研究所が様々な施設で習得してきたノウハウとセンスなくては成し得ない次代のコミュニケーションメディアと言えるだろう。

真鍋大度 新作個展
Continuum Resonance:連続する共鳴
開催期間:2024年9月6日-10月14日

会場に設置されたスピーカーシステム/アンプなど

STUDIO C/Work1
サブウーファー:BWV S-218
アンプ:QSC DPA4.3

STUDIO B/Work2
スピーカー:BWV I-308(3ウェイシステム)x5
サブウーファー:BWV S-218x5
DSP+パワーアンプ:QSC DPA4.3 x5

V Space/Work3
スピーカー:BWV I-312(3ウェイシステム) x4
アイソバリックサブウーファー:BWV S-415x4
カスタムスーパーサブウーファー:18”x4 x4
DSP+パワーアンプ:Linea Research 44M20 x8

STUDIO A ©️VS.PROJECT

STUDIO A/Work4
スピーカー:ムジークエレクトロニックガイザイン RL906 x12
カスタム無指向性スピーカー x1
カスタム無指向性スピーカー用ベースマネージメントx4

スピーカー:BWV I-308(3ウェイシステム)x5
サブウーファー:BWV S-218 x5
DSP+パワーアンプ:Linea Research 88C20 x2
Linea Research 44M20 x1
Linea Research ASC48 x2
Audiolab 8300XP x1

VS.
住所:大阪市北区大深町6番86号
グラングリーン大阪
うめきた公園 ノースパーク VS.